水害対策には「東京マイ・タイムライン」の作成を

気象予報士の斉田季実治氏気象予報士の斉田季実治氏

台風や集中豪雨、首都直下型地震。想定される災害に備えるために、東京都では防災セミナーやシンポジウム、フェアなど、さまざまな機会を通じて都民への情報提供を行っている。2019年8月24日に開催された「東京都防災ホリデーセミナー」もそのひとつ。今回はNHKの「ニュースウオッチ9」の気象キャスターを務めている、気象予報士の斉田季実治氏・防災や危機管理の情報サイト「備える.jp」を運営するソナエルワークス代表の髙荷智也氏の講演と、「東京マイ・タイムライン」の説明が行われ、参加者には「東京マイ・タイムライン」の作成キットなどが配られた。

「東京マイ・タイムライン」は、「台風が近づいているとき」「大雨が長引くとき」「短時間の急激な豪雨が発生するとき」に、個人とその家族がいつ、どのような避難行動を行うかを、気象情報や避難情報に合わせて、あらかじめ決めておくという防災行動計画だ(詳細はこちらの記事を参照)。斉田氏も講演の中で、「地震と違って、台風は準備ができる災害です。先日の台風10号では、危険を避けるために山陽新幹線が計画運休しました。このように、どのような対策をとるか、どのタイミングで、どこに避難するかなどを、事前に一人ひとりが考え、行動することが防災につながります」と、タイムラインを用意する必要を訴えていた。

より精度が高くなった気象情報を防災に活用するには

気象情報は年々精度が向上している。土砂災害警戒判定メッシュ情報は5キロメッシュから1キロメッシュに(上)台風情報は予報円の半径が縮小し、予報通りの進路となる確率が上がった(下)気象情報は年々精度が向上している。土砂災害警戒判定メッシュ情報は5キロメッシュから1キロメッシュに(上)台風情報は予報円の半径が縮小し、予報通りの進路となる確率が上がった(下)

講演で斉田氏は、「台風情報」をはじめ、「記録的短時間大雨情報」「特別警報」「洪水警報の危険度分布」などの気象情報が、この数年間に新たに登場したり、更新されてより精度の高いものになったりしていると解説。例えば台風情報は、予報円の半径が数年前の60%以下の大きさになり、2019年からは「暴風警戒域」が5日先まで発表されるようになったことから、「より早い段階で台風の動きや危険性を把握できるようになり、それだけ対策も立てやすくなっています」と紹介した。

同じく2019年から、5段階の「大雨警戒レベル」も発表されることになった。斉田氏は「例えば、大雨警戒レベルのレベル3『高齢者など避難』は、気象情報の『大雨・洪水警報』に相当し、自治体からは『避難準備・高齢者等避難開始』が発令されることになります」と説明。大雨警戒レベルと気象情報とを合わせて理解することを勧める。
「天気予報や気象情報を見ることは重要ですが、それだけでは風水害から命を守ることはできません。大切なのは準備です。そのためにはハザードマップなどで、土砂災害、浸水、河川の氾濫などの災害のうち、自宅周辺にはどのような危険があるのかを知ることが大切。その上で天気予報や気象情報を活用してください」と注意を促した。

大規模災害時、避難所の環境は悪いと想定しておく

ソナエルワークス代表の髙荷智也氏ソナエルワークス代表の髙荷智也氏

避難生活の問題と対策について講演した髙荷氏によると、避難所について「あくまで自宅で生活することが困難になった人が、一時的に身を寄せる場所です。災害時には必ず行かなければならない場所ではなく、自宅で生活できるなら、行く必要はありません。逆に、自宅で生活できる人が、避難所に行ってはならないという決まりもありません」と言う。「そもそも計算では、避難所に入れる都民は全体の2割強にすぎません」と言い、「避難所に入れない人の方が多いことを忘れないでください」と訴えた。

