林業や木材への興味が湧いてくる青春ストーリー

料理の材料となる農産物が畑で収穫されていることは容易に想像できる。しかし、家の材料となる木材が森で育てられて伐採されるということはなかなか頭に浮かびにくい。林業は日本の住まいづくりを支える重要な仕事なのだが、多くの人にとってなじみのない世界となっている。

そんな知られざる林業を題材にした映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』が公開され、話題になっている。脚本・監督を務めたのは、『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』などで知られる矢口史靖監督。男子だけのシンクロナイズドスイミングや女子高生によるビッグバンドなど、ユニークな視点で作品を創り出してきた矢口監督は、本作では都会の若者が山奥の村で林業の魅力に惹かれていく姿をコミカルな青春ストーリーに仕上げた。

テンポよいストーリー展開もさることながら、吹き替えなしで俳優自らが演じたという林業シーンや、スクリーンいっぱいに広がる森の木々など、リアルで迫力ある映像が印象的。木材市場での競りの様子や、木造住宅の建築工事といったシーンもあり、家は木材から作られていることをあらためて実感することができた。

矢口監督は本作を作るなかで林業や木について、どんな想いを抱いていたのだろう? 矢口監督にお話を伺うことができた。

※矢口監督出席のトークイベントに関するレポート記事も合わせてお読みください。
<青春林業映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』のトークイベントに参加して>
http://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00144/


●『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』
2014年5月10日(土)より全国東宝系にて公開
【監督・脚本】 矢口史靖
【出演】染谷将太、 長澤まさみ、伊藤英明
【原作】『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店刊)
【映画公式サイト】
http://www.woodjob.jp/

矢口史靖監督/1967年神奈川県出身。1993年に『素足のピクニック』で劇場監督デビュー。主な監督作は『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』『ロボジー』など

矢口史靖監督/1967年神奈川県出身。1993年に『素足のピクニック』で劇場監督デビュー。主な監督作は『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』『ロボジー』など

この映画を撮って、「森や木を見る目」が変わった

主人公・平野勇気(染谷将太)はパンフレットの表紙の美女(長澤まさみ)に惹かれ、林業研修プログラムに参加。先輩の飯田ヨキに(伊藤英明)にしごかれて成長する
    Ⓒ2014「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会
主人公・平野勇気(染谷将太)はパンフレットの表紙の美女(長澤まさみ)に惹かれ、林業研修プログラムに参加。先輩の飯田ヨキに(伊藤英明)にしごかれて成長する     Ⓒ2014「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会

そもそも矢口監督は、林業のどんなところに惹かれて映画にしようと思ったのだろう?

「実は林業はどんなことをしているのか、まったくわからないし、考えたことすらなかったんです。ところが三浦しをんさんの原作を読んでみたら、危険だけど壮大で魅力的でかっこいいと思ったんです。映画の大きなスクリーンに映すことで林業の仕事をしている風景を伝えることができる。そんな予感がありました。ですから林業のシーンは役者さん本人に体当たりでやってもらおうと。吹き替えとかCGを使ってはいけないと思いました」と、矢口監督はふり返る。

演じる俳優たちに現地で林業訓練を受けてもらい、チェーンソーの扱いなどをマスターしてもらったといい、矢口監督自身も撮影前にはロケ地である三重県などで約9ヵ月間に渡って取材を重ね、林業に関する知識を深めた。

「最初はスギとヒノキの違いすらわからなかったんです」と矢口監督は打ち明けるが、森の樹木を見てスギとヒノキの違いを一瞬でわかる人というのは多数派ではないだろう。

「でも取材や撮影の間にはいつも森と接していたので、幹を見ただけでスギとヒノキの違いがわかるようになりました。意外だったのは、スギの木肌がきれいだったこと。高級なイメージのあるヒノキよりも、スギのほうが木肌の質が緻密で均一だなと思ったんです。スギの種類にもよるのかもしれませんが、新鮮な発見でした」

