コロナ禍の住宅市場はシュリンク。今後は景気次第か

今年の1月16日に国内最初の感染が発生して以降、横浜港に停泊したクルーズ船での感染拡大を経て、国内でも新型コロナウイルス感染者の増加が続いている。4月7日には医療崩壊を防止することを目的に行動自粛を伴う緊急事態宣言が出され、16日には宣言区域が全国に拡大された。

その後、国内での移動自粛が進んだこともあり、5月の連休明けには一旦感染拡大が小康状態をむかえた。緊急事態宣言も5月末に解除されて日常を取り戻す方向に動いたものの、活動が再開するとともに再び新規感染者が増加し始め、6月26日に全国の一日当たりの新規感染者数が100人を突破してから7月末には1,500人に達している。8月以降の感染者数推移は高止まりを続けており、依然として感染が収束する状況にない。

新型コロナの感染拡大は国民の健康だけでなく生活の全局面に多大なる影響を与え続けているが、不動産業界においてもそれは例外ではない。
4月に緊急事態宣言が出されて以降は国内の観光産業は大きな打撃をこうむり、また海外からのインバウンド需要もほぼ皆無となってホテル・旅館はもちろん民泊に至るまで宿泊客の激減により倒産が相次ぐ状況になっている。また、地域によって温度差はあるものの、賃借人の多い都市圏を中心に賃貸市場の縮小が発生し、一部地域では相場賃料の大幅な下落を余儀なくされている。

新築マンションは、毎月の新規販売戸数が激減した。昨年末から年明けにかけて月間3,000戸超の販売水準で推移していた首都圏のマンションは6月には1,500戸程度に半減しており、成約は1,000戸程度で契約率も70%を割り込んでいる(7月には2,000戸台に回復)。販売を担うモデルルームも原則として完全予約制を採用しており、来場者自体も減少していることから、年間の販売戸数も昨年の半数以下である1万5,000戸程度にとどまるのではないかとの予測もされている。

中古マンションは、各都市圏を中心に需要急減による市場流通価格の下落傾向が明確になっており、市場に出る物件数も限られていることで市場が急激に縮小する状況にある。幸いなことに需給バランスがタイトなことで相場価格には大きな変化がないが(一部地域で下落)、当面は需要も供給も回復する見通しは立っていない。一方で郊外エリアでの中古マンションや中古戸建に対する問い合わせは、全般的に増加傾向にあり、現状では顕著な事象ではないが、今後新型コロナウイルスの影響が長期化すれば郊外における住宅需要はテレワークの拡大も手伝って顕在化する可能性が出てきている。

コロナ禍の住宅市況について現状をどのように認識しているのか、また今後はどうなっていく可能性があるのかについて、住宅市場に詳しい有識者の見解を聞く。

新型コロナウイルスは、マスク着用の通勤風景が普通となるなど生活の全局面に多大なる影響を与え続けている新型コロナウイルスは、マスク着用の通勤風景が普通となるなど生活の全局面に多大なる影響を与え続けている

コロナ禍における賃貸住宅市場の現状と今後~永井ゆかり氏

<b>永井ゆかり</b>:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。 全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母。趣味はバスケットボール、パン作り永井ゆかり:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。 全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母。趣味はバスケットボール、パン作り

さまざまな産業が新型コロナウイルスによるダメージを受けている中で、比較的深傷を負わずに済んでいるのが、賃貸住宅業界ではないだろうか。
もちろん、新型コロナウイルスの流行り始めが、引越しシーズンの繁忙期だったため、けっして余裕があるわけではない。来店客数が激減したため、賃貸仲介専業にはかなり厳しい状況に追い込まれた会社もあった。学生を対象とした地域では、緊急事態宣言解除後も大学のオンライン授業継続により、学生入居者が解約というケースも目立った。留学生も来日できなくなりキャンセルになったケースもある。
ただ、同じ賃貸仲介を行う不動産会社でも、賃貸管理事業を柱としている会社は逆に退去が少なく、入居率が安定。そのため、ダメージは最小限に食い止めることができているようだ。

5月は多くの会社の賃貸仲介売上が前年比マイナスだった。だが、緊急事態宣言が解除され、6月以降は仲介売上が前年比プラスで盛り返す会社が目立った。中には、前年比70%プラスという会社もあった。今後どれだけ、春の繁忙期分を年内に取り戻せるかが重要になってくる。
そんな賃貸仲介の現場では、部屋探しのニーズにも変化が出てきている。弊紙「週刊全国賃貸住宅新聞」の目玉企画「入居者に人気の設備ランキング」で安定の1位は「インターネット使用料無料」だが、その順位も今年は変わるかもしれない。というのも、コロナ禍でテレワーク需要が増えたことにより、インターネットのスピードが遅いために、テレビ会議等に支障が出る声が、さまざまな管理の現場で出てきた。そのため、部屋探しする人たちにも、「無料」よりも、「インターネットのスピード重視」派が目立ち始めたのだという。

