要因① 物件誕生後に再開発が行われ、街の評価が上がった

溝の口のイメージを変えた再開発ビル2棟。西口側には一部昔の面影を残す商店街もある溝の口のイメージを変えた再開発ビル2棟。西口側には一部昔の面影を残す商店街もある

その物件はパークシティ溝の口。1984年に旧三井不動産(現三井不動産レジデンシャル)の「パークシティ」シリーズの第1号として敷地面積5万6761m2、全12棟(うち5棟が高層棟)、総戸数1103戸で誕生した大規模物件である。分譲時、棟によっては20倍近い倍率で抽選が行われており、価格は住戸によるものの、3LDKで3200万円程度だったと聞く。その後、バブル時には一部の部屋が1億円もの価格をつけたこともあったが、ここ2~3年の取引事例では専有面積75m2程度の3LDKが3400万円から3900万円前後。当時とあまり変わらない価格で取引されている。その理由として考えられることのひとつに、溝の口という街の変化がある。

溝の口は渋谷から東急田園都市線で14分、多摩川を渡って3つ目の街で、JR南武線も乗り入れており(駅名は武蔵溝ノ口)、川崎まで20分ほど。江戸時代には多摩川の宿場として、また、江戸庶民の信仰と娯楽の旅、大山詣の拠点として繁栄してきた街で、昔も今も川崎市の交通の要というべき場所にあたる。

ところが、街周辺は長らく開発が進まず、戦後の闇市のような猥雑な雰囲気の商店街が残るなど、沿線の他の街に比べると、いまひとつ、印象が良くなかった。だが、1989年に駅からは少し離れた地に「かながわサイエンスパーク(通称「KSP」)、1997年には駅前に2棟からなる再開発ビルNocty(ノクティー)が誕生。さらに、翌98年にはJR武蔵溝ノ口駅の改装が行われ、鉄道をまたぐ南北方向の自由通路が完成。こうした開発によって駅周辺の印象が大きく変化、周辺から買い物客を集めるようになった。

物件誕生後に再開発によって街の評価、イメージが上がり、それによってこの街に立地するマンションの価値も維持されているのである。他の街でも再開発後に地価、物件価格が上がる例は多数あり、すべてとまでは言えないが、再開発には一定の効果があることが分かる。

要因② 当時最先端だった物件そのものにも経年に負けない価値がある

右の小山は当初は芝生の広場だったというが、今は自然を感じる森のような状態になっている右の小山は当初は芝生の広場だったというが、今は自然を感じる森のような状態になっている

物件そのものの魅力も大きい。まずは立地。駅から商店街を抜けて歩くこと5分で敷地入口である。帰路には様々な業種の店舗が並び、買い物をしながら帰宅できる上、喧騒から多少離れているため、敷地内は静か。利便性と住環境の良さが両立する立地なのである。

1986年には敷地内にはイトーヨーカ堂が誕生しているが、ここはこうした複合的な開発としては先駆。今では珍しくなくなっているが、当時としては最先端の計画だったわけである。この他、商店街に近い場所にある棟の1階には不動産会社、クリニック、薬局なども入っており、日常生活を便利にしてくれている。先端といえば、もうひとつ、歩行者と車の完全に分離させた集中立体駐車場も日本初。安全性にも配慮があったのである。

空地率約62%という、ゆとりある敷地の使い方も魅力のひとつ。敷地内には敷地角にある児童遊園のほか、ところどころに小さな公園があり、中央には木々に彩られた小さな丘も。住棟間も広く、贅沢に感じるほどに取られており、敷地内を散歩しているだけでリラックスできる。

住戸は2LDKから4LDKまでで、中心となるのはファミリー向けの間取り。メインは70m2大の3LDKでここにも資産価値維持のポイントがある。中古マンションを調べてみれば分かることだが、築30年前後のマンションでは3LDK、3DKでも専有面積が60m2などとコンパクトなものが多い。だが、ここはそれよりも広く、現在の新築物件と比べても遜色がない。逆に面積を削って建てられた物件が増えている現状からすると、やや広め。現在のニーズにも十分対応できる広さが確保されているのである。

両面にバルコニーを配した住戸や住戸の真ん中に玄関を配するセンターインなど、各住戸の間取りにも工夫がある。広い敷地、住環境に配慮した住棟配置のせいか、日当たりも良い。また、棟と階によって異なるものの、富士山や都心の夜景、多摩川の花火大会が見える住戸があったりもするそうだ。