木を見て、森も見ていた矢口監督。
スギやヒノキなどは植えてから50年以上たたないと、家を建てる材木に使える太い木にはならない。そうしたことも取材のプロセスで知ったという。
「木材を伐り出すための森は自然にできあがったものではなく、林業家の方たちが長い時間をかけてつくっている。そんなこともこの映画を作って知りました。間伐(※1)や、高い木に登って枝打ち(※2)をするといった手入れをしているからこそ、木材として使える木に育っている。それを知ってしまったら、森を見る目が変わりました。今回、映画のキャンペーンで全国を回りましたが、移動中にもつい山に目が行きまして、手つかずの森が多いことも気になってしまうんです。人手が足りていないとかいろいろな理由があるのでしょうけれど、早く誰かが森をなんとかしなければ、と思うようになりました。この映画がきっかけで林業に興味をもつ若い人が増えるといいなと思っています」

(※1)間伐
森林の中を明るく保ち、スギやヒノキなどをまっすぐに育てるために必要な作業。混みあった森林から、曲がったり弱ってしまっている木を取り除く。
(※2)枝打ち
幹から枝がのびたままにしておくと、木材にしたとき、枝のつけ根は「ふし」という、色が悪くてかたい部分になってしまう。こうした「ふし」のないまっすぐな木にするために、「枝打ち」という、枝を切り落とす作業を行なう。

日本は森林大国にもかかわらず、国内産木材の需要が低迷している

『WOOD JOB!(ウッジョブ)』のなかでも描かれているように、林業は100年先の未来に木材が使われることを見据えた仕事。林業家は手塩にかけて木を大切に育て上げているのだ。が、しかし、そうした国産の木材があまり利用されていないという厳しい現実がある。

ここで日本の木材の利用状況について説明しておきたい。

日本は国土のおよそ3分の2が森林で覆われ、木材資源が豊富な世界有数の森の国だ。にもかかわらず、木材の輸入国でもあるという。日本の森で産出される国産木材の自給率は27.9%。日本で使われている木材のうち、約70%がアメリカやカナダ、マレーシアなどからの外国産材となっている(※3)。国産木材の利用が低迷している背景には、鉄筋コンクリートやパネルなど、木材以外の建築材料を使った建築物の増加、景気動向や人口減少などの影響による住宅着工数の伸び悩みなど、さまざまな理由が挙げられる。

国産の木材の利用が進まないことは、つまりは国産木材の需要が減っているということ。林業で働く人たちの収入にも影響する問題で、そうしたことも原因となって林業で働く人たちの数が減り続けている。総務省「国勢調査」によると、1980年には約16万5000人の人たちが就業していたのが、年々減少していき、2010年には約6万9000人となっている。

(※3)
参考資料:林野庁「木材需給表」(平成24年)

国産木材の利用を進めるために

「林業の天才」と称される林業家ヨキを演じた伊藤英明
Ⓒ2014「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会

「林業の天才」と称される林業家ヨキを演じた伊藤英明 Ⓒ2014「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会

林業で働く人が減少すると、手入れや定期的な伐採をされない森が増えてくる。前述の矢口監督のコメントにあるような「手つかずの森」だ。

この「手つかずの森」が増えると、さまざまな問題が起きてくる。まず、農山村の活力の低下といった問題にも直面することになるだろう。そして、自然災害が起こりやすくなる。枝が密生して地面に日光が当たらなくなると、下草が生えず、土がむきだしになる。とすると、雨水と一緒に土の表面が流れてしまうようになり、土壌が失われて土砂崩れがおこりやすくなる。また、土壌が失われると植えられた木が弱ってしまい、寄生虫などが発生しやすくなってやがては枯れてしまう。そうなると、森自体が失われてしまうことにもなりかねない。森には空気中の二酸化炭素を吸収する働きがあるのだが、森が枯れてしまうとそうした機能も低下することになり、環境保全の面からも問題が起きてくる。

