一生の大半を過ごす寝室

人は一生の1/4以上を寝て過ごすと言われる。また、睡眠は休息にもっとも必要なものだから、質の良い眠りを確保すればよりよい人生を手に入れられるはずだ。
そこで重要となってくるのが寝室。家を建てる際はキッチンやリビングと並んで工夫をこらしたい部屋だろう。寝室は休む場所だが、夫婦にとってはコミュニケーションの場でもあり、家の中でも中心的な役割を持つのだ。
そこで、よりよい眠りをもたらす寝室のあり方を探ってみよう。

縄文人もベッドで寝ていた?寝室の歴史

竪穴式住居の一部ではベッド状遺構が見つかっている竪穴式住居の一部ではベッド状遺構が見つかっている

大昔には布団はないが、寝具の歴史は意外に古い。
縄文人や弥生人たちが暮らした竪穴式住居は、円形や方形に地面を掘り、柱を建てて骨組みを作った上に、葦などで屋根を葺いて作るのが一般的。なぜ地面を掘ったのかは諸説あるが、一年を通して気温に変化が少ないからとも、隙間風を防ぐからとも言われている。しかし雨が降れば床は水浸しになり、ゆっくり寝てはいられないだろう。また、地面にはムカデなどの毒虫がたくさんいるから、さぞかし寝づらかったろうと思われるが、和歌山市にある西田井遺跡や京都市植物園北遺跡の竪穴式住居などでは「ベッド状遺構」が発見されている。人々は昔から、地面に木材を組んでベッドのような寝具を作ったり、皮などを敷いたりして寝ていたようなのだ。また、藁などを編んだ「菰(こも)」を敷いたり、掛けたりしていたらしい。
古事記では大国主に求婚された沼河姫が「蒸衾 柔が下に、栲衾 さやぐが下に」お休みくださいという内容の歌を詠んでいるが、「衾(ふすま)」とは寝具を意味する古語。現代語に訳せば「暖かい衾の柔らかい下に、白い衾のさやさやと鳴る下で」となるから、古事記が編纂されたとされる奈良時代には、柔らかくて暖かい寝具が存在していたのだろう。ベッドもすでに中国から輸入されていたようで、正倉院には「御床(ごしょう)」と呼ばれる、聖武天皇と光明皇后のベッドも収められている。檜材で造られており、二つ並べて使われていたと考えられる。

平安時代になると、貴族たちは木の床のある家屋に住むようになる。木の床は土の上より寝心地は良く、畳を敷布団として使用するようになったから、眠りの環境は格段にアップしただろう。
当時の貴族の住居はその名も「寝殿造」。女房達は寝殿と呼ばれる母屋に畳や敷物を敷き、屏風や几帳で仕切りをして眠っていたようだ。主人である貴族は、「帳台(ちょうだい)」「御帳(みちょう)」と呼ばれる、床より一段高く、几帳などで仕切られた、天蓋付きのベッドのような場所で寝ていた。広さは9尺四方というから、四畳半の部屋を想像すればよい。

現代のような綿の入った布団が生まれるのは、綿が普及し始めた鎌倉時代。寝ずの番をする武士が寒くないよう、着物に綿を入れた「夜着」が作られたのがきっかけだ。当時の人々は昼間に着た着物を掛けて寝る習慣があったので、夜着は掛布団の役目を果たすようになる。そして江戸時代になると、敷布団が生まれたとされる。

よい睡眠を得るための寝室とは

寝室は間接照明を使って、明るすぎないよう調整すると良い寝室は間接照明を使って、明るすぎないよう調整すると良い

平安時代の貴族が、狭く囲われた「帳台」で寝ていたことからもわかるように、落ち着いて眠るための寝室は、間取りを広くとる必要はない。むしろ、寝具以外には何もなく、睡眠に集中できる環境の方が、自然な眠りにつけるといわれている。眠気がやってくるまでの時間が退屈な人は、本を持ち込んで読むと良い。パソコンやスマートフォンのLEDディスプレイが発するブルーライトは、体内リズムを乱すと言われているから、できれば別室に置いた方が無難だろう。
ホテルの部屋は、天井灯のない、ベッドサイドのスタンドや壁のブラケットライトで明るさを調整するタイプが多い。暗ければ暗いほどメラトニンの分泌量が増えるから、寝室はあまり明るくしない方が良いとされるのだ。メラトニンは質の良い睡眠を得るために重要な役割を果たし、時差ボケや睡眠障害の治療にも利用されている。
しかしそれなら小さな窓しかない暗い部屋でも良いのかというと、そういうわけではない。朝日を浴びれば夜のメラトニン分泌量が増えるから、朝の光を十分に採り入れられる部屋の方が、長期間で見ればより良い睡眠をもたらしてくれるのだ。また、新陳代謝をうながし、創傷治癒に欠かせない成長ホルモンは、深く眠れば眠るほど分泌されるので、刺激のない暗い部屋で寝れば、健康にも良い。
だが、小さな子供などは、暗闇に恐怖を感じるものだ。この場合は間接照明を使い、リラックスできる明るさに調整しよう。

寝室から考える家族のコミュニケーション

一昔前の日本人家族の就寝風景を「川の字になって寝る」と表現したように、長屋住まいの人々は、狭い部屋で一緒になって寝るのが当然だった。しかし1942年、建築学者の西山夘三は『これからのすまい』を著し、寝る場所と食事の場所を区分する「食寝分離」を基礎とした住宅計画論を発表する。そしてその次の段階として、夫婦と子供、子供の性別で部屋を分けてプライベートを確立する「就寝分離」を提言した。これが公営住宅の間取りに採用され、現代の「nDK間取り」に引き継がれるのだ。
この時は夫婦が同じ寝室で眠ることを前提にしていたが、最近の研究では、夫婦にも程よい距離感があった方が、家庭円満につながると考えられている。
実際、夫のいびきに安眠を妨害されると感じる妻も少なくないだろう。また、片方は早く寝たいのに、他方はまだ眠くないので本を読みたいと、明かりを消すかどうかで喧嘩になる場合もある。そのような事情もあり、別室で就寝する夫婦も増えているようだ。
かといって別室で寝ていては十分なコミュニケーションがとれなくなるのではないかと不安になる夫婦もいるだろうし、部屋数が足りなければ一緒に寝るしかない。
そこで推奨されるのが「セパレート寝室」。夫婦のベッドを離して置き、間の一部を家具やパーテーションなどで仕切るものだ。こうすれば隣の明かりや気配はあまり気にならないし、声をかければすぐにコミュニケーションがとれる。
子供が一人寝に慣れないときも、セパレート寝室の考え方を応用できるだろう。

生活の上でなくてはならない睡眠。
新築や改築の際には、より質の良い睡眠を得るための工夫をしてみてはいかがだろう。

一生の大半を過ごす寝室。より質の良い睡眠を得るために工夫をこらしたい一生の大半を過ごす寝室。より質の良い睡眠を得るために工夫をこらしたい

2016年 04月23日 11時00分