“森”のなかに佇む複合施設

上/いなべ市役所の敷地内に誕生した「にぎわいの森」。木々の間にショップが点在し、散策するのも心地いい時間に。下/いなべ市役所の新市庁舎。いなべの自然を表現したデザインになっているという(写真提供:いなべ市役所)上/いなべ市役所の敷地内に誕生した「にぎわいの森」。木々の間にショップが点在し、散策するのも心地いい時間に。下/いなべ市役所の新市庁舎。いなべの自然を表現したデザインになっているという(写真提供:いなべ市役所)

2019年5月、三重県いなべ市に複合施設「にぎわいの森」がオープンした。場所は、いなべ市役所新庁舎の敷地内。森をイメージしたエリアのなかに、食肉加工店やベーカリーなど全5店が出店している。

いなべ市は、三重県の最北端に位置。市の中央を員弁川(いなべがわ)が流れ、鈴鹿山脈や養老山地に囲まれた自然豊かな土地だ。

2019年10月1日現在で約4万5,600人が暮らすいなべ市は、2003年に北勢町、員弁町、大安町、藤原町が合併。その時点から市役所の機能は、4町の元町役場を使い、分庁舎方式を採っていた。しかし、4つに分かれていると、意思の疎通が難しく、素早い決断や対応がしづらかったことも。そこで市のなかで昔から商店街があり、栄えていた阿下喜(あげき)地区に新庁舎を造って統合する話が持ち上がった。

2014年に新庁舎の構想がスタートし、「にぎわいの森」を造る計画も組み込まれていった。

その成り立ちや今後の展望などを、いなべ市役所 企画部政策課 桒嶋幹人さんに伺った。

地域活性化プロジェクト「グリーンクリエイティブいなべ」

いなべ市役所の桒嶋さんは滋賀県出身。テレビ局、制作会社、ラジオ局とマスコミの仕事を経て、40歳で市役所に転職した経歴の持ち主いなべ市役所の桒嶋さんは滋賀県出身。テレビ局、制作会社、ラジオ局とマスコミの仕事を経て、40歳で市役所に転職した経歴の持ち主

「いなべ市は、『グリーンクリエイティブいなべ』をコンセプトに地方創生に取り組んでいます。グリーンというのは、いなべの地域資源のことで、豊かな自然だけでなく、人もモノもすべて含みます。それをクリエイティブ=創造する。都会化するのではなく、地域ならではのものを磨いて、都市の人たちを魅了するものに変えていこうということです。

そのシンボリックな施設として、新市庁舎の隣に、にぎわいの森を造ろうとなりました。概念だけ聞いても分かりにくいことを、にぎわいの森で体験できるように。そして、ここを基軸として市内を周遊してもらえたらと」

新市庁舎のある阿下喜地区へは、名古屋からは高速道路を使って1時間ほど。2024年には東海環状自動車道のインターチェンジが庁舎のすぐ近くにできる予定で、さらにアクセスがよくなる。より多くの人々を呼び込みやすくなり、まちの魅力の発信に期待が高まる。

にぎわいの森は、まちづくりの拠点として、いなべの魅力を具現化する施設となる。

名古屋や大阪の人気店が出店。地元食材を使い、“おしゃれ”な商品が並ぶ

にぎわいの森にある5つの店舗群は「いなべヒュッテ」と呼ばれる。ヒュッテとはドイツ語で小屋という意味だが、昔のヨーロッパにあったような手工業のファクトリーをイメージしたデザインになっているという。各店内は打ちっぱなしコンクリートで、天井のエアコンなどもあえてむきだしにしている。「森のなかに小屋があり、そこで小さな工業をしているようなイメージです」と桒嶋さん。

店舗の選定は公募もしたが、「グリーンクリエイティブいなべ」の発想を理解してもらうために、コンサルタントを通じて直接依頼をしたという。桒嶋さんは「誘致の際は、いなべならではの自然と向き合いながら生きていくことって魅力的じゃないですか?と。名古屋という都会に近い場所ながら、自然豊かで、食材も豊富。週末には自然と向き合える遊びがある。そういう暮らしがありつつ、いいモノづくりができるということに共鳴してくださった店舗が出店してくださっています」と語る。

名古屋で人気のビストロだった「FUCHITEI」のオーナーは、「作るものも、作る人もメイドインいなべに徹底」と、名古屋の店を閉めていなべに移住し、「食肉加工屋 FUCHITEI」を開いた。

