住宅に施される塗装の役割とは
私たちの住まいに施されている”塗装”は、何のために行われているのだろうか。
ひとつは、「美観」のため。塗装をすることによって、見た目を変えて雰囲気を一新することができるし、新築さながらの美しい見た目を取り戻すこともできる。
そして、もうひとつが「建物の保護」だ。実は、雨が降っても建物の中に水が浸みてこない、つまり雨漏りをしないのは、塗装の働きによるものだ。
雨漏りというと屋根の問題を疑いがちだが、実は外壁が原因であることも多い。木材やコンクリートは、そのままの状態だと水分を吸収してしまい、内部の断熱材を腐らせたり、鉄筋を錆びさせたりする。放置すると、カビの発生による健康への影響や、電気設備に水が入ることによる漏電を招き、腐食が進むと最悪の場合は建物の倒壊へとつながる。そこで、外壁を塗料でコーティングし塗膜を作ることで、水の侵入を防ぐのである。水のほかに、紫外線などの外的要因からも建物を保護している。
しかし、塗料は一度塗ればずっと効果が持続するかというと、そうではない。年月の経過とともに塗膜は薄くなり、次第にその役目を果たさなくなってくる。色褪せ、ひび割れ、剥がれや、触ると手に白い粉が付くチョーキング現象などが起こると、塗り直しが必要な合図だ。
分譲マンションの約9割が作成している長期修繕計画。賃貸住宅は?
分譲マンションの場合、定期的な外壁塗装を含む長期的な修繕計画を立て、修繕に必要な費用は修繕積立金として、所有者である住民の負担で積み立てているケースがほとんどだ。国土交通省が2016年に実施した調査によると、分譲マンションの管理組合のうち、長期修繕計画を作成しているのは87.0%。そのうちの82.5%で修繕積立金が設定されており、多くのマンションが、計画的に修繕に備えていることがわかる。
一方、賃貸住宅に目を向けると、真逆の状況となっている。2017年の国土交通省の報告によると、長期修繕計画を作成している家主は全体の22.8%にとどまり、その約2倍となる44.4%の家主は「まったく作成していない」とアンケートに回答した。
長期修繕計画を立てている家主の82.1%が大規模修繕を実施していると答えたのに対し、計画を立てていない家主の大規模修繕実施率は36.8%。分譲マンションの数値と比較すると、建物の管理状況は物件によって大きな差が生じていることが予想される。
修繕を実施しない理由は、「資金的余裕がない」という回答が最多(28.1%)。次いで、「必要性が理解できない」(22.6%)、「管理業者やサブリース業者からの提案がない」(21.0%)となっている。
それとは反対に、修繕を実施した家主が感じた修繕の効果としては、多い順に「家賃水準を維持できた」「高い入居率を維持できた」となっており、前述した、美観、建物の保護という観点での修繕の必要性のほかに、賃貸経営という観点でも修繕の効果を感じている家主が多いことがわかる。
修繕を実施しない理由として、管理会社からの提案がないという理由も約2割を占めているが、提案を実施していない管理会社に理由を聞くと、「修繕を管理委託業務にしていない」という理由が 33.5%で最多。つまり、家主としては提案がないので修繕を実施しないが、同時に管理会社は修繕まわりを業務と認識していないというケースもありそうだ。
また、「提案したくてもノウハウがない」(23.7%)が次点となっており、その専門性の高さから、どの管理会社でも修繕関係のサポートができるとは限らない現実が見える。
塗装会社の立場から、賃貸経営のコンサルティングを行う意味
修繕において重要な役割を持つ”塗装”。塗装を本業としながらも、その専門性を生かして賃貸経営のコンサルティングを行う、株式会社ホープハウスシステム 代表取締役の吉村心太郎氏に、塗装会社の立場から考える賃貸物件の修繕について伺った。
「多くの方に入居してもらうには、建物の見た目も重要です。塗装ひとつでそのデザイン性も大きく変わり、入居率に影響します。また、塗装にはさまざまな機能があります。例えば遮熱機能のある塗料を使った物件だと、エアコンの使用が減り、光熱費を抑えられる可能性もあります。賃貸オーナーと入居者の双方にとって、塗装は大事なことなんです」(吉村氏)
にもかかわらず「そこを理解して資金の準備をされているオーナーさんは本当に少ない」という。同社では、賃貸経営における塗装の重要性を熟知しているからこそ、塗装等の修繕を軸に据えた賃貸経営のコンサルティングを行っている。入居率を上げるための修繕を提案するのはもちろん、資産価値を維持するための修繕計画やその資金計画のアドバイスも行う。
「大規模修繕は、新築時に次いで大きな費用がかかります。修繕が必要にもかかわらず資金を用意できていないオーナーさんには、ローンの借り換えなどを提案し、建物の価値を守るために必要な資金の捻出からサポートします。セキュリティや宅配ボックスといった設備も大事ですが、土台となる建物の資産価値を意識することを忘れてはいけません」
賃貸経営のコンサルティングから、塗装会社として得られる利点もあるという。
「当社では賃貸物件向けの塗料開発を行っていますが、過去には、オーナーさんから聞いた『猫がよく集まる』という悩みからヒントを得て、猫が集まりにくくなる塗料の開発に取組んだこともあります。コンサルティングを通じて聞いたオーナーさんの生の声を、商品の企画や開発に反映できます。単に塗料を作るだけの業態では、恐らくそのような発想は得られません」
同社では、賃貸オーナー向けのフリーマガジンの発行や、定期的なセミナーの実施を通じて、塗装の重要性を周知するとともに、オーナーの生の声に耳を傾けている。
抗ウイルス塗料、ホスピタルアート、塗装を起点としたコミュニケーション…。これからの塗装の可能性とは?
吉村氏の話を聞き、賃貸経営において塗装が大きな役割を担っていることが分かった。ほかにはどのような役割を持つのか、そして、これからの塗装の可能性を聞いてみた。
「塗装の機能性も日進月歩です。コロナ禍では、光触媒技術を用いた抗ウイルス塗料が注目されました。塗料内に含まれる酸化チタンが太陽や室内灯に当たることで、酸化作用によりウイルス・菌・シックハウス症候群の原因となる揮発性の化学物質(VOC)などを、水や二酸化炭素などに分解・除去・不活性化します。これは住宅のほかに、日本初のコロナ専門病院で有名な十三市民病院にも施工しました」
また、塗料そのものの機能のほかに、塗装を起点としたコミュニケーションにも期待できるという。
「病院への抗ウイルス塗装では、単に塗装を施すのではなく、『ホスピタルアート』として、有名アーティストに壁画を描いてもらいました。アートによる癒やし効果で、病院で過ごす時間を少しでも豊かにし、患者さんのストレス軽減や生命活力の向上につながる『心の薬』となることを目指しています」
「賃貸物件のコンサルティングにおいては、入居者にアンケートを取って、外壁のデザインを決めるということも行っています。入居者自身が、住んでいる建物に興味を持ってもらうこと、愛着を持ってもらうことにつながると思っています。将来的には、入居者同士が、自分たちの建物のデザインをどうしたいか、意見を交わすコミュニティがつくれるようになれば、もっと賃貸物件が面白くなるのではないかと思っています」
賃貸物件の資産価値維持という守りの役割、そして、入居者のコミュニティづくりという攻めの役割…。
当たり前な存在として見過ごしがちな塗装だが、塗装を主役に据えて考えてみると、新たな物語が始まりそうな予感がした。
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