京都市では、市街地の大半で建物の高さが高くても31mに抑えられている。その規制により、低層の街並みや市街地から見える山並みの景観が保たれ、京都は世界有数の観光都市としての魅力を維持する一助になった。一方で、用地は不足し、オフィスは足りず、住宅の価格は上がり続けている。

2026年3月、京都市の有識者会議は、京都駅前の高さ上限を31mから最大60mへ緩和するのが妥当だとする意見書をまとめた。本記事では、高さ制限がもたらした功罪を、地価やマンション価格、海外の事例と重ねながら紐解いていく。

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京都に高層ビルが存在しない理由

多くの人が行き交うJR京都駅多くの人が行き交うJR京都駅

京都の街を歩いても、高層ビルはほとんど目に入らない。理由は、京都市が長年維持してきた建物の高さ制限にある。

京都市内でもっとも高い建造物は、1964年に開業した地上131mのニデック京都タワー(以下京都タワー)である。当時の建築基準法では、建物の高さを全国一律で31mまでとしていた。しかし、京都タワーは上に載る高さ100mのタワーを「屋上の工作物」として扱い、この制限の対象から外して建てられている。建築基準法の枠内で高さを稼ぐ設計で建てたのだ。それでも当時は、古都の景観を壊すとして建築家や文化人から抗議が相次いだ。

半世紀以上が過ぎた今、京都タワーは街のシンボルとして受け入れられている。一方で、その足元に広がる京都駅前の高さの上限は、今も31mのままだ。

街のシンボルとして京都駅前に立つニデック京都タワー街のシンボルとして京都駅前に立つニデック京都タワー

新景観政策が守った街並みと残った課題

京都市における高さ制限の変遷を見てみよう。

1970年に建築基準法が改正され、それまで全国一律で31mとされていた高さの上限が撤廃された。代わりに導入されたのは容積率による制限で、それにより京都でも31mを超えるビルが建てられるようになった。

そこで京都市は、1973年に都市計画で市街地の大半を「高度地区」に指定。高度地区とは建物の高さ制限を定める地区のことで、独自に10m、20m、31m、45mの4段階を設定した。建築基準法改正による容積制導入後も全市的な絶対高さ制限を継続したのは、当時は京都市が全国唯一であった。

その最高45mという高さ制限が変化したのが、2007年9月に施行された「新景観政策」だ。最高限度を31mに引き下げ、新たに12mと25mを加えて、10m・12m・15m・20m・25m・31mの6段階の高さ制限に組み替えた。市街地の中心部にあたる田の字地区は45mから31mへ。町家が残る職住共存地区は、31mから15mへと半分以下になった。

ただし、この高さ制限で街並みは守ったものの、建てられる建物の床面積の減少を招いてしまう。そしてオフィスやマンションを新たに供給できる余地は限られ、市内では土地や住宅の価格が上がり続けた。その結果、手頃な住まいを求めて、20〜30代の若い世代や子育て世代が市外へ流出するようになる。総務省の調査では、京都市の人口減少数が2年連続(2020年、2021年)で全国の市区町村で最多となった。 そこで2022年、京都市は高さ制限の見直し案を公表する。オフィスと住宅の供給量を増やすために、京町家が残る中心部の規制は維持しつつ、複数のエリアで高層ビルの建築を認める内容だ。2007年から続けてきた景観政策を市が自ら見直した形になったのである。

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京都駅前の高さ制限を最大60mへ。有識者会議がまとめた規制緩和案

京都市の高さ制限は、2022年の見直し案を皮切りに2段階で緩和された。

1段階目は2023年4月、京都駅の南側で大通り沿いの高さ制限が20〜25mから31mへ引き上げられたことである。さらに、京都市南部の「らくなん進都」では事務所や研究施設に限って容積率が引き上げられたほか、京都市東部エリアの外環状線沿道では、建物の1階に店舗を設けるなどの条件を満たすことで高さ制限を撤廃する制度が設けられた。ただし京町家が残る中心部は、対象から外れている。

