時代や地域のニーズに応えるための不動産業ビジョン

「不動産」と聞いて連想するものはなんだろう。おそらくマンションや一戸建てなど自分が住む場所を最初に思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし、不動産には「働く」、「買い物をする」、「癒やし」など様々な役割を担う場があり、その活用方法によって、私たちの生活は大きく変化する。そのため、不動産業は、我々の生活や経済成長を支える基幹産業といえる。このような背景から国は、1886年と1992年に不動産業に関する中・長期ビジョンを策定してきた。

そして現在の我が国は、人口の減少やAI(人工知能)・IoT(モノのインターネット)等の進展などで今まで以上に急速な社会経済の変化が見込まれている。これに対し、不動産業とその政策は、時代や地域のニーズを的確に把握し、それらに応えていくことが必要だ。そこで国の社会資本整備審議会産業分科会は、四半世紀ぶりに同ビジョンを策定し、「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて」としてとりまとめた。

不動産業の国内総生産に占める割合は11.3%。まさに日本の基幹産業といえる(出典:不動産業ビジョン2030 参考資料集)不動産業の国内総生産に占める割合は11.3%。まさに日本の基幹産業といえる(出典:不動産業ビジョン2030 参考資料集)

不動産業を取り巻く市場環境の9つの変化

同ビジョンでは、「不動産業を取り巻く市場環境の変化」として、次の9つをあげている。

1.少子高齢化・人口減少の進展
日本の総人口は2008年にピーク(約1億2,800万人)を迎え、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば2030年には1億1,900万人に減少する。

2.空き家・空き地等の遊休不動産の増加・既存ストックの老朽化
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、2013年までの20年間で、空き家の総数は448万戸から820万戸へと1.8倍に増加している。

3.新技術の活用・浸透
インターネット等の情報技術が進展し、企業の生産活動が大きく効率化された。また国民生活の利便性も飛躍的に向上した。さらに今後は自動運転、ドローン、IoT、AIといった新技術が人々の暮らしを変えていく可能性がある。

4.働き方改革の進展
少子高齢化、生産年齢人口の減少などに直面する中、生産性と労働参加率の向上を図ることが重要になっている。

5.グローバル化の進展
訪日外国人旅行者の数は、2018年に史上初めて3,000万人を超え、2020年には4,000万人とする目標が掲げられている。また、2019年4月に外国人材の受け入れ制度がスタートし、住まいの確保など新たな需要の拡大が見込まれている。

6.インフラ整備の進展による国土構造の変化
たとえば、2027年にリニア中央新幹線が品川~名古屋間で開通する予定。その10年後には名古屋~大阪間も開通予定となっている。これにより東京~大阪間は1時間で結ばれる。

7.地球環境問題の制約
2015年に採択されたパリ協定を受けて閣議決定された「地球温暖化対策計画」では、2013年比で2030年度までに温室効果ガスの排出を26%削減する目標が定められている。

8.健康志向の高まり
高齢化が進行する中、介護費や医療費などの社会保障費が増加傾向にある。同時に国民の健康に暮らしていくことへの関心度が向上している。

9.自然災害の脅威
南海トラフ地震や首都直下地震は、今後30年以内に70%程度の確率で発生する。また、地球温暖化に伴う気候変動により、風水害、土砂災害、高潮災害などの自然災害が頻発する傾向が強まっている。

これらの市場環境の変化を受けて同ビジョンでは、不動産業の将来像として次の3点を示している。

1.豊かな住生活を支える産業
住宅は、人生の大半を過ごす生活の基盤であることに加え、都市や街並みの重要な構成要素である。そこで不動産業は、住まいに関する国民の多様なニーズに的確に応え、国民の豊かな住生活を支える産業になることが期待される。

2.我が国の持続的成長を支える産業
不動産業は、オフィスや製造拠点、リゾート施設、商業施設などの供給、流通、賃貸、管理等を通じて、国の経済活動や持続的な成長を支える産業になることが期待される。

3.人々の交流の「場」を支える産業
不動産業が人々の交流の「場」を創造し、活用を促し、マネジメントする産業となることが期待される。

不動産業における官民共通の目標

上記の将来像の実現のため、同ビジョンでは、以下のような官民共通の目標、民間の役割、官の役割を掲げている。

●官民共通の目標
1.「ストック型社会の実現」
人口減少が続き、遊休不動産が増加している現状に鑑み、不動産ストックを有効活用する社会の実現を目指す必要がある。
そのため、ストックの適切な管理による価値向上、既存住宅市場の活性化、空き家等の最大限の活用などを目指す。

