LIXIL住宅研究所が提案する未来住宅は“5世代・4世帯”が同居する家

安倍政権が新たな経済政策のひとつに掲げる『人生100年時代構想』が注目を集めるようになったのは構想会議が発足した2017年9月のこと。以来、70歳定年制の導入や年金受給年齢の引き上げ等の検討事案も浮上しており、わたしたちが若い頃に想像していた「還暦過ぎたら、悠々自適」の老後生活のイメージは大きく覆された。生活が変わるということは、同時に住まいの在り方も変わるということになる。

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いま、“人生100年時代を見据えた未来の住宅の姿”として話題になっているのが、LIXIL住宅研究所が発表した実験住宅『五世代』だ(2018年7月発表)。あくまでも実験住宅であるため、まだ実売商品として確立されたものではないのだが、埼玉県越谷市に完成したその建物を見学してみると、近未来の住まいの在り方と、わたしたちがこれから目指す生活が見えてきた。

▲これがLIXIL住宅研究所の実験住宅『五世代』の間取りだ。その名の通り5世代・4世帯が暮らす想定のプランニングで、部屋数はなんと4LLLDDKKK。外観は四角いボックスを組み合わせたようなモダンなデザインになっており、玄関を入ると『家族の共有スペース』として約28畳の広大な吹抜リビングが広がっている。この共用スペースを囲むようにして4つのユニットがあり、ユニット1は85歳の高齢夫婦、ユニット2は65歳のシニア夫婦、ユニット3は45歳の働き盛り夫婦、ユニット4は25歳の子育てファミリーの部屋をイメージして設計されている。郊外型住宅という想定のため、建築面積は56坪・延床面積は64坪とゆとりある広さが印象に残る▲これがLIXIL住宅研究所の実験住宅『五世代』の間取りだ。その名の通り5世代・4世帯が暮らす想定のプランニングで、部屋数はなんと4LLLDDKKK。外観は四角いボックスを組み合わせたようなモダンなデザインになっており、玄関を入ると『家族の共有スペース』として約28畳の広大な吹抜リビングが広がっている。この共用スペースを囲むようにして4つのユニットがあり、ユニット1は85歳の高齢夫婦、ユニット2は65歳のシニア夫婦、ユニット3は45歳の働き盛り夫婦、ユニット4は25歳の子育てファミリーの部屋をイメージして設計されている。郊外型住宅という想定のため、建築面積は56坪・延床面積は64坪とゆとりある広さが印象に残る

『多世代同居生活』が、現代社会の様々な問題を解決に導いてくれる

▲「人生100年時代となれば、60代も80代も“同じ高齢者”としてひとくくりにするのはおかしいですよね?そこで『五世代』では、イマドキの20代・40代・60代・80代のそれぞれの世代の生活にマッチした暮らし方を考え、各ユニットに新しいアイデアを取り入れました。1つのユニット自体は決して広くはありませんが、共有スペースとして大空間を設けることで各世帯を心地良くつなげつつ、プライバシーや快適さを守る設計になっています」と伊藤さん▲「人生100年時代となれば、60代も80代も“同じ高齢者”としてひとくくりにするのはおかしいですよね?そこで『五世代』では、イマドキの20代・40代・60代・80代のそれぞれの世代の生活にマッチした暮らし方を考え、各ユニットに新しいアイデアを取り入れました。1つのユニット自体は決して広くはありませんが、共有スペースとして大空間を設けることで各世帯を心地良くつなげつつ、プライバシーや快適さを守る設計になっています」と伊藤さん

「LIXIL住宅研究所では、2008年から様々テーマの実験住宅を建設しており、実際の建物を使って実験や測定を行いながらその結果を実売商品につなげています。

この『五世代』は6棟目の実験住宅になるのですが、テーマに掲げたのは“現代の20代、40代、60代、80代の生活にマッチした暮らし方を提案する”というものでした。

実は、2年前にこの企画を立ち上げたときは、社内から“5世代・4世帯が暮らす家って、あまり現実的ではないのでは?”という意見も挙がっていたのですが、ちょうどタイミングよく『人生100年時代構想』が持ち上がったため、それが追い風となってプロジェクトを進めやすくなりましたね(笑)」(以下「」内は伊藤さん談)

