地震にねばり強いだけじゃない、「木組みの家」の魅力
日本の伝統構法を用いた「木組みの家」。前回記事では、金物を使わず、継手・仕口と呼ばれる加工した木の凹凸を組み合わせてつくる「木組み」の魅力を紹介した。木のしなやかな特性を活かすことで、地震の揺れにもねばり強く耐える先人の知恵。同じ木造住宅といっても、プレカットで作られる家とは大きな違いがあった。
伝統構法を用いた「木組みの家」の良さはこれだけではない。土壁や設計によって環境性能も高めることも可能で、燃費の良い家をつくることができる。
また、松井氏が代表理事を務める“ワークショップ「き」組”では、作り手たちが連携し、森と伝統技術を守る仕組みを構築している。
前回同様、松井郁夫建築設計事務所で伝統構法を用いた「木組みの家」の高い環境性能や森を守る仕組みについて伺った。
湿度調節も自然にこなす、生き物である「木」
まずは、環境性能としての利点を見ていこう。伝統構法といっても明確に規定があるわけではない。そこで、「木組みの家」では「伝統構法木造住宅の定義」以下に設定している。①が生き物である木の特性を生かし地震などへの粘り強さを発揮するとしたら、②は環境性能を高める知恵だ。
--------------------------------------------------------------------------------------------
① 丸太や製材した木材を使用し、木の特性である「めり込み」や「摩擦」を生かした日本古来の継手・仕口によって組み上げた金物に頼らない軸組構法で作る住宅(伝統構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会:構法歴史部会)。
② 無垢の木や土などの自然素材を使い、吸放湿や蓄熱性能をもち、深い軒や庇で日射を遮蔽し、日当たりと風通しのよい開放的な間取りの木造住宅
--------------------------------------------------------------------------------------------
「木組みの家」では、エアコンなどに頼らなくても、快適な空間を実現できるという。そのためには、無垢の木材を使用し、ビニールクロスなどではなく土の壁を使うこともポイントだ。
木というのは、生き物。貼り合わせや塗装をしていない木を無垢材と言うが、この表面を拡大してみると細かな孔が開いているそうだ。そのため、湿度が高い時には空気中の水分を吸いこみ、孔の中に吸着する。逆に室内が乾いているときには、孔から水分を吐き出すことになる。これは、土も同じで細かな孔が湿度調整をしてくれる。この二つの条件がそろうと断然心地よい空間が作られる。
「特にこれからの梅雨の季節、自然の湿度調節というのは効果を発揮します。無垢の板と土壁で作った木組みの家の中に入ると、スーっと汗が引いていきます。人間も化学繊維の下着を着るよりも、綿素材を身につけた方が汗をすってくれて心地良いですよね。家も同じ。コンクリートやビニールよりも、呼吸をしている自然素材でつくられた空間の方が断然、居心地が良いわけです」(松井氏)
猛暑日にもエアコンは使わずに済む!?
さらに、「木組みの家」が古民家などの伝統的家屋に学んでいるのが「風通しの確保と、日射しを遮る軒の使い方」だ。風通しに徹底的にこだわり、日射しをコントロールするために、深い庇が使われる。夏の日射しを遮りながら、冬の日射しと熱量を享受できるよう軒の深さが設計されるのだ。
また、最近の新築住宅からは消えてしまった「縁側」も、温熱をコントロールするための昔の人の知恵。太陽の恩恵を受けながら、温熱環境をコントロールする優れた緩衝地になる。そこで、木組みの家ではこの知恵も現代に生かす。
「敷地条件の厳しい都市部の住宅では、なかなか縁側を設けることはできませんが、木組みの家では、部屋の内部に“縁”を設けて温熱のコントロールを行っています」(松井氏)
こうした自然素材の組み合わせと、設計上の風通しと日射しのコントロールでエアコンに頼らない家づくりを実現する「木組みの家」。ある都内の例では、昨年の猛暑の中でもエアコンを使用したのはたったの数日で済んだという事例もあるほどだ。
「木組みの家」は日本の森林を守る家
さらに、「木組みの家」では、木を単なる消費財とは考えずに、循環型の資源と捉え、日本の森林を守る仕組みが考えられている。
「国産の木材の価格は、外在に押され、いまや40年前の価格にまで落ちています。そのため、日本の森林は植林や手入れができずに荒れてしまいました。これでは、日本の山はダメになってしまう。そこで、我々は木組みの家を作り続けられるように、日本の山を守る仕組みづくりをしたのです」(松井氏)
具体的には、このような仕組みだ。木材の取引価格というのは、現在では1m3(立米)あたり5万円くらいが相場だという。しかし、これでは山に数千円しか還元されない。そこで同社では山から木を10万円で買い付けている。この価格であれば山に1万5000円程度が還元され、植林や間伐の作業費が確保できる。もちろん家づくりに使われた木材が、どの山のものでいつ切られて出荷されたか、バーコード管理を行いトレーサビリティも徹底される。木材には証明書がついていて、切り出された山に植林のための費用が確実に戻る仕組みになっている。
「山というのは、単に木を育ててくれるだけの場所ではありません。日本人の生活、もっと言ってしまえば命を守るために欠かせない環境をつくるのです。例えば日本の海では、海岸線が徐々に減っているのですが、それには山も関係しています。間伐ができずに山に木がありすぎるため、砂がきちんと海にまで流れてこない。山が荒れて養分が流れてこないと、プランクトンなどの発生にも関係しますから、当然魚の成長などにも関わってくる。日本の森林の荒廃は海にも及ぶ大きな環境問題なのです」(松井氏)
住まい手、業者、山、みんながWin―Winになれる家づくり
しかし、木材の仕入れ値段が住宅の建設費用に跳ね返ってこないのだろうか? 当然疑問になるが、ここは家づくりの企業間でコストバランスの適正化と見える化を行い、価格を抑えることにも成功している。
どういうことかというと、設計者、林業、工務店、職人と家づくりを担う関係者間で信頼できるネットワークを作り、コストをガラス張りにすることで無駄なマージンやあいまいな価格設定を排除。なるべく木材の地産地消を実現し、輸送費もカットする。木材は規格寸法を守り、特注材を避けることでも価格の安定を図る。
細かな努力を重ねることで木組みの家での建築費は、表のような内訳となり、25坪の木造住宅で2000万円程度の価格を実現する。2003年にはこうした努力が評価され「グッドデザイン・ビジネスモデル賞」を受賞している。
「もちろん、施主さんの理解も必要です。なんでもいいから安くという考え方では難しい。伝統を生かした家をつくるには、きちんとした材料、技が必要です。大工の手間賃や木材費用を必要以上に削ることはできません。丈夫な骨格に予算を回すために、キッチンなどの設備に費用をかけすぎないことも時にご提案します。設計者、林業、工務店、職人、そして住まい手と、家をつくる人々が信頼関係をきちんと築いてこそ生きつづける家がつくれるのだと思うのです」(松井氏)
安全で、住みやすく、そして長く住める家とはどういうものなのか? それを追求した家づくりには、日本の伝統に還るという新たな選択肢を加える必要がありそうだ。
次回は、都内にある「木組みの家」での取材の模様をご紹介したい。「木組みの家」の住み心地とは? 住まい手の方のリアルな感想をお届けする。
2014年 07月01日 11時01分