賃貸物件もストック時代。「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の役割とは?

賃貸住宅の管理は、徐々にその役割を変えつつある。
2020年6月19日に公布され、2021年6月15日に全面施行された「賃貸住宅管理業法」の法整備により、「維持保全」は管理会社の不随的な業務ではなく、法的に位置づけられた物件管理の中心へと引き上げられた。

かつて賃貸管理の中心は、入居者募集や家賃管理、クレーム対応といった“賃貸物件の運営”にスキルとリソースが置かれてきた。しかし現在は、建物ストックの老朽化といったオーナーの資産を守る課題を背景に、“建物そのものの価値を守る”ことの重要性が注目されてきている。単に入居者を募集し空室をなくすだけでなく、「選ばれる建物であり続けるか」「物件資産価値を落とさないか」が問われる時代になったのだ。

そのため、場当たり的な修繕ではなく、長期的視点に立った修繕計画や予防保全が重要となる。設備の更新タイミングや外装の劣化状況を見極め、先手を打ってメンテナンスしていくことで、結果的にコストの最適化と資産価値の維持につながる。さらに、省エネ性能や快適性といった入居者への付加価値の対策も今後の重要なテーマとなるだろう。

こうした流れの中で、管理会社に求められる役割は単なる管理代行から、建物の価値を維持・向上させる「物件資産マネジメント」へ移行していく。
その鍵を握るのが、“建物を守るスキル”である。入居者対応やリーシング力に加え、劣化を見極める専門性、適切な修繕判断、そしてオーナーへの提案力までを含めた総合力こそが、これからの競争力を決定づける重要な要素となっていく。「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度はそういった課題に焦点をあてた対策の一つである。

この記事では、公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会(※以降、日管協と記載)が推進する「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度と、現場での活用事例について伝える。

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の公式テキスト「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の公式テキスト

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の内容とは

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の資格者が担う業務は、建物の維持保全の実務に集約される。
賃貸住宅管理業法の趣旨に準じてその内容は多岐にわたるが、主に以下のような能力を備えた人材の輩出に適している。

① 建物・設備の点検・診断
外壁、屋根、共用部、給排水設備、電気設備、消防設備などについて定期的に点検を行い、劣化や不具合の有無を把握する。目視点検だけでなく、必要に応じて専門業者と連携し、より詳細な診断を実施。

② 劣化状況の評価・リスク判断
点検結果をもとに、劣化の進行度や安全性への影響を評価。緊急対応が必要か、経過観察でよいかなど、優先順位を判断する。

③ 修繕・更新の計画立案
短期的な補修から中長期の大規模修繕まで、建物のライフサイクルを見据えた修繕計画を策定。コストと効果のバランスを考慮しながら最適なタイミングを検討する。

④ オーナーへの提案・説明
点検結果や修繕の必要性、将来的なリスクについて、専門知識のないオーナーにも分かりやすく説明し、意思決定を支援する。見積内容や工事の優先順位についての助言も行う。

⑤ 修繕・工事の手配・管理
施工業者の選定、見積取得、工事発注、工程管理、完了確認までを一貫して管理。品質やコスト、工期の適正化を図る。

⑥ トラブル・不具合対応
漏水、設備故障、外装の破損などの突発的なトラブルに対し、迅速に状況を把握し、応急対応および恒久対策を講じる。

⑦ 維持管理記録の作成・管理
点検履歴、修繕履歴、設備更新の記録などを蓄積し、建物の状態を時系列で把握できるようにする。将来の修繕計画や資産評価にも活用される重要なデータとなる。

⑧ 法令・基準への適合確認
消防法や建築基準法など関連法令に基づく点検・報告が適切に行われているかを確認し、必要な対応を行う。

これらの業務を通じて、賃貸住宅メンテナンス主任者は「不具合が起きてから直す」管理から、「不具合を未然に防ぐ」管理への転換を現場で支える存在となる。単なる作業担当ではなく、建物の価値を長期的に守るための司令塔としての役割が期待されている。

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の学習プログラム「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の学習プログラム

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度創設の意図と業界の未来とは ~日管協 塩見会長インタビュー

<b>塩見 紀昭:</b>株式会社明和住販流通センター代表取締役。賃貸住宅管理業界の発展に長年携わり、現在は公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会長、一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会副会長などを務める塩見 紀昭:株式会社明和住販流通センター代表取締役。賃貸住宅管理業界の発展に長年携わり、現在は公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会長、一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会副会長などを務める

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度創設の意図について、発案者でもある日管協会長の塩見 紀昭氏にお話を聞いてきた。

――創設から瞬く間に受講資格者が3万5000人を超えた「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度ですが、まずは企画された経緯や、当時の課題感について教えてください。

塩見会長:私は2020年に会長を引き継ぎましたが、この資格の創設は私の就任時における「1丁目1番地」の目標でした。長年この業界にいて感じていたのは、家賃の設定や滞納対応、契約書の作成といった「ソフト面」の知識や経験は豊富に蓄積されている一方で、建物の構造や設備などの「ハード面」の知識が非常に乏しいということでした。例えば、水道のクレームが来たら、仕組みを分からずにただ業者さんに丸投げしてしまうような状況が多く見受けられました。

