オーナーの想いが詰まった、アットホームなゲストハウス

代表の正垣氏。抱えている絵は、「田舎と都会を融合した町をつくりたい」というビジョンから生まれた作品だ。象徴として、都会の広島市でも田舎と同じように緑がたくさん茂っている。原爆投下からちょうど100年になる2045年の実現を目指している代表の正垣氏。抱えている絵は、「田舎と都会を融合した町をつくりたい」というビジョンから生まれた作品だ。象徴として、都会の広島市でも田舎と同じように緑がたくさん茂っている。原爆投下からちょうど100年になる2045年の実現を目指している

広島市の横川という活気ある商店街に「広島ゲストハウス縁(エン)」がある。場所は、JR横川駅を降りて徒歩3分ほど。2017年に開業し、日本人旅行者だけではなく、外国人旅行者からも人気の宿になっている。外国人旅行者が多く利用する「agoda」というホテルのマッチングサイトでは9.3、「Airbnb」でも5つ星といずれも高い評価を受けている。

創業者の正垣紅氏は、30代後半の男性だ。「広島ゲストハウス縁」は、広島県を盛り上げていきたい、という正垣氏の想いが詰まったゲストハウスだという。一体どのようなところなのだろうか。実際に足を踏み入れると、初めて訪れたのに、気の置けない仲間がたくさんいるように感じる、心地よい空間だった。

旅先で触れた人の優しさがゲストハウスづくりのきっかけに

正垣氏がゲストハウスをつくることになったきっかけは、7年前の2012年に遡る。義足をつくる国家資格を持つ職人として、武田義肢装具製作所で働いていた正垣氏は、働き始めて6年目、このまま同じ業界で働き続けるか、別の道に進むかという悩みを抱え、リフレッシュを兼ねて旅に出た。東日本大震災の1年後でもあったので、自分のこれからの生き方や未来のことを考えたいと思ったのだという。帰る時期も決めずに自転車での日本一周旅行に出て、いろいろなところで、それまで知らなかったライフスタイルや、人の優しさなどに触れたそうだ。

そのときの出会いや感動、受けた恩などを自分のところでとどめず、他の人にも「恩送り」をしたいと考えるようになり、出発から3年後、広島に戻って「シェアハウス恩(オン)」を開いた。場所は、広島市西区で、友人のお父様の物件を貸してもらえることになった。シェアハウスでは、入居する若い人たちに積極的に関わり、これまでの経験を活かしてアドバイスするようにしたそうだ。

シェアハウスの開業後、正垣氏は知人の紹介で2人の人物に、それぞれ同時期に会いに行った。1人は東日本大震災で被災し、新天地を求め広島市佐伯区湯来町の限界集落に移住してカフェを開業している人。そしてもう1人は、広島県豊田郡大崎上島町でシェアハウスを軸に地域を盛り上げようとしている人だ。いずれも同年代の男性で、親交が深まった。2人の活動を応援したい、そのためにはもっと多くの人にその地域を訪れてもらうことが必要だと思い至った正垣氏。旅行で広島市を訪れる人に、彼らの活動する場所にも立ち寄ってもらいたいと考え、その仕組みとしてゲストハウスを思いついたという。彼らの活動を宣伝する場としても活用できるからだ。

2016年、ゲストハウスの物件を探し始めた頃、ちょうど横川商店街の真ん中の家具屋だった建物が貸し出されていた。創業メンバーの一人が、横川で働いていた縁で、この物件を探しあてられた。天井が高く面積も大きく、気に入ったが、ゲストハウスにするには消防設備の整備等、初期投資がかなりかかることが分かり、一旦待ってもらうことに。もともと人脈が豊富だった正垣氏。ゲストハウスづくりの計画を知人たちに話すと、事業計画書の作り方を教えてくれるなど、応援してくれる人や寄付を申し出る人が次々と現れた。さらに広島市のベンチャー融資制度や政策金融公庫から融資を受け、改装工事費を含めた開業費用が準備できた。
資金調達の傍ら、岡山県倉敷市の有名ゲストハウス「有隣庵」創業者が主催する「ゲストハウス開業合宿」に参加し、そのノウハウを学んだそうだ。

そして2017年4月に、初代女将など6人のスタッフで「広島ゲストハウス縁」がスタートした。正垣氏のビジョンに賛同した知人が引き寄せられてきたようだ。なかには以前、富士山の頂上で初めて出会った人もいるそうで、SNS等でのつながりが活かされた。

玄関はガラス張りになっていて、通りからも中の様子が見える。バーと宿の入り口は共通だ玄関はガラス張りになっていて、通りからも中の様子が見える。バーと宿の入り口は共通だ

広島県を盛り上げるための小さな工夫

個室とドミトリーとに分かれた居室。べッド名には、広島県内の市や町の名前を使用している個室とドミトリーとに分かれた居室。べッド名には、広島県内の市や町の名前を使用している

建物のエントランスは、外から建物内が見渡せる大きなガラス戸になっている。日本でも数少ない「酒BAR」併設のゲストハウスになっていて、入ると正面にバーカウンターがあり、バーの真ん中に宿泊用のフロントがあるつくりだ。夜は外国人旅行者等たくさんの人が楽しそうにお酒を飲んでいるのが外からも見え、宿泊者はその雰囲気を感じながらチェックインすることになる。

