過去の地震を教訓に変わった耐震規定や救援活動
「耐震フォーラム」は、東京都が実施している「耐震キャンペーン」のプログラムのひとつ。工学院大学建築学部教授で、総合研究所都市減災研究センター長の久田嘉章氏などから、耐震や防災に関する提言や情報提供が行われた。
基調講演を行った久田氏は、関東大震災から熊本地震までを振り返り、それぞれの地震が与えた教訓を基に生まれた耐震や防災の対策を紹介した。たとえば建築基準法は、1948年の福井地震をきっかけに1950年に制定され、1968年の十勝沖地震、1978年の宮城県沖地震、1995年の阪神・淡路大震災の被害から耐震規定などが改正されてきた。
阪神・淡路大震災では、救援・救護活動のあり方にも変化を与えることになった。救援や救護に住民自らあたったことで、「被災時の自助や共助の重要性が明らかになりました」と久田氏。その結果、震災時において大都市では、関東大震災以来の「逃げる」から、「逃げないで立ち向かう」が基本になった。また、東日本大震災では、多数の帰宅困難者で東京が混乱したことから、震災時には「会社などから帰宅する」から「帰らない、むやみに移動しない」へと、こちらも大きく変わった。
熊本地震で現地調査を行った久田氏は、最新の2000年基準の耐震対策を施した木造家屋は、活断層の直上の震度7の強い揺れや断層変位にあってもほとんど被害が見られなかったと解説。特に2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で導入された耐震等級3の木造家屋では、16棟中14棟が無被害で、残る2棟も軽微の損傷だったことから、久田氏は、耐震診断や耐震補強の効果を改めて訴えていた。
より重要になる防災対策と自助・共助による対応
これからの地震への備えについて、久田氏は「東日本大震災という想定外の巨大な地震によって、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の被害想定も大幅に見直されました」と説明。首都直下地震の震度は、東京23区で6強以上になるとされ、冬の夕方で風速が8mという最悪の条件下で発生すると、全壊・焼失棟数約61万棟、死者約2.3万人、負傷者約12.3万人といった被害が想定されている。
「こんなに焼失する家が多いなら、耐震改修をするのはムダという声が挙がるかもしれません。しかし、対策を諦めるのは最悪の選択です」と久田氏。建物の耐震化率や家具などの転倒・落下防止の実施率を高めることで、死傷者が大幅に減るというデータを紹介し、事前の防災対策と自助・共助による「自宅・まちから逃げない」を原則とする対策によって、「助かることができるし、被害の低減も可能です」と強調していた。
久田氏は、震災などから得た教訓を次の対策に反映する「レジリエントな地震・災害対策」によって、被害の低減、災害の対応力や復旧の向上を図るべきとしている。レジリエントとは、回復力や復元力、強靭さを意味するレジリエンスからきている。
地震被害の軽減のために、段階的耐震改修の検討を
マンションなどの耐震改修について、NPO法人耐震総合安全機構理事の佐藤寿一氏は、計画どおりに進んでいないと現状を説明し、その理由として、改修費用や移転費用の負担が大きいこと、合意形成が難しいことなどを挙げた。少しでも改修を進めるために、佐藤氏が提案するのが段階的耐震改修だ。段階的耐震改修は、必要な改修を複数回に分けて行うもので、改修の資金を一度に用意する必要がないので取り組みやすくなる。また、合意形成が難しく、改修計画がなかなかまとまらない場合でも、共用部分など個人に多大な負担のかからないところから始めることができるといったメリットもある。
「耐震改修は1か0ではありません。無理なく少しずつ改修に取り組んで耐震性を向上させ、被害の軽減につなげることが大切です」と話す佐藤氏。建物所有者やマンション管理組合の担当者に、耐震改修を一度で完了することにこだわらないことが重要とアドバイスしていた。
防災につながる「よりリアルで臨場感のある地震体験」
2つの講演に続いて行われたのが、地震動シミュレータと、地震の際の室内空間を体験できるVR(仮想現実)の紹介だ。白山工業株式会社の「地震ザブトン」は、地震の観測記録に基づいて、前後左右自在に動き回る仕組みになっており、1mを超える振幅も再現できる。この日は阪神・淡路大震災の激しく大きな横揺れと、長く揺れた東日本大震災を実際の半分の約90秒間再現。同社防災企画推進グループ長の黒田真吾氏は、「地震の瞬間に何が起きるのかを、体で理解してほしい」と呼びかけていた。
株式会社日建設計構造設計グループダイレクターの福島孝志氏と、株式会社ジオクリエイツ代表取締役の本田司氏が紹介した「SYNCVR」は、耐震や制震・免震などの構造によって地震の揺れがどのように違うのか、家具や什器が室内でどのような被害をもたらすかを体感できるVR。「SYNCVR」と「地震ザブトン」が連動することで、よりリアルで臨場感のある地震体験ができる。
「東京に地震から逃れられる場所はない」を忘れない
フォーラムの最後に、東京都の「特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震化」の進捗状況について、東京都都市整備局市街地建築部耐震化推進担当課長の富永信忠氏から報告があった。特定緊急輸送道路には、高速道路を含む東京都の主な幹線道路が指定されていて、総延長は約1,000km。その沿道にある建物が、地震で倒壊して道路をふさいだりすることがないよう、耐震診断を義務化するとともに耐震化を進めている。2019年6月末時点での耐震化率は85.7%。2025年度末に100%にすることが目標となっている。
いつかはやって来る地震に備えるために、考えておくべきことも、取り組むべきこともまだまだ多い。「東京に地震から逃れられる場所はない。絶望することはないが、覚悟は必要」という久田氏の言葉を改めて噛みしめたい。
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