今回『五世代』の建物内を案内してくださったのは、LIXIL住宅研究所の伊藤淳子さん(キッズデザイン研究所所長)。確かに“5世代・4世帯住宅”というのは今のところ現実味が無いように感じられるが、「私どもも、今後日本のすべての住宅が『五世代』のような家になるとは考えてはいません。ただ、住まい選びの選択肢の1つとして“多世代が快適に暮らせる家”が求められる時代がやってくるだろうと想定し、『五世代』の住空間を提案しています」と伊藤さんは語る。

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「現代社会が抱える問題としては、『少子高齢化』『介護』『健康寿命』『待機児童』『省エネ』『空き家』『食品ロス』など様々なキーワードがありますが、それらの問題を解決に導くためのヒントがこの『五世代』の中にあります。

たとえば、日本の建物というのはいま『バリアフリー』を徹底しすぎていて、結果的に筋力の衰えを招いているという説があるのですが、『五世代』ではあえて80代の高齢夫婦が暮らすユニットに階段や段差を設け、日常生活の中で筋力を鍛えながら健康寿命を延ばすことができる工夫を取り入れています。

共用スペースにはキッチンを2つ設置しました。4世帯の大家族が2つのキッチンを共有していれば、単独世帯よりも『食品ロス』を減らすことができるはずです。『待機児童』問題に関しても、家の中に多世代が暮らしていれば、おじいちゃん・おばあちゃんが孫の面倒を見てくれるため、若夫婦は安心して仕事に注力できるようになります。

仮に、1世帯が引越しをしたとしても、多世代が暮らしている家ならすぐに『空き家』になることはありません。また、4世帯が別居している場合と4世帯が同居している場合の年間光熱費を比較すると、約51%も削減できるという試算データも出ていますから、多世代同居は『省エネ』や『家計のエコ』にもつながると想定できるのです」。

まるでハリウッド映画の世界、近未来の住宅のスゴイ設備とは?

▲上:洗面室のコンシェルジュ、下:共有スペースのコンシェルジュ。「この『Mirror Concierge』は株式会社ハナムラの製品で、ウェアラブル端末をわざわざ装着しなくても非接触で健康測定ができる点が先進の技術。将来的には体温・血圧・体重など測定項目を増やして、“特に意識しなくても自宅で毎日健康管理ができる暮らし”を目指しています」▲上:洗面室のコンシェルジュ、下:共有スペースのコンシェルジュ。「この『Mirror Concierge』は株式会社ハナムラの製品で、ウェアラブル端末をわざわざ装着しなくても非接触で健康測定ができる点が先進の技術。将来的には体温・血圧・体重など測定項目を増やして、“特に意識しなくても自宅で毎日健康管理ができる暮らし”を目指しています」

『五世代』の中で提案されているのは、こうした“現代社会が抱える問題の解決策”だけではない。これから日本の住宅業界が導入を目指していくであろう次世代型設備の数々は、まるでハリウッド映画の中で描かれていた“未来の暮らし”そのものだ。

「共有スペースには、壁面と一体になった1枚の大きなマジックミラーの裏面に32インチと55インチTVが埋め込まれており、艶感のある映像が体験できます。ここで一般のテレビ番組も視聴できるのですが、大画面のほうはIoTとリンクする『Mirror Concierge(ミラーコンシェルジュ)』というデジタルコミュニケーションツールに連動しています。

ミラーに映し出されたコンシェルジュに話しかけると、お出かけのときの天気予報や家の中で使われている電気使用量を教えてくれたり、“行ってきます”と声をかければ“行ってらっしゃい”と答えてくれます。また、侵入者に対してコンシェルジュが威嚇をしたり、高齢者の様子を見守りながら万一の異常時には家族へ即時連絡を入れてくれるなど、様々なサービスが導入される計画です。

もうひとつ、共有の洗面室にあるコンシェルジュは、洗面台の鏡に顔を映すとまず顔色をチェックし、非接触で心拍数を測定した上で“正常です。この調子で元気に生活してください”などと声をかけてくれます。こうした日々の健康データは蓄積できるので、万一データに異常が見つかれば“お医者さんへ行きましょう”とアドバイスを行ってくれるレベルの健康サポートを目指しています。ちなみに、コンシェルジュは多数のキャラクターの中から好きな人物像を選ぶことができ、自分や家族の顔を設定することもできるんですよ(笑)」。