2.安全・安心な不動産取引の実現
不動産取引をめぐるさまざまなトラブルが発生している。安全・安心な取引の実現に向け、宅地建物取引業法など制度の適正な運用徹底、適切な情報提供、トラブル防止対策強化などが必要となる。

3.多様なライフスタイル・地方創生の実現
技術革新により仕事や生活の場所の制約が緩やかになっているため、地方都市に企業を誘致することなどが可能になり、地方創生につながる事例も出てきている。一時的にでも地方を拠点とした活動展開が選択肢になるよう、受け入れる側の地域も魅力を高めていくことなどが必要。

4.エリア価値の向上
不動産それぞれにどのような「場」としての役割が期待されるかを認識し、その実現に向けたマネジメントを地域として行うことで、エリア価値、不動産価値を相乗的に向上させる。

5.新たな需要の創造
高齢化や単身・共働き世帯の増加など、不動産に対するニーズの変化を的確にとらえ、確実に取り込むことなどが求められる。

6.すべての人が安心して暮らせる住まいの確保
持続可能なまちづくりの実現に向け、単身高齢者や外国人、子育て世帯などすべての人が安心して暮らせる住まいとサービスを提供する。

7.不動産教育・研究の充実
不動産に対する国民の理解を促進することで、所有不動産を適切に維持・管理し、良質なストックとして後世に継承できるようにするため、様々な機会を通じた不動産教育の充実が求められる。また不動産業に携わる者も、常に正確で最新の情報を取得してサービス向上に努めることが重要となる。

不動産業における民間と官の役割

●民間の役割
1.信頼産業としての一層の深化
近年、アパート投資や原野商法などを巡るトラブルが発生しており、悪質な不動産事業者が存在していることも事実だ。このようなことから、業界全体として人材教育などを推進し、信頼産業としての一層の深化に努めていく必要がある。

2.他業種や行政との連携・協働を通じたトータルサービスの提供
多様化するニーズに応えるため、たとえば交通・運送・医療・福祉など他の業種や行政との連携・協働を行い、不動産に係るトータルサービスを提供する。

3.業務生産性の向上および消費者サービスの向上
AI、IoT等の新技術を効果的に活用し、業務の効率化や消費者サービスを拡大させる。これらが不動産業界全体の健全な発展につながると期待されている。

4.不動産業の担い手の確保等
少子高齢化や人口減が進行する中、不動産業の魅力を高めて継続的に不動産業の担い手を確保することが重要となっている。

また、民間においては「開発・分譲」「流通」「管理」「賃貸」「不動産投資・運用」の5つの業態に分けられ、それぞれの役割も下の図のように設定されている。

●官の役割
1.市場環境整備
国は、規制措置の整備など不動産市場全体の発展に必要な市場環境整備に注力する必要がある。

2.社会ニーズの変化を踏まえた不動産政策の展開
社会経済情勢の急速な変化を的確にとらえ、社会ニーズの変化を踏まえた不動産政策を展開していく必要がある。

3.不動産業に対する適切な指導・監督
宅地建物取引業法の執行を担う地方公共団体と連携しつつ、適切な指導・監督を通じて国民の不動産業に対する信頼の確保を根底から支えていく必要がある。

民間においては「開発・分譲」「流通」「管理」「賃貸」「不動産投資・運用」の5つの業態に分けられ、それぞれの役割も設定されている(出典:「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて」(概要))民間においては「開発・分譲」「流通」「管理」「賃貸」「不動産投資・運用」の5つの業態に分けられ、それぞれの役割も設定されている(出典:「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて」(概要))

2030年頃までの間に重点的に検討すべき政策課題も提示

また、官民共通の目標に対しては、2030年頃までの間に重点的に検討すべき視点(政策課題)が提示されている。たとえば「ストック型社会の実現」に関しては、不動産の管理履歴の情報が適切に蓄積され、流通段階で適切に情報開示されている不動産が市場で高く評価されるための方策の検討が必要、としている。

不動産市場は、ただ「儲かればいい」「便利になればいい」というものではない。すべての人々、そして自然などの環境にも配慮したバランスが重要だ。「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて」は、その方向性を俯瞰的な視点で示したものといえる。実現には様々な障壁もあるだろうが、ぜひ目標が達成されることを期待したい。

「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」

不動産の活用はすべての人々、そして自然などの環境にも配慮したバランスが重要だ。「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて」に掲げられた目標が達成されることを期待したい不動産の活用はすべての人々、そして自然などの環境にも配慮したバランスが重要だ。「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて」に掲げられた目標が達成されることを期待したい

2019年 07月03日 11時05分