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京都市南部の「らくなん進都」による都市計画の見出しエリア(画像引用:京都サウスベクトルパンフレット)京都市南部の「らくなん進都」による都市計画の見出しエリア(画像引用:京都サウスベクトルパンフレット)

2段階目の案が示されたのは、2026年3月だ。京都市の有識者会議が、京都駅前の高さ上限を現行の31mから最大60mへ緩和するのが妥当だとする意見書をまとめた。意見書では、現状の京都はオフィスや交流の拠点としての機能が不足していると指摘している。そして、空間を確保するためには高さが必要だが、現行の規制では建て替えが進まないと結論づけている。
この案では、高さ制限の緩和はエリアごとに分けられている。京都駅ビルと京都タワーの周辺が上限60m。その外側にあたる駅の南側、東西、京都タワーの北側は45mとする案が軸だ。

上限の60mは、1997年に開業した京都駅ビルの高さと同等だ。京都駅ビルは通常の高さ制限の中で建ったわけではなく、都市計画の「特定街区」制度を使い、個別に認められた例外の事例だった。今回の案は、その例外を駅前の一帯に広げる内容だ。

ここまでの経緯を見ると、1段階目は中心部を避けた内容だったものの、2段階目は中心部に近いエリアの規制緩和に初めて踏み込んでいることがわかる。

京都市南部の「らくなん進都」による都市計画の見出しエリア(画像引用:京都サウスベクトルパンフレット)京都市の有識者会議が示した高さ規制の上限値(画像引用:京都市「京都駅前の再生に係る有識者会議意見まとめ(案)について」)
京都市南部の「らくなん進都」による都市計画の見出しエリア(画像引用:京都サウスベクトルパンフレット)高さ約60mの京都駅ビル

海外の歴史都市は高さ制限とどう向き合ってきたのか

景観を守りながら、街をどう成長させるか。同じ問いに、海外の都市はそれぞれ違う向き合い方をしている。

フランス・パリでは、用途地域ごとの制限や街路の幅に応じた制限、特定の場所からの眺めを守る制限などが重なり、高さの上限が原則37mに抑えられている。1970年代に完成した高さ210mのモンパルナス・タワーなどの一部例外はあるものの、市内で高層ビルが林立する光景は生まれなかった。

代わりに高層ビルを受け入れたのが、ラ・デファンスである。パリ市の外側に位置し、3つの自治体にまたがる再開発地区だ。フランス政府が1958年に計画へ着手し、今では高層ビルが立ち並び大企業の本部が集まっている。このように、パリは街並みを守る場所と経済を伸ばす場所を切り分けたのである。

もう1つ、オーストリアのウィーンを見てみよう。ウィーンは、2001年に歴史地区が世界遺産へ登録されたものの、2017年に危機遺産(価値が失われる恐れがある世界遺産)のリストに載ることになる。市の中心部で計画されたホテルと住宅の複合ビルが、街並みを損なうと判断されたためだ。

それを受けウィーン市は、計画の高さを当初の73mから20m以上削るなどの対策をとり、2026年7月に危機遺産リストから削除されることが決定された。

歴史的な中心部の外に高層ビルの受け皿を用意するか、中心部で高さを削りながら折り合いをつけるか。京都駅前の60m案は、後者に近い発想である。

京都の住宅価格から見る、高さ制限の功罪

京都市は、長らく高層ビルの受け皿を用意できないままだった。そこへ人件費や資材価格の高騰、地価の上昇なども加わり、中心部の住宅価格は上昇を続けている。

LIFULL HOME' Sの調査では、2025年1〜5月に掲載された京都府の新築マンションの平米単価は平均114.8万円。東山区は平均1億6,519万円(1m2あたり178.9万円)、中京区は1億3,868万円(1m2あたり163.5万円)と、いずれも1億円を超えた。平米単価が100万円を下回るのは、南区や伏見区、山科区といった中心部から離れたエリアだ。

