LIFULL HOME'S住みたい街ランキングは2014年開始。2017年から問合せ数方式に変更
筆者はLIFULL HOME'S総研(当時はHOME'S総研)副所長に就任した2013年秋から「住みたい街ランキング」を企画・立案し、翌2014年春より毎年賃貸と購入とを区分して集計する「買って住みたい街ランキング」「借りて住みたい街ランキング」を13年間にわたり公表している。2013年以前は、世代やエリアを任意に区切ってインターネット調査で独自のランキングを都度実施・公表していたようだが、2014年からこれらのランキング調査を取りまとめて開始したのがLIFULL HOME'Sの住みたい街ランキングである。上記の通り「買って住みたい街」と「借りて住みたい街」では当然異なる結果を得られるとの前提で区分し、他社のランキングとの差別化を図ることとした。
開始当初は、オーソドックスなアンケートスタイルを取り、アンケート対象者に「買って住みたい街」「借りて住みたい街」と聞いてどこが思い浮かぶか3駅ずつ挙げてもらい、1番住みたい街は3点、2番目は2点、3番目は1点として点数化してランキングを構成していた。しかし、この方式は先行する複数の媒体と調査方式が同一でもあり、またアンケート対象者の母数・属性および調査期間などで恣意性を完全には排除できないことから、その後アンケートと問合せ数を併用するなどの試行錯誤を重ねて、2017年より1年間でユーザーが各物件に対して起こしたアクション=問合せ数を駅単位および行政区・自治体単位で集計し、現在に至っている(2026年以降は駅単位のランキングのみ公表)。
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みんなが探した!住みたい街ランキング2026
アンケートから問合せ数の集計に切り替えた理由とメリット。その後“効果”も
一般にアンケート調査では、住みたい街として憧れの街、理想の街、および現在居住している街が強くイメージされるのに対して、問合せ数の多寡を競うランキングは実際に住むために探しているユーザーが多い街が上位となる。つまり価格および賃料相場と所得との関係性などによって、よりリアルに住みたい街を浮き彫りにすることができると考えたことが、問合せ数の集計ランキングに切り替えた主な理由だ。
しかも、問合せ数の集計であれば首都圏(1都3県)だけでなく北関東3県や静岡、山梨、長野といった近県を加えてより広い範囲の1都9県版ランキングを公表することもできるし、一戸建てとマンションに分けて再構成することもできるため、集計の可変性や派生型のランキングが別途公表可能であることも、問合せ数ランキング一本化に舵を切った理由であった。
問合せ数ランキングに切り替えたことは、その後新型コロナウイルスという未曽有の感染症が世界中に蔓延した際に、その“効果”を示すことになった。すなわち、コロナ禍によって住みたい街=感染リスクが下げられそうな郊外の街となっていることが集計結果(1都9県版の買って住みたい街1位は「熱海」、借りて住みたい街1位は「水戸」)によって明らかになったし、コロナ禍の最中に問合せ数が急増している街がつくばエクスプレスの「みらい平」や「みどりの」、JR東北本線の「西那須野」ほか準郊外の駅ばかりとなったことも、社会不安を反映した調査結果として注目された。
また、2024年以降のランキングでは、住宅価格および賃料の高騰が続くことによって住みたい街の郊外化が再び発生していることも浮き彫りになっているから、“問合せ数を基にした住みたい街ランキング”は、単に娯楽的な要素が強い人気ランキングではなく、世相を如実に反映した結果を示すものとして定着し始めているようだ。
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緊急実施! コロナ禍での借りて住みたい街ランキング(1都9県版)
コロナ禍での買って住みたい街ランキング(1都9県版)
LIFULL HOME'Sの住みたい街ランキングが問合せ数にフォーカスしてきた背景などは上記の通りだが、今回、最新の2026年住みたい街ランキングを公表するにあたり、公表間もない頃の2015年と現在のランキングでは傾向にどのような変化があるのか、またアンケート方式と問合せ数集計方式ではランキング結果にどのような違いがみられるのか、これらについて首都圏のランキングを基に分析を試みる。
2015年版の“買って住みたい”1位は「吉祥寺」、“借りて住みたい”1位は「池袋」だった
ランキングの背景となる2015年前後の住宅市況はというと、日銀の黒田総裁が打ち出した“異次元の金融緩和”が始まって約2年が経過した頃で、住宅ローン変動金利は年々低下して0.6~0.7%台となり、今ではにわかに信じ難いが、新築マンション平均価格は東京都で5,872万円、大阪府では4,212万円だった。中古マンションは東京都で3,335万円、大阪府では1,785万円と2,000万円に届かない水準で、“黒田バズーカ”によって日経平均株価だけは明確な上昇基調に転じていたものの、日本経済を覆っていたデフレマインドは依然として強く、振り返ると住宅市場も同様に方向性が見いだせない市況感が支配していたと記憶する。その中で東京都の新築マンションの価格は、低金利の恩恵を受けて前年の5,653万円から3.8%上昇しており、90年バブル以降続いていた資産デフレが25年を経てようやく底入れし始めたとの報道があったのもこの時期だった。
