便利な生活を優先するがゆえに増えるCO2の排出量

3社合同の実証実験ハウス外観。建物の構造は重量鉄骨。左右にEV用の充電システムを備えたビルトインガレージがある

3社合同の実証実験ハウス外観。建物の構造は重量鉄骨。左右にEV用の充電システムを備えたビルトインガレージがある

CO2と地球温暖化の関係が取り沙汰されて久しい。ところが日本のCO2排出量は減少する様子はなく、世界で中国、米国、インド、ロシアに次ぐ5番目に多い排出国となっている。中でも家庭部門の増加は著しく、京都議定書の基準年である1990年度から48.1%も増えている。
いくら便利な生活のためとはいえ、このままでいいのか。このような背景から、本田技研工業株式会社、積水ハウス株式会社、株式会社東芝の3社は合同で「実証実験ハウス」をさいたま市に建設し、快適で経済的なCO2排出ゼロの生活を目指す取り組みを行っている。

同ハウスは実際に人が居住できる二世帯住宅だ。エネルギーの「家産家消」のために様々な工夫が凝らされている。
「住宅会社の積水ハウスや家電メーカーの東芝が行っているのは分かるが、バイクやクルマメーカーのホンダがなぜ住宅を?」と思う人がいるかもしれない。実はホンダはこれら以外にも除雪機や発電機などCO2を排出する製品を数多く生産している。そのため「“自由な移動の喜び”と“豊かで持続可能な社会”の実現」を目標に、家庭内のCO2排出削減の研究にも取り組んでいたのだ。しかし、やはり住宅や家電が専門ではないので限界がある。そこで今回の3社合同の実証実験ハウスが実現した。
では、同ハウスを取材してきたので、その内容をご紹介しよう。

高効率コージェネと制御用モジュールで二世帯間の給湯を融通

中央下がホンダ製家庭用ガスエンジンコージェネレーションユニット。中央上が制御用モジュールSeMM。そして右が1階用の貯湯タンクで左が2階用貯湯タンク。タンクなどに映しだされている図は、1階用の貯湯タンクから2階のタンクへお湯を送っている様子を表したもの中央下がホンダ製家庭用ガスエンジンコージェネレーションユニット。中央上が制御用モジュールSeMM。そして右が1階用の貯湯タンクで左が2階用貯湯タンク。タンクなどに映しだされている図は、1階用の貯湯タンクから2階のタンクへお湯を送っている様子を表したもの

本田技研工業ではおもに以下のような部分を担当している。

・家庭用ガスエンジンコージェネレーションユニットとSeMM(Smert e Mix Manager)の組み合わせによる給湯と給電
・フィットEVの非接触充電と自動駐車
・EVによるV2H(Vehicle to Home:EVを家庭用の非常用電源に利用するシステム)
・「UNI-CUB」(屋内を自在に動き回れるパーソナルモビリティ)
・体重支持型歩行アシスト(体重の一部を機器が支えることで、足の筋肉と関節の負担を軽減し、エレベーターを利用せずに住宅内の昇降をサポートする)
・太陽光発電システム

コージェネレーションシステム(通称:コージェネ)とは、ガスなどを燃料として電力と熱を供給するシステムだ。ホンダはエネルギー利用率92%の家庭用ガスエンジンコージェネレーションユニットを開発。高効率で省エネ・CO2排出量削減に貢献する。また、燃料がガスのため停電時でも発電、給湯が可能。さらに災害などで都市ガスの供給が止まってしまった場合はLPガスも利用できる。
同ハウスではこのユニットとホンダ独自の制御用モジュールSeMMをつなぎ、発電によって発生した熱を給湯に利用し、さらに余ったお湯は二世帯間で融通し合うこともできる。

無人のクルマが自動で駐車し、充電も行う

1階の2カ所のビルトインガレージには、非接触充電と自動駐車が可能なフィットEVとV2H(Vehicle to Home)が可能な超小型EV「MC-β」が駐車していた。
フィットEVは、リアの1つのカメラと敷地内の3つのカメラによって自動駐車が可能。操作はスマートフォンで行い、画面のアイコンを押すと吸い込まれるようにガレージに入っていった。後席に緊急停止スイッチを押すための人がいるものの、運転席に誰もいないクルマが、自動でハンドルを切り返しながら巧みな車庫入れをする様は一見の価値があった。さらに駐車後はフロアに設置された給電コイルによって非接触充電を行うので本当に手間いらずだ。

2人乗りの超小型EV「MC-β」は、手軽なお買いものクルマ的存在だ。実際に試乗させてもらったが、まさにスクーター感覚。滑らかに回るモーターと高い小回り性能で敷地内を自在に走り回ることができた。最小回転半径を聞くと3.1mとのこと。軽自動車でも4.5m前後なのでいかに小回りが利くかが分かる。こちらの車体のバッテリーは、停電時などに家庭用電源としても利用できることを目指している。