また、テレワークという同じキーワードでいうと、「部屋の広さ」を求める声が増えてきたという。内見時に以前はテーブルを置く場所の相談が多かったのが、コロナ禍によりデスクを置く位置を相談されるケースが増えたという声も仲介の現場から聞こえてくる。パーソル総合研究所の調査では、東京都の5月のテレワーク実施率が4月よりも減ったものの、48%台だった。首都圏、地方大都市圏でテレワーク勤務が増えていることが影響している。
テレワークでなくても、外出自粛により家で過ごす時間が増えれば、窮屈な部屋よりも開放的な部屋の方を選ぶだろう。併せて、在宅時間が長くなったことで、建物内の騒音トラブルも増えているという。防音性能もますます重視されるかもしれない。

賃貸住宅業界では、今後コロナ禍により新たに生まれるニーズに着目し、より早く対応することが望まれるだろう。

不動産市場は二極化が加速する ~坂根康裕氏

<b>坂根康裕</b>:「住宅情報スタイル首都圏版」(現「SUUMO新築マンション」)「都心に住む」元編集長。不動産市況解説サイト「Fact Stock(ファクトストック)」を運営。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」坂根康裕:「住宅情報スタイル首都圏版」(現「SUUMO新築マンション」)「都心に住む」元編集長。不動産市況解説サイト「Fact Stock(ファクトストック)」を運営。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」

■買い手がいる市場で相場全体の暴落は起きない
不動産市場における最大の特徴は、種別によってアフターコロナの見通しが異なる点だ。Jリートは端的。物流、住宅が3月の急落から戻りが早かったのに対し、オフィスと商業は遅い。解約、縮小等のテナント動向がワクチン普及後も読み切れないからだろう。
しかしながら、希少性を帯びた好立地は買い手に困らない。ティファニー銀座本店やユニゾ八重洲ビルが典型。逆にニュースを流すことで売却案件の呼び込みをねらっているフシさえ見受けられる。選ばれる物件とそうでない物件の差が一層広がるだろう。今後、個では暴落といえるほどの下落があるかもしれないが、相場全体はそうならないとみている。

■マンション市場は変調なし
分譲マンションは、オリンピック延期もあり、値下がりするのでは?との不安を耳にする。東日本不動産流通機構のデータによると、多くの地域で中古マンションの成約単価の下落は起きておらず、成約件数は4月の激減から7月にかけて戻り基調にある。
ただ、集客に制限をかけざるを得ないため、新築供給戸数がコロナ前の水準に戻るには時間を要するかもしれない。中古は住みながら売却活動をする個人が、内見回避で一旦市場から引っ込めていることもあり、在庫件数が減少。結果、需給が引き締まった格好だ。
気になる人口増減だが、都心部では一部の地域で減少に転じたものの、外国人居住者の減少が主な要因。流入過多の趨勢が逆転しそうな気配は見られない。「都心から郊外や地方へ移住」の事例は増えるかもしれないが、市場のトレンドとなる兆しは今のところ確認できないということだ。
千葉県の成約単価だけが4月、5月に2桁程度下落したが、そのふた月だけ築年数が上がった(=築古が多かった)のが原因。二極化の加速は、マンションでも進行しそうだ。

■次期政権の方針に注目
2020年8月28日(金)午後、「安倍首相辞任」の速報が駆け巡った。株式市場はすぐさま反応(急落)。成長戦略を掲げてきた長期安定政権が途切れることにより、投資家のリスクオフ選択も想定する必要性が生じた。牽引役が不在となれば、マーケットは力強さを欠くかもしれない。いずれにしても、次期政権の政策次第だ。
一方、コロナで当面政策金利は世界的に低水準が維持される見込み。住宅ローンを活用した資産形成が有効である以上、都心・駅近など利用価値の高い物件に限っては、実需は引き続き堅調とみている。

参考記事:「安倍総理辞任」不動産市場への影響 https://tousinojikan.com/seikenkotai/

コロナ下でどうなる?住宅市場。売り手と買い手は模様眺め。働き方と企業業績の変化がカギに~平松健一郎氏

<b>平松健一郎</b>:株式会社不動産経済研究所「日刊不動産経済通信」編集部記者。1975年生まれ。横浜市中区出身。出版社、新聞社などでの勤務を経て18年に不動産経済研究所入社。
3・11後は東北で津波と原発の被災地取材に従事。現職では主に独立系不動産会社の取材を担当。取材分野はマンション・戸建て住宅、オフィス、ホテル、物流施設、AM系、不動産テック企業など。趣味は世界中の安宿で友人を作ること。座右の銘は「思い立ったが吉日」平松健一郎:株式会社不動産経済研究所「日刊不動産経済通信」編集部記者。1975年生まれ。横浜市中区出身。出版社、新聞社などでの勤務を経て18年に不動産経済研究所入社。 3・11後は東北で津波と原発の被災地取材に従事。現職では主に独立系不動産会社の取材を担当。取材分野はマンション・戸建て住宅、オフィス、ホテル、物流施設、AM系、不動産テック企業など。趣味は世界中の安宿で友人を作ること。座右の銘は「思い立ったが吉日」