このような景況感で、アンケート調査による2015年の首都圏買って住みたい街ランキングは、1位が「吉祥寺」、2位が「横浜」、3位が「武蔵小杉」となっている。4位以下も「中目黒」「新宿」「品川」「自由が丘」「渋谷」「鎌倉」「恵比寿」などが上位にランクインしており、まさにアンケートによる名の通った駅名が登場する人気ランキングといった他愛ないものとなっている。一方、同じ2015年のランキングでは、代表的な他社の住みたい街ランキングを例にすると、1位「吉祥寺」、2位「恵比寿」、3位「横浜」となっており、LIFULL HOME'S買って住みたい街3位の「武蔵小杉」も5位にランクインしているから、ほぼ代わり映えのしない構成となっており、当時はどこがアンケート調査しても似たような結果となり、差別化するのが困難な状況であったと推察される。これがアンケート調査の限界であり、「住みたい街と言えば〇〇」というイメージが特定の街・エリアに固着する要因とも言える。
ただし、2015年当時は上位に名前の挙がっている街で多くの一般消費者が十分住宅購入も賃貸も可能な状況であり、現在のように駅名の隣に平均価格や平均賃料を併記していれば、驚くほど安価な水準の価格となっていたことは疑う余地がないから、少し頑張れば買える街・借りられる街といったポジティヴなランキングという見方もできるだろう。
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2015年「買って住みたい街」「借りて住みたい街」ランキング
人気ランキングを“リアルに住むことを検討している街ランキング”に変えたことの意味
このように、開始当初の住みたい街ランキングが結果的に“街の人気ランキング”となっていることは当時既に私たち集計サイドも認識しており、自戒を込めて人気ランキングに終わらず社会性のあるものに変化(差別化)するために取った方策が、問合せ数のカウントによるランキング構成であった。
社内のコンセンサスを得て、2017年公表分から開始した問合せ数方式は早速その独自性を示し、首都圏の買って住みたい街1位が「船橋」という結果を得ることとなった。初めて都内以外の街が1位を獲得したことは驚きをもって伝わり、当然のことながら、住宅を購入したいと考える世帯・個人は予算に上限があること、交通と生活の利便性と物件価格のバランスが適正であると考えられるエリアはどこかを探っていること、住宅ローン金利の推移や住宅ローン減税の制度変更に関心が高いこと、特に新築マンション開発の有無によって注目される街・エリアが大きく変わること、などが改めて示されるランキングとなったことは、“実用的”な街=実際に住宅購入・賃貸を検討しているユーザーが価格・賃料水準や利便性から注目している街を明らかにするものとなった。
以降は、問合せ方式を“借りて住みたい街”においても、ランキングを公表している4圏域すべてで継続しており、より独自性の高いランキングを公表している。
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2017年 HOME'S 住みたい街ランキング
ただ、問合せ方式に変更する際の懸念材料は、各駅に紐付いている住宅の母数(住戸数)の問題、およびクライアントである不動産会社が物理的な最寄駅ではなく、検索されやすいターミナル駅に物件を紐付けている場合の処理だった。幸いにして問合せ数は年間で集計すると膨大な数に上るため、確かに住戸数の多寡は問合せ数にも影響するものの、母数に対する問合せ数の割合は標準的な偏差の中に収まることが分析で明らかになった(エリアによって例外もあるが母数および問合せ数のボーダーラインを設定することなどで回避可能)。また、駅の紐付け問題も最寄駅および近隣の(駅名がより知られている)ターミナル駅の両方に紐付けることが可能な仕組みを採用していることから、例えば東京湾岸エリアのマンションがすべて「東京」や「豊洲」に紐付くような事態は発生し得ないことが判明し、懸念は大きく低下した。もちろん統計学上の問題が完全に払拭されたわけではないが、同時に住みたい街ランキング公表に向けて統計学上の処理を様々施すことにより、却って問合せ数にバイアスを加えてしまう可能性に配慮した。
2026年最新の首都圏買って住みたい街1位が「湯河原」となったことは、当然のことながら内部の関係者にも波紋を呼び、データの内容、つまり新築/中古マンション・一戸建ての別ごとに問合せ数(2025年に湯河原エリアで新築マンションの供給はないので問合せ数もゼロだった)を複数回確認したが、集計結果に誤りはなく、順位が確定している。ただし、データ上は確定しても、「東京」からJR東海道本線で約100km離れた街が首都圏で一番住みたい街である、というイメージ上の乖離は決して小さくないため、実際に「湯河原」を訪問してエリアの実際を確認し、併せて地元の不動産会社および湯河原町役場の担当者にヒアリングしたところ、1位の“理由”を認識することができた。詳細は「買って住みたい街ランキング1位「湯河原」 価格高騰で郊外化が進む中、なぜこの街が選ばれるのか?」を参照していただくこととして、結論から言えば、湯河原という街の魅力が極めて高いということに尽きる。
