発災後用意される応急仮設住宅とはどのようなものか

東日本大震災発災から2015年で丸4年。この間、日本は豪雪、豪雨やそれによる土砂災害、竜巻など様々な自然災害に見舞われた。今後も東海、東南海、首都直下といくつもの地震発生の可能性が取り沙汰されている。国土の状況から鑑みて自然災害は避けられないものなのだ。だとしたら、気になるのは災害に遭って自宅が全壊した場合、どのような救済が受けられるのかという点。ここでは東日本大震災後にどのような経緯で仮設住宅が手配されたか、その過程で浮かび上がった問題点などを知り、今後の災害に向けて備えていこう。


大規模災害が発生した場合、国は災害発生直後の避難所に続き、復旧期には災害救助法に基づいて住宅を失った被災者の住居を早急に確保することとなっている。これには公営住宅の利用のほか、大きく分けて応急建設住宅、応急借上げ住宅の2種類がある。前者は被災後に建てられるプレハブ住宅を意味し、東日本大震災まではこれが主流だった。だが、被災後に建設するため、通常3~4週間ほど、インフラ整備も含めるとそれ以上の時間が必要で、かつ1棟あたり600~700万円前後の建設費(平成25年1月時点。厚生労働省調べ)、撤去時の廃棄物処理などが必要になってくる。一方で被災地近くの立地が可能、同じ場所でまとまった戸数を確保できる、入居者への効率的な生活支援、情報提供が容易というメリットもあるのだが、東日本大震災の場合には被災者数が多く、また、場所によっては住宅建設に適する土地がないこともあり、比較的短期間に提供が可能な応急借上げ住宅が多用されることになった。

「東日本大震災では、民間賃貸住宅を借上げる方式で対処した例が多いのですが、世の中一般としても既存の住宅を活用する方向に向かっているように、今後の災害では民間賃貸住宅を利用することが大きな選択肢になってきます。実際、内閣府でも自治体に向けて活用事例を紹介する冊子を作るなど借上げ住宅を仮設とする動きを後押ししています」(平成24年度、25年度に『大規模災害時における災害弱者等への安心・安全な住まい確保方策に関する調査研究会』の座長を務めた弁護士の佐藤貴美さん)。

被災後、時期に合わせてどのような住宅が必要とされるかをまとめたもの。全国宅地建物取引業協会の報告書より抜粋被災後、時期に合わせてどのような住宅が必要とされるかをまとめたもの。全国宅地建物取引業協会の報告書より抜粋

事前に災害協定は結ばれているものの、詳細は決まっておらず

仮設住宅は2年限定を前提に作っているため、長期利用するとなると補強その他が必要になり、コストがかかる。また、居住性能で考えれば借上げ住宅のほうが上だという仮設住宅は2年限定を前提に作っているため、長期利用するとなると補強その他が必要になり、コストがかかる。また、居住性能で考えれば借上げ住宅のほうが上だという

民間賃貸住宅を仮設住宅として利用するとなると、当然、そこには不動産会社が絡んでくる。そのため、都道府県と各地の宅地建物取引業協会(以下協会と略す)では平成10年の新潟県に始まり、順次協定を結び、災害時には地域の防災計画あるいは災害救助法に則って協会が情報を提供、無償で契約業務に協力することを約している。だが、東日本大震災では協定が結ばれていても、詳細が決められていないなど実際の運用にあたっては問題も多いことが露呈した。東北3県でそれぞれ事情は異なるが、今回は宮城県仙台市でどのようなことが起きていたのかを聞いてきた。

「発災翌日、宮城県宅地建物取引業協会の入っている建物玄関に県建築宅地課からの災害復旧の応援(民間賃貸住宅の借上げ)への協力要請が貼られているのを見つけ、3月14日から対応することに。加盟各社に物件情報を報告してもらうように依頼、その情報を県の建築宅地課に報告し始めました」(宮城県宅地建物取引業協会副会長・大城秀峰さん)。

とはいえ、停電で電話連絡ができない、不動産会社も大家さんも被災者で自分たちの管理物件、自宅、自社の様子を把握する作業が優先される、パンク状態の避難所から移動したいと伝手を頼って物件を探す人もいるなどの事情から当初は情報が思うように集まらなかった。

「情報が出てきても自主避難をしている人がすぐに借りてしまい、消えて行ってしまうのです。普通に借りたい人が大勢いる状況で災害協定に基づき、無償で情報提供、契約を行うことを会員に強いるわけにはいきません。そこで県に0.5カ月分の仲介手数料(*)を出してもらいたいと依頼しました」。

非常事態に仲介手数料を取るとは何事かという意見もあろうが、仮設住宅建設では建築費はきちんと支払われる。その一方で情報の提供、下見その他の手配や契約といったソフトのサービスは無料というのはバランスが悪い。また、ボランティアは無償でやるものという意見もあるが、ボランティアは本業があってのボランティア。ところが、不動産会社にとって仲介は本業である。不動産会社自身も事業を再建しなくてはいけないのに、本業を無料で行うことは業界そのものの再建を妨げる結果になりはしないか。特に借上げ住宅が多く必要とされる激甚災害においては仲介手数料はきちんと支払われるべきではないかと思う。

(*)これまでの災害協定では無償となっていたケースが多いが、今回の事態を踏まえて大規模な災害の場合、被災者が協力する場合などには仲介手数料0.5カ月(実際にここに消費税がプラスされる)とするなど、新たに協定を追加するケースが出てきている。

