中古住宅ではこれまで建物が正当に評価されてこなかった

中古住宅市場における建物評価の手法が大きく変わろうとしている。「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」の報告書(2013年6月)において示された方向性をもとに、2013年8月から2014年3月まで5回にわたり「中古住宅に係る建物評価手法の改善のあり方検討委員会」が開かれた。そして2014年3月にとりまとめられたのが「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」だ。

この議論や指針の背景には、これまでの中古住宅流通市場において、とくに木造一戸建て住宅が正当に評価されていない現状がある。おおむね築20年から25年程度で、建物価格はゼロとみなされることが多いのだ。その主な判断基準は経年であり、建物状態の良し悪しなどはほとんど考慮されていない。

「築20年を過ぎたらほとんどゼロ」という一般論に対して、中古住宅の仲介実務に携わる者の中には異論を持つ人も少なくないだろう。その評価手法はともかくとして「実際の建物を調べたうえでそれなりに価格査定をしてきた」「経年で一律に減価はしていない」等々。しかし、中古住宅として成約が見込める売値を考えたとき、その建物価格を十分に反映することができず、ニーズに合わせた価格調整を強いられることも多かったはずだ。

このような状況を踏まえ、個々の建物状態に応じた値付けによって中古住宅の市場価値を高めていこうとするのが今回の指針である。

「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」の基本的な考え方

戦後の住宅難の時代には質よりも量が優先され、耐久性の劣る住宅も多かった。しかし、近年は建築技術や建物の品質も向上している。住宅の耐用年数は、住宅性能表示制度(新築住宅)の劣化対策等級2に相当する措置を講じた住宅で50〜60年以上、同劣化対策等級3に相当する措置を講じた住宅で75〜90年以上、長期優良住宅の認定基準における劣化対策を講じた住宅で少なくとも100年程度とされている。

しかし、住宅の部位や設備ごとに耐用年数は異なり、何もしないままで50年以上にわたって使い続けることはできない。設備によっては15〜20年程度が耐用年数のものもある。そこで「適切な内外装・設備の補修などを行えば、基礎・躯体の機能が失われていない限り、住宅の使用価値は何度でも回復・向上する」という原則のもとで、個々の部位の状態に応じた評価を行い、それぞれの価格を積み上げて全体の評価をしようとするのが新たに示された指針である。したがって、リフォームやリノベーション、あるいは設備交換によって住宅の使用価値が向上すれば、その分も価格に反映されるのだ。

指針では原価法を基本としながらも、その運用改善・精緻化により評価方法を改めていく方向性が示された。住宅の評価をする際には適切なインスペクション(建物検査)の実施を前提としたうえで、基礎、躯体、内外装、設備などの部位を一定の基準によって細かく分け、それぞれの再調達原価を算出する。そして、部位ごとの特性や状態に応じた減価修正を施すことになる。これまでの建物一体評価とは、価格算定のプロセスが大きく異なるのだ。もちろん、維持管理状態が悪いうえに基礎の劣化がみられるような住宅であれば、ほとんど値が付けられないこともあるだろう。同じ経年の中古住宅でも、良いものはしっかりと値付けし、悪いものはそれなりに安くすることになる。

検討会で用いられた建物部位の分類の例検討会で用いられた建物部位の分類の例

中古住宅価格相場との差をどう埋めていくのかが課題

住宅の建物価格を「正当に」評価したからといって、それがすぐに売買価格へ反映されるわけではない。購入者サイドからみれば、新築住宅よりも割安であることが中古住宅の大きなメリットであり、新しい評価手法が市場に受け入れられるまでには、かなりの年月がかかるだろう。とくに従来の評価手法が混在しているうちは、競合物件に比べ割高に感じられることも否めない。

そのため、新たな建物評価手法による価格を「参考価格」としたうえでこれと異なる売出し価格を設定し、さらに価格交渉によって成約価格が決まる「モデルケース」も例示されている。

【指針で示されたモデルケースの例】
□ 築30年の一戸建て住宅
□ 従来の評価手法  建物0円+土地1,500万円    総額1,500万円
□ 新たな評価手法  建物900万円+土地1,500万円 総額2,400万円…参考価格
□ 売出し価格    2,200万円
□ 成約価格     2,000万円

この例において、売主は従来の評価手法よりも500万円高く売ることができ、買主は参考価格が2,400万円の中古住宅を2,000万円で買えることになっている。しかし、現実にこれを売主と買主の双方に納得してもらうためには、十分すぎるくらいに丁寧な説明が欠かせない。売主に対しては過度な期待を抱かせず、買主に対しては「従来よりも500万円高い」といったイメージだけを持たれないようにすることが重要だ。

同程度の価格水準である他の中古住宅と比べて、どこがどう違うのか、なぜそのような価格が導き出されたのか、その価格で購入することにどのようなメリットがあるのかなど、購入した後のリフォーム費用なども含めて具体的な数字を示しながら説明をすることも求められるだろう。

新たな評価手法の普及のカギを握るのは仲介会社

従来の手法による住宅の経年減価により、我が国全体で約500兆円の経済損失が生じているという試算がある。住宅への投資額に見合う評価がされないため、「50歳以上の二人以上世帯」の平均で約2,000万円の損失になるということだ。指針で示された新たな評価手法が定着すれば、このような状況は改善するとともに、中古住宅流通市場の環境は大きく変わるだろう。投資に見合う価格付けがされることで、リフォームなど住宅価値を高める改修も実施しやすくなる。

新たな評価手法が普及し定着するかどうかは、不動産業界全体の取り組みだけでなく、不動産流通の現場である仲介会社の担当者一人ひとりの意識にもかかってくるだろう。新しい考え方を反映した「既存住宅価格査定マニュアル」(不動産流通近代化センター)の改訂も2014年度内に予定されているが、現行の価格査定マニュアルを利用している宅地建物取引業者の割合は全体の15.9%(国土交通省資料による)に過ぎないようだ。一部の仲介会社だけが真剣に取り組んでも、なかなか改善が進まないばかりか、早期に消費者の意識を変えることもできない。

その一方で、経済産業省が2014年5月にまとめた「リフォームビジネス拡大に向けた勉強会報告書」では、住宅評価の新たな基準や仕組みを定め、実際に活用しながら発展させていくことや、新基準を用いた金融支援事業を立ち上げる方針が示されている。今夏にその実証事業を行うという報道もあった。住宅設備の省エネ性能やバリアフリー、耐震性など性能向上リフォームに主眼が置かれるようだが、この実証事業によってどのような成果が得られ、またどのような問題点が浮き彫りになるか注目したい。

2014年 06月19日 10時38分