県営のダムに町営の小さな発電所をつくる

2011年以降、各地の地方自治体では、再生可能エネルギー推進に関する条例が施行されてきた。「エネルギー基本計画」で述べられるように、再生可能エネルギーの活用は、地域に新たな産業を興すことで地域活性化が期待でき、また、災害を含む緊急時に一定のエネルギー供給が可能になるからだ。

多くの自治体で再生可能エネルギーシステムを構築するエコプロジェクトが展開されているが、定着化はもちろんのこと、黒字化に転じさせることが難しいのも事実だ。自治体のエネルギー部門での役割拡大に伴うノウハウ不足の問題や官民協業の事業者参入における住民との軋轢など課題は多い。

そんな中、知恵を絞ったアイデアでエコモデルを形成し、しかも黒字化に成功している自治体がある。それが、和歌山県有田川町だ。有田川町は、2006年に旧吉備町・金屋町・清水町が合併し誕生した町である。和歌山県のほぼ中央に位置し、まさにその名の通り高野山に源を発する「有田川」が町の中心を走る。人口2万7000人。約1万世帯がこの地域に暮らす。主産業は農業を中心とする第一次産業。豊かな自然景観と農作物が売りとなっており、中心部は人口増も見受けられるが町全体としては、高齢化による過疎化の進行は否めない。町の将来を考えれば当然新たな産業の創出が求められていた。

そんな有田川町が現在推し進めるのは「有田川エコプロジェクト」だ。このプロジェクトの原動力として、県営ダムから放流する河川維持放流水を活かした水力発電に挑んだ。年間約5000万円の売電収入を生み、建設コストも6年で回収できる見込みだ。全国でも類をみないこの取り組みは「有田川モデル」と呼ばれ、多くの自治体が視察に訪れているという。

有田川町のエコプロジェクトにつながるスタートはごみ収集のステーション化という地道な「廃棄物の取り組み」から始まった。もちろん、この事業も黒字化している。地域住民への理解と協力、さらに経済的な循環までも実現する有田川町のエコモデル。成功までの道のりには、どのような工夫と苦労があったのだろうか。有田川町 建設環境部の平松 紀幸氏にお話を伺ってきた。

有田川上流にある二川ダムに建設された町営「二川小水力発電所」。平成28年度新エネ大賞で資源エネルギー庁長官賞を受賞するほか、他県からも注目を集める有田川上流にある二川ダムに建設された町営「二川小水力発電所」。平成28年度新エネ大賞で資源エネルギー庁長官賞を受賞するほか、他県からも注目を集める

エコプロジェクトの原点はゴミステーション

有田川町の環境行政の取り組みは、合併よりも随分と以前から始まり、吉備地区の「ゴミ集積ステーション化」に端を発するという。

「もともと、地域でのゴミ出しは道に点々とゴミを出して回収する露天出しでした。ゴミが交通の妨げになるほど溢れている状況で、それが原因で子どもが交通事故に巻き込まれるケースも起きていたそうです。これをなんとかしようと1998年に吉備地区のステーション化が進められました」(平松氏)

ステーション化に伴い、リサイクルにも力が入れられた。「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」「プラスチック」「ペットボトル」「空き缶」「空きビン」「古紙」、菓子箱や封筒などの小さな紙を「雑紙」とした8つに分類。屋根がついたステーションのため、雨に濡れることなく資源ゴミとしてリサイクル率を高めることができた。

ステーション化といっても、単に屋根付きの収集所をつくればいいという単純な話ではない。当然、住民側の理解と努力が不可欠だからだ。これまでは、家のすぐ近くにゴミを出すことができたが、ステーション化となると場所によると1km離れた場所に持っていく必要がある。資源ゴミの質を高めるために分別も厳しくなる。そこは自治会との連携で説明会を繰り返し、意識を高めていったという。

「ステーションの設置も住民の皆さまから場所を提供してもらう必要があり、その管理も住民の方々にお願いする必要がありました。まずは地区の役員の方々の家を一軒一軒まわり、賛同をいただいた上で、自治会として住民説明会を重ねてもらいました。説明会を繰り返すなど時間はかかりましたが、今ではリサイクルに関する非常に高い意識を持たれています」(平松氏)

有田川町のエコプロジェクトの原点ともいえるゴミステーション。管理は地域住民で行われ、ステーション内は常に綺麗に清掃されている有田川町のエコプロジェクトの原点ともいえるゴミステーション。管理は地域住民で行われ、ステーション内は常に綺麗に清掃されている

資源ゴミ、マイナス入札で約3200万円の差額

さらに大きな転機となったのが、合併後の資源ごみのマイナス入札が実現したことだ。合併時の2006年度に旧3町合わせての資源ゴミの処理費(収集・運搬処理)は、年間約3200万円。この委託費用を見直し2008年に入札を行った結果、なんと吉備地区がけん引してきた前出のステーション化と住民の高い分別意識により、高品質の資源ゴミが評価されマイナス入札が実現する。現在では、町内全域でのステーション化が進み、2017年には年間約260万円の収益を得るまでになったという。

ここで有田川町の取り組みが優れているのは、この収益を町予算の「一般会計」に計上しなかったことだ。

「いくら収益が出たといっても、町全体の予算の中で“一般会計”に計上してしまえば、簡単に消えてしまいます。エコで得た資金はエコで循環させていきたい。その思いから2008年に設立したのが『低炭素社会づくり推進基金』でした」(平松氏)

