老朽化した旧社員寮が、応募が殺到する人気物件に
コミュニティ型のシェアハウスである「ぶんじ寮」は、JR中央線の国分寺駅から、南に坂を下って徒歩10数分の場所にある。近くには名水百選の一つ「お鷹の道」があり、自然豊かなエリアだ。
「ぶんじ寮」は、2020年秋のオープンを前に口コミが広がり、入居者を抽選で決めたほどの人気物件だという。しかし実際に訪ねてみたところ、なぜ人気物件になったのか、第一印象では理解できなかった。築50年の建物は、少し老朽化していて、玄関前に雑草が茂り、屋内も昔の学生寮のような雑然とした雰囲気だ。ところが管理人の幡野雄一さんに案内していただくうちに、ワクワクするほど、ここの魅力にひかれていった。
鉄筋コンクリート造の2階建ての建物が2棟あり、それぞれ男性用の寮と女性用の寮に分かれていて、20室の個室を完備。そして1階のキッチンやフリースペースは共用だ。屋上は、洗濯物を干したり、イベントをできるスペースになっていて、開放感がある。ここでビールを飲みながら読書をすると心地良いだろう。また中庭もあって、週1回のペースで住人たちは焚き火を楽しんでいる。
地主は、かつてこの建物を会社の独身寮として貸していたが、あと10年ぐらいで解体する予定とのこと。だから最後の住人となる「ぶんじ寮」には、内装を好きに変更して良いと伝え、各部屋の住人が独自にDIYをできる契約になっている。
自由度の高いシェアハウスである。管理人の幡野さんはもともと地元出身で、近隣とも顔見知り。だから、周囲の人たちもここがどのようなシェアハウスかを知っており、良好な関係を築けているという。
ユニークな賃貸物件に、何かできないかと地元が動く!
管理人の幡野さんは、設立メンバーの一人でもある。たまたまWebサイト「東京R不動産」に、地元国分寺のこの建物が賃貸として掲載されているのを見つけ、驚いたのが最初だという。さっそく、幡野さんはこの物件を使って何をするかの「妄想会議」を昨年(2020年)の6月にイベントとして開催し、20人ぐらいを集めた。2時間の会議は、色々な使い方のアイデアが出て盛り上がったそうだ。しかし2棟まるごと借りるとなると賃料が高いこともあり、その時はイベントだけで終わってしまい、具体的な進捗に結びつかなかった。
7月に入ると、「寮の建物を使って何かやろうと思うんだけど、一緒にどう?」と影山知明さんから幡野さんに連絡があった。影山さんは「クルミドコーヒー」という国分寺にあるカフェのオーナーで、コミュニティ活動に積極な方として有名だ。幡野さんと共通の知人がつないでくれた。
設立準備会は、最初5人で始まり、建物のコンセプトについて検討した。ちょうど近隣にあった子どものための遊び場が閉鎖となり、「居場所」の大切さが議論され、キーワードは自分自身でいられる「居場所」となった。クラウドファンディングをして修繕費を集めようと盛り上がり、やがて13人の仲間になっていた。
クラウドファンディングで、地域の方々だけでなく遠方からの支援も
幡野さんたち13人は、クラウドファンディングのリリースのため、さらにアイデアをブラッシュアップしていった。大人や子供が入り交じりながら、みんなで持ち寄ってつくる「一人一人の居場所」、そんな場所づくりをしたいと考えた。それは外にも開き、さしずめ「地域の縁側」、「まちの寮」というイメージで、誰もが気軽に立ち寄れる。
修繕工事は範囲を最小限に設定して、シャワールームとキッチンが主で、外側にユニバーサルトイレをつける計画。クラウドファンディングは目標金額を500万円に設定して、9月にスタートした。
