賃貸住宅管理業は、生活に欠かせない基盤のひとつに
2021年6月15日、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下、賃貸住宅管理業法)が全面施行された。賃貸住宅管理業法は、不動産会社と不動産オーナーの間のトラブルを防止し、オーナーの利益を守ることを目的とした法律だ。
ポイントは主に2点ある。第一が、トラブルが多発するサブリース契約について、その適正化のための規制措置を講じる点。第二が、賃貸住宅管理業者の登録制度を創設するとともに、賃貸不動産経営管理士が業務管理者に位置づけられ、国家資格となる点だ。
この法律によって「賃貸住宅管理業」が確立し、その社会的な地位が向上することが期待されている。
2021年6月18日、賃貸住宅管理業法全面施行を記念したシンポジウム「安心・安全の賃貸住宅 賃貸管理業の未来」がオンラインで行われた。
冒頭、シンポジウムを後援している国土交通省 赤羽一嘉大臣が寄せたビデオメッセージが流された。
赤羽大臣は、少子高齢化に伴う単身世帯の増加や、外国人居住者の増加によって、賃貸住宅の重要性が高まっていることが、法律制定の背景にあると紹介。「賃貸住宅管理業は国民生活を支える基盤のひとつであり、良質な住宅ストックの形成に貢献してほしい」と呼びかけ、賃貸住宅管理業の今後に期待を示した。
「幸せ」をもたらす役割を担う
シンポジウムの前半には、麗澤大学客員教授の宗健氏による基調講演が行われ、データをもとに賃貸住宅市場の動向と、その重要性を示した。
1998年からの20年間で持ち家率が徐々に下っているが、賃貸住宅の数は大きく伸びているという。
「賃貸住宅は若い人が暮らしているというイメージがありますが、今では高齢の住民も増えています」(宗氏)
さらに宗氏は、人々の「幸せ」を構成する要素について説明。宗氏によると、幸せの60%以上は、才能満足度や家族関係満足度といったプライベートによってもたらされるが、地域満足度や建物満足度といった住まいに関連する項目が、20%近くを占めているという。
「つまり賃貸住宅に関連する事業は、幸せをもたらすことができるものであり、その役割には大きいものがあります」(宗氏)
住宅は人々の幸せをもたらす存在であることと、その役割の多くを賃貸住宅が担うようになっていることを紹介し、賃貸住宅管理業が果たす役割の大きさを示した。
プロフェッショナルとして、責任も大きくなる
シンポジウムの後半では、明海大学不動産学部長の中城康彦氏をモデレーターに、賃貸住宅管理業法の趣旨や今後の展望や課題などをめぐって、パネルディスカッションが展開された。
パネリストの一人、国土交通省不動産・建設経済局長の青木由行氏は、賃貸住宅管理業法について、サブリースに関するトラブルの社会問題化が法制化の背景にあることを指摘。これまで規制がなかったため、オーナーに対して将来の家賃減額リスクなどの重要な情報を伝えず、強引な営業を行う事業者もおり、後からトラブルに発展するようなケースが後を絶たなかったのだ。今回の法改正では、不当な勧誘行為や誇大広告を禁止するとともに、重要事項の説明も義務付けた。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会会長の塩見紀昭氏、一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会会長の佐々木正勝氏も、それぞれ「全面施行はゴールではなくスタートです」「賃貸管理のスタンダードを作りたいという思いから、法制化を訴えてきました」と語り、業界として賃貸住宅管理業法を待ち望んでいたことを明かした。
公益財団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会主任研究員の土田あつこ氏によると、賃貸住宅やアパートなどのトラブルに関する相談や苦情は、国民生活センターの集計では年間約3万1,000件に達しているという。
「オーナーや入居者に対して、わかりやすく適切な説明ができる能力が求められます」(塩見氏)
「現場で発生するさまざまなトラブルに対して、賃貸住宅管理業者は賃貸住宅のオーナーや入居者に寄り添い、中立的な立場からプロとしての知見を発揮することが必要です」(佐々木氏)
「高齢者や外国人などの中には、賃貸住宅への入居が困難という人も少なくない。そうした人にプロとしてサポートすることがこれからの課題です」(塩見氏)
今後は「賃貸住宅管理業」というプロフェッショナルとしての姿勢が求められると、登壇者らは口をそろえる。各自がそのレベルを向上させる必要があるということだ。
今回の賃貸住宅管理業法では、200戸以上の管理戸数を有する会社が、賃貸住宅管理業者としての登録を義務付けられる。しかし塩見氏によると、今回対象外となる事業者に対しても登録を勧めているそうだ。「賃貸管理業」としてその地位を確立するためには、業界全体でレベルアップすることが大切だからだ。
一方で、オーナーがプロの経営者としての自覚を持つことを課題としたのは青木氏。「オーナーには必要な責任感、知識などを持ってほしい」と呼びかけた。
土田氏も「今や消費者が賃貸住宅を選択できる立場になっているので、消費者に入居してもらうには、適正な維持管理をすることが重要です」と説明し、国家資格になった賃貸不動産経営管理士が、オーナーに対して適切なアドバイスをすることが求められるとした。
「入居者に住んでよかったと思ってもらうには、賃貸住宅管理業者のスキルアップが必要で、果たすべき責任も重い」(佐々木氏)というように、賃貸管理業はますます大きな責任を負う。
これから重要なのは「賃貸住宅管理業法に魂を入れること」
パネルディスカッションの中で、青木氏は、賃貸住宅管理業法の必要性について、データや調査結果などをもとに具体的に説明した。
それによると賃貸住宅の管理業務を委託するオーナーは、1992年度には25.0%だったのが、2019年度には81.5%にまで増加。それに伴い、前述したようなサブリースをめぐるトラブルも増えている。契約を締結した際に、「将来の家賃変動の条件」や「賃料減額のリスク」などについて説明を受けたオーナーは60%程度にとどまっているという。また、勧誘を受けてサブリース物件を取得したオーナーは約80%に達し、その勧誘の約60%には不動産会社や建設会社が関与している。
オーナーが管理業務を行う会社との間で経験したトラブルとしては、「管理業務の内容に関する認識が管理会社との間で異なり、期待する対応がなされない」「管理会社から管理業務に関する報告がなく、適切に対応がなされているか把握できない」といったものがあがっている。
これらの実情を受けて、賃貸住宅管理業法では、サブリースに関する規制のほか、賃貸住宅管理業者の主な義務として、オーナーに対して管理業務の実施状況を定期的に報告することなども定めた。
シンポジウムを通じて感じたのは、サブリースをめぐるトラブルに対する関係者の強い危機感と、賃貸住宅管理業法の全面施行に対する立場を超えた期待感だ。パネルディスカッションのまとめとして、モデレーターの中城氏が語った「賃貸住宅管理業法に魂を入れることが、これからは重要です」という言葉に、共感を覚える人は少なくないと思われた。
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