空間デザインを実現するペイントの魅力

「建築家と考えるペイント」シリーズ ショーケース完成披露会の会場「池尻セレクトハウス」。もともとは白壁に木のクローゼット扉のリビング空間を青のペイントで一新している「建築家と考えるペイント」シリーズ ショーケース完成披露会の会場「池尻セレクトハウス」。もともとは白壁に木のクローゼット扉のリビング空間を青のペイントで一新している

現在、中古住宅を活用するためのリノベーションやDIYなどが注目を集めている。賃貸住宅でも予め“DIY可”を謳った物件も頻繁に目にするようになり、リノベーションも施主の意向を活かすプランが増えてきた。

こうした流れの中で、新たに“ペイントによるリノベーション”を提案するプロジェクトが登場した。これは、「日本ペイント×建築家 白井宏昌氏」のコラボにより誕生したもの。建築家によるデザイン、塗装施工サービスをパッケージ化し、一般消費者に向けてサービスを展開する仕組みだ。

ペイントというと、壁を塗る、家具を塗る、程度のことで正直なところ部屋の色味を変えるくらいの変化しか期待していなかった。しかし、これが建築家のデザイン性とプロが塗装施工することで、見事に空間を再構築するほどの大きな変化を生み出す。しかも、既存の建材はそのまま活かすため、コスト的にも抑えられる魅力がある。

今回は、11月20日に行われた塗装による既存住宅のリノベーションのショーケース完成披露会をもとに、ペイントによるリノベーションの可能性を紹介しよう。

建築家のデザイン性×日本ペイントの商品力&塗装施工技術

日本ペイントホールディングス株式会社(以下、日本ペイント)では、近年住宅内装用の塗装ブランドとして豊富なカラーバリエーションを誇る「ROOMBLOOM(ルームブルーム)」を展開している。

その一環として、新たに立ち上げられたのが「建築家と考えるペイントリノベーション」プロジェクトだ。カラーの提案だけでなく、建築家の提案するデザイン性と日本ペイントの自動車などの工業用製品分野で培った様々な建材に使用できる塗料の商品力、さらにそこにプロの塗料施工をプラスすることで、ペイントによる住まいの大改修を実現しようというもの。建築家のデザインをリノベーションのヒント集“レシピ”として集め、それを参考に塗料を選び、プロの施工者がペイントを施すというパッケージだ。

今回そのプロジェクトの第一弾として完成披露となった「池尻セレクトハウス」の一軒家は、空家となっていた住まいにペイントを施し、地域のコミュニティスペースに変貌させたもの。今後は“ペイントリノベーション”のショールームとして一般公開が行われるという。まずは、ペイントにより築数十年の“昭和の家”がどのように生まれ変わったのかをご紹介しよう。

池尻セレクトハウスでは、1階部分のエントランス、キッチン、リビングをペイントにより空間のデザインが様変わりしている。まずエントランスでは、ビビットなイエローの壁面が出迎えてくれる。キッチンとリビングはひと続きの開放感ある空間だが、壁面をブルーと白で構成。天井はグレーのカスリ模様が淡く浮かびあがるデザイン。家具は新調しているものの、床には手を加えず、キッチン設備や建材にも手を加えていないのに、おしゃれな空間に仕上がっている。

キッチンなどは、もともと鳥のマークがあしらわれたタイルが使われていたが、これも備え付けの吊り棚や壁面を統一した一色に塗ることで古さを感じさせない空間だ。リビングルームも、クローゼットの木目まで壁と同色にすることで洗練された印象になる。

「ペイントの素晴らしい点は、壁紙などの貼りものと異なり、もとの素材を活かしたまま厚みを出さず空間を断絶させることなく、デザインが可能な点です。例えば今回キッチンのタイルとその横の壁面を同一色で塗り替えていますが、素材が違っても連続性を実現しています」と話すのは、今回のプロジェクトでデザインを担った建築家・白井宏昌氏だ。

そう説明されて、確かに素材感の違うものに統一感を持たせられるペイントの魅力を感じた。キッチンではタイルとその横の壁面には少しばかり段差があり、貼りものを使った場合はこの段差を埋めるのは難しいだろう。

また、施工前のリビング写真を見ていただければ分かるが、壁面と天井や床の境目には昭和テイストの木目のラインが出ている。ペイントではこれも壁面と同じ色に塗ることで、デザイン性を高めた。ちょっとしたことだが、こうした自由度の高さがペイントの魅力というのも頷ける。

