電力小売りの完全自由化まで、あと半年

電力の完全自由化が2016年4月に実施される。その仕組みやこれまでの動き、今後の課題などについては2014年5月に「2016年の電力完全自由化で、家庭の電気料金は下がるのだろうか?」と題した記事でお届けしたが、いよいよ半年後に迫り準備段階も佳境を迎えつつある。参入を予定する事業者のプランも徐々に明らかになってきた。そこで今回は、2015年における市場整備の動向や、各社の取組みなどについて概観しておくことにしたい。

まずは、電力の完全自由化について簡単におさらいしておこう。電力の自由化は、既存の電力会社に限ることなく「誰でも発電をして売ることができ、そしてどの事業者から電力を買うことも自由」にするものである。日本において電力の部分自由化が始まったのは1995年のことであり、2005年には「50kW以上」も自由化の対象に加えられた。そのため、現時点でも工場やビルなど大口需要家や一定規模以上の建物など、国内の電力のうちおよそ6割はすでに自由化されている。そして、残りの4割を占める一般家庭を含めて「すべてが自由化」されるのが2016年4月だ。

マンションでは高圧契約による電力の「一括受電」がすでに導入されつつあるが、2016年4月には原則として一戸建て住宅を含めたすべての世帯で「電気をどこから買うのか」を選べるようになる。現実的には選択の余地があまりないケースも出てくるだろうが、自由化の仕組みについてはしっかりと理解しておきたいものである。

電力の完全自由化は一般家庭にも大きく影響する制度改革となる電力の完全自由化は一般家庭にも大きく影響する制度改革となる

2015年は完全自由化に向けた体制づくりが本格的に始動した

2015年4月1日に「電力広域的運営推進機関」が発足した。これは電気の過不足などを全国規模でチェックし、広域的な運用調整や需給調整を行う組織だ。また、電気の小売り事業者が送電線に接続する際のルール作成など、市場整備の役割も担うことになっている。

そして、2015年8月3日には経済産業省による登録受付が始まった。10月8日に経済産業省から「小売電気事業者」として40件の事前登録が公表されている。その前日までに申請があったのは延べ80件にのぼり、これらも順次登録が行われるようだ。これにより、電力小売りの完全自由化に向けた動きが実質的にスタートしたといえるだろう。

ちなみに、電力完全自由化後に一般家庭向けの販売をする「小売電気事業者」は、これまで届出制だった「特定規模電気事業者(PPS)」とは違い経済産業省によって審査が行われる。従来のPPSは2015年8月時点で734社が国に届け出ているものの、実際には稼働していないケースも多かった。だが、審査制になったことで「小売電気事業者」として申請をした事業者の実質稼働率は高くなるものと考えられる。

さらに、2015年9月1日には「電力取引監視等委員会」が発足した。これは「小売電気事業者」が消費者に対し料金体系などを適切に説明しているか、消費者に不利な取引がないか、新規事業者が不利に扱われていないかなどを監視し、公平な市場環境を整えることを目的とするものだ。

新規参入予定事業者ではさまざまな提携の動きがみられる

すでにPPSとして営業している「エネット」(NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスが出資する新電力)や「昭和シェル石油」「JX日鉱日石エネルギー」なども一般家庭向けの電力小売りに乗り出す予定だが、石油元売り系の「小売電気事業者」では電気契約者がガソリンを給油する際に割引くなど、セット販売が主な動きになるだろう。「ケイ・オプティコム」(関西電力系の通信会社)では、すでに事業化されているインターネット回線サービスと電気をセット販売することが計画されている。

また、2015年8月末には「楽天が丸紅と組んで電力小売りに乗り出す計画」であることが大きく報じられた。当面は「楽天市場」に出店する事業者を対象とするものの、それが軌道に乗れば一般家庭への電力小売りも検討するという。その他、通信サービスと電力のセット販売、中小スーパーと提携したポイント制の導入など、さまざまな企業が提携する動きもあるようだ。

