新宿グランドターミナル構想の全容

日々、膨大な人々が行き交う新宿駅は、JRおよび私鉄の複数路線が集中する巨大ターミナルであり、JR東日本管内のみでも、2024年度の1日平均乗車人員は約66.7万人に達し、同管内では1位を記録している。

一方で、新宿駅は長年の増改築により駅内部の構造が複雑化しており、視認性の低さや、東西の往来を阻む広大な鉄道敷、駅舎の老朽化、歩行者空間の不足などの課題を抱えている。実際、新宿駅構内は渋谷駅同様に迷路のようであると言っても過言ではなく、乗り換え動線が複雑であり、スマートフォンを片手に出口や乗り換え口を探す人たちを多く目にする。

これらの課題を解決し、新宿を国際競争力のある拠点へと再編すべく2018年に策定されたのが「新宿の拠点再整備方針〜新宿グランドターミナル 一体的な再編〜(2018年3月、東京都・新宿区)」であり、その将来像として示されたのが「新宿グランドターミナル構想」である。

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新宿グランドターミナル構想のコンセプト ※出典:東京都・新宿区(2018年)「新宿の拠点再整備方針〜新宿グランドターミナルの一体的な再編〜」新宿グランドターミナル構想のコンセプト ※出典:東京都・新宿区(2018年)「新宿の拠点再整備方針〜新宿グランドターミナルの一体的な再編〜」

本構想における「グランドターミナル」という呼称は、単なる駅舎の建て替えにとどまらず、駅と街、および様々な交通機関を一体的に再構築し、広域的な交通結節点としての役割を持たせることを意図している。

具体的には、これまで鉄道運行を主体として整備されてきた駅施設を、利用者の利便性と街の回遊性を高める視点から再整備する。従来の新宿駅は東西を貫通する通路が限られており、駅により街の動線が分断されていた。これに対し、線路上空に大規模な人工地盤(デッキ)を構築して歩行者空間や広場を整備し、駅と街の動線を円滑に繋ぐ構造への転換を図る。駅をひとつの広場として捉え、周辺の商業、業務、文化などの都市機能を結びつける中心的な役割を担わせることから、従来の「ターミナル駅」を発展させた「グランドターミナル」と位置づけられている。

新宿グランドターミナル構想のコンセプト ※出典:東京都・新宿区(2018年)「新宿の拠点再整備方針〜新宿グランドターミナルの一体的な再編〜」新宿グランドターミナル構想に基づく階層別整備イメージ(地上階およびデッキ階)※出典:東京都・新宿区(2018年)「新宿の拠点再整備方針〜新宿グランドターミナルの一体的な再編〜」
新宿グランドターミナル構想のコンセプト ※出典:東京都・新宿区(2018年)「新宿の拠点再整備方針〜新宿グランドターミナルの一体的な再編〜」新宿グランドターミナル構想に基づく歩行者ネットワークのイメージ ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」

構想に基づく具体的な取り組み

本構想は、東京都や新宿区をはじめ、JR、東京地下鉄、私鉄各社の関係事業者の連携により推進されている。対象は駅周辺の広範なエリアに及び、2040年代を見据えて都市基盤を段階的に再整備する長期プロジェクトである。構想の主な取り組みは、主に以下の3点に整理される。

○駅施設と駅前広場の一体的な再編:線路上空にデッキ(人工地盤)を新設し、東西を繋ぐ歩行者ネットワークと滞留空間を整備する。
○駅周辺街区の高度利用:駅周辺の既存建物の建て替え(小田急・京王の百貨店跡地など)に合わせ、200m級の高層複合ビル群を建設し、ビジネス・交流機能を更新・強化する。
○交通結節機能の強化:鉄道・バス・タクシー・歩行者の動線を整理し、乗り換えの利便性を向上させる。

