2020年以降、東京五輪が終わると不動産市場は一気に冷え込んでしまうのか

2020年といえば、なんといっても東京における五輪開催が最も大きな国民的なイベントであろう。それでは、東京五輪と不動産市場とは、どのような関連があるのであろうか。

現在の不動産市場を見ると、東京、とりわけ都心部の不動産市場が活況を呈している。2013年に、東京での56年ぶりとなる五輪開催が決定されてから、アベノミクスによる金融緩和とも重なり、不動産市場は持続的な成長を遂げてきた。

五輪開催が決定された当時の議論を振り返れば、リーマンショックや東日本大震災の傷跡から完全に立ち直ることができていなかった日本の不動産市場は、五輪というメガイベントの開催によって不動産市場が活況を呈するのではないかという期待があった。2020年にオリンピックを控えた今、その期待以上に不動産市場は回復し、都心の一部地域ではリーマンショック前よりも高い水準まで不動産価格が高騰していることが、各種統計から明らかになりつつある。

そして、ここが重要となる。リーマンショックや東日本大震災といった数百年に一度、発生するかしないかといった壊滅的な状況から、不動産市場が回復してきたのは、東京五輪の開催が決まったおかげなのか、金融政策をはじめとする経済政策のおかげなのか、それともその他の要因であるのかといったことである。

ここでは、五輪について考えてみよう。このようなメガイベントは、社会全体に明るさをもたらす。何兆円という公共工事が行われ、半ば建設ラッシュである。大会期間中には、世界中から人も集まり、不動産需要は大きく上昇することも期待されている。

しかし、中長期的に見たときに東京五輪は不動産市場に対して「正」の影響をもたらすのであろうか。もたらしたのであれば、どのような経路を通じて、どのような効果によって、不動産市場の成長をけん引するのであろうか。また、開催終了後には、どのような影響が出てくるのであろうか。東京五輪が終わると不動産市場は一気に冷え込んでしまうのであろうか。

不動産市場の活況は続くのか

<b>清水千弘</b>: 東京大学空間情報科学研究センター特任教授、日本大学スポーツ科学部教授(統計学担当)、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員清水千弘: 東京大学空間情報科学研究センター特任教授、日本大学スポーツ科学部教授(統計学担当)、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員

メガイベントと不動産市場の関係を分析したレポートや論文は、過去の五輪を事例として複数存在する。
例えばJones Lang LaSalle.(2001)では、五輪が不動産市場に与えた影響をセクター別に分析した。イベントの影響が最も出やすいと考えられるのが、海外からの来訪者の増加に伴うホテル市場である。バルセロナ・ソウル・アトランタ・そしてシドニーのそれぞれの五輪の開催年の前後2年ずつを含む5年間を比較すると、外国からの来訪者数は開催年まではいずれの都市も上昇し続けた。このようなことは、とてもイメージがしやすい。

しかし、開催後にはアトランタは横ばいのままで、収益単価はいずれの都市も下落に転じており、バルセロナにおける落ち込みは他の都市と比べて一段と大きかったことが報告されている。

商業施設市場においては、会期中はどの都市でも海外からの来訪者の消費や五輪関連のグッズが売れることで消費が大きく拡大されたが、イベント終了後にはその効果がなくなってしまった。また、シドニー五輪の効果を分析したMichae and Julie.(1996)では、五輪の開催によって、観光客の増加と共に社会資本整備が集中的になされたことで、都市構造の変化に伴い局地的には、不動産市場にインパクトがあったと分析している。

北京五輪については、Xuebing and Yongling.(2013)の研究で、五輪が不動産市場に与えた影響はほとんどなく、経済成長に伴う社会経済要因のサイクルの範囲で不動産価格が高騰したことが明らかにされた。ロンドン五輪の効果を分析した研究であるKavetsos.(2013)もまた、五輪による効果は限定的であり、五輪のために実施されたインフラ開発に伴う開発利益の存在以外は、不動産市場に対して何の効果もなかったとしている。

2020年に国民の意識は変わるのか?

メガイベントは「不動産市場に対しては、何の影響をもたらすわけではない」という結果は、今となってみれば五輪後において不動産市場が停滞するというシナリオが考えづらいということになり、歓迎すべき結果であろう。しかし、五輪という国を挙げてのイベントは、新しい歴史をつくり上げてきたことも確かである。それでは、2020年の東京五輪は、どのような歴史を残すのであろうか。

東京の不動産市場の活況とは裏腹に、地方都市では空き家・空きビルが増加し、商業施設は撤退に追い込まれ、廃校が後を絶たないように公共施設の稼働も低下してきている。
2020東京五輪は、国が縮退しようとする中で開催される、初めてのメガイベントである。

先の東京五輪や過去の多くの国で開催された五輪後において、それぞれの開催国では、社会的な意識改革が進んだことは大きな意義をもたらしてきたともいわれる。

地方の縮退が進む日本で、集中が進む東京で五輪が開催されることで、さらに日本人が東京に向かって動き始めるのか、地方の衰退のスピードが上がってしまうのか、逆に地方への波及が生まれるのかといったことは、これから我々は注意深く観察していなかければならない。

そのような意味で、2020年は中長期的な日本の不動産市場の行方を占う年になるといえるであろう。

新国立競技場を望む(写真はイメージ)新国立競技場を望む(写真はイメージ)

2020年 01月03日 11時00分