クラウドファンディングは、達成できるのかメンバーの多くが半信半疑だったが、1ヶ月半後の最終日、ギリギリのところで目標達成。集まっていたメンバーは驚きの歓声をあげたそうだ。幡野さんは、「国分寺という土地柄なのか、コミュニティ活動を応援してくれる人が多い」という。また、メンバーの知人以外からの支援が半分ぐらいあり、それも大口が少なくなかった。30万円支援した方は、後にぶんじ寮に泊まりに来てくれた。支援の理由は、その想いに共感したからだという。その方も「たまり場のような居場所」を愛知の方で作りたいそうだ。
ルールを作らず、それぞれが自分らしくいられる居場所に
ぶんじ寮は、家賃が3万1,000円、水道光熱費が5,000円で合計3万6,000円だ。入居募集の告知前から多くの問合せを受け、内見会の後、最終的にくじ引きとした。現在の住人は、学生が一番多く、次にフリーランスの社会人、そして会社員がごく少数。全体にコミュニティに関心のある方が多い。
入居するフリーランスの方は、居住費が安いことで、働き方が変わってきたという。生活費を稼ぐための仕事を減らし、代わりにライフワークとなる将来に向けての仕事時間にまわせるという。まさに自分らしくいられる場所だと喜んでいる。
またある学生は、学生寮だと住人同士が近い価値観になりそうなのが、ぶんじ寮は良い意味で皆がバラバラになっているのが楽しいという。だから開放感があり、そこに心地良さを感じるそうだ。
ぶんじ寮の住人定例会は、月に2回ほど1階のフリースペースで開かれ、運営について話し合われる。幡野さんによると「管理人がルールを決めてしまうと主体性がなくなってしまう」とのことで、ルールもそこでの話し合いで決めていく。また幡野さんは「管理人である自分に細かいことを確認しないでほしい」と伝える。住人に主体的にやって欲しいからだ。
やがて住人はそれぞれ動くようになり、例えば、気づいたら敷地のいろいろな場所に畑ができ始めていた。「塀際のところでハーブだとかナス、メロンやとうもろこし、さらにオクラなど、勝手に畑が始まっていました」と幡野さんは嬉しそうに話す。誰かがすでにコンポスト(生ゴミなどから作る堆肥)も作り始めている。ルールがないからこその結果とも言えそうだ。
地域の縁側を目指し、交流企画を練っていく
ぶんじ寮内は、国分寺の地域通貨「ぶんじ」が流通している。市内の約30か所で実際に利用できるチケットだ。
寮にルールがない分、誰かに負担が多くなってしまった場合は、「ぶんじ」を渡す。例えば、車を貸してあげた人、料理が得意な人、コーヒーを淹れるのが得意な人など、助け合いながら生活していると、感謝が生まれ、その想いを「ぶんじ」で伝える。それは単純に100円を渡すのではなく、メッセージを添えることができ、もらった時の嬉しさが倍増するからだ。
ところで、現在の課題は、コロナによって外向けのイベントができていないことだと幡野さんは言う。「地域の縁側」になりきれてないのだ。
先日は、屋台を引っ張ってコーヒーのサービスをして、外との関わりを持った。
8月からは、外向けにイベントもやる方向で動きだした。プロジェクトメンバーはぶんじ寮の住人にやってもらい、二人一組になって、合計10チームが動く。目的は寮の住人同士の距離感を近づけ、外部との関係性も構築して住人の人脈を広げることだ。
「やりたいイベントを自分たちで集客して、どんどん進めてもらい、自分たちのスキルを生かしてもらいたい」と幡野さんは期待を寄せる。もっともコロナ禍によって、今のところ2つのイベントしか開催できていないそうだ。
「もっと近隣の子どもたちにも遊びにきてもらいたい」と幡野さん。今年はコロナ禍で中止だが、夏には近隣の府中競馬場で花火大会があるので、いずれ地元の子どもも大人も屋上に招いて鑑賞会をしたいそうだ。
内装など、館内の改修も続く。ぶんじ寮には完成というものがない。住人が変われば、それぞれの心地良い居場所も変化していくからだという。常に変化するシェアハウス、今後の展開に目が離せない。
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