クリエイティブな発想や実践の方法を取り入れた防災とは? 多様な参加者が集う勉強会が開催

画面中央:NPO法人プラス・アーツ神戸事務所長・百田真治氏。防災プログラムや防災教育ツールの開発に携わり、フィリピンの地域防災支援も行っている画面中央:NPO法人プラス・アーツ神戸事務所長・百田真治氏。防災プログラムや防災教育ツールの開発に携わり、フィリピンの地域防災支援も行っている

5年目の3.11を迎え、防災への意識を新たにした人も多いのではないだろうか。
震災から5年、各地で防災の取り組みが増えたとはいえ、継続して行っている自治体はどれくらいあるのだろう。
そして、家庭での防災対策は? 

いざという時に大切なのは、自助と共助。自分の身を自分で守る、地域で助け合う力を日常的に養っておくことが必要だ。しかし、地域で行われる防災活動にどれだけの人が参加しているだろう。参加するのは毎回同じ人だったり、「役員になってしまったから仕方なく」「面倒だけど頼まれたから」という理由で参加している人も多いのではないだろうか。

まちづくりの1つのテーマとして防災を取り上げてきた、名古屋市の港まちづくり協議会では、去る3月11日、協議会の活動拠点「港まちポットラックビル」で、防災をテーマにしたアイデアや知恵を学ぶスクールを開催した。テーマは「アートが社会にもたらす新たな可能性―クリエイティブ×防災」。
登壇したのは、阪神・淡路大震災から10年目の防災事業をきっかけに誕生した、NPO法人プラス・アーツの神戸事務所長・百田真治氏。まちの防災課題を解決するためのクリエイティブな発想や実践の方法についての勉強会となり、区の女性会のメンバーほか、他エリアからまちづくりに興味をもつ人など30人以上が集まって、アートを取り入れ楽しみながら身につく防災について熱心に耳を傾けていた。

消火器で的当て、担架を作ってタイムトライアル。楽しいから参加者が増える防災訓練

“アート”というと、一般的には“芸術”という意味合いが大きく、自分には縁遠いと感じる人もいるかもしれないが、防災においては“クリエイティブな発想”という捉え方がしっくりくるかもしれない。難しい、面倒だ、と思いがちな防災を、もっと身近で楽しいものにするためにはどうしたらいいか、というテーマで捉えるとわかりやすいだろう。

スクールでは、百田氏が所属するNPO法人プラス・アーツの防災の取り組みを動画などを交えて紹介。どの地域においても参考になる内容だと思うので、ここでも紹介してみたいと思う。

まず、災害時に必要な技や知識をゲーム感覚で学べる体験型ワークショップ「イザ!カエルキャラバン!」について。
地域の防災訓練プログラムと、美術家・藤浩志氏が考案したおもちゃ交換会「かえっこバザール」を組み合わせた防災イベントで、2005年のスタート以来、さまざまな団体と協力し、全国で開催されている。

遊ばなくなったおもちゃを持って行くと「カエルポイント」がもらえ、そのポイントを使って会場に集まったほかのおもちゃと交換ができるという、子どもには嬉しいイベント。会場内の防災体験をすることでさらに「カエルポイント」がもらえるので、ゲーム感覚で積極的に子どもたちも参加するそう。
カエルや炎のイラストに向かって消火器を噴射する「水消火器で的当てゲーム」や、毛布で担架を作り、ケガ人に見立てたカエル人形を運びタイムを競う「毛布で担架タイムトライアル」など、子どもが楽しみながらも「イザ!」というときの技を習得できるような訓練をプログラムに組み込んでいる。

紹介された動画では、防災訓練とは思えないほど楽しそうな子どもたちの姿が映し出され、一方通行の訓練ではなく、体を使って楽しみながらも気づけば身についているというワークショップの様子がみてとれる。防災訓練という堅苦しいイメージを払拭し、親しみやすく親子で参加できるイベントにすることで、多くの人の防災意識を高めることができるこのプログラムこそ「アートが社会にもたらす新たな可能性」だと感じた。

防災に「楽しい」をプラスして魅力的なイベントにすることが大切と百田氏。写真左上:みんなで力を合わせてケガ人役のカエルを運ぶ「毛布で担架タイムトライアル」。右上:的当てゲームをしながら消火器の使い方を覚えられる。左下:防災の知恵と知識を学べるカードゲーム。右下:新聞紙でコップ作りなど、避難生活で役立つワークショップも開催(写真提供/NPO法人プラス・アーツ)防災に「楽しい」をプラスして魅力的なイベントにすることが大切と百田氏。写真左上:みんなで力を合わせてケガ人役のカエルを運ぶ「毛布で担架タイムトライアル」。右上:的当てゲームをしながら消火器の使い方を覚えられる。左下:防災の知恵と知識を学べるカードゲーム。右下:新聞紙でコップ作りなど、避難生活で役立つワークショップも開催(写真提供/NPO法人プラス・アーツ)

災害時に生き抜くたくましさを体で学ぶ、一泊二日の避難生活体験プログラム

サバイバルプログラムをクリアするともらえる缶バッジ。デザインの力をプラスすると、防災はもっと楽しくなる!サバイバルプログラムをクリアするともらえる缶バッジ。デザインの力をプラスすると、防災はもっと楽しくなる!

