復興にブレーキをかける『法令の壁』とは?

前回の【被災地住宅復興の現状と課題とは?①】では、東日本大震災の被災地における住宅復興の現状について紹介したが、今回は本来速やかに進められるべき復興にブレーキをかけている『法令の壁』についてレポートする。

被災地の復興計画にあたっては、国土交通省のガイダンスに基づき、各自治体の行政が主導となって様々な法令が定められているが、中でも海沿い地域で暮らしてきた被災者を悩ませているのは『土地の買取りにまつわる問題』と『住宅の建築制限』だ。

■リンク:【被災地住宅復興の現状と課題とは?①】
http://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00187/

▲高台移転の住宅地を造成するために切り崩された周辺の山々の土砂は、海沿い地域のかさ上げに利用される。<br />当初はトラックの往復によって土砂の運搬作業をおこなってきたが、<br />作業効率を高めるため、海と山とを結ぶ巨大なベルトコンベアが出現した。<br />このベルトコンベアに載せて運搬される土砂は1日に約2万m3にも及ぶという(2014年6月、岩手県陸前高田市にて撮影)▲高台移転の住宅地を造成するために切り崩された周辺の山々の土砂は、海沿い地域のかさ上げに利用される。
当初はトラックの往復によって土砂の運搬作業をおこなってきたが、
作業効率を高めるため、海と山とを結ぶ巨大なベルトコンベアが出現した。
このベルトコンベアに載せて運搬される土砂は1日に約2万m3にも及ぶという(2014年6月、岩手県陸前高田市にて撮影)

津波被害によって『家』が流され、
残された『土地』まで失うという現実

▲もともと地元紙の新聞記者だった木下さん。現在は、自らの被災体験や取材に基づく執筆活動に加え、全国で防災をテーマにした講演等をおこないながら、被災地が現在抱える様々な課題について訴え続けている
▲もともと地元紙の新聞記者だった木下さん。現在は、自らの被災体験や取材に基づく執筆活動に加え、全国で防災をテーマにした講演等をおこないながら、被災地が現在抱える様々な課題について訴え続けている

前回レポートでもご登場いただいたフリーライターの木下繁喜さん(岩手県大船渡市在住)は、被災者に“唯一残された財産”ともいえる土地の買い取り価格を知って愕然としたという。

「大船渡市では、5世帯以上まとまって高台へ移転する人たちの宅地跡地は、市が買い取ってくれることになっています。

これはわたしの知人の話ですが、知人の自宅の宅地は60坪で、市から提示された買取り価格は一坪3万円。これは地価公示価格などに基づいて算出されたもので、60坪×3万円ではすべて売却しても180万円にしかならないことがわかりました。

そればかりか、高台へ移転する場合は市が造成した高台の土地を市から買い取らなくてはいけません。市から提示された売り渡し価格は一坪5万円。つまり、先ほどの買取り価格と比較すると、坪当たり2万円の持ち出しとなってしまうのです。

もちろん“買い取ってもらえるだけ良い”という意見もありますが、はたしてこれで被災者の生活再建が本当にできるのでしょうか?」(木下さん談)。

災害危険区域における法令の壁

▲災害危険区域となった海沿いの旧住宅地の風景。津波の威力に耐え残った住宅に、いま主の姿はない(2014年6月、岩手県大船渡市にて撮影)▲災害危険区域となった海沿いの旧住宅地の風景。津波の威力に耐え残った住宅に、いま主の姿はない(2014年6月、岩手県大船渡市にて撮影)

木下さんによると、東日本大震災の浸水エリアの中には市町村から『災害危険区域』に指定され、現在は建物の建築規制がかけられている地域があるという。

「災害危険区域は、建築基準法に基づき、自治体が条例を定めて災害の危険がある場所を指定し、住宅の新築や増改築を制限するものです。

わたしが暮らしている大船渡市では、震災から1年8ヶ月経った平成24年11月に『災害危険区域』の指定検討について地元紙で報道され、市⺠の多くはその報道を見て初めて『災害危険区域』というものがあることを知りました。

大船渡市の場合は、東日本大震災クラスの津波が襲来した場合に想定される浸水の深さによって エリアが4段階に分けられています。浸水深が約2メートル以上のエリアが『第一種区域』です。2メートル未満は『第二種区域』で、その区域は3段階に分類されました。

『第二種区域』の場合は、宅地のかさ上げや建物構造・階数などが条件に合えば、建築が認められますが、“居室や寝室は2階に設けるように”などと、日常生活の居室の場所まで指定されます。また、『第一種区域』では、住宅の建設が全面的に禁止され、店舗兼用住宅も建てることができません。

これまで店舗兼用住宅に暮らしてきた人たちが、『第一種区域』に商店や事務所を構える場合、住居は別の場所に建てなくてはならず、二重負担になってしまいます。『第一種区域』の住宅跡地も市は買い取ってくれますが、買い取り価格は震災前の実勢価格の半分ほどでしょうか」(木下さん談)。

この他にも、旧市街地エリアで進められている『土地区画整理事業』の対象区域では、その土地の所有者から市町村に対して土地の一部を提供する『減歩(げんぶ)』が課せられており、大切な財産である土地が法令に基づいて“召し上げられている”事例もあると聞く。

もちろん、こうした行政の定める法令については、『もう二度と東日本大震災のような大きな被害に遭わないためのルール』であることを地域住民も承知しているのだが、いざ、そのルールに従って生活再建をおこなおうとすると、被災者である住民個人では簡単に解決できない難問が山積しているのだ。

現在の問題を教訓として、
被災者支援を軸とした災害法令作りに期待

▲土砂運搬のための巨大なベルトコンベアの奥に、復興のシンボル『奇跡の一本松』を望む(2014年6月、岩手県陸前高田市にて撮影)▲土砂運搬のための巨大なベルトコンベアの奥に、復興のシンボル『奇跡の一本松』を望む(2014年6月、岩手県陸前高田市にて撮影)

「現在、被災地が抱えている様々な問題は、わたしたち被災者だけの問題ではありません。今後わたしたちが日本で暮らし続ける以上、同様の災害が起こったときに必ず地域住民が直面する問題なのです。

一部では“行政批判”と捉えられるかもしれませんが、わたし自身は、こうして被災地の現状を広く伝えることで、これを教訓として後世の災害法令作りに生かせるようになれば…と考えています」と木下さん。

『地域住民の生活再建なくして、被災地の復興はない』
今回の取材を通して、深く印象に残ったのが木下さんのこの言葉だった。

鉄道が開通した、商業施設がオープンした…といった“目に見える復興”も大切だが、何より被災者の皆さんが“平和で穏やかな毎日の生活を取り戻すことができた”と感じることができてこそ、真の復興と言えるのだろう。

被災地の外で暮らしている私たちにできることはあまりにも微力ではあるが、今後も被災地の速やかな復興を願い、見守り続けたいと思う。

2014年 08月12日 11時21分