その一方で、大阪ガスは電力と都市ガスをセットにして割安で販売するほか、東京ガスでも電力小売りへの参入が計画されているようだ。電力と同様に、都市ガスの小売りも2017年春に全面自由化される予定となっているため、既存の都市ガス事業者も大きな変革を迫られているのだ。電力だけでなく、ガス業界も巻き込んだ大競争が始まっているのである。

既存電力会社の取組みも進められている

電力の完全自由化を迎え撃つ側の大手電力会社(旧電力)も、着々と準備を進めているだろう。東京電力では、共通ポイントサービスの「Ponta(ポンタ)」や「Tポイント」と業務提携し、他社の商品販売やサービスと電気契約を組み合せた展開をするようだ。また、東京電力とUSENは2015年6月に「包括提携に向けた基本合意」を発表した。音楽配信サービスと電気をセット販売するほか、新たなサービスを共同開発することも検討されている。

九州電力は、利用者のライフスタイルの違いに柔軟な対応をするよう、新たな料金メニューを検討しているようだ。詳細はまだ明らかにされていないが、季節や昼間、夜間、平日、休日などの利用パターンを組み合わせ、きめ細かな時間帯区分から最適なものを選べるようにするという。

また、電力各社とドコモ、KDDI、ソフトバンクなどの提携による電気と通信のセット販売も、これから詳細が明らかになってくるだろう。

その一方で、セブン−イレブン・ジャパンが2015年10月から、関西の約1,000店舗で電力調達先を東京電力に切り替えることが大きく報じられた。2014年10月には関西地方と中部地方の「ヤマダ電機」が東京電力からの電力購入に踏み切っている。従来の区域を越えた「越境調達」はこれからも増えることが予想され、既存の大手電力会社間における競争も激しさを増していく。

電力完全自由化のゴールは5年後? まだ残される課題

電力の完全自由化後も、当面は送配電網を大手電力会社(旧電力)10社が独占する。新電力として参入する「小売電気事業者」は、その送配電網を利用しなければ電気の供給ができないため、「託送料金」(送配電網の使用料)が高く設定されれば事業の足かせとなりかねない。

その「託送料金」に関する審査は、電力取引監視等委員会により2015年9月4日から始まった。審査は年内に終わる予定とされているが、それがどう決まるのかによって一般家庭が支払う電気料金は大きく左右される。大手電力10社が申請した託送料金にはだいぶ幅があるが、一般的な家庭における電気料金の3分の1以上を占めることもあるようだ。託送料金が高く設定されれば電気料金はあまり安くならず、逆に託送料金が安すぎれば必要な長期設備投資が滞ることで需給が逼迫し、電気料金引上げの要因となりかねない。電力取引監視等委員会には微妙な舵取りも求められるだろう。

また、2020年4月には送配電部門を旧電力から切り離す「発送電分離」が行われる予定となっているが、分離後も旧電力のグループ内にとどまり、その影響力は残るものとみられている。そのため、託送料金が高水準のまま維持されることを危惧する意見もあるようだ。

さらに、2016年4月の完全自由化の時点では、国による電気料金規制が撤廃されることなく経過措置として残されることにも注意しなければならない。規制の撤廃は「発送電分離」に合わせて2020年4月となる予定だ。ただし、それによって電気料金が下がるという保証はなく、電気が供給不足の状態になれば価格が上昇することもあるだろう。電力完全自由化に関する一連の取組みが完了するのは5年近く先のことになり、現状では予測しづらい面も多い。

2015年4月に発足した「広域的運営推進機関」の職員は大手電力会社からの出向者が多く、公平なルールづくりが行われるかどうか、大手電力会社に有利なルールにならないか、などといった懸念もあるようだ。外部からはなかなか見えない部分も多いだろうが、関係者だけでなく消費者に対してもしっかりと情報を開示し、疑念を持たれることがないようにして欲しいものだ。

送配電網の「託送料金」は一般家庭が支払う電気料金を大きく左右する送配電網の「託送料金」は一般家庭が支払う電気料金を大きく左右する

2015年 10月11日 11時00分