対面からオンラインへ、大きく舵を切ったマンション販売の現場

▲もともと不動産業界では、国交省の社会実験の一環として一部の大手仲介会社が取引の電子化促進に取り組んでいたが、今回のコロナ禍を経て新築マンション業界でもオンライン対応が一気に加速しつつある(写真はイメージ)▲もともと不動産業界では、国交省の社会実験の一環として一部の大手仲介会社が取引の電子化促進に取り組んでいたが、今回のコロナ禍を経て新築マンション業界でもオンライン対応が一気に加速しつつある(写真はイメージ)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、マンションの販売現場が大きく変わろうとしている。

2020年4月7日に発令された緊急事態宣言下では、大手デベロッパー各社が率先する形でほとんどのマンションギャラリーがクローズに。その間の営業対応は成約者のフォローのみを原則とし、新規の販売活動を停止した物件が多かった。

その結果、首都圏(1都3県)における2020年5月の新築分譲マンションの発売戸数は前年同月比8割減となり、4月に続いて過去最低記録を更新したことは記憶に新しい。

マンションは多くの人にとって「人生でいちばん大きな買い物」だ。そのため、販売現場ではこまやかな対面接客によって顧客の信頼を得ることが成約の決め手となることも多く、これまで“オンラインサービスの導入が最も難しい業界のひとつ”と言われてきた。しかし、このコロナ禍を体験し、マンション業界全体が今後大きな舵を切ることになる。業界内でいち早く「全店オンライン接客」を採り入れた三菱地所レジデンスの担当者に、導入の経緯について聞いた。

オンライン推進のきっかけは「コロナ禍」ではなく「客層の多様化」

▲今回のインタビューもオンラインミーティングで対応。左上から反時計回りに:広報部の田辺さん、第二販売部の木村さん、業務企画部の夏井さん、住宅ライター福岡(筆者)▲今回のインタビューもオンラインミーティングで対応。左上から反時計回りに:広報部の田辺さん、第二販売部の木村さん、業務企画部の夏井さん、住宅ライター福岡(筆者)

夏井氏「実は、オンライン接客自体はコロナとは関係なく、当社では2年ほど前からワーキンググループをつくって導入計画を進めてきました。その理由は“お客様の層の多様化”です。

というのも、近年は都心物件を中心にしてマンションを買い慣れているお客様が多く、物件によっては初めて住まいを購入する一次取得者のほうが少ない状態でした。購入する目的も実需に限らず、資産形成・相続税対策・セカンドハウスという方も増えていましたし、タワーマンションでは購入者の約1割がインバウンドというケースもありましたから、“モデルルームへの来場を必要としないお客様が増えてきた”ということが大きな一因だったのです」

顧客層の多様化に加え、もうひとつの理由は「価格の高額化」だ。同社が販売する都心物件では8000万円~9000万円が価格帯の中心で1億円を超える住戸も少なくない。そうなると、購入者層は専門職やパワーカップルなどが中心となるため、日々の生活も多忙を極め「情報を得るためにモデルルームへ何度も足を運ぶ時間がとれない」といった意見が多く聞かれたという。

夏井氏「近年は、売主が発信する情報に限らず、個人が発信する不動産ブログやクチコミサイトなど、ネットを通じて様々なチャンネルから事前情報を収集した上で、初めてモデルルームを訪れるお客様が増えました。そのため、情報収集の段階から直接お客様と我々売主側がコンタクトを取れる手段をつくらなくては…ということで、昨年8月からまずは都心3ヶ所でオンライン接客の実証実験をスタートしたというわけです」

オンライン接客導入、最初の課題は「販売現場への導入理解の促進」

▲同社ではオンライン接客の際に、商談システム『ベルフェイス』を使用。約束の時間になると販売担当者からまず電話が入り、電話での案内に従ってパソコンを操作して接続ナンバーを発行。そのナンバーを担当者に伝えると、相談がスタートする仕組みになっている▲同社ではオンライン接客の際に、商談システム『ベルフェイス』を使用。約束の時間になると販売担当者からまず電話が入り、電話での案内に従ってパソコンを操作して接続ナンバーを発行。そのナンバーを担当者に伝えると、相談がスタートする仕組みになっている