『Mirror Concierge』サービスの内容については、まだまだその多くが実験段階とのことだが、近い将来“一家にひとりコンシェルジュがいる時代”が本当にやってくるかもしれない。

万一の災害時には『地域の一時避難所』としても機能する家

他にも注目したいのは、スマートフォンと連動した『ライフアシスト』や、東京大学大学院・深代千之教授監修の『運動プログラム』が取り入れられている点だ。

「IoTとの連動により、スマートフォンを使ってエアコンなどの家電を外から操作したり、光熱費の確認をしたり…というシステムはすでに浸透しつつあるかと思いますが、『五世代』に導入している『ライフアシスト』では、室内各所にセンサーを設置し、そのセンサーにルールを覚えさせることで、家電や設備機器の一括での遠隔操作がよりスムーズに行えるようになります。

例えば、帰宅して玄関のセンサーが反応したときに、エアコンのスイッチが入り、カーテンを開けて、照明が点灯するなどのルールを設定しておけば、日常生活の中の無駄な動きを省くことができるので、ちょっとした時短にもつながります。また、外出モードのとき“誰もいないのにドアが開いた”等の異常をセンサーが察知すると、そのシーンの動画が即時スマートフォンに転送される仕組みになっています。従来のホームセキュリティシステムでは、センサーが反応してから警備スタッフが駆けつけるまでにタイムラグがありましたが、これなら家主本人に直接動画が送られるため、すぐに110番通報などの対応ができます」

万一の災害発生時に停電が起こった場合は、太陽光発電と蓄電池を備えているため、災害時の初期の自助・共助活動が可能だという。

「災害時に自立できることも『五世代』のひとつの提案です。特に、都市ガスではなくLPガスを使用しているので、万一の災害時にはライフラインの復旧を待つことなくガスを使って料理を作ることもできます。温かい料理を作ることができれば、地域の一時避難所として炊き出し等にも対応できますから『社会貢献に役立つ家』でもあるのです」。

▲運動プログラムは東京大学大学院・深代千之教授監修によるやる気スイッチグループの『忍者ナイン』から抜粋したもの。高齢者ユニットには『階段昇降』『ぶら下がり運動』など日常生活の中で無理なく取り組めるプログラムが導入されているほか、共有スペース吹抜け階段下の『うんてい』やウッドデッキでの『壁面的当て』など、子どもたちの運動能力を伸ばすプログラムも多数用意。ファミリー世帯のユニットでは、プロジェクターを使って床面に運動プログラムが映し出され、『反復横とび』や『ケンケンパ』などを室内で楽しめるようになっている。「子どもの運動プログラムは全15種類。『足が速くなる』『まっすぐ速く投げる』『上手に打つ』など、上達目的に合わせて運動できるよう設計してあります。家の中にこういうスペースがあれば、友達や家族と一緒に運動を楽しめますし、遊び感覚で運動能力を高めることができると思います」▲運動プログラムは東京大学大学院・深代千之教授監修によるやる気スイッチグループの『忍者ナイン』から抜粋したもの。高齢者ユニットには『階段昇降』『ぶら下がり運動』など日常生活の中で無理なく取り組めるプログラムが導入されているほか、共有スペース吹抜け階段下の『うんてい』やウッドデッキでの『壁面的当て』など、子どもたちの運動能力を伸ばすプログラムも多数用意。ファミリー世帯のユニットでは、プロジェクターを使って床面に運動プログラムが映し出され、『反復横とび』や『ケンケンパ』などを室内で楽しめるようになっている。「子どもの運動プログラムは全15種類。『足が速くなる』『まっすぐ速く投げる』『上手に打つ』など、上達目的に合わせて運動できるよう設計してあります。家の中にこういうスペースがあれば、友達や家族と一緒に運動を楽しめますし、遊び感覚で運動能力を高めることができると思います」