もちろん交通利便性は都心や横浜・川崎などと比較するべくもないが、東海道新幹線利用で「東京」まで60分程度だし、温暖で過ごしやすく、海に向かってフラットな市街地は移動にも苦労がないから、高齢者でも十分生活可能だ。また温泉観光地としての湯河原と地元住民が暮らす湯河原は物理的に離れており、いわゆるオーバーツーリズムによって住民にストレスや交通渋滞などの影響が出ることもほぼないとのことだった。海の幸山の幸に恵まれ、サーフィンや釣り、トレッキングやキャンピング、浜辺の散歩に至るまでアクティビティも豊富。町営の温泉施設を含む公共施設も充実していて生活コストも工夫次第でスリム化できるのも魅力で、規模の大きい病院も複数あり、移住者も多いのでコミュニティ参加のハードルも低いようだから、アーリーリタイアメント層・セミリタイアメント層からの支持が高いことも頷けるし、子育てファミリー層からも注目されるようになっている。これで(新築分譲はないものの)多くの中古住宅が2,000万円以下で購入可能なのだから、実際に購入や移住を検討するユーザーが増えるのも納得できる。
問合せ数を基にしたランキングでなければ、おそらく「湯河原」が1位となることはなかっただろうと考えれば、コストや環境、交通条件などから真剣に住宅購入を検討しているユーザーの“本気度”が伝わってくる実感が得られ、またアンケート調査では見えてこない“普段着の街”の魅力を発見できたように感じられる。
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2015年版借りて住みたい街ランキングは試験的に問合せ数方式で集計
一方、2015年の借りて住みたい街ランキングは、アンケート調査ではなく、課題解決に向けて問合せ数方式を試験的に採用している。しかし、その結果は1位「池袋」、2位「武蔵小杉」、3位「吉祥寺」と、「池袋」以外は買って住みたい街とのランキングの違いがなく、本来買って住む場合と借りて住む場合では生活・教育・医療・防犯・防災など各環境に対する考え方が異なるはずの要素が、ランキングからは必ずしも明らかにはなっていない。
約10年の時を経た2026年のランキングでは、1位が「葛西」、2位が「八王子」、3位が「大宮」となっているから、上位の顔ぶれは全く異なっている。2015年当時1位の「池袋」は11位、「武蔵小杉」は25位、「吉祥寺」も21位とベスト10圏外にランクを落としており、10年前は職住近接や街のイメージの良さ、または開発が進んで住みやすさが向上した街として注目されたと考えられるが、現在の例に倣って40m2換算の賃貸マンション賃料相場を併記すると、「池袋」が20.7万円、「武蔵小杉」が18.2万円、「吉祥寺」も20.0万円なのに対して、「葛西」は9.1万円、「八王子」は7.5万円、「大宮」は9.5万円といずれも10万円以下・半額以下にとどまっているから、賃料の違いは歴然としており、予算内で借りて住むことができるエリアが、郊外方面へとシフトしている事実がランキングに反映されている。
つまり、問合せ数方式のランキングでは、憧れや人気といった要素が排除されやすく、交通条件や生活環境と賃料を天秤にかけた結果が街のランキングに表れるという点では、実に現在の社会環境および経済環境を率直に反映しているとも言える。“住む楽しみ”や“居住快適性”といった人気につながる要素が劣後すれば、人気ランキングとの違いは自ずと明らかになる。
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まとめ:10年前のランキングと比較した結果……
買って住みたい街ランキングでは、アンケート方式から問合せ数方式へと調査方法を変更したことが、その後のランキングに独自性とコロナ禍での人流の急激な移動の実際を反映する“効果”を獲得したという点で、結果的に住宅市場のユーザーニーズを的確に捉えたランキングになったと考えられる。
一方の借りて住みたい街ランキングは、10年前も現在と同じ問合せ数方式を採用しているから、10年前との賃料水準の違いをこちらも的確に反映した結果に変化している。すなわち安価に住むことができるのであれば都心周辺に住みたいが、現実的にはそれが難しいから現時点での“コスパの良好な街”を選択するという意識は、10年を経てもほぼ変わっていないと考えられる。
足元の住宅市況は、住宅価格も賃料も市街地中心部で極めて高い水準で推移している。居住コストが高い都心周辺の憧れや人気の街には住むことが難しい、という状況を把握し、その状況がどのように変化していくのかを街の名前を通じて認識しイメージすることができるのがLIFULL HOME'Sの住みたい街ランキングである。住宅を買う・借りるという意向を通じて、その時々の世相を映す鏡として活用されたい。
※ 文中で使用した価格および賃料は、すべてLIFULL HOME'SのデータベースからLIFULL HOME'S総研が集計・加工
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