「池尻セレクトハウス」のペイント前のリビング(写真左下)。このリビングが天井、壁面をペイントすることで生まれ変わった(写真左上)。エントランスはビビットなイエローで明るい印象に。ドアの扉や凹凸面も自在に色を入れることができるのがペイントのメリット(写真右上)。キッチンも、タイル、壁面、戸棚と素材が異なっていてもペイントにより統一感が出る(写真右下)「池尻セレクトハウス」のペイント前のリビング(写真左下)。このリビングが天井、壁面をペイントすることで生まれ変わった(写真左上)。エントランスはビビットなイエローで明るい印象に。ドアの扉や凹凸面も自在に色を入れることができるのがペイントのメリット(写真右上)。キッチンも、タイル、壁面、戸棚と素材が異なっていてもペイントにより統一感が出る(写真右下)

曲面のデザインも自在にできるペイントの魅力

IT企業のオフィスリノベーション事例。古い洗面台や壁面には点検口もありどう見てもスタイリッシュさのないトイレ(写真左)。これをペイントでリニューアル。設備はそのままに活かしながらも空間デザインを確立させているIT企業のオフィスリノベーション事例。古い洗面台や壁面には点検口もありどう見てもスタイリッシュさのないトイレ(写真左)。これをペイントでリニューアル。設備はそのままに活かしながらも空間デザインを確立させている

披露会で説明にあたった日本ペイント 事業開発プロジェクト 空間デザインチームの中澤淑子氏もペイントの魅力を次のように説明する。

「ペイントの利点は素材を巻き込んでリニューアルができることです。例えばドレッサーなどは婉曲した面もありますが、そういったところにもペイントであれば自在に色を変え、新たなデザインを施すことが可能です。今ある建材を替える前に遊ぶことができるのがペイントの良いところ。スクラップ&ビルドではないこれからの住まいづくりの提案を“ペイントリノベーション”が行えると考えています」

披露会では、白井氏が日本ペイントと共同で実施したこれまでの実例も紹介されたが、確かにペイントの可能性を感じさせるものだった。IT企業のオフィスリニューアルの事例だったが、予算をかけられないトイレを見事にペイントだけで空間を一新している。

「築数十年のオフィスビルのトイレだけに、洗面台は昔ながらの古いもの。ただし、予算の都合上洗面台を入れ替えることもできませんでした。そのため、曲面を塗り分けたのですが、ボールが浮いているような印象を作れました。壁面も白と濃紺に塗りましたが塗り分けのバランスによりペイントだけで物理的に2つの空間を作り出せました」(白井氏)

公共機関でも“ペイントリノベーション”を検討中

オリンピック施設の設計も手掛けた経験のある建築家 白井宏昌氏(写真左)。(写真右:上)は、池袋の地下道の現在の様子、これをペイントでリニューアルを検討している。(写真右:下)が白井氏がプレゼン用に提出した「ダーウィンの進化論」のモチーフオリンピック施設の設計も手掛けた経験のある建築家 白井宏昌氏(写真左)。(写真右:上)は、池袋の地下道の現在の様子、これをペイントでリニューアルを検討している。(写真右:下)が白井氏がプレゼン用に提出した「ダーウィンの進化論」のモチーフ

こうした実例で、ペイントの可能性を実感した白井氏は、現在公共施設での“ペイントリノベーション”の可能性を探っているという。

例えば、公園などの公共施設のトイレ。遊具には予算が下りるものの、トイレのリニューアルとなると、費用がかさむことからなかなか実行されないことが多いそうだ。そうしたトイレもペイントであれば、予算の問題をクリアしイメージを変えることができる。実際に豊島区の公園では現在トイレの“ペイントリノベーション”が検討されているという。

「池袋の東口と北口をつなぐ地下道でも、“ペイントリノベーション”の活用が検討されています。予算的な問題で地下道自体を再建築することは難しいため、ペイントでのリニューアルを予定しています。写真は私が提案した「ダーウィンの進化論」をモチーフにしたペイントですが、コンペでアーティストのデザインを募り時期ごとに変更していくことも検討しています」(白井氏)

「DIY以上、リノベーション未満」の新たな選択肢

“ペイントリノベーション”のデザイン例。日本ペイントではペイントレシピ集としてホームページに様々なペイント事例を掲載している“ペイントリノベーション”のデザイン例。日本ペイントではペイントレシピ集としてホームページに様々なペイント事例を掲載している

既存の建材を活かしながら、その特徴から曲面にまで新たなデザインを加えられるペイント。日本ペイントでは、この“ペイントリノベーション”の魅力を「DIY以上、リノベーション未満」の手軽さと手頃な価格での空間づくりと定義している。実際にプロが塗装施工を行っても、6畳の部屋で、天井・壁面を入れても8万円を切る価格帯だ。

リノベーションには、耐震性や安全性の向上まで含まれる改修がなされることが多いが、そこまでのものを必要としない場合、確かに“ペイントリノベーション”は自分らしい空間を手に入れる選択肢の一つとして候補に挙げられるのではないだろうか。

DIYには自信がないが、リノベーションほどの費用をかけられないという施主のニーズに応える新たな選択肢だと思う。

2015年 12月18日 11時06分