大津市が新庁舎の設計業務を公告

滋賀県の県庁所在地である大津市は、琵琶湖の南西岸に位置する人口約34万人の都市である。京都や大阪といった関西の主要都市へすぐ出られる好立地だ。にもかかわらず、県庁所在地としての存在感は、長らく控えめなままだった。

その大津に今、大きな転機が訪れている。大津市は2025年8月に「大津市庁舎整備基本計画」を策定し、老朽化した大津市役所の建替えに向けた基本方針や整備予定地、想定される機能などをまとめた。そして2026年1月、大津市は「大津市新庁舎整備基本設計・実施設計業務」の公募型プロポーザル、つまり新庁舎の設計業務について公告したのだ。

新庁舎の整備予定地として注目を集めるのが、JR湖西線の大津京駅周辺エリアだ。同駅は京都駅まで約10分、大阪駅へも約40分という交通利便性を誇る。この利便性の高いエリアでの新庁舎の整備をきっかけに、大津市が大きく変わろうとしている。

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JR湖西線大津京駅JR湖西線大津京駅

大津京駅前の再開発を阻んできた壁とは

大津京駅周辺は県庁所在地の玄関口の一つでありながら、これまで再開発が進みにくかった。それはなぜか。同じ滋賀県内で発展を続けてきた草津・南草津エリアと比較すると、その背景が見えてくる。

草津・南草津エリアは、滋賀県南部に位置するJR東海道本線(琵琶湖線)沿線の街だ。草津市は滋賀県内で大津市に次ぐ人口を誇り、近年は県内でも特に成長が著しいエリアとして知られている。このエリアは平坦な地形に恵まれ、まとまった開発用地を確保しやすかった。そこに大型商業施設や立命館大学びわこ・くさつキャンパスが進出したことで、若い世代やファミリー層を引きつける街へと成長してきた。南草津駅は今や県内有数の乗降客数を誇り、住みやすい街としての評価を着実に積み上げてきたエリアである。

対して大津京駅の周辺は、琵琶湖と山に挟まれた地形が開発のネックになってきた。傾斜地が多いため、駅のそばにまとまった開発用地を確保するのが難しかったのだ。市役所は大津京駅の徒歩圏にあるが、県や国の行政機関が集積するのはJR大津駅周辺だ。商業施設も1ヶ所にまとまらず、大津京駅周辺やにおの浜エリア、あるいは郊外のショッピングモールなどに分かれている。そのため、駅前に「ここに来れば何でもそろう」という場所がなく、大津京駅も通過するだけの駅になりやすい構造だった。

歴史ある街ならではの事情も、市全体の再開発のハードルとなっている。大津市は大津京の時代から続く歴史を持つ街でもあるため、京都と同様に市全域で景観への一定の規制が敷かれており、大津京駅周辺でも大規模な再開発には慎重にならざるを得なかった。

こうした要因が重なった結果、大津市全体がその恵まれた立地を生かしきれないまま時間が過ぎていた。なかでも大津京駅周辺は、前述の地形的制約も重なり、長らくそのポテンシャルを持て余していたのである。

大津市役所大津市役所

公園と一体の新庁舎によって大津京駅周辺はどう変わるのか

2025年8月に策定された「大津市庁舎整備基本計画」によると、新庁舎の整備予定地は大津京駅にほど近い皇子山総合運動公園の一部と想定されている。想定規模は約2万5,000〜2万7,000m2の6階建てで、建築費は約200億〜245億円、2032〜2033年度の供用開始を目指している。

この計画で目を引くのは「公園と一体となった庁舎」というコンセプトである。市役所の整備を単独で考えるのではなく、隣接する皇子山総合運動公園と一緒に活用しようという発想だ。1階にはピロティ駐車場と市民交流スペース、2階にはワンストップ窓口を配置し、行政サービスの利用者だけでなく、公園の利用者や観光客などさまざまな人が立ち寄れる開かれた空間を目指している。

庁舎整備予定地(画像引用:大津市「大津市庁舎整備基本計画」)庁舎整備予定地(画像引用:大津市「大津市庁舎整備基本計画」)
庁舎整備予定地(画像引用:大津市「大津市庁舎整備基本計画」)新庁舎の整備予定地である皇子山総合運動公園

大津京駅周辺の回遊性向上も計画に盛り込まれている。基本計画には大津京駅から新庁舎への歩行者アプローチの整備が検討項目として記載されており、駅から庁舎、そして公園を結ぶ歩行者動線の強化が意識されている。公園内の通路を広げて市の道路として整備する案も検討されており、エリア全体の回遊性を高めようとしていることが分かる。さらに、庁舎に隣接する別所合同宿舎(国有地)を公園として活用する案も盛り込まれており、庁舎の敷地だけでなく周辺エリア全体を一体的に見直していく方針だ。