東山区と中京区が群を抜いて高額なエリアとなっている(画像引用:LIFULL HOME'S「京都府、大阪府、兵庫県の 2025年新築マンションの平均価格をLIFULL HOME’Sが調査」)東山区と中京区が群を抜いて高額なエリアとなっている(画像引用:LIFULL HOME'S「京都府、大阪府、兵庫県の 2025年新築マンションの平均価格をLIFULL HOME’Sが調査」)

ここで、高さ制限の功罪について筆者の見方を示したい。

プラスの面から見れば、高さを抑えた街並みは京都の資産となった。碁盤の目の街路に低い建物が並び、山の稜線が視界に残る。この風景が世界中から人を呼び、街の評価を押し上げてきた。

清水寺や八坂神社を抱える東山区には、市内で最も価格が高い水準のマンションが並んでいる。立地の希少さや供給の少なさに加え、街並みの良さも価格を押し上げる要素の1つであると考えていいだろう。

一方で、高さ制限の代償は床面積の供給量に表れている。高さを上げられなければ、1つの敷地に載せられる住戸の数が限られる。需要が増えても供給が追いつかないため、価格が上がり続けてしまうのだ。

その結果、中心部に手が届かない層は、手頃な価格で住宅が手に入るエリアへ移ることになる。街並みを守るほどに街の価値が上がり、その価値が住民を押し出す。京都市が抜け出せずにいるのは、この循環である。

東山区と中京区が群を抜いて高額なエリアとなっている(画像引用:LIFULL HOME'S「京都府、大阪府、兵庫県の 2025年新築マンションの平均価格をLIFULL HOME’Sが調査」)高さ制限60mが検討されているエリア(京都駅北側)
東山区と中京区が群を抜いて高額なエリアとなっている(画像引用:LIFULL HOME'S「京都府、大阪府、兵庫県の 2025年新築マンションの平均価格をLIFULL HOME’Sが調査」)高さ制限45mが検討されているエリア(京都駅南側)

京都駅前の高さ緩和は住まい選びをどう変えるか

2026年3月に示された高さ制限の緩和案が実現すれば、京都で住まいを探す目線も変わるだろう。押さえておきたい点は4つある。

1つ目は供給される住宅の数だ。意見書が求めているのはオフィスや交流の拠点であり、住宅ではない。そのため、駅前に高層ビルが建てられても、売り出される住戸数がそのまま増えるとは限らない。

2つ目は資産価値である。2026年の公示地価では、京都駅周辺の商業地が際立った上昇率を示した。宿泊施設の開業やオフィスビルの建設で、一帯の資産価値が高まったためだ。高さ制限の緩和はまだ正式に決まっていないが、それでも駅周辺の地価は、期待を織り込んで上がり続けている。

3つ目は 、高さ制限の緩和が決まれば、都心の住宅需要の増加だ。京都駅前にオフィスが増えれば、職住近接を求める層はアクセスの良い中京区や下京区に注目するだろう。市外へ流出していた層が、内側に留まる可能性もある。

最後のポイントは、今の街並みや景観が続くとは限らない点だ。低い街並みや山への眺めを前提に選んだ住まいは、周囲の高層化でその前提が崩れてしまう。住宅の購入を検討する際は、高さ制限緩和の対象エリアと上限の高さを確かめておきたい。

京都駅周辺は、国から都市再生緊急整備地域(国が定めた民間の開発を重点的に進めるためのエリア)の指定を受けている。すでに京都駅前では、京都中央郵便局と隣接する駐車場を一体で建て替え、高さ約60mの複合施設を建てる計画が公表されている。

景観を守るか、街の成長を促すか。京都市が向き合うべきは、その二択ではなく、両方を成立させる線引きだと筆者は考える。どこに線が引かれるかで、住まいの選択肢が変わるだろう。京都で住まいを検討している人は、今後の動向に注目してほしい。

2026年3月、京都市の有識者会議は、京都駅前の高さ上限を31mから最大60mへ緩和するのが妥当だとする意見書をまとめた。本記事では、高さ制限がもたらした功罪を、地価やマンション価格、海外の事例と重ねながら紐解いていく。建替え計画が公表されている京都中央郵便局