
新築物件の価格高騰に伴い、中古物件市場が活性化しています。中古住宅は、築年数やメンテナンス状況により、品質にばらつきがあるため、売買の際に「インスペクション(調査)」が行われるケースが増えています。
このインスペクションの中でも、宅建業法により定められた「建物状況調査」の概要や実施するメリットについて、一般社団法人住宅あんしん検査の松井正也氏と株式会社住宅あんしん保証の五十嵐敬光氏に話を聞きました。
建物状況調査を利用する人は増加傾向
―中古物件の建物状況調査では、どの程度、「何らかの不具合」が確認されるものなのでしょうか?
松井正也氏(以下、松井):弊社が行っている建物状況調査の結果を見てみると、全体の8割に何らかの不具合が出ています。そのうちの約7割が、雨水の浸入を防止する部分に関するものです。
具体的にはシーリング材や外壁材であったり、バルコニーの防水材であったり、そういった箇所に不具合があるといったところです。
―建物状況調査には、どれぐらい時間がかかるのでしょうか?
松井:戸建てとマンションでは多少異なりますが、調査に要する時間は1時間から2時間程度です。建物状況調査の資格(既存住宅状況調査技術者)を取得している建築士が調査を行います。
基本的に目視での確認になりますが、一部の項目については機器等を使って計測します。例えば、床の傾きの有無を計測したり、基礎の中の鉄筋の位置や本数を探査したり、マンションでは、コンクリートの強度測定を行う場合もあります。また、屋根裏や床下についても目視にて不具合等がないかを確認します。
―これまでどのぐらいの数の建物が調査されているのでしょうか?
松井:弊社の調査実績は累計で2万件(2023年9月時点)を超えています。そして、現在も毎月調査件数が増えているという状況です。
―建物状況調査が増えている背景には中古住宅市場の活況があるのでしょうか?
松井:「建物調査をしたい」という買主側からの依頼が、制度開始の2018年当時に比べて非常に増えています。「まず検査で状態を見て、問題がなければ買いたい」あるいは「不具合の有無を把握した上で買いたい」という人が多いですね。
その上で、「さらに保証を受けられるなら利用したい」と考える方が増えているという状況です。
建物状況調査を受けることでかし保証を利用することができる
―建物状況調査が必要な理由として、今お話しいただいた「かし(瑕疵)保証」を受けることができるという点がありますが、そもそも「かし保証」とは、どのような仕組みなのでしょうか?
松井:中古住宅の売主が不動産会社以外(個人の方など)の一般的なケースを対象に説明します。

この場合、建物調査を実施した調査会社がかし保証を提供します。調査会社は、自ら調査を実施した中古住宅の買主に対して確実にその保証を行うため、瑕疵保険に加入して保証をサービスとして提供するのです。弊社もこのような保証サービスを提供する調査会社(上記スキーム図中の「検査機関(保証者)」)にあたります。
保証内容は、住宅の基本構造部分のかし(瑕疵;不具合等)を対象としており、具体的には構造躯体や雨水の浸入を防止する部分に「瑕疵」があった場合に、その修繕にかかる費用を補償するものです。さらに、オプションで給排水管路についてもその対象に加えることができます。保証期間は1年、2年または5年のいずれかで、保証金の支払限度額は期間中通算で500万円または1,000万円で、いずれも保証を提供する調査会社が選択します。
例えば、「実際に雨漏りが生じた」という場合には、保証を提供する調査会社がそれを確認し、住宅の瑕疵(かし)に原因があると認められれば、調査会社が修繕にかかる費用を支払い、補償します。
調査会社は、自らが加入する瑕疵保険の保険金の支払いを受けることで、買主に対して確実な保証を提供できる、という仕組みです。
―売主の立場から見ると、売却した物件に何らかの不具合があって、追加で何らかの費用が必要になるリスクがあるわけですが、そこをカバーできるわけですね。
五十嵐敬光氏(以下、五十嵐):一般的には、売買契約上、売主は「契約不適合責任」を負うこととなります。この責任を負っている期間中に、責任を負う対象となる不具合が見つかった場合、買主に対して、損害賠償等の責任を果たさなければなりません。その対象には住宅の構造躯体・雨漏りに関するものが含まれます。
ただ、売主がお住まいのときには雨漏りに気付けなかったケースというのも少なくありません。建物状況調査を実施することで雨漏りの跡が見つかった場合、さらに調査を要する場合もありますが、こうしたケースを想定すると売買対象の住宅の現状を把握するのには、調査実施は有用です。
しかしながら、雨漏りなどの事象は目視ではどうしても見つからないというケースもあります。その場合でも、売主が責任を負う期間中にこれらの不具合等が見つかれば、売主は買主に補償しなければならないのは同じです。
つまり、予期せぬ費用負担が生じる可能性があります。雨漏りの場合、時が経つほどその影響や被害が拡がるリスクがあり、弊社での保険金お支払い実績からしても100万円を超えるような支出となる場合もあります。
もっとも、かし保証(かし保険)への加入で、契約不適合責任のすべてをカバーできるものではありません(かしによらない経年劣化やシロアリ被害などの補償対象外事由がある)が、主要な基本構造部分や給排水管路のかしによる損害が補償される点で、建物状況調査の実施に加えて、かし保証(かし保険)の利用は中古住宅の売主にとって予期せぬリスクへの備えとして有効だと思います。
―買主がかし保証を利用するメリットは、どのようなものでしょうか?