防災面では、新庁舎を免震構造にして、災害時には公園と一体利用できる防災拠点としての機能が検討されている。環境面ではZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の実現を目標に掲げており、省エネにも力を入れた庁舎になる見通しだ。

京都駅からJRを利用すれば約10分でアクセスできるこのエリアに、行政・防災・交流の拠点が加わることで、街の雰囲気は少しずつ変わっていくだろう。庁舎の整備をきっかけに、周辺への民間投資につながる展開も期待される。

庁舎整備予定地(画像引用:大津市「大津市庁舎整備基本計画」)新庁舎で想定される各部署配置構成(画像引用:大津市「大津市庁舎整備基本計画」)
庁舎整備予定地(画像引用:大津市「大津市庁舎整備基本計画」)公園として活用する案が出ている別所合同宿舎

大津市がファミリー層に選ばれる背景とは

大津京駅周辺の変化を後押しするもう1つの要因が、隣接する京都市内の住宅価格の高騰である。

近年、京都市内ではマンション価格が大きく上昇している。インバウンド需要の回復や富裕層向け物件の増加、建築コストの上昇などが重なり、新築マンションの平均価格は一般的なファミリー層にとって手が届きにくい水準に達している。供給戸数も限られており、京都市内で希望に合う物件を見つけることが難しくなっているのが実情だ。

そこで選択肢に浮上してくるのが、京都のすぐ隣にある大津市だ。大津京駅から京都駅までは約10分。エリアによっては毎日の通勤や通学にほとんど支障がない距離である。それでいて住宅の価格帯には差があり、京都市内では手が届かなかった広さや間取りの物件に、大津なら手が届くというケースは珍しくない。

大津市は住環境も魅力的だ。大津には琵琶湖という大きな自然がすぐそばにあり、湖畔の散歩や水辺のレジャーが身近に楽しめる。街の利便性と自然の豊かさがそろっている点は、特に子育て中の家族にとってうれしいポイントだ。

加えて、新庁舎の整備は暮らしの安心感にもつながる。基本計画では、2階にワンストップ窓口を設けて子育てや福祉の手続きをまとめて済ませられる仕組みや、免震構造による防災拠点としての機能も盛り込まれている。行政の窓口が使いやすく、防災拠点が身近にある点は、住む場所を選ぶうえでの安心材料になるだろう。

大津京駅周辺の不動産価値を考える

新庁舎の整備や駅前のまちづくりが進むことで、大津京駅周辺の不動産価値は中長期的にどう動くのか。マイホームの検討者と投資家、それぞれの視点から整理しておきたい。

そもそも、行政が駅前のインフラを整備すれば、そのエリアの住宅需要は高まりやすくなる。駅周辺の利便性や歩行者環境が向上し、商業施設や生活インフラが充実すれば、「ここに住みたい」と思う人が増えるだろう。京都からの近さに加え、街そのものの魅力が高まれば、不動産価格にもプラスの影響が出てくるのは自然な流れである。

マイホームを検討している層にとって大切なのは、街が便利になる前に動けるかどうかだ。再開発が進み、街の評判が定まった頃には、価格が上昇し物件の競争も激しくなるのが一般的だ。計画が動き出した今の段階であれば、駅周辺の好立地でも比較的冷静に物件を選べる余地が残されている。

不動産投資の観点では、民間の開発が本格化するタイミングに注目したい。駅から徒歩圏内の中古物件や、今後公表される新築プロジェクトは、早い段階から情報を追っておく必要がある。

新庁舎の供用開始までにはまだ数年あるが、工事が目に見える形で始まり、ニュースで取り上げられる頃には、不動産価格はすでに上がり始めていることが多い。計画の全体像が見えてきた一方で、まだ広く注目を集めていない今のタイミングこそ、情報を集め始めるのにちょうど良い時期ではないだろうか。

大津市役所の最寄り駅である京阪大津市役所前駅大津市役所の最寄り駅である京阪大津市役所前駅

今回の新庁舎の整備は、老朽化した建物を建替えるのと同時に、県庁所在地としての存在感を取り戻すための大きな一歩だ。

公園と一体となった庁舎、大津京駅周辺の回遊性向上、そしてそこに民間の開発が加わっていく。新庁舎の整備を起点に、これらが一つずつ形になっていけば、大津は「京都に行くために通過する街」から、「ここで暮らしたい」と思える街へと変わっていけるはずだ。