避難所の環境については、「1人あたりの広さやトイレの数、給水量などは、規定通りになっていても、災害や紛争の被災者に対する人道支援活動の最低限の基準、スフィア基準に及びません」と話す髙荷氏。こうした差が生まれるのは、スフィア基準(詳細はこちらの記事を参照)が、難民キャンプのように何年も生活することを想定しているのに対して、避難所は1週間程度の生活を想定しているためというのが、髙荷氏の説明だ。
「問題は、1週間程度の生活を想定していた避難所で、数週間から数ヶ月も暮らさなければならなくなってしまうことです」と髙荷氏は言い、大規模災害時の避難所の環境は相当に悪いことを前提として、利用を検討する必要があると呼びかけた。

高齢者の災害関連死を予防のために留意することは

関連死とは災害ではなく避難生活で命を失うことで、さまざまな要因が考えられる(上)東日本大震災では、災害関連死の9割が70歳以上の高齢者だった(下)関連死とは災害ではなく避難生活で命を失うことで、さまざまな要因が考えられる(上)東日本大震災では、災害関連死の9割が70歳以上の高齢者だった(下)

厳しい避難所の環境や蓄積するストレスなどの影響を特に受けやすいのが、乳幼児や子ども、高齢者や障がい者、そしてペットだ。特に高齢者の災害関連死は大きな問題となっている。

災害関連死の主な原因として、髙荷氏は「エコノミークラス症候群」「廃用症候群」「誤嚥性肺炎」などを挙げている。「廃用症候群」とは、不自由な生活で活動量が低下し、筋力、心肺機能、身体機能が衰えたり、血栓などが発生したりするもの。「避難所のバリアフリー化を進めるとともに、高齢者にもできることはやってもらい、作業を奪いすぎないことが大切」というのが、髙荷氏のアドバイスだ。また、口腔内の細菌が唾液や食べ物とともに誤って気道に入り引き起こされる「誤嚥性肺炎」の予防には口腔ケアが重要なことから、食事と歯磨きやうがいなどをセットで提供することが必要だと話した。

在宅避難と日常備蓄に必要なもの

災害関連死を防ぐために、髙荷氏は「被災地から一時的に離れることや、在宅避難もひとつの手段」と提案している。在宅避難の準備として髙荷氏が掲げるのは、自宅の耐震性を確保すること、家具の固定やガラスの飛散防止などの室内対策、継続して情報が得られるラジオや乾電池などの用意の3点。重点的に備蓄するものは、メガネや補聴器、杖など体の一部といえるものの予備、持病の薬や歯磨き、入れ歯の洗浄具、オムツや介護用品など、避難所では配付されにくいものだ。また、髙荷氏は非常用トイレも重要とし、1名×5回×7日を目安に備蓄することを勧めている。
そして、食料品や飲料水、カセットコンロとガスボンベ、衛生用品といった平時でも消費できるものは、ふだんから多めに買っておく「日常備蓄」を髙荷氏は提案。その理由として、日常的に消費して入れ替えるために期限切れになりにくいことや、高価な非常食などに比べ、低コストで備蓄できることなどを挙げた。

講演の中で斉田氏も触れていたが、2018年に発表された東京都墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区の「江東5区」の水害ハザードマップによると、浸水被害は最大、約250万人に及ぶとされる。こうした大規模な災害の中で身を守るには、ひとりひとりの防災意識と準備が大切――。斉田氏、髙荷氏の講演を聞き、あらためて自宅の防災対策を見直すきっかけとなるセミナーだった。

避難するかしないかの判断は、建物や周囲の状況、自分自身に支援が必要かどうかなどで判断したい(上)自宅で一人でいるのは心細いなどという場合は、昼間だけ避難所で過ごすという選択肢もある(下)避難するかしないかの判断は、建物や周囲の状況、自分自身に支援が必要かどうかなどで判断したい(上)自宅で一人でいるのは心細いなどという場合は、昼間だけ避難所で過ごすという選択肢もある(下)

2019年 09月26日 11時05分