空室率が高くなりがちな賃貸物件を、学生が提案

総勢35名の学生が絵コンテを作成。それぞれのアイデアを披露した総勢35名の学生が絵コンテを作成。それぞれのアイデアを披露した

消費者目線の斬新なアイデア、SNSなどによる情報配信力に着目し、現役大学生と商品開発を進める企業が増えているという。そんな中、賃貸物件の空間プロデュースでも学生とのコラボが登場している。それが、『コマジョリノベ』。株式会社リロ・ホールディングの100%出資会社で不動産賃貸管を行う株式会社東都と駒沢女子大学の産学連携プロジェクトだ。

これは、駒沢女子大学「住空間デザイン学科(現「空間造形学科」を4月より名称変更)」の学生が、東都が管理する賃貸物件の空間プロデュースをするというもの。プロジェクトのスタートとなる今回は、2戸の単身用物件で壁紙や床の張り替え、家具の造作や小物の配置といったプランを学生たちがコンペ形式で提案。実際にこの2月から入居者募集が開始される物件に採用されている。空間が狭く、様々な制約のある単身物件にもかかわらず、実用性を考慮しながら企業顔負けの斬新なアイデアが詰め込まれているという。

しかも、このプロジェクトが面白いのは、デザインを提案して“終わり”ではないことだ。入居者に住み心地をフィードバックしてもらいながら、次の空間プロデュースに役立てるサイクルを構築しようとしている。いわば賃貸物件で企画だけでなく実際に検証まで行い、「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)」のPDCAサイクルを行っていこうというわけだ。

前編となる今回は、この産学連携プロジェクトの概要を見ていこう。

決まりきった物件の常識を打ち破るには?

株式会社東都の横山英一支社長(左)、駒沢女子大学の佐藤勉准教授(右)株式会社東都の横山英一支社長(左)、駒沢女子大学の佐藤勉准教授(右)

まず、このプロジェクトを持ちかけた株式会社東都 神奈川支社 支社長 横山英一氏は、その狙いを次のように説明する。

「築年数を経てしまった物件というのはどうしても空室率が高くなってしまいます。もちろん、こまめに修繕を行っていますが、担当するのは大概年配の男性。ユーザーである女子大生の感性からは程遠く、パッケージの決まりきった形に陥りがちでした。もっと利用者の世代の声に私たちは目を向けるべきではないか。いっそのこと実際に部屋を借りる世代の方々に空間デザインをやってもらえないものか? そこで女子大では珍しく住空間デザイン学科のある駒沢女子大学の佐藤准教授にご相談したのです」。

「実際の空き物件でデザインを学生にやってもらえないか?」横山氏の依頼に、一級建築士でもあり、駒沢女子大学 人文学部 住空間デザイン学科で教鞭をとる佐藤 勉 准教授は、すぐさま快諾したという。

「願ってもないお話でした。いくら授業でリノベーションを想定したデザインを行ったとしても、実際の部屋をみてデザインをするのとは経験値がまったく異なります。学生にとっては、またとない社会学習のチャンスです。すぐさまご提案をお受けしました」。

そこで東都と駒沢女子大学では『コマジョリノベ』が本格的に始動。東都側が大学近隣の女子大生向け物件2件を提示し、佐藤准教授が受け持つ選択授業の中で、デザインが課題として出された。デザインを行ったのは総勢35名の学生、約1カ月半の構想期間を経て物件どちらかの案をパースと図面で提出。昨年11月には東都側も出席する講評会で作品が選出され、まもなく実際の物件も完成する。2月からの新入生のお部屋探しシーズンにあわせ、入居者を募集していくことになる。

企業の担当者でもキツイ、シビアな物件

学生のプレゼンテーションの様子。それぞれのコンセプトが披露された学生のプレゼンテーションの様子。それぞれのコンセプトが披露された

ではまず、実際に学生が空間プロデュースをまかされた物件を見てみよう。2件あるがどちらもなかなかシビアな物件だ。

「物件Aは18.42m2の1K、物件Bは16.02m2の1Room。どちらも築20年以上経過したバブル期の典型的な物件です。一部屋の専有面積が少ないのはバブル期の特徴です。もちろんこれまでもキッチンなど水廻りを含めた修繕を行っていますので、今回は予算の都合上あくまでも設備には手をつけず、壁紙、フローリングの張り替え、造作家具の設置などに留めてのリノベーションプランを依頼しました」。

この物件の条件には、学生たちも相当頭を悩ませたと佐藤准教授は当時を振り返る。

「授業とのタイミングの関係で、部屋を内覧できる時期がデザインをスタートさせた後になってしまったのですが、実際に部屋を見ると想像以上の狭さに学生たちは驚愕でした。専有面積がネックになって当初の構想を取りやめた学生もいます。そのほかにも、特にBの物件はなぜこんなところにキッチンがあるのか? といった間取りの制約もあり、まさに実践ならではの創作活動でした」。

“知らないからこその良さ”を生かしたデザイン

しかし、実際に講評会での学生の作品を見て、東都の横山氏は「ここまで、できるのか」と正直驚いたという。
「条件が厳しいことは当社も分かっていました。しかし、女子大生をターゲットにした部屋のデザインとして特長を出しつつ、収納が少ないといった実用的な問題なども解消していたのです」。

その点は、学生への指導でもさじ加減が難しいところだったと佐藤准教授は説明する。
「実際の部屋のリノベーションに使うデザインですから、実用性を考慮しなければいけないのは当然のこと。もちろん、コストも意識しなければなりません。しかしあまりにもそうした制約でがんじがらめにしてしまっては、今回のプロジェクトの目的でもある学生ならではのアイデアが死んでしまう。
学生には“知らないからこその良さ”が絶対にあるはずです。現実と独創性のバランスは非常に難しいところでしたが、学生はとてもよい回答を出してきたと思います」。

物件Aは、一般的な1Kの間取り物件Aは、一般的な1Kの間取り

実用性とデザイン性を兼ね備えた物件が誕生

こうして、シビアな物件と格闘しながら独自のデザインを磨き上げた学生たち。特に講評会を勝ち抜いた2作品には、パースからも部屋に込められたそれぞれのテーマが浮き彫りになる。設備を含めた大幅な改修ではないので、やれることは限られていたはずだ。にもかかわらず、これまでの画一的なものとは一線を画し、部屋はまったく印象を変えている。

しかも、横山氏によれば「企業ではなかなか出ないアイデアも詰まっている」という。果たして駒沢女子大学の学生たちは、特長のない部屋にどのようなドラマを持たせたのだろうか? 次回は今回のプロジェクトで実際に選ばれた学生のインタビューを交え、完成した部屋を紹介していく。

物件Bは、1Rで16.02㎡の狭さが学生を悩ませた物件Bは、1Rで16.02㎡の狭さが学生を悩ませた

2014年 01月29日 09時52分