もう一つの大きな取り組みとしてあげていたのが「レッドベアサバイバルキャンプ」という、一泊二日の避難生活体験プログラム。
「公的援助が始まるまでの間、とにかく身ひとつで生きる力が必要です」と百田氏。
震災で被災した方々から当時何が必要だったのか、どんな工夫をして困難を乗り越えたかなどをヒアリングし、災害時に生き抜くためのたくましさを育成するために作られたもので、一日目に火おこしや炊き出し、ロープワークなどサバイバル術を学び、二日目には一日目に学んだ技と知識を駆使しオリエンテーリングに参加、ポイントを競うというもの。サバイバルの技を習得するとその技ごとに缶バッジがもらえるようになっており、子どもたちは競って技を学ぶのだそう。

また非常食のストック法について「ローリングストック法」を提案しているという。
東日本大震災前は3日分の食料と水のストックを推奨していたが、昨今は大規模な災害が起こった場合に備え、一週間分のストックが必要だとされている。非常食のストックはしているが、賞味期限が過ぎていざという時に使えず、無駄になってしまうというケースも考えられる。これを回避するために考えられたのが、「ローリングストック法」だ。
これまでの3日分のストックに1日分をプラスし4日分(12食)を用意する。月に一度、非常食を食卓に出すようにし、食べた分を買い足すというサイクルを繰り返していくと、ちょうど一年でストックが一周し、賞味期限切れを防げるというのだ。
「月初めは非常食の日、というように決めるとやりやすい」と百田氏。
災害時、まずは冷蔵庫や冷凍庫にあったストックで1~3日目をしのぎ、4~7日目はレトルトやフリーズドライ製品を食べるようにして、一週間を乗り切る。クロワッサンや食パンなど冷凍しておけるものは常備し、電気が止まって冷凍機能が停止しても自然解凍で食べられるものをストックしておくのも知恵だといえる。

風・水・土で育てる「BOSAI」という文化

フィリピンの伝統的な敷物を用いたケガ人の搬送訓練。「その地域独自の人形やキャラクターを使って訓練できるようになってくると“風の人”の去り際」と百田氏。地域に根付いた活動となった証なのだろう(写真提供:NPO法人プラス・アーツ)フィリピンの伝統的な敷物を用いたケガ人の搬送訓練。「その地域独自の人形やキャラクターを使って訓練できるようになってくると“風の人”の去り際」と百田氏。地域に根付いた活動となった証なのだろう(写真提供:NPO法人プラス・アーツ)

地域の特性を理解し、その土地に合った防災を提案する活動は、今や世界にも広がり、インドネシアやフィリピンなどでも「イザ!カエルキャラバン!」が開催されているそう。
百田氏は「BOSAI(防災)という日本の新しい文化が、アジアを中心に様々な国へと輸出されています」と話す。

今回のテーマである「アートが社会にもたらす新たな可能性―クリエイティブ×防災」について百田氏の話で印象的だったのは、
地域防災に関わる人には3つのタイプがあるという話だ。
◇風の人=種(イベントやプログラムなど刺激を与えるもの)を運ぶ人
◇水の人=中間支援の人(種に水をやり世話をしていく人)、行政や学校、まちづくり協議会など
◇土の人=市民、地域に住む人

「私たちプラス・アーツのような“風の人”が、クリエイティブな力で魅力あるプログラムやイベントを地域に運び、行政や学校などが水をやり、育て、最終的に、土の人である地域の人たちが自分たちのものとして習得していくことが必要だと思います。やがて風は去り、水を蓄えた土が自らの力で種を育てていけるようになるのが理想の形です」(百田氏)
と話していた。

非常食を日常に取り入れるなど、“もしも”を“いつも”に。

非常食を用いたアレンジ料理や、女性会のメンバーが持ち寄った豚汁を食べながらの交流会。ここから新たなアイデアソン・ハッカソンが誕生することも非常食を用いたアレンジ料理や、女性会のメンバーが持ち寄った豚汁を食べながらの交流会。ここから新たなアイデアソン・ハッカソンが誕生することも

政府の地震調査研究推進本部の下に設置されている地震調査委員会によると、南海トラフ巨大地震、首都直下地震ともに今後30年以内に70%の確率で起こると予想される。
突然災害に襲われたとき、とっさに何ができるか、自分が生き抜くためには? 家族を守るためには? 避難所での生活など、あらゆる場面を想定して、生き延びる術を体感しておくことがどれだけ必要か、ということを改めて考えさせられた。

スクール後には交流会が行われ、缶詰やカンパンなどの非常食をアレンジしたフードがテーブルに並び、参加者同士が交流する楽しい場に。登壇した百田氏を含め、港まちづくり協議会のメンバーと参加者が意見交換をしたり質問をしたりと、にぎやかなひととき。
協議会の次長を務める古橋敬一氏は「こうした交流の場から、新たなアイデアや課題が生まれてくることもありますし、港の人とその他の地域から参加した人たちとが語り合い、外からしか見えなかったことを知るいいきっかけになっていると思います」と話す。

「“もしも”の備えとして、防災訓練や非常食のストックをするのではなく、それを日常の“いつも”として取り入れていくことが、災害時に活きてきます」という百田氏。
筆者も含め、いざというときに慌てないよう、地域や家庭の防災をもう一度見直してみることをおすすめしたい。


次回引き続き、港まちづくり協議会が手掛ける「みなとまちBOSAIプロジェクト」について取りあげる。


【取材協力】
NPO法人プラス・アーツ
http://www.plus-arts.net/

港まちづくり協議会
http://www.minnatomachi.jp/

2016年 04月01日 11時00分