日本海側より太平洋側、内陸部より沿岸部のリスクが高い

指標として取り入れられた項目一覧指標として取り入れられた項目一覧

地盤工学会関東支部「地盤リスクと法訴訟等の社会システムに関する研究委員会」が発表した自然災害に対するリスク指標GNS(Gross National Safety for natural desasters)は各種自然災害そのもののリスク(曝露量)とハード、ソフトの災害対策(脆弱性)を掛け合わせて、都道府県ごとの災害に対するリスクを指標化したもの。これまでの自然災害のリスクに関する指標が、どこで地震が起きた場合にどうなるといった、特定の災害に関するものが大半だったことを考えると、災害対策も含めた総合的な指標を志向したという点で新しい。

具体的に自然災害として想定したのは地震、津波、高潮、土砂災害、火山災害の5種類でそのうち、地震については海溝型地震、直下型地震の2種類について勘案してある。それもあり、指標全体に地震の影響が非常に強い。「日本海溝、南海トラフなどのある太平洋側は総じて海溝型地震の可能性が高く、その結果、全体として脆弱ということになり、海溝のない、津波の危険性も低い日本海側はそれに比して比較的安全ということになります」(横浜国立大学都市イノベーション研究院博士前期課程・下野勘智氏)。

同様に高潮、津波の影響を考えると、内陸部に比べ、沿岸部のほうが脆弱ということになる。実際、リスクが高い10自治体を見てみると、そのすべてが海に面しており、栃木県や群馬県のように内陸にある自治体はリスクが低いという結果となっている。今回もっともリスクが高いとされたのは徳島県だが、「徳島県は高潮、津波、地震のリスクが高く、それがこうした順位に反映されたと思われます」。

西日本ではハードの防災対策が遅れている

東京都の場合のソフト、ハードそれぞれの評価。円が全国平均でそこから外にはみ出している部分が不足分。内側にある部分が多いほど備えができているということになる東京都の場合のソフト、ハードそれぞれの評価。円が全国平均でそこから外にはみ出している部分が不足分。内側にある部分が多いほど備えができているということになる

災害対策はハードとソフトの2つに分けられる。ハードの対策は住宅や公共施設の耐震化率、木造住宅の割合やライフラインである上下水道の耐震化率など4つの項目に分けられ、さらにそれぞれに複数の項目が置かれている。ソフトの対策も同様に10万人当たりの医師数や自治体の財政力指数、高齢者人口指数、ハザードマップ公開率などといった5つの項目、さらにそれぞれの複数項目から構成されている。

こうしたデータを全国で並べてみて分かったことがある。ひとつは地域、自治体によって弱い部分が異なるという点である。「例えば、京都府、奈良県、大阪府や山口県、岡山県など西日本では総じてハードの対策が弱いことが分かりました。これは耐火性能の低い木造住宅が多い、水道の老朽化が進んでいることなどが主な要因と思われます。また、関東以北ではソフト面が弱い自治体が多いのですが、これは自治体の財政事情が良くないこと、高齢化が進んでいることなどが要因でしょう。また、地震保険の加入率は宮城県以外ではまだまだ低いことや、神奈川県以外の自治体では備蓄があまり足りていないことも分かりました」。

神奈川県以外に住んでいる人は、まず、我が家の備蓄を見直したほうが良さそうだし、地震保険も要見直しである。

弱点が分かれば効果的に防災対策を進められる

災害対策によってGNSを低くすることに成功している神奈川県災害対策によってGNSを低くすることに成功している神奈川県

もうひとつ分かったことは対策次第でリスクを減らすこともできるという点である。「たとえば東京都は自然災害そのもののリスクは全国で3位ですが、災害対策が全国でもトップレベルにあるので、全体でみると5位になっています。同様に神奈川県も6位が9位に。このランキングで伝えたかったのは、順位そのものではなく、その点です」。

防災対策のうち、不足している部分を知ることで災害に強い街作りができるのではないかというのである。「災害対策が進んでいる東京都や神奈川県でも道路密度は非常に高くなっています。これは東日本大震災時、帰宅する人で道路がごった返したことを思い出せば納得いくはず。だとしたら、道路整備を推進することが脆弱性をカバーするために効果的ということになります。また、首都圏では千葉県、埼玉県など医師数、病床数が非常に少ない自治体があり、ここも今後、強化していくべき部分ではないかと思います。医療に関しては被災があっても他地域から派遣されてくるから問題ないという意見もありますが、被災直後にすぐ手配できるかどうかと考えると、やはり、地元に一定数の医師がいたほうが安心でしょう」。

また、対策の打ちようがない、リスクが高すぎると判断される場合には、その土地に住まないようにするという手もあるとは東京都市大学工学部都市工学科准教授の伊藤和也氏。「被災を減らすためにはいろいろな選択肢があると思いますが、移住もそのひとつ。この指標は選択に当たってのひとつの判断材料です」。

低地に人口が集中する大都市圏は高リスク

報告書はホームページ上で見られるので一度チェックしてみてほしい報告書はホームページ上で見られるので一度チェックしてみてほしい

都道府県別の相対順位を見ていくと首都圏を筆頭に愛知県、大阪府など大都市圏のリスクが高いことがよく分かる。山地の多い日本では大都市は災害に弱い海沿いの低地に発展するしかなく、都市そのものがリスクとも言えるのである。その意味ではこの順位が大きく入れ替わる可能性は少ないが、それでも今後、変動の可能性はあるという。

「今回、この指標を作成している際に広島の土砂災害がありましたが、広島県のGNSランキングは高くはありませんでした。土砂災害は地震ほど広域に影響が及ぶ災害ではないので、順位に影響しなかったものと思います。一方、地震の影響が大きく出過ぎているのではないかという意見もあり、そのあたりを調整する可能性があります。また、GNS2015では洪水に関しては曝露量評価に取り入れられていません。それは河川災害は都道府県ではなく流域ごとでの災害評価がされており、上流県での越水等が下流県に影響を及ぼす、県境を超して影響する災害評価の組み込みについて結論が出ていないためです」(前出・伊藤氏)。こうした部分の検討が進めば、それに呼応して順位変動もありうるわけだ。

ちなみに今回、もっともリスクが低いとされたのは鳥取県。だが、だからと言って安心するのは早計だ。「直下型地震の可能性が低く計算されたため、リスクは最低となりましたが、鳥取県の海底には活断層があり、動く可能性があります。今回はそれを考慮しなかった結果ですが、今後、そこまで入れるとしたらどうなるか。いずれにしても、継続して指標を出し続けることで少しずつ精度を上げ、防災担当者などに役立つものにしていければと考えています」(前出・下野氏)。

災害については分かっていない部分もあり、また、防災対策は年々進む。となれば、継続することで順位も少しずつ変わるはず。その変化から自治体の防災への取り組み状況が分かると考えると、ぜひ、継続して出し続けていただきたいものである。

自然災害に対するリスク指標GNS 2015年版
http://www.jiban.or.jp/kantou/group/pdf/GNS2015.pdf

2015年 12月11日 11時07分