また、食パンで有名な名古屋のベーカリー「プーフレカンテ」は2号店として「魔法のぱん」を、大阪のパティスリー「ラヴィルリエ」は新業態店「r26(エールヴァンシス)」をそれぞれ出店。オーガニックをメインにした食料品が並ぶ「キッチュ エ ビオ いなべ」では、ランチタイムに地元の有機野菜などを使ったデリプレートを提供している。そしてもうひとつは、老若男女問わず集えるカフェ「ロブ いなべヒュッテ」だ。

「名古屋や大阪という“街”で人気のお店が、卵や野菜、お茶など、いなべの産品を使って、すごくおしゃれな商品に仕立ててくださっています」

各店の“おしゃれ”な商品は、いなべの人々に喜ばれ、名古屋や大阪の人気店が出店とあって近隣の人々も注目。5月のオープン直後は品切れが相次ぐにぎわいだったという。3ヶ月ほどたってようやく少し落ち着き、来場者は月に5万人くらいで推移している。

左上/店舗建物は黒色の外観でシックな雰囲気。左下/にぎわいの森全景。商業観光施設として楽しむ場であるだけでなく、農業生産者にとっては納品先であり、いなべの人々の働く場でもありと、“人づくり”の視点を盛り込んだまちづくりの拠点となる。右上/にぎわいの森の木々は、もともとここに生えていたもののほか、いなべの里山にある種類の木々や植物が植えられており、いなべの自然を感じられる。(以上、写真提供:いなべ市役所)右下/ワイン用のブドウ園もある左上/店舗建物は黒色の外観でシックな雰囲気。左下/にぎわいの森全景。商業観光施設として楽しむ場であるだけでなく、農業生産者にとっては納品先であり、いなべの人々の働く場でもありと、“人づくり”の視点を盛り込んだまちづくりの拠点となる。右上/にぎわいの森の木々は、もともとここに生えていたもののほか、いなべの里山にある種類の木々や植物が植えられており、いなべの自然を感じられる。(以上、写真提供:いなべ市役所)右下/ワイン用のブドウ園もある

「市民の皆さんとまちづくりの活動を」

にぎわいの森をきっかけに市内を周遊してもらえるようにマップも作成した。土産店や観光スポットなどのほか、「にぎわいの森はテイクアウトのメニューが多いので、市内の飲食店へと誘導できるように」との思いから飲食店も多数掲載するにぎわいの森をきっかけに市内を周遊してもらえるようにマップも作成した。土産店や観光スポットなどのほか、「にぎわいの森はテイクアウトのメニューが多いので、市内の飲食店へと誘導できるように」との思いから飲食店も多数掲載する

各店では地元の農家から野菜を仕入れ、産業面の盛り上げにもひと役買っているが、「使ってもらう産品をもっと増やしていきたいと思っています」と桒嶋さん。店といなべの生産者がつながり、さらなる農と食の輪の広まりを目指す。

今後については、「まずは、にぎわいの森に来て交流していただきたいと思っています。同じく新市庁舎の敷地内に建てた食堂や休憩スペースなどを備えた『シビックコア』の1階には、情報コーナー『31(サンイチ)スタヂオ』を設置し、市のPRや市内への回遊を促す情報を発信しています。

これからは、にぎわいの森でイベントを仕掛けて、より市民の方を巻き込んでいけるような、市民の方がここをステージとして主役になれる場にしていきたいなと考えています。具体的には、市民の方に自然観察会の講師をしていただいたり、演奏会をしていただいたりといったイベントを継続的に開催することも検討しています」と話す。

そして「市内全域で市民の皆さんがまちづくりに関われるような活動をしていきたいです。それもデザイン性のあるものをと考えています。いま、SDGs(エスディージーズ、持続可能な開発目標)を行政や多くの企業が掲げていますが、いなべ市も持続可能で誰一人取り残さない、環境にも社会にも配慮した発想の地方創生を、にぎわいの森や市内全体で取り組もうとしています」と桒嶋さんは力強く語ってくださった。

いなべ市は、登山やツリーイング(木登り)、キャンプなど、アウトドアで人気のあるアクティビティができる環境が整っている。自転車ロードレース「ツアー・オブ・ジャパン」のコースのひとつとなっており、公式コースを普段でも走ることができるそうだ。そういった魅力も、にぎわいの森をきっかけのひとつとしながらどんどん発信していく。

取材協力:いなべ市役所 企画部政策課
     グリーンクリエイティブいなべ http://www.inabe-gci.jp/

2019年 11月24日 11時05分