上:運転席に誰もいないフィットEVが、自動運転でビルトインガレージに入る。リアの1つのほか、奥に見えるポール部分など敷地内にある3つのカメラによって制御されている。下:充電中の超小型EV「MC-β」。車体から住宅内へ電力を供給することも可能上:運転席に誰もいないフィットEVが、自動運転でビルトインガレージに入る。リアの1つのほか、奥に見えるポール部分など敷地内にある3つのカメラによって制御されている。下:充電中の超小型EV「MC-β」。車体から住宅内へ電力を供給することも可能

ガレージまでのバリアフリーを実現する地中に埋まる基礎

積水ハウスではおもに以下のような部分を担当している。

・建物本体
・ガレージやバルコニーも含めた完全フラットな床
・自動開閉窓・ブラインド
・UNI-CUB向けの室内しつらえ
・歩行アシスト向けの階段設計
・壁面緑化

建物本体でもっとも驚いたのは、ガレージまでもバリアフリーとする完全にフラットな床だ。一般的な住宅では、屋外から2~3段の階段を上って玄関土間に入る。しかし同ハウスではその階段がない。しかもガレージやバルコニーと室内の間の床にも段差がないのだ。
これは建物の重量を支える鉄筋コンクリート製の基礎を地中に埋め込むことで実現させている。通常、地上50~60㎝ほどの高さがある基礎を埋めてしまうのは、かなり手間がかかるはず。なぜそこまでしたかというと、車イスだけでなく、ホンダのパーソナルモビリティ「UNI-CUB」に乗った人が室内外を自在に行き来できるようにするため。「UNI-CUB」は電動の一輪車のような乗り物だが、微妙な体重移動を感知して方向転換ができるので簡単に乗りこなせる。この乗り物で移動しやすいように、室内の建具のほとんどは自動ドアとなっており、間仕切り壁も曲がりやすいようにRを描く形状の部分がある。
このエコで安全な移動手段とそれが使いやすい建物の構造は、ホンダと積水のコラボゆえの産物だろう。

また2階の各窓には気温、湿度、照度のセンサーが設置されており、屋内外の温度差を感知して自動で窓を開閉し、陽射しの強さによってブラインドも昇降する。空調をエアコンに頼らない省エネのための工夫だ。

上:ホンダのパーソナルモビリティ「UNI-CUB」。地中に建物の基礎を埋め込んでいるので、右のテラスや奥のガレージへバリアフリーで行き来できる。下:気温、湿度、照度のセンサーの実験風景。床に置いてある小さな白い箱がセンサー。日射が当たることで窓のスクリーンが自動で降りてくる上:ホンダのパーソナルモビリティ「UNI-CUB」。地中に建物の基礎を埋め込んでいるので、右のテラスや奥のガレージへバリアフリーで行き来できる。下:気温、湿度、照度のセンサーの実験風景。床に置いてある小さな白い箱がセンサー。日射が当たることで窓のスクリーンが自動で降りてくる

家一軒だけでなくコミュニティー単位で消費エネルギー量を最適化

ハウス内の東芝製84インチ4K TVに映し出されたμCEMSの概念図。地域全体の消費エネルギー量を最適化する

ハウス内の東芝製84インチ4K TVに映し出されたμCEMSの概念図。地域全体の消費エネルギー量を最適化する

東芝ではおもに以下のような部分を担当している。

・μCEMS(マイクロセムス、Micro Community Energy Management System)
・HEMS(ヘムス、Home Energy Management System)
・太陽光発電システム(2階部分用)
・太陽光発電システム連系リチウムイオン電池
・スマートメーター

μCEMSとは、家一軒だけでなく、地域などのコミュニティー単位で消費エネルギー量の最適化を行うエネルギーマネジメントシステムだ。一方でHEMSとは家一軒の消費エネルギー量の最適化を行うシステム。
二世帯住宅である同ハウスでは、μCEMSによって親世帯または子世帯で生んだ電気を各世帯の需要に応じて融通し合ったり、電力ピーク時に電気の使用抑制を促すデマンドレスポンスを活用して省エネ効果を検証している。

μCEMSは住宅だけでなく、商業ビルや工場なども含む地域全体の消費エネルギー量の管理を行うものだ。将来的には、μCEMSから地域の電気料金をHEMSに通知し、HEMSがEVや蓄電池、コージェネを制御して節電や充電を行うといった活用方法も考えられる。2016年の電力小売り自由化に向けて有効なシステムとなるだろう。

以上のように同ハウスは、まるで映画に出てくる未来の家のようだった。しかし、国が2020年までに創エネと省エネをプラスマイナスゼロにするZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を標準的な新築住宅とすることを目標にしていることからも、近い将来に実現できる家を目指していることは間違いない。今回紹介した様々な省エネ設備が今後どれだけ実用化、そして普及するか楽しみだ。

2015年 01月10日 12時47分