西武鉄道沿線の遊休地を活用。第1号物件は募集開始から約1ヶ月で入居者決定

西武新宿線武蔵関駅(東京都練馬区)駅から徒歩2分、線路沿いに立つ、平屋のユニットハウスが「エミキューブ武蔵関」だ。西武グループの不動産事業の中心を担う株式会社西武プロパティーズが手がける、賃貸ユニットハウス事業の第1号物件である。西武鉄道の遊休地を活用し、事業コンセプトは「もう一つの家」。自宅以外の場所で書斎やリビングとして使える空間を賃貸で提供するというもので、個人のテレワークや趣味に没頭する部屋としての利用を想定している。

武蔵関駅近くの線路沿い、3年ほど空き地だったところに2021年1月に竣工した「エミキューブ武蔵関」。敷地面積は259.75m2で、賃貸ユニットハウスのほか、駐車場3区画が設けられている(駐車場は月極。1区画の利用料金は税別で2万円)</BR>向かって右端に設置されている3号室が、時間貸しのレンタルスペース。1号室(左)と2号室が月極め賃貸となっている。月極め賃貸の契約形態は1年間の定期借家契約。入居の際は敷金1ヶ月と、家賃保証会社への加入が必要武蔵関駅近くの線路沿い、3年ほど空き地だったところに2021年1月に竣工した「エミキューブ武蔵関」。敷地面積は259.75m2で、賃貸ユニットハウスのほか、駐車場3区画が設けられている(駐車場は月極。1区画の利用料金は税別で2万円)
向かって右端に設置されている3号室が、時間貸しのレンタルスペース。1号室(左)と2号室が月極め賃貸となっている。月極め賃貸の契約形態は1年間の定期借家契約。入居の際は敷金1ヶ月と、家賃保証会社への加入が必要
真横から見ると、こんな風景。ユニットハウス3室は、各室の独立性を高めるために、雁行(がんこう:各住戸を斜めにずらして配置する形式)の形式で配置されている(写真手前はレンタルスペースとして提供する3号室)真横から見ると、こんな風景。ユニットハウス3室は、各室の独立性を高めるために、雁行(がんこう:各住戸を斜めにずらして配置する形式)の形式で配置されている(写真手前はレンタルスペースとして提供する3号室)

物件は全3室が連結されたユニットハウスで、9.9m2タイプが2室と、11.9m2タイプが1室。いずれも坪数にして約3坪とコンパクトな室内に、トイレ(温水洗浄便座付き)、エアコン、洗面台、LED照明を備える。さらにはホームセキュリティ設備や、遠隔でエアコンや換気扇を操作できるIoT(モノのインターネット)機器を装備し、屋外にはデッキという具合に、安全・安心、快適な空間づくりへのこだわりがうかがえる。

全3室のうち、2室(1号室と2号室)は月極め賃貸借契約で、1室(3号室)は時間貸しのレンタルスペース。月極めの家賃は2号室(9.9m2タイプ)が月額5万円、1号室(11.9m2タイプ)は月額5万5000円。ともに共益費、電気料金(月額4000円まで)、水道料金(月額2000円まで)を含んでいる。武蔵関駅周辺のワンルームマンションなどの家賃相場を参考に、「『もう一つの家』を借りるために、ちょっと背伸びして支払える額」ということで設定した金額という。

物件は2021年1月に竣工。2月25日から入居募集と内覧受付を始めたところ、多くの問合せがあり、1ヶ月経たないうちに入居者が確定したというから驚く。複数の申し込み希望があり、抽選で入居者を決めている。

筆者は、月極め契約の入居者が引越してくる直前の4月中旬、「エミキューブ武蔵関」を取材させていただくことができた。どのような物件でどんなニーズがあるのか、お伝えしよう。

以前からあった事業構想。コロナ禍の影響で、具現化に向けて一気に動き出した

取材に対応いただいた西武プロパティーズの開発事業部課長補佐(開発事業担当)・鶴田悠紀さん(右)と、賃貸事業部課長補佐(運営担当)・渡部景春さん取材に対応いただいた西武プロパティーズの開発事業部課長補佐(開発事業担当)・鶴田悠紀さん(右)と、賃貸事業部課長補佐(運営担当)・渡部景春さん

「エミキューブ」事業がスタートした経緯について、西武プロパティーズ・開発事業部の鶴田悠紀さんは「コロナ禍の影響で、テレワークができるスペースへの需要の高まりがあり、それを受けて開始した事業です。しかし、それ以前から小さなプライベート空間を提供するという、事業の構想はありました」と話す。