松井:まず、建物状況調査の実施により、買主は、事前に購入しようとする住宅の現状を把握し、また不具合などにも対処しておける点で安心して物件を購入することができます。また、購入する前に不具合の指摘を受けていれば、リフォームをする際の費用などについても事前に見積もることができます。これを長期的な修繕の計画に活かすことができるというメリットもあるしょう。
加えて、かし保証を利用することで、住宅の基本構造部分のかしによる損害に備えることができ、万が一、かしが発覚した場合においても、確実な補修が可能となる点でも、より安心してお取引をしていただけるものと思います。
先ほど売主の立場から契約不適合責任について述べていましたが、買主にとっては購入した住宅での生活がスタートする以上、売主が契約不適合責任を負う期間を過ぎても、かし保証の保証期間にわたり、裏付けのある確実な保証が受けられる点でも大いにメリットを感じていただけるのではないかと思います。
また、かし保証(かし保険)に加入していた場合は、紛争処理制度を利用することもできます。弁護士や建築士の専門家相談なども利用でき、さらに売買契約に関してトラブルに発展するような場合には紛争処理にも応じてもらえますので、不測の事態が生じても中立的な立場から対処してもらうことができます。
この点については、買主にとっても、売主にとっても、また売買に携わる不動産会社にとっても、メリットになると言えるでしょう。
まずは調査を行うことで安心の不動産売買を

―調査やかし保険に対応しているかどうか、というのは不動産会社を選ぶ基準を一つになり得るわけですね。
五十嵐:住宅瑕疵担保責任保険協会のアンケート結果によれば、かし保険を知っている人はわずか2割ほどですが、その概要を説明すると「ぜひ入りたい」「できれば入りたい」という人が6割を超えます。つまり、「内容を理解すれば、多くの人が利用したい」と考えるわけです。
実際、売却の委任を受ける際に建物状況調査の費用を負担する仲介不動産会社さんも増えてきています。顧客の費用負担であっても調査会社などを紹介して対応しますという会社さんもありますね。建物状況調査やかし保証(かし保険)について是非とも不動産会社さんに確認していただき、どのように対応してもらえるか聞いてみるとよいでしょう。
参照:瑕疵保証に対応している不動産会社 - LIFULL HOME'S
―今後も建物状況調査の需要は増えていくと思いますか?
松井:増えると思います。特に現在は、新築物件価格が高騰しているため、中古物件の取引が増加するはずです。中古住宅だからこそ、状態を把握した上で売買することが重要であり、建物状況調査の需要は増えるものと考えています。
建物状況調査は、買主にとってはメリットしかないと思いますが、売主側からすると、「短期的には調査で不具合が発見されることで価値が下がるかもしれない」という不安もあるかもしれません。ただ、長期的に、引渡し後の不具合に対するリスクを抑えることができるというメリットがあります。
例えば、相続物件の場合、売主にあたる相続人が当該物件に住んでいないというケースが多いと考えられます。そうした物件の状況が明確でない場合には、事前に建物状況調査をしておいた方が、後々、何らかの対応が必要になるリスクを抑えることができるのではないでしょうか。
現実問題として、「自分が購入する物件が雨漏りするかもしれない」と考える人は、少ないでしょう。しかし、中古車を買うときに点検履歴を確認するのと同じように、不動産についても調査を行うのは自然なことではないでしょうか。
ましてや、自動車と比較しても家の方がはるかに高額な買い物になるわけですから、特に買主さんは建物状況調査を依頼してほしいと思いますね。
五十嵐:実際に、建物状況調査やかし保証を利用された買主や、売主、不動産会社の方も含めて皆さん「やっておいてよかった」とおっしゃっていただけますが、実際に利用する前にそのメリットをイメージしていただくことが難しい部分もあります。
例えば、健康診断は、定期的に受けていますよね。多少面倒に思うかもしれませんが、結果として受けておいて安心できる面があると思います。また、年齢を重ねれば、万が一の場合に備えて、人間ドックもそろそろ受けておこうかという気持ちにもなると思います。そういった感覚で、建物状況調査とかし保証は、中古住宅を売買する場合には必須であり、当然付けておいた方が良いもの、という位置づけで捉えていただけたらと思います。
―ユーザーとしても、こうした調査や保証の仕組みがあることを知っておいた方が良いですね。
松井:先程紹介した調査結果のように「知らなかった」「説明してくれたら、やったのに」と言った話も多いので、やはり売買取引にあたっては知っておいた方が良いと思います。
建物状況調査やかし保証(かし保険)は不動産会社にあっせんしてもらうものなので、まずは不動産会社の担当者に相談してみると良いでしょう。