「面積は狭いのに、価格は高い」マンションの課題を解決に導く収納サービス

2022年1月、不動産経済研究所から発表された『首都圏新築マンション平均価格(2021年)』は、前年比2.9%上昇の6,260万円となり、バブル期の6,123万円(1990年)以来31年ぶりに過去最高を更新した。

一部では「東京五輪後に首都圏のマンション価格は下落する」と噂されていたが、コロナ禍における住替えニーズも追い風となって、マンション価格はいまだ高止まり。同時に、首都圏の新築マンションの平均面積は年々縮小傾向にあり「面積は狭いのに、価格は高い」という悩ましい状況が続いている。

そんな「高さ(価格)」と「狭さ(面積)」の課題を解決に導く救世主的存在として、いま注目を集めているのが「外部収納サービス」だ。

「家の中にあふれるモノを“家の外”に保管することができれば、多少家が狭くても快適な生活を送ることができる」→「面積の狭い住戸を選べば購入価格を抑えることができ、長い目で見て住居費の削減につながる」───そんな好循環にいち早く着目し、2017年からトランクルーム業界で前例のない「配送“無料”の宅配型トランクルームサービス」をスタートさせたのが『エアトランク』だ。代表取締役社長の福岡英成氏に同サービス誕生の経緯を聞いた。

▲『エアトランク』のホームページ画面。近年の新築マンションの「価格高騰」と「面積縮小」の影響を受け、同社の宅配型トランクルームを導入するマンションデベロッパーが増えている▲『エアトランク』のホームページ画面。近年の新築マンションの「価格高騰」と「面積縮小」の影響を受け、同社の宅配型トランクルームを導入するマンションデベロッパーが増えている

知らない間に勝手に荷物が増えていく…を何とかしたい

「僕自身はこれまで、ホテル業・飲食業の経験を経て、美容室予約サイト等の“ゼロイチ事業”を手掛けてきたのですが、40代半ばにさしかかり“人生の集大成”となるビジネスモデルをつくりたいと考えていました。テーマは衣・食・住というカテゴリーの中にあるもので、より暮らしが便利になること、多くの人の課題を解決できること。いくつか事業モデルをつくり、最終的に残ったのが『エアトランク』でした」(以下、「」内は福岡氏談)

発案のきっかけは福岡氏自身が抱える住まいへの課題だった。子どもと暮らしていると知らない間に勝手に荷物が増えていく。収納が足りないと思いながらも、気軽に広い家に引越すことはできない。そんな時に「いまトランクルーム事業が伸びている」という情報をキャッチした。

「6年ぐらい前のことだったと思います。ちょうど近所に業界最大手のトランクルームがあったので見に行ってみると、すべて満室状態。トランクルームの存在自体は知っていましたが“こんなにたくさん利用者がいるんだ”と正直驚きました。しかし、そこで疑問に感じたのは使い勝手の悪さ。“いちいち自分で荷物を持ち込んで、また取り出すのは面倒くさいだろうな”と。

調べてみると、当時から宅配型のトランクルームサービスは存在していたのですが、デリバリーに毎回お金がかかるシステムで、自分のモノを定期的に取り出すのに配送料がかかる点がすごく使いづらいと思いました。そこで、もっとユーザーに向いたトランクルームサービスを自分でつくろうと思い立ったわけです」

▲株式会社エアトランク 代表取締役社長の福岡英成氏。「もともとデジタル領域とアナログ領域を融合したビジネスモデルが自分には合っていたので、ラストワンマイル(生活者や企業に対して通信接続を提供する最後の区間)を持つことが大きな価値になると考えていました。当時のトランクルームサービスは生活者目線に立つとまだまだ改善の余地を残した状態。そこにトライする価値があると思いました」▲株式会社エアトランク 代表取締役社長の福岡英成氏。「もともとデジタル領域とアナログ領域を融合したビジネスモデルが自分には合っていたので、ラストワンマイル(生活者や企業に対して通信接続を提供する最後の区間)を持つことが大きな価値になると考えていました。当時のトランクルームサービスは生活者目線に立つとまだまだ改善の余地を残した状態。そこにトライする価値があると思いました」

“もったいない精神”を持つ日本人の国民性は外部収納サービスに向いている

福岡氏によると、収納ビジネス大国と言われているアメリカには約4兆円のトランクルーム市場があり、約11世帯に1世帯が外部収納サービスを利用しているという。

一方、日本国内の市場はまだ800億円程度で、約5300万世帯のうち利用率は0.8%程度にとどまっている。今後使い勝手の良いサービスを拡充していけば、さらにマーケットは広がっていくと予測する。