新型コロナウイルス感染症の影響で住宅市場の潮目が変わり始めた。在宅勤務や時差出勤が普及し、広くて安価な郊外の住宅が株を上げているほか、新しい家で「巣ごもり」時間を満喫しようと購入を前倒しする動きもある。ただ日々の取材で得た実感では、現時点で既存のニーズを覆すような大波は生じていない。感染状況や本業への影響を見定めたうえでオフィスの統廃合を決めようと考えている企業が多く、住宅の売り手と買い手も模様眺めの姿勢が強いためだ。

住宅の需要は企業がどこにオフィスを構えるかで変わってくる。最近の報道ではオフィス不要論と必要論が拮抗しているが、コロナの感染が恒常化しない限り国内でテレワークは定着しにくく、大都市にオフィスを置く意義は薄れないと説く必要論が優勢のようだ。ただ東京都心5区では空室率が上がり始めた場所もあり、年末以降にオフィス床の解約が顕在化してくるとの見方が強い。働く場所の問題よりも大きな変数は経済への打撃だ。安倍晋三前首相の辞任が株価にも影響しているが、この先景気が大幅に悪化すればオフィスや住宅の市況に直接響く。
当社の調べでは首都圏における20年上期の新築分譲マンション供給戸数は約7,500戸と前年同期に比べ4割以上減った。一方で平均価格は6,668万円と1割近く上がった。外出自粛が響き4、5月に供給が減り、7月に反動増が出た。戸建て住宅も似た傾向だ。マンション各社は春に出せなかった物件を6月以降、一斉に販売したが、秋には新商品も市場に出回るため、向こう数カ月は販売物件がダブつきそうだ。全国で地価も下落傾向にある。独立系デベロッパーらが来年以降に売り出す物件は今よりも販売価格が下がり、戸建て住宅と競合する可能性がある。その場合、財閥系など大手企業の反応が注目される。

今年1年間のマンション供給は2万戸で底打ちし、来年は上向くと当社では予想している。今は企業も消費者もコロナ禍下で各々の最適解を模索しているところだが、売買される住宅の立地や間取り、性能などの傾向は少しずつ変わってきている。国内外の企業業績や働き方の変化などを多面的に注視していく必要がある。住宅市場の先行きを考える上では、ニュース記事の解釈に注意が必要だ。複数のメディアがコロナの影響を扇動的に報じているが、世に出るほぼすべての情報には発信者の利害が絡んでいる。情報を吟味して真贋を見極める重要性を強調したい。

現場目線で語る、コロナ禍の不動産市況の行方~高橋正典氏

<b>高橋正典</b>:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など高橋正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など

「在宅勤務の増加で都心に住む動機が薄れ郊外へと需要が移る」とはコロナ禍で注目されたキーワードではあるが、実態はどうだろうか。
私どもは、都内及び長野県においてマイホームの売買を行っており、都心と郊外両方の需要を把握している立場からいうと、そう大きなトレンドにはなっていない。
注目された千葉房総方面や神奈川西部も、冷静に考えれば昨今の台風等の災害リスクや、地震や津波の心配もあるなど、検索数は伸びつつも決断にはハードルがあるようだ。

では、もう一つ「住まいにテレワーク環境が欲しい」というキーワードはどうだろうか。
これについては「テレワーク環境」という個別要因以上に、そもそも在宅時間の増加で「快適な住まい環境」を欲するという流れは増えた。これは、元々我が国の課題でもあった賃貸住宅の質の低さも一因といえ、マイホーム購入を後押ししている。
実際に、4月の緊急事態宣言の発令によりマイホーム取得に関する動きは一旦鈍くなったが、それも5月には4月の反動もあって問い合わせが激増。そして6月、7月も対前年比と変わらない反響数が出ており、例年動きの止まる暑い8月においては昨年をはるかに上回る動きになっている。

では問題の物件価格はどうだろうか?
コロナ禍で価格が下がるという予測もあったが、新築マンション市場はそもそも大手デベロッパーの寡占が進んでおり、供給量がいい意味でコントロールされ価格は安定し高止まりしている。新築戸建てについても、コロナ禍で比較的企業体力のない分譲事業者が供給を減らしていることもあり、需要とのバランスがよく価格は下がっていない。
ポイントは新築マンションの価格高騰により割安感のでた中古マンションが、リノベーションブームとあいまって人気が集まり価格が2010年比で約1.5倍(国交省「土地総合情報ライブラリー」より)まで上昇したが、この価格までも維持されるか?という点だろう。
実際、現場ではコロナ問題より前の2020年1月より成約価格の下落が始まっており、コロナ禍がその流れを加速させた。ただし、この流れはこれまでのような一律の価格変動ではなく、下がる物件と下がらない物件が選別されるということは注意しておくべきだろう。

コロナ禍で、住まいの形も多様化することは間違いなく、中古住宅をカスタマイズするという選択は理にかなっている。そのためには「中古住宅購入+リフォーム・リノベーション」で構成される内訳において、後者の「リフォーム・リノベーション」の費用に比重が移っていくと予想する。快適な暮らしの実現は「不動産購入」だけでは実現せず、室内環境の改善にも費用をかけてこそなし得る。今後はお金の配分も変わっていくだろう。

2020年 09月08日 11時05分