かつては高級品だった、都心の一戸建て

1987年の木造3階建て解禁まで、一戸建てにはある程度の敷地面積が求められた1987年の木造3階建て解禁まで、一戸建てにはある程度の敷地面積が求められた

コロナ禍で、東京都心の一戸建て需要が増加している。東京都が公表している地域別新設住宅着工戸数の統計では、東京23区では2021年2月以降、6ヶ月連続で前年同月の着工戸数を上回っている。一方東京市部では、同期間のうち5月を除いて前年同月を下回る着工戸数となっており、一戸建て需要における都心の比重の高まりが見てとれる。

都心の一戸建てというと、もともとは富裕層向けの高級品だった。1987年の建築基準法改正までは、準防火地域で木造3階建ての建築ができなかったことが背景にある。つまり、ファミリーが暮らすのに十分な床面積を確保しようと思えば、一定以上の敷地面積が必要となり、土地代の高い都心では、中間層にとって手が届く価格ではなかったのだ。

ところが1987年の法改正で、それまで住宅には適さなかった都心の小さな土地でも木造3階建てを建てられるようになった。中間層にとって、都心に一戸建てを買うことが夢ではなくなったのだ。
実際、1988年には167m2だった東京都の1住宅当たり敷地面積は、調査ごとに減少を続け、2018年には141.67m2と、20年で約15%小さくなっている(※1)。都心の限られた敷地に一戸建てを建てるという選択肢が普及したことが、背景のひとつと考えられる。

※1:平成30年住宅・土地統計調査(総務省統計局)による

コロナ禍が一戸建ての需要を押し上げている

都心の一戸建てを看板商品に成長を続ける会社のひとつが、1997年創業のオープンハウスグループだ。ハウスメーカーにとっては、郊外のまとまった土地に複数の一戸建てを建てるほうが資材運搬や人員配置の面からも効率的であり、法改正後も大手各社は都心の狭小土地に注力することはなかった。その隙間に入り込み需要を確立したのが同社である。

オープンハウスグループは、2020年9月期の決算において8期連続で過去最高の売上高、経常利益を更新するなど、その成長をさらに加速させている。以下、好調の要因を探ってみたい。

一つは、新築マンション価格高騰の影響である。
2021年9月現在、同社の主要展開エリアである東京23区や神奈川県においては、新築マンションの価格上昇が続く。東京23区を例に挙げると2011年に5,339万円であった新築マンションの平均分譲価格は、2020年には7,712万円と44%も上昇している(※2)。一方で東京都の建売住宅の平均価格は、2010年から2019年の間16%の上昇にとどまり(※3)、新築マンションの割高感と比較した時に、一定の需要が一戸建て住宅に流れているものと思われる。

もう一つは、コロナ禍である。オープンハウスが実施した調査からは、多くの業界・会社が打撃を受けたコロナ禍でさえも、追い風となっている背景が見えてきた。
新型コロナウイルス流行前(2015年~2020年2月)に一戸建てを購入した人のうち「集合住宅と比べて一戸建ては価格以外の価値が大きいと思う」と答えたのは35.9%であったが、新型コロナウイルス流行後(2021年1月以降)の一戸建て購入者に同じ質問をすると、その数値は48.6%にまで上昇した(※4)。
つまり、もともと一定数いた価格面の割安さから一戸建てを選択する人に加え、コロナ禍以降は、価格以外の価値を感じて一戸建てを購入する人が増えているのだ。

※2:不動産経済研究所「全国マンション市場動向」による
※3:不動産経済研究所「首都圏の建売住宅市場動向」による
※4:株式会社オープンハウス「コロナ禍を受けた住宅意識調査」による

新型コロナウイルス流行後は、一戸建てならではの特徴に魅力を感じる人が増えた(株式会社オープンハウス「コロナ禍を受けた住宅意識調査」より)新型コロナウイルス流行後は、一戸建てならではの特徴に魅力を感じる人が増えた(株式会社オープンハウス「コロナ禍を受けた住宅意識調査」より)