しかし、いざ実証実験をスタートしてみると、顧客ではなく“販売担当者の理解を得ること”が最も大変だったという。

木村氏「全店オンライン導入を目指す上で、現場からの拒否反応というのはある程度想像していたのですが、特に対面接客に長けたベテランの販売担当者からは“これまでと違う不慣れなシステムへの抵抗感”が大きかったですね。そのため、担当者の意識をどうやって啓発していくか?が大きな課題となりました」

実証実験を続けるうちに、成約につながるなど“オンラインの手ごたえ”を感じはじめた頃、新型コロナウイルスの感染拡大が起こった。同社では、当初2020年3月末まで実証実験を行い、同年4月から都心物件の一部でオンライン接客を導入する予定だったが、まずは3月23日から都心13物件で、その後、緊急事態宣言の発令を受けて急遽5月から全店でのオンライン接客開始に踏み切った。

木村氏「緊急事態宣言下ではマンションギャラリーを閉鎖したため、4月はお客様の来場がまったく無い状況でしたから、このままでは本当にまずい、と。ゴールデンウィーク中に若手を中心とした推進担当者がオンラインで集まり、オンライン接客の業務フローやマニュアルの整備を行って、5月10日に全国総勢約200名の販売担当者に向けて、オンラインでレクチャーを行いました。当社ではオンライン商談システムの『ベルフェイス』を使っているのですが、そのシステムを使うのが初めてという販売担当者がほとんどでしたから、お客様役と販売担当者役のスタッフのやりとりを動画で撮影してユーチューブにアップし配信しました。いま販売が置かれている状況では接客を行うことができず、このままでは会社としても事業の継続性が危うくなってしまう…そうした危機感を皆で共有しながら、“今なぜこのシステムが必要なのか?”を周知していったという感じですね」

夏井氏「実は、私個人的には、200人を集めた事前レクチャーを“準備から当日の配信まですべて在宅の環境で行うことができた”という点に感動しました。若手を中心にして、慣れない在宅勤務の環境下でもここまでできるということがわかった…今後のオンライン接客への自信につながった瞬間でもありました」

オンライン接客の導入により「購入決断へのスピード感」が速くなった

▲物件ホームページにはまだ掲載されていない間取りなど、オンライン接客ならではの独自の情報を提供。利用した顧客からは「小さな子どもが家にいるのでオンラインで相談できて助かった」「転勤で地方在住のため、移動をせずに物件情報を得られるのがうれしい」など、好意的な評価の声が届いているそうだ▲物件ホームページにはまだ掲載されていない間取りなど、オンライン接客ならではの独自の情報を提供。利用した顧客からは「小さな子どもが家にいるのでオンラインで相談できて助かった」「転勤で地方在住のため、移動をせずに物件情報を得られるのがうれしい」など、好意的な評価の声が届いているそうだ

オンライン接客を希望する場合、顧客はまず物件ホームページ内の「オンライン相談」のページから相談日時を選ぶ。

ページを進んでいくとアンケートの項目が細かく設定されている。基本的な「希望の間取り」や「予算」のほか「物件に関する詳細情報」「今後の販売スケジュール」など、特に興味のある情報の項目にチェックを入れて送信すると、販売担当者が顧客の要望に応じた資料を準備し、オンライン相談の当日を迎えることになる。

ちなみに、オンライン相談の際は、最初の挨拶の時などにカメラをオンにするようお願いしているものの、顧客側はカメラをオフにしていてもOK。自分が特に知りたいと思う情報をモデルルームに行かずして短時間で得ることができるため、効率が良いと好評だ。

