「大津宿場町構想」で、にぎわいを再び

上/京阪京津線「上栄町」駅から琵琶湖方面へと向かった右手にある、江戸時代の諸大名の宿泊施設だった「大津宿本陣跡」 下/中心市街地を東西に通る京町通。ここが旧東海道である。石畳が敷かれ、美しく整備されている上/京阪京津線「上栄町」駅から琵琶湖方面へと向かった右手にある、江戸時代の諸大名の宿泊施設だった「大津宿本陣跡」 下/中心市街地を東西に通る京町通。ここが旧東海道である。石畳が敷かれ、美しく整備されている

みなさんは、滋賀県大津市にどのような印象をお持ちだろうか。
JR京都駅から二駅、京阪電車でも京都市内から1本で行くことができるうえ、言わずもがな日本最大の湖・琵琶湖も至近距離にある美しい水辺の町である。歴史的にみると、市街地は東海道53次の大津宿であり、街道最大の宿場として栄え、今も“大津百町”(江戸時代中期の町数が100以上あったことに由来)の時代の面影が残っている。そんな利便性、環境の良さ、歴史的な魅力を合わせ持っていることもあってか、住む場所としても人気だ。

にも関わらず、大きな課題を抱えている。それが中心市街地の空洞化。このエリアには約1500の町家があるが、そのうち150~200ほどは空き家なのだ。

この課題の解決も含め、中心市街地のにぎわいの復活を目指す大津市の取り組みが「大津宿場町構想」。これはエリアの魅力の発信、宿場町を盛り上げる人材の育成、空き町家の利活用を3本柱にした施策。
その一環として、全国的にも珍しい“行政機関の町家への移転”が、今年5月に行われた。

地域のために協力をしようという空き家の所有者とともに

大津市都市再生課が業務を行うのは、「まち家オフィス 結(ゆい)」と名付けられた、空き家だった築100年以上の町家。旧東海道の一本南に位置する。

「『大津宿場町構想』を進めるなら、都市再生課も活動の中心エリアに移って、地域住民と一緒に取り組もうという声があがったのがきっかけです」と話すのは、大津市役所未来まちづくり部都市再生課の課長補佐・仲川慶(やすし)さん。「せっかくなら空き町家を生かして、自分たちがにぎわいを生み出そう」と、行政自らが町家の利活用に乗り出した。

大津の中心市街地には前述の通り、多くの空き家がある。その中から、この場所を選んだ理由はなんだったのだろう。

「候補地は何軒かあったんですが、一軒まるごと使用させてもらえる、しかも平日は毎日となると限られてきて、こちらに決まりました」

そう、空き家イコール無条件に利活用できるスペースではない。住む人はいないとはいえ、一つひとつの物件には当然、所有者がいる。その所有者が首を縦に振らないことには大津市が掲げる利活用はできないのだ。

同課の主査・藤原周二さんによると、空き家の所有者は、その管理を不動産会社に任せているケースがほとんどだそうだ。「ですが、私たちは所有者の顔が見えて、直接やり取りができる物件を求めています。そういう意味でも、物件探しは難しいんです」

さらに交渉が難航する理由がある。

「何かしたところで変わるわけはないと、あきらめている人が多いんです」と藤原さん。「でも、飲食店やコミュニティースペースなどがあって、そこに人が集まると、土地の魅力は生まれます。何もしないと現状維持のままか衰退していくだけ。所有者には、自分たちの暮らしや地域を少しでも良くするために協力をしてもらえませんかと呼びかけています」

藤原さんは続ける。「地域のために動こう、協力をしようというマインドをお持ちの方の協力を得て、空き家だったところに人が集まりだすと、ほかの所有者も変わってくると思います。『そんなことができるんやったら、うちの空き物件も』とプラスのスパイラルが生まれるはず。もちろん、1年、2年ではなく10年くらいの長いスパンで考えることが必要ですが」

左上/改修前の玄関 左下/改修後はこの通り。2階は耐震上、上がることはできない。右が仲川さん、左が藤原さん。2人ともカジュアルな服装だが、「結」ではこれが制服のようなもの。「せっかく市民に近い場所に移ったので、気軽に足を運んでもらい、気軽に話をしてもらいたいという思いで、こういった普段着で業務をすることにしました。来られた方からは、『市役所の人やったん?』と驚かれることも」(仲川さん)</br>右上/走り庭(台所)も活用されている 右下/少し奥まった場所にあるため、この看板が目印に左上/改修前の玄関 左下/改修後はこの通り。2階は耐震上、上がることはできない。右が仲川さん、左が藤原さん。2人ともカジュアルな服装だが、「結」ではこれが制服のようなもの。「せっかく市民に近い場所に移ったので、気軽に足を運んでもらい、気軽に話をしてもらいたいという思いで、こういった普段着で業務をすることにしました。来られた方からは、『市役所の人やったん?』と驚かれることも」(仲川さん)
右上/走り庭(台所)も活用されている 右下/少し奥まった場所にあるため、この看板が目印に

空き家が学童施設に生まれ変わる

空き家を利活用したい人と、所有者を結びつけるイベントも行った。それが昨年10月に開催した「リノベーションスクール」だ。

これは、実際の空き家3物件を題材に、チームに分かれて物件を活用した事業プランを作成するというもの。このエリアで何をすればさらに魅力的な場所になるか、みんなが幸せになれるかをチームで話し合い、プランニング。最終的には所有者に事業を提案し、了承を得られれば実事業化を目指す。空き家の利活用、人材の育成、エリアの魅力の発信という「大津宿場町構想」のすべてを備えたプロジェクトだ。

「3日間のスクールで提案された、昭和27年に建てられた町家を民間の学童施設にするプランが事業化に向けて動き出しています」

大津の町は、少しずつ変わり始めている。

人が集まり、交流するコワーキングスペースという側面も

「まち家オフィス 結」は、都市再生課の事業所以外に、もう一つの顔を持つ。玄関から入ってすぐの20畳ほどの一室がコワーキングスペースとして開放されているのだ。これも行政では珍しい取り組み。いろいろな人がここに来ることで、つながりを生み出すのが目的だ。アクセスの良い京都でフリーランスで働く人を対象に、“お試し”で仕事場として使ってもらう試みを行ったこともある。「いつもとは違う場所で仕事をする新しい働き方の提案であり、大津の新しい使い方の提案です。仕事に疲れたら、徒歩10分の琵琶湖でリフレッシュできます(笑)」(藤原さん)

ここで改めて、仲川さんに「まち家オフィス 結」の意義を聞いてみた。

「古い建物なので、不便な点はあります。でも、その不便さもいいのではないでしょうか。高齢の方が来て、上がりかまちの高さに戸惑っておられたら、私たちがお手伝いをすることでコミュニケーションを取ることもできます。こちらに移って数カ月。町家の良さ・不便さや、改修のアドバイスなども実体験からお伝えできると思います。一つのモデルとして、皆さんに見ていただければ」

ここを拠点に、大津宿の過去と未来のにぎわいはリンクしていくことだろう。

上/改修前の広間 下/コワーキングスペースとして生まれ変わった空間。市役所職員がこちらで仕事をすることも多い。坪庭を挟んで奥の部屋は、職員専用のスペース上/改修前の広間 下/コワーキングスペースとして生まれ変わった空間。市役所職員がこちらで仕事をすることも多い。坪庭を挟んで奥の部屋は、職員専用のスペース

2019年 08月21日 11時05分