「そもそも“もったいない、捨てられない”という精神を持つ日本人の国民性は、外部収納サービスに向いているはず。家の中にあふれるモノを外に預ける外部収納という“新しい文化”が定着すれば、多くの方の暮らしをもっと快適にサポートできるという点にも事業への意義を感じました。しかし、事業計画を立てる上で検証が必要だったのは“本当に配送無料のシステムを確立できるかどうか?”についてです」

家の中の荷物は大きく分類すると次の4つのカテゴリーに分けられる。
●いつも使うモノ
●たまにしか使わないモノ
●残しておきたいモノ
●捨てても良いモノ
この4つの中で、トランクルームに預けることになるのは『たまにしか使わないモノ』と『残しておきたいモノ』の2つになると福岡氏は仮説を立てた。

「性善説に立って考えれば、これらのモノの取り出し回数は限定されます。回数が限定されれば、エリアを絞り込み、そのエリア内のカスタマーを集めることで配送効率が高まります。この方法なら原価が抑えられる計算になります」

もうひとつの課題は保管原価だ。『エアトランク』では、従来型のトランクルームのように“箱=場所”を貸し出すのではなく、巨大な倉庫空間をカスタマー同士がシェアすることで保管原価を下げている。

「一般的なトランクルームの場合、空気が入っていても場所代がかかってしまいますが、エアトランクでは預かり品目を体積計算しているので空間の無駄がありません。倉庫の天井いっぱいまでラックを配置し、効率良く保管しているため保管原価を下げることができます。その結果“集荷・配送無料”という仕組みが実現したのです」

▲エアトランクでは、ドライバーではなく「サービスクリエイター」としての教育を受けた自社スタッフ(または同じ教育を受けた外部パートナー)が制服着用の上で集荷・宅配対応を行う。「荷物ではなくサービスを届ける」という想いが同社のこだわりだ▲エアトランクでは、ドライバーではなく「サービスクリエイター」としての教育を受けた自社スタッフ(または同じ教育を受けた外部パートナー)が制服着用の上で集荷・宅配対応を行う。「荷物ではなくサービスを届ける」という想いが同社のこだわりだ
▲エアトランクでは、ドライバーではなく「サービスクリエイター」としての教育を受けた自社スタッフ(または同じ教育を受けた外部パートナー)が制服着用の上で集荷・宅配対応を行う。「荷物ではなくサービスを届ける」という想いが同社のこだわりだ▲温度・湿度も管理されているエアトランクの倉庫内。すべての棚はロケーション番号によって振り分けられており、顧客から預かったアイテムは、倉庫スタッフがひとつひとつ写真撮影した上でコード管理する。ロケーション番号とコードをマッチングさせることで、どのアイテムがどこの棚に保管されているか?がすぐにわかるようになっている

預入時の梱包の煩わしさを徹底的に排除、1点だけの取り出しも可能

同社のサービスがユニークなのは「預ける時の煩わしさ」を徹底的に排除している点だ。例えば、コート1枚ならハンガーにかかった状態でそのまま預けることができ、扇風機などの季節家電はカバーをかけなくてもOK。子どものおもちゃやマンガなどの小ぶりなアイテムは紙袋等に入れてまとめることになるが、規定サイズのボックスにモノをしまったり、丁寧に梱包したりといった面倒な作業は一切不要だ。

「預けるために梱包するのはそれだけで面倒な作業ですから、基本的に“家の中で保管するのと同じ状態”でお預かりしています。預かり品目で最も多いのは 、ダウンコートなどの衣類やかさばる毛布・羽毛布団、扇風機や電気ストーブなどの季節家電。他にも、フィギュア、スニーカー、トライアスロンの自転車といった趣味の収集アイテムを保管されるお客様が多いですね。また、コロナ禍以降はキャンプ用品や海外旅行用の大型スーツケースが増えた印象です。

お預けいただいたアイテムは、パソコンやスマートフォンを使って“自分のストレージにいま何パーセントの荷物が入っているか?”を数字で確認できるようになっています。荷物の取り出しは1点から可能。お届けまで中1日時間をいただいていますが、今後は宅配のスピード感も向上させていきたいと考えています」