本プロジェクトは、1960年代の新宿副都心計画に次ぐ規模の都市基盤整備として位置付けられる。新宿グランドターミナル構想の進展により、新宿駅の交通結節機能や周辺の都市機能、景観は大きく更新される。具体的には、施設整備と、歩行者動線の再編など、都市基盤の更新として以下の計画が進められている。

東西の分断解消と歩行者優先空間の創出

主要な整備項目の一つが、線路敷によって物理的に分断されていた駅の東西を繋ぐ歩行者ネットワークの構築である。すでに2020年に供用開始されている東西自由通路に加え、線路上空に東西デッキが新設される。東西自由通路は、改札を通らずに駅東西を行き来できる地下・駅構内レベルの動線であり、東西デッキは線路上空に新たな歩行者空間を設けることで、地上・上空レベルの回遊性を高める役割を担う。

これにより、利用者は改札内を通ることなく、地上および上空レベルで東西の往来が可能となる。また、駅前広場は車両中心の構造から、歩行者が滞留・回遊できる空間へと再編される。東口・西口の駅前広場をデッキで接続し、周辺エリアへの連続的な歩行者軸を形成する計画となっている。

超高層ビル群による都市機能の高度化

駅直上および隣接する街区では、既存の商業施設(旧小田急百貨店、旧京王百貨店等)の建て替えを伴う再開発が進行している。西口地区(小田急・東京メトロ・東急不動産)では、地上48階、高さ約260mの超高層複合ビルが建設され、オフィス機能のほか、商業施設やイノベーション創出拠点機能などが導入される。西南口地区(京王・JR東日本)では、地上37階(南街区)および地上19階(北街区)のビルが計画されており、新宿跨線橋付近とつながる広場空間(新宿テラス)が整備される。
これらの建物群は、スカイコリドーと呼ばれる空中回廊等を介して各層で接続され、駅周辺一帯に多層的な歩行者ネットワークが形成される。

乗り換え利便性の向上

複雑化していた駅構内の動線整理も行われる。鉄道各社が独自に配置していた改札や連絡通路を、「東西自由通路」などを軸とする分かりやすい構造へと再編し、視認性の高い共通のサインシステムを導入する。これにより、初めて訪れる利用者や外国人観光客にとっても、円滑な乗り換えが可能な環境を目指している。

防災・環境性能の強化

災害時における帰宅困難者対策として、新設されるビル群や公共空間に一時滞在施設や防災備蓄倉庫が整備される。また、環境負荷低減の観点から、エリア全体でのエネルギーの面的利用による高効率化や、ヒートアイランド現象の緩和を目的とした緑化の推進が計画に盛り込まれている。

総じて、本構想は単なる施設の更新にとどまらず、交通結節点としての機能を再構築し、都市の広場として機能する利便性の高い拠点の形成を目指すものである。

構想に基づく進捗状況(1)

新宿グランドターミナル構想の中核を担う「新宿駅直近地区土地区画整理事業」は、東京都が施行者となり、2021年(令和3年)7月に事業計画が決定された。施行面積は約10.1ヘクタールに上り、2035年度(令和17年度)の東西デッキ一部完成、2046年度(令和28年度)の事業完了を目指すプロジェクトである。

土地区画整理事業 事業概要図 ※出典:東京都(2021年)「新宿グランドターミナルへの再編、新宿駅直近地区土地区画整理事業 事業計画を決定! 人中心のまち「新宿」の形成にむけて」土地区画整理事業 事業概要図 ※出典:東京都(2021年)「新宿グランドターミナルへの再編、新宿駅直近地区土地区画整理事業 事業計画を決定! 人中心のまち「新宿」の形成にむけて」

現在、西口から西南口にかけて複数の開発が連動して進行している。旧小田急百貨店跡地などでは、小田急電鉄、東京地下鉄、および東急不動産による「西口地区開発計画」のうち、A区が2024年3月に着工し、2030年3月下旬の竣工に向けて工事が進められている。