そんなことを考えると、木を植えて木を育て、木を伐採するという林業の担い手が増えること、そして伐採して製材された木を消費者が使うことがいかに重要なことなのか、わかってくる。

林野庁では国産木材の利用を進めるために、2013年4月から「木材利用ポイント」事業を始めている。スギやヒノキ、カラマツなど国産木材を使って住宅の新築や改築をした場合や、国産木材の製品を購入するとポイントをもらえ、地域の農林水産品や他の木材製品と交換できるというものだ。当初はポイントの対象となる住宅の工事着手・木材製品などの購入期間を2014年3月31日までとしていたのだが、2014年9月30日までに延長された(※4)。住宅の新築やリフォーム、家具の購入を考えている人はこの事業の活用を考えてみてもいいだろう。

(※4)
木材利用ポイント事業:条件などによって、ポイントがもらえる対象期間が異なる。
木材利用ポイント事務局 http://mokuzai-points.jp/

日本古来の木の家には「経年美化」の魅力がある

矢口監督に木材を使った住まいについて聞いてみた。
「実は僕、柱や梁が見えるような日本家屋が大好きなんです。そういう日本古来の木の家は、年月がたつにつれ、太陽光や酸素にふれたりして木の色がどんどん変化していく。それは経年劣化ではなくて、“経年美化”です。時を重ねるごとに味わいがでてどんどんかっこよくなっていく。だから大好きなんです」

そんな「経年美化」の建物を見るために、江戸東京たてもの園(東京都小金井市)にしょっちゅう訪れていた時期もあったという。このたてもの園は江戸時代から昭和初期までの民家や商店など復元建造物が立ち並ぶ野外博物館だ。園内にある「子宝湯」は昭和初期の東京に建てられた銭湯で、宮崎駿監督のアニメーション映画『千と千尋の神隠し』に登場する湯屋のモデルになったといわれている。
「この子宝湯の建物もそうですが、木の建物のなかにいると落ち着きます。子どものころ、木造の住宅で育ったからなのかもしれません。木の匂いも大好きです」

映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)』のロケ地になった三重県津市の美杉にも、「古くて素敵な建物がたくさん残っていました」と、矢口監督は話す。それらを本作の撮影でも利用している。例えば、登場人物が住んでいる家は柱や梁がむき出しの古い日本家屋だし、小学校も古い木造校舎。
「どこも実際には住む人や使う人がいなくなっている空き家なんです。こういう空き家は美杉のそこかしこで見かけられました。そうした古い民家がこの先、どうなるのか気になります。仮に外から移住してきた人がいたとしても、水回りの修理の問題などもあって、そのまま住むのはむずかしいという話も聞いています。住宅としての再利用が厳しいようなら、例えば江戸東京たてもの園のようなところに移築して『“WOOD JOB!(ウッジョブ)”で使われた家』というようなことで残してもらう方法もあるかなと勝手に思っていますが、いずれにしてもなんとか残してほしいですね」

青春林業ストーリーの舞台になった古い木造の建物にも、想いを馳せる矢口監督。
「今どきの日本の住まいは構造材の上に壁が貼られていたり、木が見えない造りが多いので、木の家に住んでいる感覚を持ちにくいように感じます。それではもったいない。木のよさを味わえる家がもっと普及すればいいなと思います。日本の住宅に使うなら日本の気候と土壌で育った国産の木のほうがあうと思うので、木材利用ポイント事業もあることですし、この映画が家づくりの木材に興味をもつきっかけにもなるといいですね」

この映画によって林業の担い手が増え、林業家が森で収穫した木を使う人が増えていくことを期待したい。

ロケ地となった三重県津市の美杉は、原作の小説で神去村のモデルになった林業地
Ⓒ2014「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会
ロケ地となった三重県津市の美杉は、原作の小説で神去村のモデルになった林業地 Ⓒ2014「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会

2014年 05月16日 11時27分