借上げ住宅の家賃、広さなどの条件を決めるために2週間が費やされた

宮城県庁と仙台市役所は道を挟んで隣り合う。距離は近いのだが、共同作業はそうそう簡単にはいかない(工事中の建物は総合庁舎)宮城県庁と仙台市役所は道を挟んで隣り合う。距離は近いのだが、共同作業はそうそう簡単にはいかない(工事中の建物は総合庁舎)

当初の災害協定では情報を提供、契約を締結するという点だけが約されていたのだが、県に情報を提供しても被災者がやりとりするのは市町村であり、自治体に住宅斡旋のノウハウがあるわけではない。また、3月24日には宮城県が災害救助法に基づく応急仮設住宅として民間の賃貸住宅を利用するという情報が入ったものの、この時点では家賃、広さ、設備その他、借上げに際しての条件すら決まってもいなかった。

「4月1日に家賃の上限が8万9,000円と決まるまでに2週間近くかかりました。この間、県だけでなく、直接被災者と接する仙台市も一緒になって応急借上げ制度を運用していくことを提案、全体コーディネートは県、詳細は市と私たちの協会が当たることになりました」。災害協定は都道府県と協会の間に結ばれているため、市町村は本来、当事者ではない。だが、実務は市町村がやることになるため、協会はこうした提案をしたのだが、当初は良い顔をされなかったという。行政の仕組みとは面倒なものである。

条件が決まったタイミングで県の担当部署が建築宅地課から福祉総務課に変更になる。ささいなことのようだが、福祉関係の部署には賃貸住宅の契約についての知識がない。そのため、協会では4月12日に仙台市内の大きな避難所等で入居希望のアンケート、説明会を実施するまでの間、担当者に賃貸のイロハを説明したという。他県では元々住宅関連の部署が担当になっていたところもあり、自治体差はかなりあった様子である。

被災者でもある不動産会社に向けられた暴言

被災後の仮設住宅事情などに詳しい弁護士の佐藤さん。今後のために改善の余地は多々あるという被災後の仮設住宅事情などに詳しい弁護士の佐藤さん。今後のために改善の余地は多々あるという

4月15日になり、仙台市は市内のファミリー向け物件236件を借上げ、募集を開始する。これは県の決断を待たずに市が独自で判断したもので、ここに至ってようやく、物件が動いたことになる。だが、市がここで協会に要請したのは、担当が福祉関係の部署だったからであろう、災害弱者である高齢の独居老人、障害のある人たちを優先した住まい探し。

「そもそも民間の賃貸住宅では平時でもそうした方向けの物件が少ない。いくら被災直後で助け合おうという気持ちがあったとしても、設備的にも難しく、要請を受けた時点で無理だと思いました。でも、言下にダメと言ってもご理解いただけないだろうと、事務局は1週間、不動産会社、大家さんに電話をかけまくりましたが、受け入れて頂けたのは1~2件ほど。その事情を説明して、ようやく、一般の方の住まい探しを始めることになりました」。

4月12日に説明会などを行っていたにも関わらず、こうした事情から電話で入居希望者、大家さん双方の意思を確認するマッチング作業が始まったのは4月18日になってから。この数日間の遅れに腹を立てた人も多かったようで、マッチングにあたる不動産会社の人たちは数々の理不尽な言葉を投げつけられた。

「4月12日のアンケートは第三希望までを聞く手厚いものでした。それがあったためか、被災者には過度に期待があったようで、沿岸部には物件がないにも関わらず、そこに住みたいと言い張ったり、何丁目何番地まで指定するなど条件が厳しく、それで見つからないとなるとなんで見つからないと切れられたり、今まで何をやっていたんだなどと詰め寄られたり。堪りかねて『私も被災者なんですよ』と言った人もいます」。

どれだけ応急借り上げとして提供できる物件があるかは誰も把握していない

ところが、協会のマッチング作業とは別に自力で住まいを探す被災者も多かったことから、4月27日からは被災を証明する資格証があれば自分で探した住まいも借上げ住宅とする方式が導入される。さらに4月30日には発災以降に被災者が自ら契約した物件についてもすべて、契約を県名義で借上げの対象とすることが厚生労働省から通知された。

「借上げ住宅の対象がどんどん広がっていったわけで、これで対象となる住戸が大きく増えました。当初は1,000戸~2,000戸くらいと言われていましたが、こうした緩和策の結果、5,000戸、8,000戸と伸び、最終的には宮城県全体で2万戸強の住宅が借り上げられることになりました」。

ちなみに福島県では2万4,000戸強、岩手県では3,000戸強、そして他県で借りられているものまでを入れると全体では6万戸強の住宅が借上げ住宅として利用されることになった。これについて前述の佐藤さんは問題点を挙げる。

「現状では不動産会社、協会、国のいずれも大家さんの数、応急借り上げ住宅として活用できる空室がどのくらいあるのかなどの全体像を把握できていません。今回も、普段流通していない物件が供給されるなどの僥倖もあり、必要な数の提供ができたところです。今後は普段流通していない物件も含めた不動産データの把握方法等も検討されるべきでしょう。同時に有事に協力してもらえる大家さんを確保しておくことも大事です」。

続いては物件の設備の整備から家賃支払いの確認まで続いたトラブル、そして今後の問題点を見ていこう。

2015年 03月11日 11時09分