ゲーム業界から転身した宿業オーナー、2軒目に挑戦

外観は普通だが、外国人観光客にとっては、それもエキゾチック外観は普通だが、外国人観光客にとっては、それもエキゾチック

都心から特急電車に乗って約1時間、九十九里浜のすぐ手前の横芝駅を降りて、徒歩3分の場所に簡易宿所がある。今年の4月に開業したが、外観からでは、それが宿とはわからない。宿というより建物自体は普通の一軒家だ。ところが既に、タイや台湾等から宿泊客がいるという。

さて、この宿を立ち上げた宗華さんは、もともとはゲーム会社のクリエーターだった。現在は、この他にも2017年春から千葉県船橋市で簡易宿所のオーナーを務め、その実績から同氏にいくつか声がかかり、小さい宿の立ち上げサポートもしている。

なぜ、宗さんがゲーム業界からまったく異なる宿業界に転身したのだろうか。そのきっかけは、当時の会社でうつ病に追い込まれたことにある。宗さんは、2015年に半年間にわたって起き上がれず働けないでいたが、奥さんや小さな子供がいて、先が見通せないまま、最後に残されたのが、持ち家だった。

家を活用した収入を模索していたとき、たまたま近所の不動産屋で民泊を知ったのが始まりだったという。試しに実家の船橋の空き部屋を合法である簡易宿所登録して開業したところ、宿泊客が来るようになった。ほとんど改修費をかけずに成功したのだ。それも駅から25分と離れ、決して好立地とは言えない場所に、インバウンドの観光需要など、意外なニーズがあることを知り、宗さんは2軒目の宿を手掛けることにした。

物件探しは、外観よりも建物の個性を重視

今回の横芝光町につくった新しい宿のコンセプトは「寛容」だ。
名前も「寛容宿所 光」としている。そこには、宗さんがうつ病で苦労された経験から、この名前に至ったという。宿泊者に安らいで、気持ちをリフレッシュしてもらいたいという思いでつけられた名前だ。

物件を探しはじめたのは、2017年の半ばぐらいからだった。千葉県方面に土地勘があり、京成線など千葉県の中古物件を中心にインターネットサイトで検索し、ポイントとしたのは、車が停められ、都心から通えることだった。また、特徴的な建物かどうかも重要な決め手とした。インターネットの物件紹介ページに、大きな金色の床の間があるのを見つけ、2017年9月に内見し、その日のうちに手付金を支払い契約に進んだ。それが半年ほど空き家になっていた横芝光町のこの宿である。

ここを選んだ理由は、特徴もさることながら、駅に3分と近い立地が魅力だった。それは、出口戦略を考えてのことで、宿としてうまくいかない場合、賃貸物件として貸し出す、シェアハウスとして運用する、さらには売却するという選択肢が可能だと思ったからだという。横芝光町にあるほとんどの宿は、駅から離れた九十九里浜に集中していて、海の景観が魅力ではあるが、出口戦略がままならない。宗さんは、出口戦略があると気持ちに余裕ができ、新しいチャレンジが可能になると言う。

金の床の間というユニークさが、宿にはポイントが高い金の床の間というユニークさが、宿にはポイントが高い

インテリアの数を極力おさえ、写真映えする癒しの空間へ

昨年、宗さんは他の宿の立ち上げを頼まれて奔走していたので、自分の物件が後回しになり、今回の宿は2018年2月から本格的な宿づくりとなった。

宗さんは経験として、宿として成功するためには、写真等によるビジュアルでの訴求が重要だと言う。
金色の床の間のインパクトが素晴らしく、それを強調する訴求ポイントを検討していたところ、宗さんは着物を展示することを思いついた。そして、どのような色にするのか悩んでいた際に、絞り込んだ4パターンの色から、フェイスブックで知人にアンケートをした。人気の民泊部屋をつくった仲間もいて、優れたセンスを持っているからだ。結論として、赤いのが良いという回答が多く、宗さんはその意見を取り入れることにした。

