初開催となる「エコハウス・アワード2016」

2010年2月に設立したパッシブハウス・ジャパン。東京・浜松町のアジュール竹芝にて、記念大会と「エコハウスアワード2016」の授賞式が開催された2010年2月に設立したパッシブハウス・ジャパン。東京・浜松町のアジュール竹芝にて、記念大会と「エコハウスアワード2016」の授賞式が開催された

住宅を購入する際に決め手になるのは、価格、立地、デザイン?思いつくものは人それぞれいくつもあると思うが、忘れてはいけない重要なポイントがある。人間の健康、命に影響を与える「断熱性能」だ。と言うと、大げさに聞こえるかもしれないが、住まいの寒暖の差と密接に関わり発生するヒートショックは、交通事故の約3倍の死亡リスクがあると言われているのだ。
断熱性能に優れた家は、冬は暖かく、夏は涼しく過ごせる。家の中の温度差も少ないため、ヒートショックの危険性も低く、かつ、一般的な住宅と比較して冷暖房光熱費がかからずに済む。
「一般社団法人パッシブハウス・ジャパン」は、高い省エネ性能を有し、デザインにも優れた住宅を表彰する、「エコハウス・アワード2016」を開催した。
初開催となったコンテストには、26作品がノミネート。一次選考、二次選考、ウェブサイトでの投票を経て、2016年3月4日、最終選考結果が発表された。

今回は、授賞式の様子と、主催団体である、「パッシブハウス・ジャパン」についてご紹介したい。

6年目を迎えた「パッシブハウス・ジャパン」

当日は、森みわさんによる「ドイツパッシブハウス基準説明会」や、東京都市大学 宿谷昌則 先生の基調講演が行われた。会場で熱心に耳を傾ける130人の参加者たち当日は、森みわさんによる「ドイツパッシブハウス基準説明会」や、東京都市大学 宿谷昌則 先生の基調講演が行われた。会場で熱心に耳を傾ける130人の参加者たち

「パッシブハウス」は、近年、日本でも認知が高まりつつある。HOME'S PRESSオピニオンリーダーである有限会社松尾設計室 代表取締役 松尾和也氏の記事でご存知の方もいるであろう。「パッシブハウス」は、ドイツのヴォルフガング・ファイスト博士が発案し、創設したパッシブハウス研究所で規定する認定基準を満たした省エネルギー住宅のことをいう。
パッシブハウスの求める躯体性能の基準が世界で最も高いと言われ、環境先進国であるドイツを始め、その技術が世界に、そして日本にも広がっているのだが、住宅は当然、周囲の温度や湿度、気候の影響を受ける。高温多湿で四季のある日本では、ヨーロッパ諸国と同様の方法で住宅を造っても、環境に適さないケースも多々あるのだ。
「パッシブハウス・ジャパン」は、日本各地の風土や生活様式に根差した、あるべき省エネ基準の確立を目指し設立された。また、ドイツのパッシブハウス研究所との、日本の正式な窓口としての役割を担い、世界各国のパッシブハウス研究機関と連帯し、最先端の技術情報を日本に向けて発信している。

日本で初めてパッシブハウスの認定を受けた建築家である森みわ氏の呼びかけにより発足した「パッシブハウス・ジャパン」。理事は森みわ氏、松尾和也氏、飯田哲也氏が務め、設立から6周年を迎えた。賛助会員は112団体、省エネ建築診断士1605名になったいう。
2009年に森氏が設計した、日本初のパッシブハウスが鎌倉に建築されてから7年。年々広がりを見せ、満を持して創設された「エコハウス・アワード2016」の受賞作品を振り返る。

無いものは創るの精神で生まれた「新潟信濃町の家」

大賞は、新潟県新潟市の「新潟信濃町の家」が受賞した。設計者は有限会社西方設計、施工はオーガニックスタジオ新潟株式会社。年間暖房負荷は、18.7kWhである。暖房負荷は、より低い方が高い躯体性能を有し、パッシブデザインに成功している事を示す。大手メーカーの標準プランで東京に家を建てた場合でも暖房負荷が80~95kWhと言われており、高い省エネ性能が発揮されていることが分かる。
日本海側は日本でも有数の多雪地帯、寒冷で日射も少ない。その気候でありながら高い断熱性能を実現したのがシンガポールのガラスメーカーと協力して開発した、世界初搭載となる複層ガラス「スーパーパッシブガラス」である。部屋の気温に大きな影響を与えるガラスの表面温度は、外気温が-5℃で約17℃、0℃では約18℃であったというから驚きだ。また、床下エアコンも設置し、床の表面温度は24~25度と、部屋全体が暖かく心地よい空間になっている。

審査員は、これまでにないものを創る姿勢を評価した。
「建築地は準防火地域であることもあり、防火戸としての規制をクリアする必要もありました。『規制があるから性能が上げられない』、『基準を満たす窓が日本にないから出来ない』という声を上げる人もいるかもしれませんが、その状況に甘んじず、"無いものは創る"の精神は、非常に建築家らしい。無いものは創っていく覚悟が見られます。審査委員票も、ウェブサイトの投票も高得点を獲得し、順当な一位であると思います」。