――建物を管理しているにもかかわらず、建物の仕組み自体を知らないという課題があったのですね。

塩見会長:そうです。分譲マンションには管理業務主任者などの資格があり、仕組みや設備に関する書籍も豊富にあります。しかし、賃貸住宅に特化したメンテナンスの資格や書籍は存在しませんでした。ちょうど2020年に賃貸住宅管理業法が施行され、我々の仕事として「建物の維持保全」が定義されましたが、建物を維持保全するためにはまず建物のことを知らなければなりません。これからは建物を壊して新しく建てるのではなく、良い住宅を長持ちさせるストックの時代であり、そのためには絶対にメンテナンスが必要です。一級建築士のような高度な専門知識ではなくとも、建物を理解するための基本的なベースを作りたかったというのが、大きな意図としてあります。

「建物のハードや設備が分かる、管理のプロフェッショナルというキャリアアップのための資格」という塩見会長「建物のハードや設備が分かる、管理のプロフェッショナルというキャリアアップのための資格」という塩見会長

――この資格が広まっていくことで、賃貸管理業界にどのような影響を与えていくと期待されていますか?

塩見会長: 第一に、資格を持つことで建物に対する責任を明確にするだけでなく、現場で働く方々の「プロフェッショナル」としての意識やプライドを醸成していくことです。これまで不動産取引の延長として見られがちだった管理の仕事に、建物のハードや設備がわかるプロフェッショナルという、全く新しいキャリアの道ができるのではないかと思っています。また、業界の立ち位置を変えるきっかけにもなると考えています。これまでは建築側が優位に立ち、管理側はどこか下請けのようなイメージを持たれがちでした。しかし、我々がしっかりとメンテナンスを行い、オーナー様に対して長期修繕計画やリフォームの提案ができるようになれば、お互いが支え合う関係性を築くことができます。

――「受け身」の管理から、「提案型」の管理へと変わっていくということでしょうか。

塩見会長: その通りです。アメリカの管理業を視察した際に強く感じたのは、彼らの提案能力の高さです。日本ではクレームや事故が起きてから直すという「事後対応」になりがちですが、これからは「賃貸住宅のお医者さん」のように、問題が起きる前に予知・予防の提案をしていくことが求められます。この資格が、受け身の姿勢から抜け出し、積極的に提案できる能力を高めるきっかけになればと期待しています。

――建物を深く知ることで、日々の管理業務への向き合い方も変わりそうですね。

塩見会長: はい。すべてをアウトソーシングして人に任せてしまうと、自分の担当物件が「自分ごと」になりません。建物の仕組みを知ることで、担当する物件に対して愛着を持ち、「もっときれいにしたい」「見に行きたい」と思うようになるはずです。入居者様は、部屋の空間だけでなく、エントランスやエレベーターを含めた建物全体の機能に対して家賃を払ってくださっています。我々が物件に愛を持ってメンテナンスを行い、「美しい愛のある賃貸」を提供することで、入居者様に安心・安全・快適に住んでいただき、オーナー様の資産を守る。そんな好循環が業界全体に生まれてくれることを強く願っています。

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の資格活用による効果 ~テナントリテンションにつながる貢献効果

株式会社賃貸コーポレーション 鈴鹿支店 宮原さん株式会社賃貸コーポレーション 鈴鹿支店 宮原さん

すでに多くの資格者を輩出している「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度だが、実際に現場ではどのような変化が起こっているのであろうか?
日管協の会員である株式会社賃貸コーポレーション 鈴鹿支店の宮原さんにその効果を聞いた。

「この資格の意義は、建物設備の安全管理と安定した運用を行い“建物の資産価値と入居者の安心・安全を守ること”にあると考えています。この資格で得た知識は、オーナー様の大切な建物の資産価値を維持・保護することに直結します。実際の業務においては、屋根や消防設備、水回りなどに関する基礎知識が身についたことで、点検時の異常の早期発見や、トラブル発生時の初期対応の質が大きく向上しました。
その結果、オーナー様や専門業者、そして入居者様に対して、根拠のある説明ができるようになり、日常点検や記録の重要性を関係者間で共有しやすくなったことも大きなメリットです。さらにこの資格は単なる管理業務向上にとどまらず、テナントリテンションにも結びついています。十分な知識があるからこそ、オーナー様に対してやることとやらないことを明確に切り分け、説得力のある提案ができるようになりました。物件のことを一緒に真剣に考える姿勢が“管理を任せられる”というオーナー様からの信頼に繋がっています。
現在私の会社では、社員全員がこの資格を取得する方針をとっています。資格で得られる内容は初期対応において実用的だと実感していますが、今後は最新の建物設備についても、初期対応や導入に関する詳細な知識をさらに勉強し、アップデートしていきたいと思っています」と話してくれた。

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の資格活用による効果~業務改善につながる貢献効果

共同住宅やオフィスビルのクリーンメンテナンスを中心に行っている株式会社たてものサービス共同住宅やオフィスビルのクリーンメンテナンスを中心に行っている株式会社たてものサービス