この基金では、地域住民の努力で実現したマイナス入札の利益を住民に還元できるよう、住宅向け太陽光発電設備、太陽熱利用設備、生ゴミ処理機補助制度、コンポスト無償貸与などを利用できるようにした。そして、翌年2009年には、「有田川エコプロジェクト」を立ち上げ、再生可能エネルギー関連事業に町として取り組み始めたのだ。

「まさに、エコ事業を循環させるための仕組みができる過程でした」と平松氏は説明する。

お話をうかがった有田川町 建設環境部 環境衛生課 環境衛生班 平松紀幸班長お話をうかがった有田川町 建設環境部 環境衛生課 環境衛生班 平松紀幸班長

「もったいない」から始まった、小水力発電事業

小水力発電所の管理は有田川町の職員の方々が行う(写真上)。基本的に小水力発電機の中には大きなゴミが混入されない仕組みになっているが、「くるみ」などの小さな木の実が時に入り込む。すると発電量が減るためこちらも有田川町の職員が定期的に「くるみ」などを除去するという(写真下)小水力発電所の管理は有田川町の職員の方々が行う(写真上)。基本的に小水力発電機の中には大きなゴミが混入されない仕組みになっているが、「くるみ」などの小さな木の実が時に入り込む。すると発電量が減るためこちらも有田川町の職員が定期的に「くるみ」などを除去するという(写真下)

「有田川エコプロジェクト」では、町のプラスチック収集場の屋根に太陽光発電設備を設置し、2014年には11キロワット、2015年には30キロワットの売電を実現。そして、2016年に実現したのが、町営の小水力発電所の完成だ。

これは県営の二川ダムから河川維持のために行われる放流水を活かして小規模の水力発電所を町営で設置するというもの。環境衛生課の中岡浩課長が放流水を見て「もったいない、水力発電に利用できないか」と考えたのが始まりだという。

「二川ダムは1967年にできた多目的ダムで県の運営のもと治水と発電に利用されてきました。ただし、特に夏場にはダムから発電所までの周辺地域では水量が減り、水が腐って悪臭が出る状況でした。そのため、1998年から毎秒0.7トン、約お風呂3杯分もの河川維持放流が行われていたのです。合併当初、この放流水を見た中岡課長が水力発電を構想したのが始まりです」(平松氏)

ただし、構想から実現までには苦労が多く、10年近くの時間を要している。2009年には、水力発電の売電収益を財源にした「有田川エコプロジェクト」を提案した。現在の電気の買取制度がない中で発電量をもとに収支を計算した結果、十分に採算がとれる見通しがついた。だが、問題となったのが、ダムから取水をして川に放流するための県が持つ「維持放流施設」の残存建設費や維持費の負担金だった。これには総額7.5憶円がかかっており、有田川町が折半しなければならないことが判明したという。町負担は3億円を超え、これでは採算が取れない。

「それでも、有田川町では中岡課長を中心に粘り強く県と交渉してきました。すると東日本大震災によって全国的に自然エネルギーを導入する機運が高まってきたのです。2012年に和歌山県知事が従来の慣例にとらわれず、非常に低い0.3%という負担率を認定いただいたおかげで、小水力発電所設置のプロジェクトをスタートすることができました」(平松氏)

実際に、小水力発電所を見せてもらう。ダムの規模に比べたら確かにわずかな放流であるが、発電機の稼働を一瞬止めてもらうとみるみるうちに水流の勢いが激しくなり、その差は歴然。毎秒0.7トンは見過ごせないエネルギーの源だ。冒頭にも説明したが、実際にこの小水力発電で、現在は年間約5000万円の売電収入を生んでいる。この成果は町外の評価も高く平成28年度の「新エネ大賞」資源エネルギー庁長官賞を受賞した。

「仕組み自体も循環型」が成功の秘訣

有田川町のエコプロジェクトの見事さは、エネルギーや資源の循環だけでなく、収益から新たな資金へと財政面でも循環型を構築していることだ。

「分別徹底のステーション化を実現し、それが資源ゴミのマイナス入札につながり、その差額がエコ基金となり、小水力発電所の建設にも役立てられています。その小水力発電事業がさらに大きな売電利益を生み、基金となりさらなる補助事業や環境教育など新たなエコプロジェクトを創出していく。小さな循環が大きな循環へと拡大しているのです」(平松氏)

現在有田川町では、エコ基金を利用して廃校に設置された太陽光発電での売電、さらには災害など非常時に強いエネルギー確保の仕組みなど、エネルギーの自家消費型モデルを構築。エネルギーの地産地消を着々と実現している。

「目指しているのは、再エネでのまちづくりです。みかん農家によるソーラーシェアリングなども始まっており、エコを起点にきちんと経済がまわることを目指していきたい。今後は官民の垣根を越えたプロジェクトにも取り組んでいきたいと考えています」(平松氏)

実は、有田川の地域では、明治中頃から昭和にかけて住民が集落で自家発電所を興した歴史がある。現在の感覚ではインフラは公共で行うものという意識になるが、有田川の先人たちは、集落の人々で材料を運びその手で発電所をつくっていたという。水量により発電量が異なり「雨の日には電灯が明るく、渇水の日にはぼんやりとした明るさだった」と当時を知る地域のお年寄りからのコメントが新鮮だ。自治水力発電を行ってきたDNAを持つ有田川町のエコプロジェクトは今後もさらに大きな循環を描いていくことだろう。

資源ゴミのマイナス入札や売電益など、環境活動で得られた収入は基金として利用し、また環境への取り組みを実施する循環型がポイント資源ゴミのマイナス入札や売電益など、環境活動で得られた収入は基金として利用し、また環境への取り組みを実施する循環型がポイント

2018年 09月20日 11時05分