「かつての家には、客間や書斎がありました。しかし、現在の家はLDKを中心に2LDK、3LDKといった間取りが定式化されていて、一人で自由に使える空間がなくなってきています。それは、特に都市部の住宅環境では顕著です。家族と一緒に過ごす空間も大切ですが、自分だけの時間を楽しめる空間を提供できないものかということで、弊社では、新たな不動産賃貸事業の可能性を模索していました」(鶴田さん)

「ユニットハウス」を採用し、着工から約1ヶ月半で竣工

「エミキューブ」でユニットハウスを導入するにあたり、約3坪のユニットハウスを試験的に購入し、居心地を確認してみるという試用期間を設けたという。写真はそのときに用いられたユニットハウスで、西武プロパティーズの本社がある高層ビル「ダイヤゲート池袋」の地上1階、エントランス付近に設置されていた(写真提供:西武プロパティーズ)

「エミキューブ」でユニットハウスを導入するにあたり、約3坪のユニットハウスを試験的に購入し、居心地を確認してみるという試用期間を設けたという。写真はそのときに用いられたユニットハウスで、西武プロパティーズの本社がある高層ビル「ダイヤゲート池袋」の地上1階、エントランス付近に設置されていた(写真提供:西武プロパティーズ)

2020年春にプロジェクトが始動し、小さなプライベート空間を提供する建物として同社が採用したのが、ユニットハウスだ。

ユニットハウスとは、工場内で部材を組んで直方体(長方形で構成される六面体)のユニットをつくり、建設地へ運搬してクレーンで設置するというもの。特徴は、建築工程の約80%が工場内で行われること。それによって工期が在来工法の3分の1程度にまで短縮され、建設コストを抑えることができる。また、軽量鉄骨構造で建築基準法を満たす強度がありながらも、用途変更や増減築、別の場所への移設が容易にできるのも特色。近年では、建設現場事務所や仮設宿舎、イベント施設といった短期用途の建物だけではなく、飲食店、医療施設、学習塾、自宅のはなれなど、活用の幅が広がっている。

「エミキューブ」事業では、ユニットハウス製造会社の三協フロンテア株式会社の製品を使用。2020年12月14日に基礎工事を開始。翌年1月にユニットハウスを設置し、内装、外構と工事が進み、1月29日に完成した。工事期間は約1ヶ月半と短期間で終えることができたのは、ユニットハウスならではといえるだろう。ちなみにユニットハウス全3室の設置に要した時間は約3時間という。

「エミキューブ」でユニットハウスを導入するにあたり、約3坪のユニットハウスを試験的に購入し、居心地を確認してみるという試用期間を設けたという。写真はそのときに用いられたユニットハウスで、西武プロパティーズの本社がある高層ビル「ダイヤゲート池袋」の地上1階、エントランス付近に設置されていた(写真提供:西武プロパティーズ)

「エミキューブ武蔵関」は西武新宿線の線路に近接し、すぐそばで電車が行き交っているという立地。安全に工事を行うために、終電後、電車が運行していない深夜の時間帯にユニットハウスの設置工事を行った(写真提供:西武プロパティーズ)

外観のビジュアルにもこだわり、まちに彩りを

「エミキューブ武蔵関」をつくるにあたり、設備はもちろんのこと、ビジュアルも重視したと話してくれたのは、西武プロパティーズ賃貸事業部の渡部景春さん。

「エミキューブはテレワークで仕事に集中したり、趣味を思い切り楽しむための空間です。特別な時間を過ごす場所なので、外観の見栄えにもこだわりました。そこで、各室に取り付けたのが日よけシェードです。ユニットハウスの外壁の色が黒、敷地も黒いアスファルトなので、さわやかなストライプ柄のシェードを用いました。ここを利用する方にとっては、前面の窓から光を採り入れながらも外部からの目隠しになるし、デッキに椅子とテーブルを置いて、シェードの下、リゾート気分でくつろいでいただくこともできます」(渡部さん)

ユニットハウスという規格建築物ではあるが、シェードを取り付けたことでおしゃれで存在感のある外観に。</BR>近隣住民から、「カフェやスイーツショップがオープンするのかなと思っていた」と言われたこともあったそうだ</BR>(写真提供:西武プロパティーズ)ユニットハウスという規格建築物ではあるが、シェードを取り付けたことでおしゃれで存在感のある外観に。
近隣住民から、「カフェやスイーツショップがオープンするのかなと思っていた」と言われたこともあったそうだ
(写真提供:西武プロパティーズ)
ユニットハウスという規格建築物ではあるが、シェードを取り付けたことでおしゃれで存在感のある外観に。</BR>近隣住民から、「カフェやスイーツショップがオープンするのかなと思っていた」と言われたこともあったそうだ</BR>(写真提供:西武プロパティーズ)デッキでティータイムを楽しんだり、読書に没頭するなど、思い思いに過ごせる(写真提供:西武プロパティーズ)