在宅ワーク需要にも、さまざまなタイプがある

オープンハウスグループの中で、特にフルオーダーの注文住宅を強みとする株式会社オープンハウス・アーキテクトで、商品企画を手掛ける山口等氏と杉田麻実氏に、コロナ禍で都心における家づくりの需要はどう変化したのか、そしてそれらにどう対応しているのか伺った。

「当社の調査では、一戸建てを検討する理由として、『コロナ禍で外に出づらいため、庭付きの一軒家が魅力に感じた』や『家族と家で過ごす時間が増え、自分たちが心地よい空間を一からつくれるのは魅力だと思った』など、在宅時間の充実化を目的として、一戸建てでの家づくりを選択した声が目立っています」(山口氏)

山口氏によると、コロナ禍がもたらしたさまざま暮らしの変化のうち、最初に現れた大きな変化は、仕事の場所が家庭内に持ち込まれたことだという。国内で市中感染が拡大しはじめた2020年4月、緊急事態宣言の発出とともに在宅勤務を導入した会社が多かった。その瞬間、人々は家庭内に仕事場所を確保することが急務となった。この想定外の出来事で、最も困難に直面したのは、ほかならぬファミリー層だったそうだ。

「学生のお子様がオンライン授業を受けていて、親御さんの在宅ワークのスペースが取れないといった事態も起きていました。お引渡し済みのお客さまから、ワークスペースに関する追加工事のご相談もございました」(杉田氏)

そこで2020年10月、オープンハウス・アーキテクトは、自宅でのテレワーク需要に応える「LWDK(エル・ダブリュー・ディー・ケー)」を発表した。従来の間取りに加えて、仕事のための場所を設けることを表した名前だが、単に仕事用の部屋を増やすプランかとかというと、そうではないという。

「求められる理想のワークスペースの形も人それぞれです。当社のお客さまを対象とした意識調査で、約4割が書斎などのプライベートワーク空間を求め、約3割がリビングにワークスペースを用意したいと考えていることがわかりました」(杉田氏)

完全な個室で、扉を閉め切って作業や会議に集中したいというニーズもあれば、子どもを見守りながら、家事をしながら仕事をしたいニーズもある。つまり、一口に仕事の場所と言っても、子どもの年齢や仕事の内容によって、求める形態はさまざまだったのだ。

それらのニーズを踏まえて「LWDK」では、3種類のプランを用意した。第1が、ダイニングの一角にカウンターデスクを設置し、振り向けばLDKの様子を簡単に確認できる「オープン」タイプ。第2が、完全な個室を設けずにビルトイン収納などの家具で緩やかに空間を仕切った「セミオープン」タイプ。第3が、書斎のように壁で仕切られた完全個室で、リビングや廊下との繋がりは、開閉可能な室内窓のみとなる「クローズド」タイプだ。

ほかにも、音の悩みを解決する商材や、電気の悩みを解決する商材、テレビ会議時の背景問題に応えるアクセントクロスなど、顧客の声を反映した提案を用意した。

オープンハウス・アーキテクトの「LWDK」は、ワークスタイルに合わせて3種類のプランを提案(資料提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)オープンハウス・アーキテクトの「LWDK」は、ワークスタイルに合わせて3種類のプランを提案(資料提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)

暮らしの変化は、家事スタイルの変化をもたらした

コロナ禍による暮らしの変化は、働き方の変化だけにはとどまらないという。仕事の場が家庭内に持ち込まれたことや、在宅時間が増えたことは、家事のスタイルに変化をもたらしはじめた。

「当社のお客さまを対象とした意識調査では、コロナ禍で43.2%の世帯が、家事時間が増加したと回答したのです。同時に、家事負担を軽減したいという世帯は84.7%に上りました」(杉田氏)