要因③ 管理組合、修繕委員会に支えられた質の高い管理、修繕計画

エントランス周辺を彩る花々。このエリアには噴水もあり、爽やかな水音が聞こえたエントランス周辺を彩る花々。このエリアには噴水もあり、爽やかな水音が聞こえた

最後の、そして最大の要件と思われるのが維持・管理の良さである。多くの管理組合では理事は1年などと短期で交替することが多く、引継ぎなどを考えると職務遂行にはどうしてもタイムラグが生じがち。しかし、パークシティ溝の口では修繕、ホームページなど長期に渡って検討、継続すべきものは委員会とし、同じ人が長年携わることで無駄を無くしている。特に修繕委員会は竣工時、管理会社任せだった修繕計画を管理組合主導で行うための大きな原動力となっており、建設会社OBなどを主体に10人以上のメンバーが10年以上、毎月活動を続けているとか。その熱心さがこの物件の価値維持に大きく貢献しているのである。

その良い証左が2012年に行われた大規模修繕である。この時には総会決議を経て、管理組合事業として共用部のみならず、各住戸の専有部の給排水管交換までを行っている。一般に大規模修繕の対象となるのは共用部のみである。だが、築30年ともなると専用部の給排水管の劣化も進む。共用部だけを維持・管理しているだけでは、資産価値は維持できないわけである。そこでこの物件では1戸あたり数十万円を修繕積立金から支出、大規模修繕と合わせて修繕している。

たいていの管理組合では大規模修繕自体で修繕積立金が不足する例があるなど、共用部を維持していくだけでも青息吐息となることが多い。ところが、パークシティ溝の口ではスケールメリットから来る修繕積立金の多さを生かし、それを上手に運用、修繕委員会の努力と相まって一時金徴収、修繕積立金増額などをすることなく、居住者の合意を取付けて専有部の修繕までを実施している。

と、言葉で書くと簡単なようだが、修繕計画を立て、適宜それを見直し、最小限の費用で最良の工事ができるように事業者を選定、手配……という作業はどこの管理組合にもできるものではない。パークシティ溝の口では2008年以降コンスタントに修繕を重ねてきており、今後も常にどこかに手を入れていく計画。資産価値はこうした不断の努力で維持されているのだ。

また、敷地内を歩いてみてもきれいに整えられた植栽、手入れの行き届いた清潔さが心地よく、経年が良い味になっていることが分かる。もちろん、管理だけでなく、駐輪場の整理ぶりに見るように住む人のマナーの良さもポイント。入居者の有志「園芸の会」が育てているというエントランス周辺などを彩る花々も鮮やかで印象的だ。

ずっと住み続けたい人、二世代、三世代で住む人多数の心地よさ

居住者にマンション内で好きな場所は?と聞いたところ、この低層棟の間のゆったりした雰囲気を挙げた人が多かったそうだ居住者にマンション内で好きな場所は?と聞いたところ、この低層棟の間のゆったりした雰囲気を挙げた人が多かったそうだ

こうした結果が分譲時とほぼ変わらない価格での取引きという状況に現れており、地元の不動産会社に聞くと「空室が出ても1週間とかからず、売れる」とも。また、2011年に管理組合が行ったアンケートでは、今後もずっと所有し続けるつもりという人が90%となっており、分譲時から住んでいる人も半数以上。さらに、30年の間にはここで育った世帯が新居を求める例も増えている。周辺も含め、新しいマンションという選択肢もある中、それでもここに住み続けたい、戻ってきたい人が少からずいるわけで、この物件の住み心地の良さが垣間見えるというものである。

とはいえ、問題もある。60歳以上の世帯が60%を越す一方で、子育て世帯が8%程度と居住者世代に偏りが出ているのである。そのため、マンション単体で子育て世帯向けのイベントなどが開きにくくなっているというが、今後は周囲の他物件と連携することで多世代が楽しく暮らせる街づくりを模索していく計画と聞いた。

もうひとつ、管理組合に関わる人に話を聞いていいなと思ったのは、ここ3年ほどで理事会が40代、50代中心に若返り、その人たちが楽しみながら活動をしているという様子。それぞれ社会の中堅として忙しく仕事をしながらも、会社、家庭と異なる、第三の場として管理組合に関与。そこに新しい人間関係を作って交流しているのである。

昨今、リタイア後のお父さんたちの居場所についての論議がある。地域に新しい活動の場を求めようにも、リタイアするまで関わりのなかった場所に突然人間関係を生み出すのは至難の業。しかし、管理組合活動を通じて地域と関わっていれば、リタイア後にやることがないと、無為徒食の日々を送って家族に邪慳にされることはなかろう。その意味では、管理組合に関わることは、住まいの資産価値向上につながるのみならず、お父さんたちの人生の質の向上にもつながるのかもしれない。

2014年 04月16日 11時48分