また、物件の敷地境界から線路沿いにかけて万年塀が立っているのだが、壁面にペイントアートを施し、彩りが添えられている。西武池袋線沿線にキャンパスを構える日本大学芸術学部に依頼し、美術学科絵画専攻の学生たちに「喧騒の中でも自然を感じられる場所」をテーマに描いてもらった壁画だ。

「近隣の方々からもご好評をいただきました。『ここはずっと空き地だったので防犯面で不安があったけど、外観にも配慮した綺麗な施設をつくってもらえてよかったです』と、喜んでいただけたのがなによりです」(渡部さん)

ユニットハウスという規格建築物ではあるが、シェードを取り付けたことでおしゃれで存在感のある外観に。</BR>近隣住民から、「カフェやスイーツショップがオープンするのかなと思っていた」と言われたこともあったそうだ</BR>(写真提供:西武プロパティーズ)日本大学芸術学部の学生5名が、約1週間かけて壁画を描いた(写真提供:西武プロパティーズ)
ユニットハウスという規格建築物ではあるが、シェードを取り付けたことでおしゃれで存在感のある外観に。</BR>近隣住民から、「カフェやスイーツショップがオープンするのかなと思っていた」と言われたこともあったそうだ</BR>(写真提供:西武プロパティーズ)「エミキューブ武蔵関」を彩る植栽と、ペイントアートが描かれた万年塀。この万年塀は、線路沿いまで続いている

DIYで自由に空間づくりを楽しめる

月極め賃貸の2号室の室内(9.9m2)。白いスチール壁は、DIYで好みの壁紙で飾ることができる

月極め賃貸の2号室の室内(9.9m2)。白いスチール壁は、DIYで好みの壁紙で飾ることができる

「エミキューブ武蔵関」の月極めの2室は、白いスチール壁に囲まれた室内。天井の高さは240㎝が確保され、圧迫感は感じない。シェードや洗面台などの標準設備を除き、室内は自由にDIY可能。退去時に原状回復が必要だが、好みの空間づくりができる。

入居の問合せや申し込みをしてきた人たちは、ここでどう過ごしたいと考えていたのだろう。

「自宅が狭いのでリモートワークに使いたい、書斎にしたいといった声のほか、プラモデルや模型などのコレクションを飾る部屋にしたい、クラフトなどモノづくりを楽しむ部屋にしたいというご希望がありました。年齢層では40代以上の方が多かったです」(渡部さん)

月極め賃貸の2号室の室内(9.9m2)。白いスチール壁は、DIYで好みの壁紙で飾ることができる

線路側に面した窓を開けると、万年塀に描かれたペイントアートが目に入る(写真は2号室)
月極め賃貸の2号室の室内(9.9m2)。白いスチール壁は、DIYで好みの壁紙で飾ることができる

前面にはFIX窓(開閉する機能のない窓)が設けられ、自然の光が室内全体に取り込まれる。シェードは固定式。荒天のときに飛ばされてしまうリスクを回避するために、フレームで強固に固定している(写真は2号室)

時間貸しのレンタルスペースではリピーターも

Rebaseの経理・財務チーム・チームリーダーの髙𣘺隆太さん(右)と、営業チーム・チームリーダーの清水康一朗さん。「エミキューブ武蔵関」の3号室で取材に応じていただいた

Rebaseの経理・財務チーム・チームリーダーの髙𣘺隆太さん(右)と、営業チーム・チームリーダーの清水康一朗さん。「エミキューブ武蔵関」の3号室で取材に応じていただいた

ところで、この物件は線路が近接しており、すぐそばには踏切がある。そうした音を軽減するために、「エミキューブ武蔵関」では窓に防音ガラスを使用しているが、それでも電車が通過する音や踏切の警報音、振動はある。

このスペースを使った人の反応はどうなのか? 3月1日から時間貸しのレンタルスペースとして稼働している3号室の利用状況を聞いてみた。

「エミキューブ武蔵関」の3号室に関しては、株式会社Rebase(リベース)が運営・管理を請け負っている。Rebaseが展開する、レンタルスペースの予約・集客プラットフォームサービス「インスタベース」を使って予約するという仕組みだ。