新潟県新潟市に建築された「新潟信濃町の家」。高い躯体性能もさることながら、デザイン性も高い評価を得た新潟県新潟市に建築された「新潟信濃町の家」。高い躯体性能もさることながら、デザイン性も高い評価を得た

中古、賃貸でも実現できた高い断熱性能

続いて大賞以外の受賞作品を、一部ご紹介しよう。

■意匠賞
『奥州パッシブハウス』 (岩手県奥州市水沢区)
設計者:菊地建(金ケ崎建築設計舎) 施工者:有限会社鈴木建築
意匠賞ではゲスト審査員として選考にあたった、建築家で東北芸術工科大学教授の竹内昌義氏よりコメントがあった。

「高断熱高気密なパッシブハウスだからこそ、できるデザインがあると思っています。室内の上下の温度差が無いので、吹き抜けをつくることができる。個室がなくて、全てが繋がったようにつくることができることが大きな魅力です。玄関は一般的な住宅では区切られていますが、寒くないので、玄関すら分けなくていいんです。『奥州パッシブハウス』は、正方形の家の真ん中に吹き抜けがある間取りになっています。空間の流れ方が非常にいいので、独断で選びました」。

■リノベーション賞
『大町タウンハウス』 (神奈川県鎌倉市大町)
設計者:KEY ARCHITECTS  施工者:高橋建築、STOジャパン、その他
リノベーション賞のゲスト審査員は、HOME'S総研所長の島原万丈氏。受賞した「大町タウンハウス」について島原氏は、

「築28年の賃貸物件を、大家と自ら交渉し、原状回復なしで省エネ改修を行うという、建物と借り方そのものがウルトラCの方法でリノベーションされている事例です。リノベーションは既存の建物の制約条件をいかに面白くするか、発想の転換やアイディアが必要です。だからこそ、アクロバティックな今回のような物件が出てくるのが面白いですね」と、評価した。

「どうしてリノベーションをこの賃貸物件でやることになったのか?」という、島原氏の質問に対して森氏は、
「もともとこの賃貸物件に、2年ほど住んでいました。ですが、やはり家が寒く、住環境としてはよくない。家を購入しようかと検討したのですが、費用面で断念しました。新築で家を建てるにではなく、中古をリノベーションする方法もあるのでは?と思い、2年の間に練った改修の計画を大家さんに提案しました。断熱改修は、必ず次に住む人にとって価値があるものになります。その結果、思いが通じ、大家さんは『次は絶対自分が住む!』と言っています(笑)」。

賃貸でも、断熱性能が高く健康的に過ごせる住宅が実現できる。私たちの固定概念を変えた事例である。年々増加する日本の空き家を再活用する方法として、今後さらに広がっていってほしいと感じた。

(画像左上)意匠賞を受賞した、岩手県奥州市水沢区に建築された奥州パッシブハウス (画像右上)右側は審査員の竹内昌義氏。左側は花澤淳氏。花澤氏は、「認定を取るにあたって気象条件を計測するのが大変だった」と苦労した点を語った。(画像左下)右側は審査員の島原万丈氏。左側は森氏。森氏は、2年間を振り返り、人体実験のように居住しながら家の中で起こる現象を分析していたと言う(画像右下)リノベーション賞を受賞した、省エネ改修を行った大町タウンハウス(画像左上)意匠賞を受賞した、岩手県奥州市水沢区に建築された奥州パッシブハウス (画像右上)右側は審査員の竹内昌義氏。左側は花澤淳氏。花澤氏は、「認定を取るにあたって気象条件を計測するのが大変だった」と苦労した点を語った。(画像左下)右側は審査員の島原万丈氏。左側は森氏。森氏は、2年間を振り返り、人体実験のように居住しながら家の中で起こる現象を分析していたと言う(画像右下)リノベーション賞を受賞した、省エネ改修を行った大町タウンハウス

省エネ住宅建築の技術の広まりに期待

「エコハウス・アワード2016」を振り返って、森氏は、

「応募作品は全て、高い水準の断熱性能を持つものばかりでした。最終的に結果に結びついた点で大きかったのは、その事例の見せ方やデザインの力であったと思います。同じ家でも、写真の撮影の仕方、プレゼンの手法によって全く印象は異なります。今後はそういった見せ方の部分も重要であると思っています。このアワードが、お互いの自信作を発表し合う一年の集大成となり、いい事例を共有しあって、高め合っていきたいです」と話してくれた。

パッシブハウスや、断熱性能の高い住宅を建築する技術を持った工務店、建築会社が増えることは、私たち一消費者にとって非常に嬉しいことである。

2020年には、住宅における新しい省エネ基準が義務化される。ただ、義務化されるとはいえ、日本の住宅性能は、ヨーロッパ諸国の基準と比較してまだまだ出遅れていると言わざるをえない。日本でトップランナーとされている住宅の断熱性能が、欧州の3分の1程度であったというデータもあるそうだ。
今後さらに、日本の住宅の断熱性能を向上させていくためには、私たちも、自分自身に優しく、また環境にも優しい住宅を選ぶ"目"を持つことが重要である。


「エコハウス・アワード2016」受賞作品
http://award.passivehouse-japan.org/2016/results/

「一般社団法人パッシブハウス・ジャパン」
http://passivehouse-japan.org/

2016年 04月07日 11時06分