昭和の“田舎の本家の暮らし”へと回帰しつつある日本の住まい

こうして実験住宅『五世代』の建物内を見学してみると、IoTによる設備機能の進化を除けば、筆者が子どもの頃、近所にたくさん建ち並んでいた“田舎の本家の暮らし”とよく似ている。大家族がひとつ屋根の下で暮らし、家の中央に団欒の場となる大きな居間があり、それを囲むようにして各世帯の部屋が並んでいて、家の中で子どもたちが元気に遊ぶことができる…昭和の高度経済成長期に核家族化が進み、団地スタイルが定着して日本の住まいの在り方は一変したが、再び“昔の暮らし”へとニーズが回帰しつつあるのかもしれない。

「2020年には日本の人口の3分の1が65歳以上となり、そのうち3分の1が一人暮らしとなります。政府は介護問題に関して『在宅介護』を推奨していますが、“では、単身高齢者の在宅介護ってどうすればいいの?”という課題が生じます。しかし、『五世代』のような住まいがあれば、家族・親族だけでなく、ご近所同士・他人同士が暮らしながら地域の高齢者を見守ることも可能ですし、おそらくこうした“多世代同居”への取り組みを積極的に行っていかないと、今後わたしたちの未来の暮らしは成り立たなくなるなるのでは?と危惧されます。

実際に『五世代』の発表を行って以降、業界内外から多くの反響を頂いておりユーザーの皆さまの関心の高さが窺えます。あくまでも“ひとつの住まいの在り方”ではありますが、この実験住宅『五世代』の住空間が社会への問いかけになれば嬉しいですね」

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『五世代』の建物は一般見学は受け付けていないが、これから実売に向けて設備・仕様・プランなどを再考し、2019年春頃には商品化の予定だという。想定坪単価は80~90万円台と高級住宅並の設定。しかし、多世代が暮らす家でもあるため、各世帯で費用分担することを考えると単独世帯で家を建てるよりは割安になると考えられる。

「20代の若夫婦だけで家を建てるとしたら、大きなリビングや、大きなキッチン・お風呂は予算との兼ね合いで採用しにくくなりますが、4世帯分の予算を使うことができれば、60代・80代がサポートしてくれることで豪華な暮らしも叶いますね(笑)」と伊藤さん。

現状の実験住宅からどのようにプラン更新が行われ、“より現実的な商品”としてブラッシュアップされるのか?2019年春の『五世代』の登場を楽しみに待ちたいと思う。

■取材協力/LIXIL住宅研究所
https://www.lixil-jk.co.jp/

▲“2025年の暮らし”を想定してつくられた『五世代』の各ユニットと共有スペース。<br />(左上から時計回りに)20代のファミリーユニットは、室内でも運動できるように天井高を高くし、衝撃を和らげるソフトフローリングを採用/40代夫婦のユニットには専用のキッチン・トイレなど独立した水まわりを設置。玄関と壁を新設すれば、このユニットを賃貸として運用したり、サロンやお店を開くこともできる/60代夫婦のユニットはバリアフリー設計。まわりにスロープが設置されており、万一介護が必要になった場合は、車椅子でも外から直接出入りしやすい動線が確保されている/80代高齢夫婦のユニットは、寝室をあえて上の階にして階段昇降の動きを取り入れている。室温はセンサーが管理。トイレの入口にも開閉センサーを設け、トイレの開閉が6時間無かった場合は、他の住人にメールが届く“見守り機能”も備えている▲“2025年の暮らし”を想定してつくられた『五世代』の各ユニットと共有スペース。
(左上から時計回りに)20代のファミリーユニットは、室内でも運動できるように天井高を高くし、衝撃を和らげるソフトフローリングを採用/40代夫婦のユニットには専用のキッチン・トイレなど独立した水まわりを設置。玄関と壁を新設すれば、このユニットを賃貸として運用したり、サロンやお店を開くこともできる/60代夫婦のユニットはバリアフリー設計。まわりにスロープが設置されており、万一介護が必要になった場合は、車椅子でも外から直接出入りしやすい動線が確保されている/80代高齢夫婦のユニットは、寝室をあえて上の階にして階段昇降の動きを取り入れている。室温はセンサーが管理。トイレの入口にも開閉センサーを設け、トイレの開閉が6時間無かった場合は、他の住人にメールが届く“見守り機能”も備えている

2018年 12月06日 11時05分