脇の階段を上った2階に扉があり、その向こう側が宿泊スペースになっている。扉の横には下足ボックスがあり、靴を脱いで中に入ると、小上がりになった畳敷きの宿泊者専用ラウンジがある。居室は、個室が1つに、女性専用と共用のドミトリールームが1つずつ。収容人数は、個室は1~3名、ドミトリーは合計20名だ。

各ベッドには、江田島、庄原、三原などと広島県の23市町の名前が付けられている。「宿泊者が、自分が使用したベッドの名前の市や町が気になって、行ってみたいと思ってくれればうれしいですね」と正垣氏。広島県全体を盛り上げたいという想いが反映されている。

また、オープニングパーティとして、広島の海や山、市町村をつなぐ「勝手に広島23市町村サミット」というイベントも開催した。県内の各地域で地元を盛り上げようと奮闘する同年代の知人に集まってもらって開いたイベントだ。他にもイベント会場としての利用が多く、ここは宿泊してもらうだけの場所ではないのだと正垣氏は胸を張る。

1階のバーは「縁結び」の場に

広島ゲストハウス縁では、「交流」が一つのテーマだ。1階のバーカウンターがジグザグしたW形なのは、「交流」を具現化した結果だという。横長のカウンター席だと、端っこ同士が話すことは難しいが、W形なら、全体の顔を見渡せ、遠くの席の人ともコミュニケーションがとれる。

スタッフはバーカウンターで接客しながら、旅のアドバイスをし、さらに旅行者同士を紹介することもある。例えば自転車ツアーに参加する人や離島へ向かう人など、同じ目的のゲストがいると分かれば、「一緒に行ってみては?」と席が離れている者同士に声をかける。地元の住民も食事に来るので、旅行者が知りたいことについて詳しい人がいれば紹介する。旅行者は、地元の人からよりディープな情報を得られるのだ。食事ができて、泊まれて、広島県全域の観光案内所的な役割も果たしてくれるこのバーは、いわば「縁結び」の場所といえる。
また、このバーでは、「広島産」にこだわっている。広島といえばカキやアナゴ、小イワシなどが有名だが、ほかにも世羅のジビエ、瀬戸内のレモン、湯来のこんにゃく等、広島のおいしい食材を提供している。
さらに広島県には日本酒の蔵元が多く、地酒を各種取り揃えている。なかでも蔵元の集まる東広島市とはコラボレーション企画を実施しており、東広島市の蔵元の日本酒を飲むとチケットがもらえ、それを東広島市西条の「東広島市観光案内所」に持っていくと、記念におちょこがもらえる。横川のゲストハウス縁を経由し、西条(東広島市)行きを楽しめる仕掛けだ。

こうして広島の食を味わったゲストを通じ、広島の魅力を世界に広く伝えていきたいと正垣氏は意気込んでいる。

バーカウンターがW形になっているので、人が多く座れるうえに、離れている人同士も会話が可能だバーカウンターがW形になっているので、人が多く座れるうえに、離れている人同士も会話が可能だ

ここから夢を叶えていってほしい

正垣氏は横川の商店街の活動にも参加していて、地元では若手として期待されているそうだ。毎年4月に商店街で開催されるイベント「ふしぎ市」では、宿の前が歩行者天国になり、パレードなどが行われて宿泊者も一緒に楽しめる。イベント時でなくても、街中に壁画などのアートがあるため、普段の横川商店街の散策も宿泊者にすすめている。さらに個人営業の飲食店が多いのも横川の特徴だと言い、地元の人が利用するカフェ、お好み焼き屋、居酒屋など、初めての人は少々入りづらい、個性的なお店も紹介している。

また、正垣氏はゲストハウスの若手の育成にも力を入れている。現在、スタッフは正社員4名、そのほかにアルバイト、ヘルパースタッフという態勢で、日本人以外にアメリカ人、台湾人のスタッフもいる。彼らには、「ここからいつか巣立つための準備として、いろいろとチャレンジしてもらいたい」と伝えているそうだ。「自分がやりたいこと、好きなことは何だろうかと考えながら、働いてもらっている」と正垣氏。ゲストハウスでの仕事を通していろいろな人との出会いに触発されながら、やりたいことに真剣にチャレンジし、いずれ独立して宿、飲食店、イベントの主催等々、それぞれの道に進むきっかけを掴んでほしいという。
ちなみにバーカウンターの設計も、近大広島の建築学科の学生にお願いし、チャレンジの場を作ったそうだ。ここでの挑戦が次につながっていくだろうと正垣氏は目を細める。

ゲストハウスを応援したいという外部サポーターも増えてきて、さらなる企画も進行中とのことだ。「オン(恩)、エン(縁)、ときたので、次はウン(?)ですかね(笑)」と冗談交じりに言う正垣氏の、次なる企画にも注目だ。

1階にもドミトリーを追加することになり、スタッフが工事。自分たちで行うことで、費用を節約した1階にもドミトリーを追加することになり、スタッフが工事。自分たちで行うことで、費用を節約した

2019年 09月23日 11時00分