意外なステイホームの効用
不動産経済研究所の発表によれば、5月の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新築マンションの販売戸数は前年同月比82.2%減だったとのこと。緊急事態宣言、営業自粛となれば、販売が伸びる要素は確かに少ない。が、リモートワークが進み、都心の好立地にこだわる必要が薄れ、郊外立地に人気が出たり、収納よりもワークスペースを希望したりと、ニーズに応じた販売戦略の転換に注目したい。
そのような折、「顧客の検討期間が短くなった」という住宅販売担当者の声を聞いた。
ステイホームで家族との時間や会話が増え、夫婦の意見調整が十分に行われた上で販売センターを訪れている、というのが理由のようだ。このステイホームの効用を応援すべく、モデルルームへ行く前に“これだけはやっておきたい”3つのことを整理する。
【モデルルームへ行く前に“これだけはやっておきたい”3つのこと】
(1)こだわり条件“TOP5”の選定
(2)購入予算の上限把握
(3)持続可能な毎月返済額の決定
(1)こだわり条件“TOP5”の選定
不動産は、同じものは二つと無いといわれる。場所が違えば環境が異なり、同じ広さの同型住戸も、階建てによって日当たり、通風、眺望が異なるといった具合だ。条件は多々あり、それらによって価格が決まる。それ故、希望条件を整理し、優先順位を明確にしておかないと、購入対象を絞り込むことができない。まずは、希望条件をすべて書き出すこと。その上で、優先順位を決めていこう。
【3つのP】
希望条件を書き出す際のオススメは、「3つのP」による分類。すなわち「Place/立地」「Plan/プラン」「Price/価格」の3項目を意識してピックアップしていくことだ。そうしないと、自分の希望の偏りに気付けない。また、家族と同居する場合は、皆で希望条件を書き出し、すり合わせておくことも大切だ。ギリギリでの揉めごとやグズグズ決まらないことを避けられる。
【TOP5の選定】
希望条件をすべて書き出せたら、TOP5を決めていく。だが、いきなりは大変だ。各Pを「〇」「△」「×」に振り分け、絞り込んでいくとよい。住宅選びは、パートナー選びに似ているが、「ここが大好き」というポイントはすぐに慣れてしまい、「ここはやだなぁ」と思ったところは、ずーっと嫌だったり、嫌の程度が膨張したりする。
TOP5は、「この点は絶対に譲れない」というこだわりだ。「これは譲れない」という条件もあれば「これだけは絶対に避けたい」という条件もあるだろう。どちらであっても問題は無い。TOP5の目的は、自分と家族の希望を満たす最適な住宅を選ぶことにある。
モデルルーム見学の際は、TOP5とともに書き出したすべての条件を持参しよう。希望条件やモデルルムーム見学の感想、購入予算等を記入するために、住宅選びのためのノートを1冊準備しておくと後々便利だ。
(2)購入予算の上限把握
住宅購入において、絶対にやってはならないことは、予算オーバーの購入だ。返済不可能な金額を借り入れると、老後資金が足りなくなる。ローン破綻は他人ごとではないのだ。今、購入できる住宅価格が、将来にわたり返済継続可能であるか否かの検証が必要だし、人生100年時代に耐えうるかという点も大切だ。
購入予算プランニングは、現在の年収のみで試算してはならない。筆者が行う個別相談では、生涯収入を試算して生活費、教育費、老後資金を確保し、住宅に充てられる大枠を算出する。次に、詳細な条件を加味して具体的な予算計画を立てていく。「自分予算🄬プランニング」と称しているが、下記の概算5ステップを試してほしい。このコラムだけで説明することが非常に乱暴だが、考え方だけでも理解いただければ、現在の年収のみで試算した借り過ぎ予算の阻止にも役立つだろう。
【自分予算の5ステップ】
下図の計算式は、おおむね65歳まで働き、65歳から公的年金を受給し、100歳まで生きる想定だが、年齢は適当に調整してほしい。収入も支出も貯蓄も現状維持で試算するなど、少々無茶な設定となっている前提条件は勘弁していただきたい。考え方を体感いただくための超概算の簡易計算である。それでも、それなりの大枠の予算を試算することができる。
計算式の各項目は、【A】生涯収入(年金を除く)、【B】生活費、【C】教育費、【D】老後資金だ。配偶者の有無、共働きの有無、子どもの人数などは、個々の条件に応じて調整が必要だ。なお、【D】老後資金についてだが、例えば、「希望のセカンドライフには、公的年金に5万円の上乗せが必要だ」と考えるならば、自分で準備すべき100歳までの老後資金は5万円×12×35=2,100万円となる。