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の資格取得者は営業や管理現場の活用だけではない。事務が中心の業務の改善にも役立っているということだ。
日管協の会員であり、共同住宅やオフィスビルのクリーンメンテナンスを中心に行っている株式会社たてものサービスの樋口さんに事務観点での効果を聞いた。

「弊社は社長の方針もあり、ビルクリーニングやハウスクリーニングの資格取得を積極的に奨めていました。現在、全員が賃貸住宅メンテナンス主任者の資格を取得しています。この資格取得の最大の効果は、日々の事務業務やスタッフ間のコミュニケーションの質が飛躍的に向上したことです。
資格を通して建物の正確な名称や専門知識を学んだことで、清掃報告書などの履歴を確認・運用する際、以前よりも的確な確認ができるようになりました。具体的には、現場スタッフへの指示出しが具体的になり、異常発生時の判断の精度や対応スピードが上がっています。知識を学ぶことで現場に直接足を運ばなくても、写真などから適切な指示が出せるようになったこともサービス品質の向上に大きく貢献しています。
また、事務の作業についても、報告書の確認作業に大きな効果がありました。以前は簡単な項目の箇所チェックにとどまっていましたが、今では資格の知識を活かして、メンテナンスの必要箇所の追加や確認ができるようになりました。これにより担当者ごとの対応のばらつきが減り、事務業務の標準化ができてきました。今後はマニュアル化に活かしていけると思っています。
専門知識が身についたことで社員に自信が生まれ、顧客に対してより良い提案ができるようになるなど、プロフェッショナル性の底上げにつながっています。
今後は、報告書の写真や情報から異常箇所を深く考えられる視点を活かし、修繕の傾向分析や管理会社様やオーナー様へ建物の資産価値向上に繋がる提案を行っていくなど、資格の効果をさらに発展させていきたいと思います」という。

持続可能な住まいを次世代へ―「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度が果たす社会的使命―

<b>倉石 誠司:</b>国土交通省 不動産・建設経済局不動産業課長倉石 誠司:国土交通省 不動産・建設経済局不動産業課長

国土交通省もこの制度について、期待を寄せている。

国土交通省 不動産・建設経済局不動産業課長 倉石 誠司氏は、
「賃貸住宅管理業においては、建物の老朽化や設備の不具合等への対応が重要な課題としてクローズアップされる中、先般、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が創設した『賃貸住宅メンテナンス主任者認定制度』は、賃貸住宅に特化した建物の維持保全の知識を幅広く習得する、時代の要請に即した新たな人材育成の取組です。この制度を通じて、設備管理等のハード面における賃貸住宅管理のプロフェッショナルが育成され、そのことによって我が国の賃貸住宅管理業の質がさらに向上し、確固たる信頼を得る契機となることを期待します。
なお、昨年度に開催された「賃貸住宅管理業のあり方の検討に係る有識者会議」のとりまとめにおいて、将来的な賃貸住宅管理業の評価制度の創設に向けた検討に着手することが示されました。これは、入居者や賃貸住宅のオーナーが管理の質を適切に把握できる環境を整備することにより、市場全体における品質および専門性の向上を図ることを目的とするものです。賃貸住宅メンテナンス主任者制度の一層の進展は、こうした評価制度の下で高い評価を支える基盤となるとともに、賃貸住宅管理業全体の質の向上に寄与するものと考えます。
また、メンテナンス主任者の活躍により、建物の長寿命化や省エネルギー化、防災・防犯対策を通じて入居者の安全と快適性を守るだけでなく、地域の景観や環境を維持し、空き家の増加の抑制や地域コミュニティの安定にも貢献することが期待できます。
このように、賃貸住宅管理業の未来は、これからの管理業務を担う皆様の双肩にかかっています。皆様がプロフェッショナルとして幅広い知識を身につけ、豊かな経験を積み、賃貸住宅の安全・安心の実現に向けて、より一層ご活躍いただくことを願っています。国土交通省としても、賃貸住宅管理業が健全に発展し、皆様に誇りと使命感を持って働いていただけるよう、引き続き尽力してまいります」とメッセージをおくった。

賃貸住宅がストック時代へと移行する中、「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度の知識は、これからの不動産管理において不可欠になりそうだ。単なる問い合わせや管理対応から脱却し、専門知識に基づく予防保全やオーナーへの先手をうった提案を行うことで、物件の資産価値を守り入居者に安心と快適な暮らしを提供するプロフェッショナルスキルとなる。
こうしたハード面の管理プロフェッショナルの育成は、建物の長寿命化や環境維持など、社会的な課題解決にもつながるといえる。

「賃貸住宅メンテナンス主任者」認定制度は“賃貸住宅のお医者さん”として、物件管理と資産保全に大きな役割と効果を生み、ストック住宅の品質を支える中心的な役割を果たすことが期待される。

■取材協力
公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会
https://www.jpm.jp/

賃貸住宅メンテナンス主任者試験
https://www.jpm.jp/maintenance/