自然災害が起きることを前提とした土地利用が求められている

いまさら指摘するまでもないが、我が国はさまざまな自然災害のリスクと隣り合わせである。地震、火山噴火、台風や大雨による浸水、高潮、河川の氾濫による洪水、土砂崩れ、土石流など、人命や住宅の被害を伴う災害が毎年のように繰り返されている。近年は「ゲリラ豪雨」と呼ばれるような局地的集中豪雨や竜巻など突風による被害も増えているようだ。

1995年1月に起きた阪神・淡路大震災では、大都市を襲う直下型地震への認識を新たにした人も多かっただろう。2011年3月の東日本大震災では、大津波による猛威をまざまざと見せつけられた。2014年8月の豪雨によって引き起こされた広島市の住宅地における土砂災害の記憶も生々しい中で、2015年9月の「関東・東北豪雨」では茨城県、宮城県を中心に大きな被害を伴う事態となってしまった。

それ以外にも尊い人命が奪われる自然災害は枚挙にいとまがないが、そのリスクと土地利用の問題は切っても切れない関係だ。国土交通省がまとめた「平成26年度土地に関する動向」(土地白書)について、3回目となる今回は「自然災害の発生の可能性を踏まえた土地利用」と題された項目についてみていくことにしよう。

大規模災害の発生リスクは高い

大規模な自然災害のリスクについて、土地白書ではまず発生が懸念されている大地震を取り上げている。すでに各所で報じられているとおりであるが、地震調査研究推進本部地震調査委員会の想定で「今後30年以内に、南海トラフにおいてマグニチュード8〜9クラスの地震が、首都圏においてマグニチュード7クラスの地震が、それぞれ70%程度の確率で発生する」とするものだ。それ以外にも茨城県沖や三陸沖北部では、比較的大きなクラスの地震の発生確率が「90%以上」とされている。

しかし、阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)も東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)も、事前に何ら想定されていなかったことに留意しなければならない。現在、発生が想定されている大地震に備えることはもちろんだが、次の大地震がいつどこで起きるか分からないのだ。想定された地域とはまったく異なる場所で甚大な地震被害が起きることもあるだろう。

また、土地白書では気象庁のデータをもとに「1時間の降水量が50ミリや80ミリを超えるような降雨の発生頻度が経年的に増加している」ことを図で示しているが、最近では「気象の極端化」も指摘されるようになっている。局地的な集中豪雨もその一つであり、2011年8月の「紀伊半島豪雨」では累計雨量が1,000ミリを超える地域が続出している。広島市の住宅地を襲った局地的豪雨では、1時間に100ミリを超えるような大雨が数時間降り続いた。さらに、2015年9月に鬼怒川流域で降り続いた記録的豪雨では、気象庁が「これまでに経験したことのないような異常事態」と発表した後に、茨城県常総市をはじめとして堤防の決壊などが起き、大規模な被害が現実のものとなってしまった。

地震と同様に、大雨による被害も国内のあらゆる場所で起きる可能性があることを考えなければならないだろう。異常な雨が続けば土砂崩れなどに巻き込まれる可能性のある住宅地は、日本中の至るところに存在している。

1時間降水量80mm以上の年間観測回数「平成26年度土地に関する動向:国土交通省」より引用1時間降水量80mm以上の年間観測回数「平成26年度土地に関する動向:国土交通省」より引用

それぞれの地域における自然災害リスクを的確に知ることが欠かせないが……

地震や火山噴火、気象などを人の手でコントロールすることは不可能であり、インフラの整備によって被害を防止することにも限界がある。「自然災害は必ず発生する」ということを前提にして、一人ひとりが土地との関わり方、住まい方を考えていくことが必要だろう。

余談ながら、鬼怒川の堤防決壊による被害があった後に若い世代の人と話をする機会があった。「河川の治水対策が進んだ現代の首都圏で、堤防の決壊などもう起きないと思っていた」ようであるが、決してそのようなことはない。異常気象が増えている状況からすれば、これから浸水被害の発生頻度が高まることも考えられる。

土地白書には、全国の市町村における各種ハザードマップの公表状況がまとめられている。「洪水ハザードマップ」は対象となる1,311市町村のうち1,284市町村(97.9%)が公表済みとするなど、整備は比較的進んでいるようだ。その一方で、高潮ハザードマップは対象となる645市町村のうち公表済みが18.8%の121町村にとどまる。内水ハザードマップは42.6%、土砂災害ハザードマップは14.5%の市町村が未公表だ。火山ハザードマップも対象47火山のうち10火山は公表されていない。

これらのハザードマップを作成して公表することは重要であるが、公表すればそれでよいのではなく、内容を住民に周知させ、災害防止、災害軽減に生かすことが求められる。鬼怒川の氾濫、堤防決壊で大きな被害を受けた茨城県常総市では、ハザードマップに示されたのとおおむね一致する浸水域となったものの、十分に活用されていなかったことが報道されている。住民がその地域における自然災害リスクを理解したうえで、災害が起こりそうなときにはどうするべきか、災害が起きたときにはどうしなければならないのかを判断できるよう、防災体制づくりを考えていかなければならないのだ。

