片付け法、断捨離のブームが表す課題
生活の拠点となる住まいは、すっきり片付けて気持よく過ごしたいと思う一方で、きれいに保つのが難しくすぐに散らかってしまう。思い切って掃除し、部屋が片付くととても気分が良くなり「きれいな状態のままにしよう」と決意するのに、しばらくするとまた元の状態に戻ってしまう…。これを繰り返している方は多いのではないだろうか。
「片付け」や「断捨離」のノウハウを載せた書籍などがヒットしているのは、多くの人がそれを苦手としているのを表しているだろう。
収納法、片付け法が多く登場するなか、一風変わった「部屋づくり」のメソッドがある。その名は「部屋を活かす」という意味がこめられた「ヘヤカツ(部屋活)」。これを提唱するのは、『もし高校野球のマネージャーがドラッガーの「マネジメント」を読んだら』(以下『もしドラ』)の著者である岩崎夏海氏だ。「部屋を考える会」としてヘヤカツについて書いた『部屋を変えれば人生が変わる』という書籍も出版されている。
人生をも変えてしまう部屋づくりメソッド「ヘヤカツ」とは、どんなものなのだろうか?岩崎氏にお話を聞いた。
3LDKから18m2のワンルームに!?岩崎氏と「部屋」の関係は
岩崎氏といえば『もしドラ』の著者、放送作家としてご存知の方が多いと思うが、部屋づくりにも造詣が深いというのは意外だった。岩崎氏と住まいの関係を質問してみた。
「もともと実家だった日野市の3LDKの一戸建てに両親が引越した後も一人で住んでいましたが、あるとき仕事の都合などもあり、利便性の高い渋谷の18m2のワンルームマンションに引越してみたんです。一戸建てに住んでいた時は部屋がいつも散らかっていて、“自分は片付けができない人間だ”と思っていたんですが、ワンルームに住み替えたことを機に、逆に部屋をきれいに保つことができるようになったんです」
3LDKから、ワンルームへ。少し無謀な住み替えのように感じるが、必要な物だけを持って引越し、あとの荷物は思い切って処分してしまったのだという。加えてオリジナルの家具をつくり、配置の工夫で18m2の部屋を「住みやすく、片付けやすい部屋」にすることで、部屋をきれいに保つことに成功した。
「“片付けられない”“広い方が良い”と思っていたのは間違いで、言わば部屋と自分自身に騙されていたと気付きました。部屋が広いと荷物が増えて、片付けられない悪循環が起こる。逆に、狭い部屋に引越したことで、不要なものを置くスペースが無くなり、片付けやすく、暮らしやすいという事に気付きました」(岩崎氏)
部屋や収納が広いと安心して荷物を増やしてしまい、結果、整理しきれないという事も起こる。スペースに限りのある狭い部屋では、部屋に置く物を取捨選択しなければならず、そうして整理された少ない荷物でも生活には支障をきたさないと知ったのだという。
そうしてできた部屋を訪れる友人たちが、口々に「この部屋は快適だね」と褒めてくれたことで、自身の部屋がみんなにとって心地よいものだと気づき、さらにその部屋に住んで以降、『もしドラ』のヒットをはじめとして人生が好転していくのを感じた岩崎氏。意思だけでは難しいが、環境が変わることで人生が変わることを感じたという。そうして、「環境=毎日過ごす部屋」を考える「部屋を考える会」の立ち上げ、この「ヘヤカツ」の考案に繋がったのだ。
ヘヤカツの基本メソッドは「部屋に3つの”流れ”をつくる」
しかし、ヘヤカツのメソッドとは「狭い部屋に住んで物を整理する習慣をつけよう」という単純な事ではもちろんない。重要なポイントは、部屋に3つの「流れ」をつくることだ。
「部屋に“道”を通すんです。掃除機が通りやすい“掃除の道”、服を脱ぐ場から洗濯、干して仕舞うまでをスムーズにする“洗濯の道”、食事するテーブルからシンク、食器棚までの流れである”食器洗いの道”を確保して家具を配置することで、部屋をきれいに保つ循環を作ります」(岩崎氏)
たとえば、ベッドの長い辺を窓際につけて配置している部屋では、窓側の床は掃除しにくく後回しにしてしまう。窓への動線が悪いため、窓の掃除も滞る。そうして溜まった汚れをきれいにしなければと思っても、時間と労力が必要なのでさらに後回しになる…と、きれいになる循環が無くなってしまうのだ。
だから、家具と家具、壁と家具の間は掃除機が通るくらいのスペースを空けておき、さらに掃除機はすぐに取り出せる場所に置く。コンセントの前にも物を置かず、掃除のやる気を妨げる要因を排除していく。洗濯、食器洗いについても同様の考え方だ。
「1日5分の掃除を毎日できる部屋をつくるんです。すると自然に、部屋はきれいな状態に保たれます。“部屋を片付けられない”という人は、たぶんそれは配置が悪いのが原因でしょう。部屋の広さは変えられないのだから、その部屋に合った大きさの家具を配置し、合理的な考えでモノを選ぶんです。そうすれば、努力しなくても部屋は片付くようになります」(岩崎氏)
「部屋をきれいにする」のではなく、片付いた部屋を保つための動作を滞らせない「きれいになる部屋をつくる」ことが、ヘヤカツが基本として提唱することだ。
インテリアでも収納法でもない、人生を変える「部屋を作る」考え方
片付けがしやすいように配置を考える。すると、物が少ないほど「道」の確保ができて良いのでは?と思ってしまう人もいるかもしれない。生活感の少ない部屋はスタイリッシュに感じるし、最近では「部屋に何も置かない」ことを薦める書籍も話題になっている。しかし、ヘヤカツの答えはNOだ。
「例えば、俳優さんが舞台で良い芝居をするために、楽屋はその準備をする場所としてつくられています。それは住まいにも置き換えることができて、仕事など、家の外で良い結果を出すために、部屋はその準備の場である必要がある。言わば“自己演出”をする場ですが、そのために部屋に置いておくべき物もあるんです」と岩崎氏。体を休めるベッド、食事やパソコン等の作業といった事をする言わば部屋のメインステージであるテーブル、部屋と自分を演出する本棚は必要だという。加えて、女性は鏡台も持っていた方が良いという。
楽屋である部屋とステージである外をつなぐ玄関の役割も大きい。ダンボールや大きな荷物を玄関に置いてある、というケースも多いかもしれないが、それらも排除して流れをつくることで家と外との行き来が楽しくなる。すると出かけた先でも良いパフォーマンスができる。そうした循環が、岩崎氏が体験した「人生の好転」であり、ヘヤカツが「人生を変える」とする部分なのだろう。
部屋を良くしたいと考えるとき、私たちはインテリアや片付け術を参考にしてきたが、インテリアや収納でどれだけ部屋をきれいに設えても、配置が悪く、散らかったりごみが溜まったりしやすければ意味が無い。
きれいに暮らしやすい部屋をつくり、その部屋に合った暮らし方をする。それが結果的に、自分を変えて人生を良くする。新しい住まいとの向き合い方である「ヘヤカツ」メソッドを、これから住み替えや模様替えを検討している方は取り入れてみると良いかもしれない。
■取材協力
ヘヤカツドットコム:http://heyakatsu.com/
2015年 04月09日 11時09分