マンションを表すものはほぼ全部数字

あなたは今、分譲マンションの購入を検討しているとしよう。

その候補になるであろう物件は、大抵の場合「○○駅から徒歩3分で35階建、総戸数670戸のタワーマンション、間取りは3LDKの68m2で価格は5,980万円」などと広告に表記されている。至極当たり前だがこれらは全て数字で、戸数規模や住戸の専有面積、駅からの所要時間、フロアの階数から、天井高、廊下の幅、居室の広さ、給湯器のサイズ、ユニットバスの大きさなどに至るまで数値化されていて定量的に把握できるし、他の住戸&物件とも比較ができるようになっている。
なかには建物からの熱の逃げにくさを表すQ値、家の気密性(すきまがどのくらいあるか)を表すC値、床衝撃音に対する遮音性能を表すL値など、普段広告には滅多に記載されることのない数値も数多くあり、マンションを巡る「数字」を細かく数え上げ始めたら、おそらくキリがない。しかも、住宅ローン金利や毎月の想定返済額、管理費や修繕積立金、都市計画税、固定資産税などマンションを取り巻く「お金」もすべて数量化されている。

つまりマンションとは、概念的には「数字(とお金)でできている」と言っても過言ではない。

余談ながら、ちょうど1年前に「マンションを選び、エリアを選ぶ。その根拠を掘り下げるということ」というコラムで、湾岸エリアのマンションを購入する人には理系が多いとの論説を展開したが、この数量化された世界観は理系出身には大変親しみやすいものだろうし、特に湾岸エリアの「スペック重視系タワーマンション」はコミットへのハードルが低いと拝察する。

最寄駅からの所要時間と専有面積、価格だけがマンションを表す数字ではない

「価格・場所・広さ」のいわゆる三大スペックはマンション選びの際の基本だが、その基準だけで物件選びを即決して良いものではない「価格・場所・広さ」のいわゆる三大スペックはマンション選びの際の基本だが、その基準だけで物件選びを即決して良いものではない

しかし、いまマンション購入を検討しているあなたの最大の関心事は、自分の年収や預貯金額、親から贈与してもらえそうな購入資金、さらには家族構成と通勤、通学時間などを念頭にした「いくらくらいのマンションが何処に買えるのか」ではないだろうか。
もちろんこれは悪い考えではないし、ごく一般的な購入プロセスであるとも言える。誤解を恐れずに言えば、この「価格(予算)と場所と広さ」という“日本三大スペック”はどうにも避けて通ることができない基本のキだからである。

今後、あなたはこの「価格(予算)と場所と広さ」からある程度絞り込みをかけ、資料請求はがきを出したりモデルルームに見学の申し込みをしたりして購入に向けての一歩を踏み出すことになる。送られてきた資料やカタログにも目を通さなければならないし、モデルルームの予約が取れたら見学の準備もしなければならない。
中古マンションであれば、住居そのものが見学できるから仲介の担当者や折良く居住者(売主)が同席してくれるのであれば、予め尋ねるべき質問も周到に用意しておきたいところだ。実際の「住み心地や住居との相性」だけは数値化できるものではないから、印象を重視しつつ慎重に検討したい。マンションはほぼすべて数値化=スペックで判断することができるとは言え、駅に近くて自分と家族が居住するのに充分な広さがあって、予算内の価格であれば即決!ということでは断じてないし、これだけで即決するようなら抑々マンション(だけでなく不動産全般と言っても良い)購入には向いていない。

数値で示されているマンションを実際の物件として認識する

住みたい、購入したいと思える物件が絞り込まれたら、いよいよモデルルーム(中古マンションなら内覧)に行って住環境を見学することになる。天井高や窓の大きさ、居室の広さは日照などで印象が比較的大きく変わるものだし、設置してある家具によっても違ってくるから(標準よりかなり小さめの家具を置いて居室を広く見せる工夫をするモデルルームがあるので注意されたい)、担当者の言葉を鵜呑みにせず、しっかりメジャーリングするなどしてスペックと自身の印象を擦りあわせる必要がある。
この段階ではスペック=数値化された概念的なマンション、を実際に建っているものとして認識するプロセスを経ることが極めて重要だ。ただし、スペックだけ見てモデルルームに見学に行くと、想定される借景や、ライティング、壁紙の美しさ、最新機能を備えたバス・トイレなどの水回り…美しい調度品に目を奪われてしまって、概念を現実に置き換える際に、実に様々な要素が周囲から加わってくるものだ(モデルルームは購入予定者に夢を見てもらう装置であるから、当然と言えば当然なのだが)。
それらの要素を見せるのがモデルルームであるとは言え、物件の本質(というか装飾を排した骨格と思っていただけるとイメージしやすい)を見抜くことが物件見学では求められる。それが実際のマンションとして目で見て確認した物件を、もう一度「数値化」する作業である。

「購入者に夢を見てもらう」ためのモデルルームでは、つい美しい装飾に目を奪われがちだが、</br>物件見学では物件の本質を見抜くことが求められる「購入者に夢を見てもらう」ためのモデルルームでは、つい美しい装飾に目を奪われがちだが、
物件見学では物件の本質を見抜くことが求められる