増えた家事の内訳は、上位から料理、掃除、洗濯、買い物と並ぶ。2020年12月に実施したこれらの調査に基づき、同社は2021年7月には早速「家事ラク」として、プランを用意した。

コロナ禍で家事時間は増加。その負担を軽減したいと思っている世帯も多い(資料提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)コロナ禍で家事時間は増加。その負担を軽減したいと思っている世帯も多い(資料提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)

料理では、家族で協力して取り組むことが増えたことから、シンクとコンロを分けたセパレートキッチンとすることで重なる動線を解消。作業台の高さも、シンク側とコンロ側で異なる高さとし、男性と女性どちらもが使うことを想定したキッチンとした。買い物については、まとめ買いにも対応するパントリーを用意。ロボット掃除機の導入を前提とした細部の設計や、玄関に第二の洗面台を設置するなど、家事負担の削減や、衛生意識の向上に考慮したプランが提案されている。

コロナ禍で家の重要性が増した。都心の限られた敷地だからといって、「寝るだけ」のような最低限の役割しか果たせない家では、ニーズに応えられない。

オープンハウス・アーキテクトはこれまで東京都心の「限られた予算」「限られた土地」という、厳しい制約の中で、豊かな暮らしを実現する設計力を培ってきた。コロナ禍で、家に求められる役割が増えるとともに、そのニーズは刻一刻と変化しているのだ。

コロナ禍で家事時間は増加。その負担を軽減したいと思っている世帯も多い(資料提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)変化する家事スタイルに対応する「家事ラク」のポイントは、「作業のしやすさ」「移動のしやすさ」「気配のわかりやすさ」の3点だという(資料提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)

制約があるのは、東京都心だけの話ではない

「東京に、家を持とう。」というキャッチフレーズからも、オープンハウスグループと聞くと都心の都市型住宅のイメージが強い。しかし、2020年にオープンハウス・アーキテクトが請け負った建設のうち、都心は4割程度で、残りの6割は郊外での建設だという。

「当社は、元々多摩地区から始まった建設会社です。オープンハウスグループとして、狭小ニーズにもお応えしながらも、郊外のお客様にも対応できるようにしました」(山口氏)

山口氏によると、コロナ禍で生まれた「LWDK」や「家事ラク」は、都心の都市型住宅以外もターゲットに見据えたプランだという。

確かに、土地や予算に制約があるのは、何も東京都心だけの話ではない。新築マンションを筆頭に住宅価格は上昇を続ける一方、日本人の可処分所得は2000年代以降減少傾向にある。「予算を気にすることなく住宅に潤沢に費用をかけられる」という人はかなり少数派だろう。どんな人であっても、どのエリアであっても、それぞれの条件の中で、いかに理想とする暮らしに近づけられるかを追い求めている。

「当社はこれまで4万棟以上の施工実績があり、あらゆる設計ができます」(同)というように、厳しい制約のある東京都心を舞台に急成長を遂げたオープンハウスグループ。

同グループはその設計力を武器に、郊外、名古屋、福岡に進出。名古屋での販売実績は3年前と比較し240%と勢いは止まらない。次なる進出エリアは大阪だという。

オープンハウス・アーキテクトとしても、名古屋にコンセプト型ショールーム「LIFE DESIGN PARK 久屋大通」を開設。大阪にも同様のショールームをオープン予定だ。

制約の中で理想に近づけるという、家づくりとは切っても切り離せない命題に対して、そしてコロナ禍で変化を続ける需要に対して、どのような答えを示していくのか。東京都心で設計力を磨いたオープンハウス・アーキテクトの、今後の家づくりに注目したい。

郊外でも受注を増やすオープンハウス・アーキテクトの家(画像提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)郊外でも受注を増やすオープンハウス・アーキテクトの家(画像提供:株式会社オープンハウス・アーキテクト)

■取材協力
株式会社オープンハウス・アーキテクト
https://oha.openhouse-group.com/

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