「3月は、予想していた以上の利用がありました。ほぼ半数がテレワークです。デスクワークやオンライン会議、企業の採用担当者がオンライン面接で使うといったケースが多かったです。電車や踏切の音は、『気になった』というコメント投稿もいただいていますが、『イヤホンやヘッドホンを使えば、あまり気にならない』とコメントされた方も少なくありません。リピーターになって、週1~2日といったペースで定期的に利用してくれる方もいます」と、Rebaseの経理・財務チームの髙𣘺隆太さん。

コワーキングスペースと異なり、周囲の人の目を気にせずに仕事に集中できることに魅力を感じたとの声もあり、延長利用や、朝から夕方まで利用するケースもあるという。また、西武線沿線の他の駅から電車に乗って訪れる利用者も少なくないそうだ。

Rebaseの経理・財務チーム・チームリーダーの髙𣘺隆太さん(右)と、営業チーム・チームリーダーの清水康一朗さん。「エミキューブ武蔵関」の3号室で取材に応じていただいた

「エミキューブ武蔵関」の3号室。「自然の中の『もう一つの家』」をコンセプトに、木目調や天然石をイメージした壁紙や、フェイクグリーンなどをあしらった室内に、ビジネスデスクや65インチの大型モニターなどが配されている

3号室の室内空間のコーディネートもRebaseが手がけ、「リゾート地や観光地でテレワークをしながら休暇も楽しむという、ワーケーションとしての雰囲気づくりも意識しました」とは、同社の営業チームの清水康一朗さん。

テレワーク以外ではSNSや動画投稿サイトの動画撮影や、語学レッスンというマンツーマンの習い事など。意外な利用では、実家の母親と会うスペースに使われたケースで、コロナ感染防止という意味で、不特定多数の人が集まるカフェなどよりも、こうしたスペースなら安心ということなのかもしれない。

Rebaseの経理・財務チーム・チームリーダーの髙𣘺隆太さん(右)と、営業チーム・チームリーダーの清水康一朗さん。「エミキューブ武蔵関」の3号室で取材に応じていただいた

3号室にはソファも置かれ、ゆったりくつろげる空間。定員は2名まで。利用は7時~23時、1時間880円(平日)、土日祝日は1100円(2021年6月末までの利用料金)。
Rebaseの経理・財務チーム・チームリーダーの髙𣘺隆太さん(右)と、営業チーム・チームリーダーの清水康一朗さん。「エミキューブ武蔵関」の3号室で取材に応じていただいた

3号室には掃除機や除菌スプレー、Wi-Fi (無線LAN) 、HDMIケーブルなどが揃っている。入退室はリモートロック

西武線沿線で、「エミキューブ」第2号の事業計画が進行中

西武新宿線武蔵関駅は西武新宿駅から準急で約30分。東京都区内の郊外で、賃貸マンションが多いことから「もう一つの家」のニーズが期待できるとして、第1号物件設置の計画地になった。「エミキューブ」第2号物件も東京都区内で検討されているという西武新宿線武蔵関駅は西武新宿駅から準急で約30分。東京都区内の郊外で、賃貸マンションが多いことから「もう一つの家」のニーズが期待できるとして、第1号物件設置の計画地になった。「エミキューブ」第2号物件も東京都区内で検討されているという

このように、さまざまなニーズのある「もう一つの家」。前出の西武プロパティーズ・渡部さんはこう話してくれた。

「この1号物件で、多くの方に、『エミキューブ』のコンセプトを受け入れていただけたという、手応えを感じています。ここは、自分だけのために使える非日常の空間です。今、コロナ禍で疲れを感じている方もいらっしゃると思いますが、この空間でプライベートの時間を満喫してリフレッシュしていただければ、と思います。コロナが落ち着いたときには友人を呼んで、時間を忘れて語り合う場にもなってほしいです。働く人たちを応援する場として、今後も事業を展開していきたいと思います」

「エミキューブ」の第2号物件も、西武鉄道沿線で検討されている。こうした賃貸が増えていけば、自宅のほかに自分の部屋をもちたいと考えている人が、気軽に第二の家を持つことができるだろう。自分らしく暮らしを楽しむための新たな選択肢になりそうだ。

株式会社西武プロパティーズ 「エミキューブ」
https://www.emicube.jp/

株式会社西武プロパティーズ
https://www.seibupros.jp/

株式会社Rebase
https://rebase.co.jp/

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