▲温度・湿度も管理されているエアトランクの倉庫内。すべての棚はロケーション番号によって振り分けられており、顧客から預かったアイテムは、倉庫スタッフがひとつひとつ写真撮影した上でコード管理する。ロケーション番号とコードをマッチングさせることで、どのアイテムがどこの棚に保管されているか?がすぐにわかるようになっている
▲温度・湿度も管理されているエアトランクの倉庫内。すべての棚はロケーション番号によって振り分けられており、顧客から預かったアイテムは、倉庫スタッフがひとつひとつ写真撮影した上でコード管理する。ロケーション番号とコードをマッチングさせることで、どのアイテムがどこの棚に保管されているか?がすぐにわかるようになっている▲納戸の中の荷物をトランクルームに預けると、空いたスペースをテレワーク用の個室として活用することもできる。「エアトランクでは、収納サービスをライフスタイルテック事業と位置づけ、“収納に付加価値をつける体験価値サービスの提供”を目指しています。実際に使ってみたら便利だった、生活空間にゆとりができて毎日が楽しくなった、と感じていただけたら嬉しい」と福岡氏

大手デベロッパーが続々と導入、コロナ禍における収納ニーズ拡大も好機に

宅配型トランクルームサービスは、新築マンションの価格高騰と面積縮小の背景、さらにコロナ禍における在宅ワークの導入を受けてますます注目を集めることになった。

「本来、家というのは“寛ぐ場所”であるはずなのに、いまは在宅ワークによって“働く場所”としての機能も求められています。ワークスペースを確保するためには、家の中のモノを片付けなくてはいけませんし、家で作業をすれば仕事の荷物がどんどん増えていく…もともとコロナの前から、昨今の住宅事情を受けて外部収納ニーズは増加傾向にありましたが、コロナ禍によってさらに加速した印象があります」

『エアトランク』では大手デベロッパーをはじめ、賃貸マンションやオフィスビルとの提携事例が増えたことでサービス内容を拡大。衣類の預け入れとクリーニングが同時にできる「クリーニングサービス」や、アウトドア用品を入居者へ提供する「レンタル機能」、プロのアドバイスを受けながらお部屋の片付けを行う「収納整理サービス」、不用品の「買取・処分サービス」「あげる・もらうサービス」など、収納から派生した新たなメニューがどんどん広がっている。

▲生ものや臭いが出るモノ、汚れがついているモノ、危険物、貴重品などは預かり不可となっているが、今後は高級ワインや美術品など、特殊な保管技術が必要となるアイテムの収納サービスにも対応していく予定だという▲生ものや臭いが出るモノ、汚れがついているモノ、危険物、貴重品などは預かり不可となっているが、今後は高級ワインや美術品など、特殊な保管技術が必要となるアイテムの収納サービスにも対応していく予定だという

収納スペースを広げることは「暮らしの豊かさ」につながる

2022年2月現在、『エアトランク』の宅配型トランクルームサービスは首都圏・名古屋・大阪で展開中。首都圏ではライトプラン(0.2畳)が月額6380円(税込)から、名古屋・大阪では月額5,280円(税込)から利用可能だ。

今のところセキュリティの事情により倉庫所在地は非公開となっているが、将来的には倉庫拠点を増やしてアドレスを公開し、ECサイトで購入した備蓄品などの「今すぐ使わないモノ」を直接倉庫に配送・保管する仕組みや、ドライブスルー方式でカスタマー自身が預け入れ・取り出しができるサービス等にも対応していく予定だという。

「マンションの専有面積を広げることは難しいですが、外部収納サービスを上手に利用すれば、“収納スペースを外へ広げる”ことができます。実は、長い人生のなかで家の中にモノがあふれる期間というのは、家族の成長期の10年間ぐらい。その10年間に合わせて広い家を探すのではなく、一時的にモノを片付ける場所を“外”に持つことで、経済的にも精神的にも暮らしの豊かさを創出できると考えています」

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これから季節は春の新生活シーズンを迎える。この機会に家の中のモノたちと向き合い、「外に収納スペースを確保して住まいを広く使う」というアイデアを採り入れてみてはいかがだろうか?

■取材協力/エアトランク
https://www.air-trunk.net/

▲『エアトランク』の整理収納クリエーターによる収納・片付けのオンラインレッスンも好評だ▲『エアトランク』の整理収納クリエーターによる収納・片付けのオンラインレッスンも好評だ

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