決算データを読み込み、注目した箇所をほかの公開情報から掘り下げることで、企業の事業活動はかなり窺い知ることができる。本稿では、主要な不動産会社の決算発表を定期的に取り上げていく。
今回は、物件などを巡ってつながりを持つ読者も多いと思われる積水ハウスグループ(以下「同社」とする)の決算を掘り下げる。同社は2026年3月5日に通期連結決算を公表した。期末日からわずか33日後のことであり、2025年も3月6日に公表していることからも、同社が早期のディスクローズ(情報開示)を意識していることが窺える。
筆者が大手不動産会社の決算を大まかに捉える際の切り口は、「(1)売上や財政状態の動き」「(2)資金繰りの動き」「(3)利益率などの主要経営指標」の3点だ。順に見ていこう。
(1)売上や財政状態の動き:海外事業が“二本柱”のうちの一本へ
最初に、(1)売上や財政状態の動きから説明したい。材料は今年と昨年の決算短信で、計算値は黄色く着色した。
多くの数字が並んでいるが、各項目の意味を把握すれば素早く読み解けるようになるため、ぜひ参考にしていただきたい。全体像に注目いただければ、左側の四角が記載事項、右側の四角が増減額と率を記したものに過ぎないとお分かりになるはずだ。
まずは最上段に記した売上だ。2024年1月期(以下、「前々期」とする)の3兆1,072億円が、2026年1月期(以下「当期」とする。)では4兆1,979億円と、2年間に1兆円以上増えている。推移を追うと、(ア)で示したとおり、2025年1月期(以下「前期」)の間に30.6%伸ばして4兆円台に乗せており、今期の動きは3%台にとどまる。
売上増の主要因は、2024年4月に米国の大手戸建住宅ハウスメーカーであるMDC社を買収して完全子会社化したことが報道等で確認できる。当時のMDC社は2期連続の減益状況下にあった模様で、国内を代表するハウスメーカーである同社が買収による相乗効果を意図して投資を判断したことが想像できる。この買収に伴い、前期の海外従業員数が2,000人以上増え、総数で3,396人となっていることも公表データから確認可能だ。
こうした流れを引き継いだ形の今期も、国際事業の売上は1兆2,863億円とほぼ横ばいの数値が維持できている。同社の祖業を中心とした請負型セグメント(戸建住宅+賃貸・事業用建物+建築・土木)の1兆3,460億円と肩を並べる実績であり、既に同社が単なるハウスメーカーの枠に収まり切れていないことが窺える。円安の局面が続く外国為替相場も、追い風となったことだろう。
(イ)で示した前期の特別損失の増減率は241.7%だが、総額203億円のうち182億円が買収関連費用であり、今期が14億円にとどまっていることからも、一時的な損失であったことが裏付けられた形だ。
これらに伴い、前々期末の総資産3兆3,527億円が今期は5兆66億円まで約1.5倍に増大している。内訳では先に挙げたMDC社買収に伴う前期の43.4%増が大半を占めるものの、(ウ)で示したとおり、今期はその大きくなった総資産をさらに4.1%拡大させている。赤く着色したこの増減率は、売上の3.4%を上回るものだ。
貸借対照表上の資産(価値)に影響を与える事業内訳は、影響度の大きい順に分譲(開発)、賃貸、流通、管理となろう。よって数字の上では、同社は国際事業の定着を機に、事業の舵を分譲(開発)や賃貸に向けて切ったとも受け取れる。
そうした中、(エ)で示したとおり、取得した資産の収益性低下・時価下落等に伴う減損処理が今期実施されていないことにも注目した。純利益を前期比で144億円増やせた中での対応ゆえ、不良在庫などがない強みが窺える。
(2)資金繰りの動き:金利上昇を見込み資金調達を積極化
次に、(2)の資金繰り面を説明したい。
四角は、上側が実際の資金調達金額、下側がそれらに伴う資金効果で、それぞれの右側がその増減と比率となる。右上の四角の左下、黄色く着色した行の左端に単純計算で1兆962億円の算出数値を記載したが、前期中にこれだけ外部から資金調達を増やしたことに他ならない。前期中の大きな投資として、先に挙げたMDC社の買収がすぐに連想可能だ。
その2つ右には、単純計算値として18億円を記載した。今期中の資金調達額の増額分に他ならない。その列の上段部分には、内訳ごとの動きを記載した。(オ)で示した4行分が1年以内に期日を迎える資金(=短期資金)、(カ)で示した2行分が1年を超える期間の資金(=長期資金)だ。
(オ)の合計は-1,752億円、(カ)の合計は1,770億円であり、短期を減らしたほぼ同額分を長期に振り替えて増やしている。前期中の2024年2月から2025年1月までの間には、日本銀行の政策金利が3回引き上げられるなど金利の上昇傾向が認められた。調達期間の長期化の背景に、同社として「金利がさらに上昇する」と見込んだ予測があったことだろう。
18億円という増額規模も今期の当期純利益の増加額(約144億円)の12%強に過ぎず、注視を要する水準ではない。公開情報からは、今期中の2025年2月に期間3~10年の無担保社債を4回、合計1,400億円発行していることが読み取れる。銀行融資中心の借入も583億円増やしているため、社債の引受けを担う証券会社の社員のほか、融資取引を担う銀行員なども、入れ替わり立ち替わり同社の財務部門に日参したことだろう。
銀行員が読む資金繰りの教科書には、先行投資の規模を判断する材料として「営業活動によって得られるキャッシュフロー(CF)を大幅に上回る規模の投資を行っていないか」が挙げられている。下の四角の1行目と2行目に示した箇所だ。不動産賃貸業やホテル・旅館業などは、最初に大型の先行投資を実施した後に一定の期間をかけて賃料や宿泊料などから回収する事業モデルゆえ、先行投資時に2つのCF間にギャップが生じやすい。
融資などの審査の際には、そうした投資後にどれだけ早く資金繰りに余裕をもたせられるようになるかに着目し検証する。同社の結果は、(キ)で示したように、2つのCFの総和(ネット値)は早くも今期にプラスとなっている。増額融資に対応した銀行などは、この値を見て胸を撫で下ろしたことだろう。
(3)利益率などの主要経営指標:今後は金利負担や利益率の改善状況に注目
先に触れたように、同社は金利上昇を見込んで外部からの資金調達を積極化させているため、金利などの支払負担増を余儀なくされる。それゆえに、「返済義務のある負担(=社債や銀行借入など)が返済義務のない自己資本の何倍あるか」を示すデット・エクイティ・レシオ(負債資本倍率)に着目した。計算式は、2つ目の表の主要有利子負債計を1つ目の表の株主資本とその他の有利子負債の合計値で割ったものだ。
この値は数値が小さいほど財務が安定していることを意味し、おおむね1倍以下が健全な目安とされる。前々期の0.43倍から、積極的に資金調達を行った前期中に0.94倍まで増大させた後、今期は(ク)で示したとおり0.86倍まで0.08ポイント圧縮させた。大手不動産事業者の多くがこの数値を1倍超とする中で、この倍率の低さ(=金利負担の軽さ)が同社の強みとなっていたことから、可及的速やかな圧縮が望まれる。まずは、2027年1月期末にこの数値をどこまで圧縮できるかを注目したい。






