「まちごとホテルに」で地域を活性化する

クジラ株式会社の矢野社長は、「まちごとホテルに」というコンセプトで、2017年6月大阪市此花区西九条に「SEKAI HOTEL」をオープンした。
ホテルといっても広い敷地を購入し多額の建築費をかけてつくるのではなく、点在する既存の空き家をリノベーションして客室にし、駅前にフロントとなる施設をつくり、宿泊客は鍵を受け取るとそこから2~3分のところにある客室に泊まる仕組みだ。

このように、客室を一か所に集中せず、まち中に点在させることで、初期コストを抑え、フレキシブルな客室の増減が可能になる。さらにユニークなのは、宿泊者に発行する“SEKAI PASS”だ。スタッフが地域の商店を回って、地元のたこ焼き屋、喫茶店、銭湯などと提携し、宿泊者がPASSを提示するとたこ焼きが増量になったり、モーニングサービスが無料になったりする。その結果、宿泊客はそのまちに溶け込み、”日常(ordinary)“という経験を楽しめるし、地域にもお金が落ちるというまさに三方良しのビジネスモデルになっている。

SEKAI HOTEL西九条SEKAI HOTEL西九条

ホラクラシー型の組織で専門家の力を発揮させる

矢野氏は、不動産業界に入り、賃貸仲介会社で働きながらこの業界の社会的な地位の低さや信用のなさを感じ何度も絶望したが、
「その嫌な部分をすべてひっくり返すことができたら絶対一番になれる。そうなればレッドオーシャンといわれているこの業界でブルーオーシャンを切り開ける」と逆転の発想をしたそうだ。

そして、いい会社とは何が必要なのかということについて、本を読みあさり、経営者の塾に通って徹底的に研究し、その結果 ①社会貢献をする会社になる、つまり社会からつぶれては困ると思ってもらえる会社になる ②新規事業にチャレンジする会社になる ③大学生に好かれる会社になる という3つの目標を定めた。
事業のコアをリノベーションに据え、さらに不動産と設計デザインと建築施工をワンストップで行うことにし、消費者の利便性を高めようとしただけでなく、中間マージンを省くことでその浮いたコストをリノベーションの品質の向上に使うことにした。

しかも、従来の元請けと下請けといった上下の関係ではパフォーマンスが非常に悪いということから、一つの課題に対して専門家がそれぞれのプロとして同時に最大限の力を発揮できる“ホラクラシー型”の組織に体制を変更した。そのために社長自身「チームとは何か」ということを必死で勉強し、社員全員とも毎日語り合い、考え方を徹底的に共有したという。

SEKAI HOTEL布施SEKAI HOTEL布施

宿泊することが地域や子どもたちの未来を育む

その開発体制と組織運営の仕組みがSEKAI HOTELのビジネスモデルを可能にした。
「当社は不動産業とデザイン事務所と工務店の3つの機能をもち、デザインから施工まで自社内ですべて完結しホラクラシー体制で進めますので、時間とコストを抑えて柔軟に開発することができます。新規に土地を購入して1棟の新築ホテルを建てるより、イニシャルコストは30%~50%低くなります」

さらに素晴らしいのは、開発コストが下がることで創出したお金をまちへの投資に変えている点だ。
具体的には、ホテルのスタッフを増員し、地域の人と「お互いが暑苦しいくらいのコミュニケーション」をとるようにしている。例えば、スタッフは週2回まち中の清掃をしているが、障がい者就労支援施設にお金を払い、彼らと一緒にゴミ拾いをする。また、“Social Good200”という取り組みもオープン時から続けている。
「宿泊することが未来をつくるという考え方で、1泊あたり200円を積み立て、地域や子どもたちのために使います。積み立てた資金の内容と用途はすべて四半期毎に宿泊客や投資家に報告しています」

また、物件の購入・改修資金は同社の理念に共感してくれる投資家から私募債の形で調達しているが、「現在協力してくれている投資家は、SEKAI HOTELという地域創生のビジネスモデルを通じて社会参加をすることが目的でお金を出してくれています」。

商店街の中にあるSEKAIHOTEL布施商店街の中にあるSEKAIHOTEL布施

SEKAI HOTELを全国の地域創生モデルに

障がい福祉施設の人たちとゴミ拾い障がい福祉施設の人たちとゴミ拾い

SEKAI HOTELは「“未来に向けた新しいコミュニティの形成”という価値を、投資家や住人と共有して事業をすすめていく」モデルなので、矢野氏はこれを地方創生モデルにしていきたい、と考えている。

SEKAI HOTELの構想を練り始めてから社内でプロジェクトチームを立ち上げ、地方創生の事例を研究し、現地視察もかなり行い、地方創生が上手くいっていない理由について出した結論は以下の4つの要因だという。
①補助金等をもらうことが前提となっており事業計画が緩いこと ②事業内容に"WHY"が見えないこと ③合議制による意思決定 ④開発のプロがいないこと。

その解決のために必要なのは、「地域で求められる最小限かつ、最適な開発をできる会社、すなわち“ミニマムディベロッパー”の存在」で、「事業のKPI指標も開発事業自体の利益ではなく、地元雇用の増加数や新たに誘致できた店舗数」と考えた。
その上で、「SEKAI HOTELを汎用性の高い地方創生の事業モデルとして全国展開」することにし、その第一弾が今年富山県高岡市に開業する予定だ。

日本人の持つ”互酬性”をアレンジし、地域が潤う新たなビジネスを考える

現在新型コロナウイルスの影響で、世界中で不安が高まり、ともすれば自分さえよければいいという風潮になりがちだ。矢野氏は、この不測の事態にもう一度日本独自の強みに立ち返って、日本全体が一丸となって乗り越えることを呼びかけている。その中心となる考え方が、“互酬性”だ。

「日本では長い歴史の中で、困った時には“名前も知らない誰か”との利害関係を考えずに、“おかげさま”や“お互い様”と考え、日常生活の中で互酬を体現してきました。“三方良し”のような対象が曖昧だけれども社会にとって本質的な言葉もあります」

「SEKAI HOTELが目指すのは共存であり、実現したいのは共存する観光・宿泊で、互酬のスキームを当社なりにアレンジしたのが“Social Good200”です。」そこで、あえてこのタイミングで新たなサービスとして「今まで以上に地域を対象として新たな互酬を仕掛けることにし、SEKAI HOTELが薦めるディープなまちのordinary体験をECサイトにて販売」することにした。決済手数料などの費用は全て同社が負担し、収益は全て地域事業者に還元する仕組みになっている。
「地域の日常を繋いできた先輩たちを支え、日本の至る所にある多彩なordinaryを未来につないでいくためにも、日本人みんなに眠る“誰かのために”という互酬をぜひ発揮してほしい」と語る。

この先厳しい世の中が来ることが予見される中、私たちは子どもたちにどのような社会を残したいのか、そのために何をすべきかということについて、私たち一人一人があらためて自問し、行動することが必要だと感じた。

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矢野社長の経営に対する考え方や事業内容を知りたい場合は、以下のホームページを参考にしてほしい。

・クジラ株式会社 https://kujira.ltd/
・SEKAI HOTEL 西九条 https://www.sekaihotel.jp/area/nishikujo/
・SEKAI HOTEL 布施 https://www.sekaihotel.jp/area/fuse/
・ORDINARY MARKET https://ordinary.sekaihotel.jp/

社員の平均年齢は28歳。全員でビジョンを共有する社員の平均年齢は28歳。全員でビジョンを共有する

2020年 05月18日 11時05分