また、この宿のコンセプトの「寛容」を実現させるため、ゆったり、癒しを感じられる空間づくりを目指した。
インテリアの点数を極力おさえ、スッキリ広い空間を提供して、ゲストにゆったりしてもらいたいと宗さん。その数少ないインテリアの一つ、座卓は、囲炉裏付きのユニークなデザインで、これは何だと外国人宿泊者から質問を受けるケースが多く、会話が始まるのに役立っている。

ところで、インテリアには10万円しか、かからなかった。すべて中古販売のネットを利用して揃えたからだ。

何もないからゆったりできる空間になり、それでいて和のテーストも何もないからゆったりできる空間になり、それでいて和のテーストも

タイからの旅行者からさっそく予約が入り、ゆったり滞在してくれた

宿のプロモーションは、booking.com(ブッキング・ドット・コム)とAirbnb(エアービーアンドビー)に掲載。今後は、楽天トラベルやじゃらんnetにも掲載の予定だという。

最初の外国人客は、タイからの3人グループで、新宿からタクシーでやって来たというから、比較的裕福な旅行者なのではないかと宗さんは言う。何度も日本に来ているので、今度は知らない郊外でのんびりするのが目的だった。さらに同じくタイ人の7人グループが5月のゴールデンウィークにやってきた。こちらはタイの医学部の大学院生たちで、やはり、ゆっくりしたいということで、こちらに寄ったそうだ。滞在中は、いちご狩りで出かけた以外は、ほとんど屋内にいて本当にのんびりしていた。インテリアの数を少なくおさえ、ゆったり感じられる空間づくりは、意図した通りとなったようだ。

5月は、台湾からの修学旅行生の受け入れをした。32名の高校生が横芝光町にやってきて、そのうち4人がこちらの寛容宿所光に泊まった。台湾の男子学生が大量のお土産を持ってきて、受け取るところから始まった。そして、みんなで記念撮影。そのあと、近くのスーパーや100円ショップ、本屋で買い物をした。夕食は宗さんが作った料理一式をみんなで食べ、2日目はメインイベントで横芝敬愛高等学校の学生さん達との交流があった。
その翌朝、彼らは出発していったが、普通の旅行者とは違った濃い関係が築けたと宗さんは手ごたえを感じたそうだ。

タイからの医学部の学生たちと真ん中の座卓がユニークだ。右から3人目の白い後ろのTシャツ姿が宗華さんタイからの医学部の学生たちと真ん中の座卓がユニークだ。右から3人目の白い後ろのTシャツ姿が宗華さん

地域と連携して様々なニーズを捉えていきたい

横芝光町観光まちづくり協会が入る駅前施設の「ヨリドコロ」だ横芝光町観光まちづくり協会が入る駅前施設の「ヨリドコロ」だ

宗さんの今後の方針としては、九十九里浜が近いので夏の海需要も取り込みたいという。
長い砂浜があり、ランドヨットという遊びができ、また町内の栗山川でカヤックも体験でき、夏のアクティビティが充実している。宗さんは、物件探しが先で、たまたま横芝光町になったのだが、こんなに観光コンテンツが揃っていることを後から知ったという。

地元の横芝光町観光まちづくり協会に宗さんが挨拶に行ったところ、協会専務理事で館長でもある林勝美さんから駅の近くに開設した情報交流館「ヨリドコロ」を紹介され、一気に人脈が広がったそうだ。この建物は、駅前開発の一環として完成し、駅の待合室の機能を持ち、みんなが集まれる場所となっていて、移住定住相談や観光案内、地元の物産コーナー、カフェが揃う。

同協会の理事には町で活躍している人を軒並み起用するのがユニークな点だ。海辺の音楽祭フェスをされている人、町内で起業をされているバングラデシュ人、台湾出身者などがいる。同協会は、彼らを巻き込むことで良いアイディアや人脈をつなげ、例えば、先述の5月の台湾からの学生の受け入れも、その人脈から始まっている。

また宗さんは、今後、この場所を東京圏から近隣の方までをターゲットにしたスペースレンタルとしても売り出そうとしている。例えば、コスプレ撮影や宴会、パーティー、まだ多くはない合法的に宿泊可能なレンタルスペースを目論んでいる。

空き家活用には、いろいろな可能性を含み、地域と一緒に拡がりを見せてくれそうだ。

2018年 07月13日 11時05分