住民が個々の土地や地域における災害リスクを理解するためには、不動産取引がまたとない絶好の機会でもある。土地白書には「不動産取引に係る情報の集約・提供」として「不動産総合データベース」(防災関連情報、過去の取引履歴、周辺環境に関する情報などを集約したシステム)の導入に向けた取組みなどがまとめられているが、情報提供だけにとどまらず、さらに一歩進んで防災対策を考える機会となるような運用があってもよいように感じられる。

土地白書では「国土調査の推進」として地籍調査および土地分類基本調査の状況についてもまとめられているが、とくに地籍調査の遅れは深刻である。地籍調査の結果は土地取引やインフラ整備などに役立てられるだけでなく、事前防災や被災後の復旧・復興の迅速化に欠かせないものとされている。ところが、1951年に始まり半世紀以上を経た地籍調査の進捗率(2015年3月末現在)は全国で51%にとどまり、千葉、神奈川、石川、福井、岐阜、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、奈良の11府県では20%に満たない。そのため、当面は大規模災害の被災想定地域において重点的に地籍整備を推進することとしている。

地籍調査の進捗率「平成26年度土地に関する動向:国土交通省」より引用地籍調査の進捗率「平成26年度土地に関する動向:国土交通省」より引用

防災のための土地利用制限なら理解を得やすい傾向もみられる

自然災害による被害の抑制、軽減を図るためには、極論すれば「危険性の高い土地を使わないこと」が有効である。しかしながら、住民や土地所有者の理解を得ることは困難であり、防災上の観点からいくつかの土地利用規制を設けるのにとどまる。基本的には「土地を使うためにはこうしなさい」という規制であり、土地利用そのものを禁止する内容ではない。

国土交通省が実施した「土地問題に関する国民の意識調査」(2014年度)の結果が土地白書に紹介されている。「土地の公共性という点から、土地の利用に当たって、所有者の権利が公共の利益のために制限を受けてもよいと思うか」という質問に対して、2014年度は33.0%の人が「そう思う」と回答した。東日本大震災後に実施された2011年度調査では24.1%であり、権利の制限に対する人々の意識は変わりつつあるようだ。ただし、「そうは思わない」とする回答も2011年度の30.9%から、2014年度は32.7%へ増加しており、いずれも「そう思う」という回答を上回っていることに留意すべきだ。

また、上記の質問で「そう思う」とはしなかった人を対象に、「災害に強いまちづくりを進めていくため、公共施設を整備したり、危険な土地の利用を抑制する必要がある場合に、土地の所有者の権利が制限されることについてどう考えるか」という質問をした結果では、「所有者の権利が制限を受けてもよい」または「制限を受けてもよいが、住民の理解と協力を前提にすべきである」とする回答が58.4%に達した。「公共のため」の土地利用制限には否定的であっても、「防災のため」の土地利用制限なら肯定する傾向がみられるようである。

土地白書には「各地における先進的な取組」として、「リスク等に応じた土地利用規制」を行う愛知県名古屋市の事例、「公共施設等の高台移転等」を実施する和歌山県串本町の事例、「津波防災地域づくり推進計画に基づく土地利用の見直しの検討」をする静岡県焼津市の事例、「復興自治体における土地利用の転換」を図る宮城県東松島市・女川町、岩手県大船渡市の事例が紹介されている。具体的な内容は土地白書を参照していただきたい。

防災、減災のためにはさまざまな関係者の連携が欠かせない

自然災害が発生した際には、被害を最小限に食い止めるために地域ごとの取組みが果たす役割も大きい。土地白書では、社会問題となっている低・未利用地、空き地などを地域の避難場所に活用する取組みなどが紹介されているほか、地域住民、事業者、地権者などが連携して防災活動にあたる事例などが取り上げられた。単に空間を確保するだけでなく、地域的な活動や交流が災害時に重要な人的ネットワークの構築に結びつくことも指摘されている。

住宅地における各地の取組みとして、土地白書には「密集市街地における住民主体による農地の維持管理」(東京都墨田区)、「密集市街地の危険空き家の除却と地域住民による跡地管理」(長崎県長崎市)、「地域住民等が主体的に関与した避難路の確保」(高知県土佐市、和歌山県田辺市)、「防災力強化マンション認定制度」(大阪市)の事例が紹介されている。また、商業地における取組みとして「オフィス地権者の連携による帰宅困難者用のスペースや備蓄倉庫等の確保」(東京都大手町・丸の内・有楽町地区)の事例も取り上げられている。それぞれの詳細は土地白書を参照していただきたい。

また、土地白書には2011年に内閣府および国土交通省が実施した「『津波避難ビル等』に関する実態調査」および国土交通政策研究所が実施した「マンションと地域の共助による地域防災力強化に関する調査研究」の結果が紹介されている。「津波避難ビル等」に関する実態調査では、市町村から「津波避難ビル等」の指定を受けた施設のうち、マンションなどの民間住宅が21.6%を占め、学校の17.9%、ホテルの14.5%、事務所等の13.3%を上回っている状況が明らかにされた。「マンションと地域の共助による地域防災力強化に関する調査研究」では、管理組合、町内会、管理会社がいずれも「マンションと地域の共助により防災・減災に取り組むことの必要性」を強く認識しているという結果が示されている。

いずれにしても、大きな自然災害はこれからも「必ず起きる」のだ。その前提のうえで、国、都道府県、市町村、地域住民、企業などが連携し、防災対策、減災対策に取り組むことが欠かせないだろう。

2015年 10月05日 11時08分