物件を見て、再度スペックを数値化する「定量化プロセス」

今度は、駅からの所要時間やフロアの階数、専有面積や価格などの数値を「そのまま解する」のではなく、その数値を「読み解く」という作業になる。
具体的には、駅から近ければ+○○ポイント、駅から遠ければ-××ポイントといった具合に置き換える作業である。そのものさしは地域によって微妙に異なることもあるから、ウエイト付けはやや難しいが、少なくとも駅に近い物件が駅から遠い物件よりポイントが低く算定されることはないので、優位性があるものに高いウエイトを付ける感覚で、単純に5段階なり10段階の評価を行えば良い。これは何の作業かと言えば、物件を「自分の物差しで比較する」=「独自に客観視する」ための作業である。

自分なりのレーダーチャートを作ればよいので、真剣かつ面白がって点数付けすることをおススメしたい。こうすることで、自分の物差しでいくつか見学した物件を「比較」することができるようになる。マンションを購入する際は、新築でも中古でも、見に行った物件ごとに都度「買うor買わない」の判断を迫られる局面が必ず&突然来るので(※)、その時のためにもこのような「マンションの定量化プロセス」を経ておくと、その判断の大変良い参考にすることができる。

このようなプロセスを経ることで物件を客観的に比較検討することができるし、また将来のためには何より重視して欲しい資産価値の多寡も、ある程度判断できるようになる。都心に近く、駅に近い大規模なタワーマンションは誰しも一度は住んでみたいと考えるが、この条件のマンションはほぼ例外なく高額である。しかも地価や建築コストが上昇している昨今ではさらに高嶺の花になりつつあるから、その価格に根拠があるのか否か、仮に自分が購入しても返済計画に無理がないかを判断するには、独自基準を持っておいたほうが良い。それがないと営業担当者の甘言(失礼)に乗せられて、そのまま印鑑をつくことになりかねない。

※一例をあげれば、営業担当者から「本日ご見学いただいた住戸タイプにキャンセルが出ました。本日中に、遅くとも明日午前中にはご購入についてご意志をお示しいただければ私が責任を持ってこの部屋を確保致します。明日午後になりますと、この権利は別の方に移りますので、可能でしたら今すぐご決断ください!」などという電話は夜8時過ぎに頻繁にかかってくるものなので、その旨ご認識いただきたい。

マンションのスペックは「職・住・遊・医・学・食・快・安」で定性化することもできる

大規模&タワーマンションは低層の小規模マンションよりも資産価値が高く保たれる傾向がはっきりしている。しかしこの資産価値の多寡と価格との兼ね合いがマンション購入に向けての最大の判断のしどころだ大規模&タワーマンションは低層の小規模マンションよりも資産価値が高く保たれる傾向がはっきりしている。しかしこの資産価値の多寡と価格との兼ね合いがマンション購入に向けての最大の判断のしどころだ

そして、常々最も重視していただきたいと申し上げている「資産価値の多寡」に関するデータも専らスペックによるところが大きい。上記に倣えば、事業集積地に近く、駅にも近い物件は、郊外にある駅から離れた物件と比較して資産価値が高く保たれるし、大規模&タワーマンションは低層の小規模マンションよりも資産価値が高く保たれる傾向がはっきりしている。
この資産価値の多寡と価格との兼ね合いがマンション購入に向けての最大の判断のしどころなのであり、「住まい」としても「資産」としても快適かつ良好なマンションを購入できるかの正念場となる。マンションのスペックは、このように最大限有効活用することで、購入時のリスクをある程度低下させることができる。

ただし、常に明確なスペック=数値化された概念で判断することを潔しとしない方のために、定性的な判断材料も示しておきたい。これは8つのキーワードで構成されており、「定量化プロセス」と同じような感覚でマンション購入要素を「定性化」することを目的としている。基本のキーワードは「職・住・遊」であり、これは職住近接で、それこそスペックが高く居住快適性の高い住まいであり、また生活利便性の高さを判断するためのものである。
バリエーションとなるのは「医・学・食」で、「医」は総合病院や老人介護施設&医療補助制度が充実しているか否かのキーワードで、持病があったり乳幼児がいるご家庭では地域医療の水準を斟酌する必要があるだろう。「学」は有名校、難関校への進学状況や文教施設の充実度などを計るためのキーワード、「食」は単に飲食店のレベルということではなく、地域の文化度を計る目安という意味である。「快」はこのようなキーワードでスペックを定性的に判断した後の自分や家族と地域、もしくは物件との相性を見るためのものだ。「快適に住み続けることができるか」という視点が欠落すると、生活のサスティナビリティは確実に落ちることになる。最後に「安」=安全性・地域の安心感も防災機能と防犯機能の両面からチェックしておきたい。

マンションは、スペックである。ただし駅に近いだけで、タワーマンションであるだけで価値がある時代は疾うに過ぎている。消費増税期だからこそ、エリアのポテンシャルとマンションの本質を「読み解く力」を養って、資産価値の高いマンションを購入したいものだ。

2014年 12月31日 10時59分