<建築概要(1):3社共同事業>
・建築物の名称:新宿駅西口地区開発計画
・建物用途:店舗・事務所・駅施設
・敷地面積:15,718.96m2
・建築面積:15,647.89m2
・延べ面積:278,906.56m2
・構造規模:鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造)、地上48階・地下5階
・高さ  :258.18m
・竣工予定:2030年3月下旬
・建築主:小田急電鉄株式会社、東京地下鉄株式会社、東急不動産株式会社
・設計者:日本設計・大成建設設計共同体
・施工者:大成建設株式会社東京支店
※出典:東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例第5条第1項の規定に基づく現地設置の標識看板(2026年4月末時点)

<建物概要(2):小田急電鉄単独事業>
・建物用途:商業、駅施設等
・敷地面積:約7,660m2
・延べ面積:約28,000m2
・規  模:地上8階建て・地下2階
・高さ  :約50m
・竣工予定:2029年度
※小田急電鉄株式会社、東京地下鉄株式会社、東急不動産株式会社(2024年)『3月25日「新宿駅西口地区開発計画」新築着工』

土地区画整理事業 事業概要図 ※出典:東京都(2021年)「新宿グランドターミナルへの再編、新宿駅直近地区土地区画整理事業 事業計画を決定! 人中心のまち「新宿」の形成にむけて」事業位置・用途断面図 ※出典:小田急電鉄株式会社、東京地下鉄株式会社、東急不動産株式会社(2024年)『3月25日「新宿駅西口地区開発計画」新築着工』
土地区画整理事業 事業概要図 ※出典:東京都(2021年)「新宿グランドターミナルへの再編、新宿駅直近地区土地区画整理事業 事業計画を決定! 人中心のまち「新宿」の形成にむけて」計画建物イメージ ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」

構想に基づく進捗状況(2)

西南口地区では、京王電鉄とJR東日本が推進する「新宿駅西南口地区」の開発計画が進められており、現場では建物解体工事が行われている。同計画は南街区(地上37階・高さ約225m)と北街区(地上19階・高さ約110m)に分かれ、店舗、宿泊施設、オフィスを備えた複合ビル群を建設するものである。

各街区を繋ぐ立体的な歩行者ネットワークや、広場空間となる新宿テラスの整備が計画されている。南街区は2023年度に着工し、2028年度頃の竣工が予定されている。北街区は南街区竣工後に着手し、2040年代の完成が予定されており、西口地区と連動しながらターミナル機能の更新が段階的に進められている。

計画概要 ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」計画概要 ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」
計画概要 ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」外観イメージ(1) ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」
計画概要 ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」外観イメージ(2) ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」
計画概要 ※出典:京王電鉄株式会社・東日本旅客鉄道株式会社(2022年)「新宿駅西南口地区の開発計画について」現地の状況(解体工事) ※2026年4月末撮影

構想に基づく進捗状況(3)

西口駅前広場では、車中心のロータリー空間から人中心の広場へと再編するため、地下から地上にかけて躯体を段階的に再構築する工事が進められている。これに伴い、駅周辺の歩行者動線や車両動線、公共交通機関の乗り場などに大規模かつ継続的な変更が生じている。

さらに、工事の進捗に合わせて、駅構内や地下広場の階段閉鎖、通路の通行止め、エレベーターや公衆トイレなどの設備閉鎖・移転も頻繁に行われている。複雑化する動線に対し、東京都は特設サイト(新宿駅直近地区工事情報ポータル)での迂回路案内動画の配信や、駅利用者向けの工事説明ブースを設置するなど、利用者の混乱を避けるための情報発信と誘導策を並行して展開している状況である。

新宿駅西口広場の工事状況 ※2026年4月末撮影新宿駅西口広場の工事状況 ※2026年4月末撮影
新宿駅西口広場の工事状況 ※2026年4月末撮影現状の新宿駅西口バス乗り場 ※2026年4月末撮影