【住宅に充当可能な資金】の留意点
仮に、ステップ⑤で求めた金額が5,000万円だった場合、5,000万円の住宅を購入してはならない。「住宅に充当可能な資金」には、住宅価格以外の住宅関連支出が含まれるからだ。購入時の諸費用、住宅ローン利用時の金利、マンションの場合の管理費や修繕積立金、固定資産税、都市計画税、メンテナンスやリフォーム費用、など。これらを引き算すると、正味の住宅予算がわかる。管理費や住宅ローン、固定資産税等は、販売担当者に聞いてみよう。
より多くの資金を住宅価格に割り当てるには、どれだけコストを下げられるかにかかってくる。大枠の試算ができれば、より具体的な自分予算🄬プランニングに進んでいこう。
事前に購入予算を試算することはとても重要だ。予算を何となく決めているケースが多く心配だが、例えば3,500万円の購入予算の人が、5,000万円の住宅を購入してしまうと、老後資金が不足する。生涯収支を住宅資金で先取りしてしまうことは危険極まりない。
また、試算せずに結果的に、購入予算ギリギリで購入してしまうこともリスキーだ。ギリギリだとわかっていれば対応策を取りやすいが、自覚がなければ、収入が減った時に家計破綻リスクがいっきに高まる。感染病などという想定外のリスクがあることも、肝に銘じておきたい。
(3)持続可能な毎月返済額の決定
購入予算の大枠を試算できれば、次は、毎月返済可能額の確認だ。モデルルームへ行って、資金計画なるものを試算してもらうまえに、わが家が毎月いくらの返済が可能かどうかを把握しておこう。提示された資金計画に対する返済の可否や家計への負担度を判断する重要なモノサシとなる。
毎月返済可能額の決定にあたっては、毎月の収入から支出を引き算した「収支」がポイントとなる。現在の家賃を目安にしてもかまわない。例えば、収支が15万円。管理費、修繕積立金、火災保険料や固定資産税の月割り額などを考慮すると3万円は必要。子どものために毎月1万円は貯蓄したい。住宅購入後も夫婦二人の1万円の積み立ては続けたい。となると、住宅ローンに充当できる収支は、10万円と試算できる。
3,000万円を固定金利1.29%、35年・元利均等返済で借り入れると毎月返済額は8万8,800円。3,500万円の場合は、同条件で10万3,600円。毎月1万4,800円の差が借入額500万円の差となるわけだ。「子どもと夫婦の貯蓄を確保し、希望の住まいを手に入れたい」、その場合は、家計支出を1万4,800円減額すれば良い。見直しの対象は、交際接待費、外食費、お小遣い、ジムの月謝、通信費などだろうか。購入予算を500万円アップすれば、住宅の希望条件をより叶えることができるだろう。
だが、生活はどうか。無駄遣いは排除すべきだが、暮らしを豊かにする支出は必要経費。人生や暮らしにおいて、何を大切にするのか、ということを考えて試算し、比較検討していきたい。
「希望条件」「購入予算」「返済可能額」を活用しよう
「モデルルームへ行く前に“これだけはやっておきたい”3つのこと」は、とても有効だ。販売センターへ行くと、希望価格や希望条件などを来場者アンケートにて聞かれることがあるが、アンケートに答える義務はない。互いの条件のすり合わせに「3つのこと」を活用してはどうだろう。
モデルルームにて
「これだけは譲れない希望条件は、この5つです」「その点を重点的に、モデルルームを説明していただけますか」、とオーダーすれば、自分が知りたいポイントを詳細に説明してくれるだろう。さらに、手元のノートのTOP5以下の希望条件をチェックしていけば、自分や家族の希望条件をどこまで満たす物件かどうか、スコアがとれる。
資金計画の場面にて
「購入予算の上限は〇〇万円です」「毎月○○円しか支払えません」「希望住戸で資金計算してください」と依頼してはどうだろう。これならば、無駄な詮索も無茶な提案も避けられる。そして、自分のモノサシに従って、家計の負担度合を検証すればよいのだ。互いに無駄な時間を費やすことがなく健全で有意義な時間を共有できる。
「モデルルームへ行く前に“これだけはやっておきたい”3つのこと」について整理してきたが、直近の購入予定がない場合も有効なため試してほしい。特に予算計画にあたっては、時間を味方に付けることが望ましい。住宅資金も教育資金も老後資金も、早期に準備を開始すれば、より低額な積立額でスタートできる。長期視点で考えたい。