夏井氏「当社では、オンライン接客はマンションギャラリーとお客様を結ぶものとして位置付けています。そのため、最終的にはマンションギャラリー来場を促して契約の判断をお願いすることになるのですが、オンライン接客の場合は再来率が高く歩留まりが4割を超えています。お客様としては“事前に知りたかったことを知ることができて、物件についても理解できたから、さらにモデルルームを見学して確認をしたい”と来場してくださるケースが多いようです。こうした“再来場へのつながり”を重視した営業フォームを販売部で考えてやってきましたので、それが効果に表れていると感じました」

マンションギャラリーを訪れる顧客の中には“冷やかし”も多い。もちろんその冷やかしがきっかけとなって後の成約につながることはあるものの、オンライン接客が入り口となった顧客の場合は冷やかし来場が少なく、成約までのスピード感が速くなることも意外な成果だったという。

木村氏「従来の対面接客だと、物件説明→模型→モデルルーム→資金相談というのが一般の流れで、マンションギャラリー見学には少なくとも2時間程度かかってしまうのですが、その中の物件説明をオンラインで終えておけば、対面接客に移っても短時間で具体的な相談につながりやすいというのが販売現場からの感想です。お客様としても、立地や価格帯についてはほぼ理解されているので、あとはモデルルームで仕様の確認や資金相談を行って、ご購入に向けてのご判断に進んでいくことになります。対面につながった時の『購入へのスピード感』の速さはオンラインならではの強みであり、販売生産性の効率化にもつながっていると思います」

オンラインによる接客スキルの質の向上が次のステップの課題

▲「オンラインだからお客様との関係性が希薄になるのではなく、逆にオンラインならではの継続的な結びつきを構築したいですね。当社としては、販売のチーム、引き渡しのチームと、マンション購入後も組織としてオンラインで相談できる仕組みづくりを目指していきます」と木村さん、夏井さん(写真は操作画面とVRモデルルーム画像)▲「オンラインだからお客様との関係性が希薄になるのではなく、逆にオンラインならではの継続的な結びつきを構築したいですね。当社としては、販売のチーム、引き渡しのチームと、マンション購入後も組織としてオンラインで相談できる仕組みづくりを目指していきます」と木村さん、夏井さん(写真は操作画面とVRモデルルーム画像)

全店でのオンライン接客導入から約3ヶ月が経過し、販売担当者もシステムの扱いに慣れ、NPS(顧客からの推奨度)も項目によっては「対面よりオンラインのほうがスコアが高い」という結果も出た。今後『オンライン接客』をさらにサービスとして充実させるためには、どのような課題があるのだろうか?

木村氏「他社に先駆けて導入したオンライン接客に関する知見を、これから我々がどう活用していくか?が次のステップですね。

対面とオンラインではやはり勝手が違いますから、限られた時間内でお客様の心を動かすには、どういう資料が有効なのか?例えば“静止画よりも動画のほうが臨場感があって魅力を伝えやすい”など、現状のオンライン接客の中での成功事例を集めて、ノウハウとして販売担当者全員に共有していきたいと考えています。“若いスタッフだからオンラインに強い”というのではだめ。営業担当者のレベルを平準化するためにも、オンライン接客スキルの質の向上を図っていきたいですね」

夏井氏「コロナはまだまだ終息しないものと考えていますから、大きな第二波が来たとしても販売担当者が在宅で営業継続できるように、当社ならではのアドバンテージを維持しながらさらにブラッシュアップしていきたいと考えています。また、このオンラインシステムは、接客や販売促進に限らず、登録申し込みや抽選、銀行と提携したローン相談や税務相談、契約後の入居に向けた手続きなどでも使えて然るべきシステムですから、オンラインを通じた顧客接点をさらに広げていくことが我々の今後の目標です」

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これまで「マンションギャラリーは敷居が高そうで、訪れるのが不安」という理由から、マンション購入の第一歩をなかなか踏み出せずにいる人も多かった。しかし、このような非対面での入り口が広がっていくと、マンション購入の検討は、もっと敷居が低くなるかもしれない。
業界の先駆け的存在として、さらなるオンラインサービスの拡充を目指す同社の取り組みに今後も注目したい。

■取材協力/三菱地所レジデンス
https://www.mecsumai.com/
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2020年 08月04日 11時05分