新宿駅西口エリア(初台・中野坂上・代々木など)への波及効果

新宿グランドターミナル構想に伴う都市基盤整備は、駅直近の更新にとどまらず、西新宿、初台、代々木方面など、周辺エリアの回遊性や不動産需要にも影響を及ぼす可能性がある。加えて、丸ノ内線でつながる中野坂上方面にも、業務・居住需要の受け皿として間接的な影響が及ぶ可能性もある。これまで新宿駅西口は、車両中心のロータリーや地下道により、駅から周辺地域への歩行者の回遊性に課題があったといえるが、今回の基盤の再整備により、駅直近のみならず、徒歩圏外縁部に位置する西新宿、初台、代々木方面の見え方も変わる可能性がある。巨大ターミナルの利便性を享受しながら、駅前の混雑から一定の距離を取れるエリアとして、居住地・業務地双方の評価が見直される余地がある。

特に、京王新線が乗り入れる初台周辺や西新宿エリアは、駅周辺のオフィスビル群と近接するビジネス・居住の背後地としての機能向上が見込まれる。西新宿3丁目では別途、大規模な超高層マンション群の再開発計画も進行中であり、グランドターミナル構想との相乗効果が期待される。また、代々木方面や丸ノ内線等で繋がる中野坂上エリアにおいても、新宿駅の都市機能更新に伴う後背地としての需要変化が予想される。

スカイコリドーやデッキの整備によって駅と街の動線が円滑になることで、新宿駅から周辺エリアへのアクセス性が向上する。これにより、周辺地域においても、沿線価値や業務・居住需要の見方が変化する可能性がある。

また、西口の歩行者空間が整い、西新宿・初台・代々木方面への移動が分かりやすくなれば、駅直近だけでなく周辺の住宅地・業務地の評価にも影響し得る。特に初台や代々木方面は、新宿駅の利便性を享受しながら、駅前の混雑から一定の距離を取れるエリアとして、居住地としての見方が変わる可能性がある。その他、新宿駅西側では今回の再開発と基盤整備に加えて、市街地再開発事業等が検討されていることも、今後、西側の評価に影響を与えることが考えられる。

都市再生緊急整備地域内(新宿駅周辺地域)におけるプロジェクトの位置 ※内閣府URLhttps://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html(最終閲覧、2026年4月末)都市再生緊急整備地域内(新宿駅周辺地域)におけるプロジェクトの位置 ※内閣府URLhttps://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html(最終閲覧、2026年4月末)
都市再生緊急整備地域内(新宿駅周辺地域)におけるプロジェクトの位置 ※内閣府URLhttps://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html(最終閲覧、2026年4月末)都市再生緊急整備地域内(新宿駅周辺地域)におけるプロジェクト一覧 ※内閣府URLhttps://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/kinkyuseibi_list/index.html(最終閲覧、2026年4月末)

まとめ

現在、西口広場等の解体や歩行者動線の切り替えなど、大規模な工事が本格化している。新宿グランドターミナル構想は、長年の増改築によって構造が複雑化していた巨大ターミナルを、2040年代に向けて再構築する長期的な都市再生プロジェクトとなっている。新宿駅を東西で分断していた線路敷に大規模な人工地盤(デッキ)を架け、駅と街の動線を連続的に結びつけるこの取り組みは、単なる交通結節点の機能更新にとどまらないといえる。

小田急や京王をはじめとする鉄道各社が主導する駅直上および西南口の超高層複合ビル群の建設は、新宿の都市景観を大きく更新し、国際的なビジネス・交流拠点の新たな創出を図るものである。同時に、広大な歩行者空間の拡充は、災害時の滞留空間の確保や環境性能の向上など、都市のレジリエンス(強靱性)を高める重要な役割を担っている。

新宿駅西口の現況(新宿西口ハルクより撮影) ※2026年4月末撮影新宿駅西口の現況(新宿西口ハルクより撮影) ※2026年4月末撮影
新宿駅西口の現況(新宿西口ハルクより撮影) ※2026年4月末撮影新宿駅西口の現況(京王百貨店方面を撮影) ※2026年4月末撮影