地域によって冬の暮らしは千差万別。14エリアに分けられる北海道

新型コロナウイルス禍で大都市圏からの転出が注目される中、移住先として人気なのが北海道だ。広大な大地、豊かな食に憧れる人は多いが、不安な点としてよく挙がるのが「冬の暮らし」。筆者も本州から移住した1人として、よく質問を受ける。厳しくないと言えばウソになるけれど、楽しみや恵みも多く、案外過ごしやすいという“知られざる魅力”もある。北海道庁はこのほど、厳しくて素晴らしい「北海道の冬」にフィーチャーしたオンラインセミナーを開催。筆者の経験も交えつつ、その様子をレポートしたい。

セミナーは道庁(札幌)や、5地域の道職員、地域おこし協力隊、東京・有楽町にある北海道の移住相談ワンストップ窓口「どさんこ交流テラス」などの相談員らと参加者を、オンラインでつないで2021年1月30日に行われた。

広大な北海道は地域ごとに14のエリアに分けられ、セミナーではそのうち函館市などがある「渡島」(おしま)、小樽市などの「後志」(しりべし)、浦河町やえりも町などの太平洋に面した「日高」、旭川市などの「上川」、網走市などの「オホーツク」という5地域の管内の関係者がプレゼンに臨んだ。

北海道では14のエリアごとに、道庁の出先機関「(総合)振興局」を設置北海道では14のエリアごとに、道庁の出先機関「(総合)振興局」を設置

大事なのは“おうち時間” ストーブで決まる快適さ

セミナーで道庁の移住担当者が紹介した、屋外の大容量灯油タンクセミナーで道庁の移住担当者が紹介した、屋外の大容量灯油タンク

道民あるあるでよく聞かれるのは、「冬でも半袖でアイスを食べる」こと。旭川市在住の筆者は「またまた、都市伝説なんでしょう」と思っていたけれど、半袖やランニング姿の人を多く目にしてきた。そして驚いたのは、本州で考えられないほど暖房を強く効かせ、寝る時も消さないこと。「道民は寒がり」とも言われるが、屋内は本州より暖かい気がする。それだけ「おうち時間」が長く、ストーブの役割と存在感が大きい。断熱性が高くない住宅なら、なおさらだ。

セミナーでは、名古屋市出身で函館市在住の「渡島」管内の道職員が、自宅で使っているという「蓄熱暖房機」を紹介。電気料金が安い深夜帯に蓄熱し、徐々に放熱する仕組みで、「初めて見ましたが、とても温かく、つけっ放しです。とにかく、ずっと部屋が温かい」と太鼓判を押した。

千葉市出身で「移住コンシェルジュ」として活動する「日高」管内の新ひだか町の女性は、「皆さん憧れの薪ストーブですが、温まるまで時間がかかるので、灯油ストーブと併用しています」と紹介。薪ストーブは体の中に熱が届くのが特徴で、「薪ストーブを焚くために移住したんじゃないかって思うくらい、温まります」と笑った。

同町の役場職員は、3年前に新築した自宅をオール電化の仕様に。「床暖房のみで冬を過ごしますが、(新しい)北海道の家は気密性が高いので大丈夫です。エアコンは夏も冬も使わないです」と“衝撃の告白”をした。暖房のエネルギー消費を抑える上で、断熱性や気密性の高さは重要なポイントになる。

一方、道庁地域政策課の移住担当者は、「北海道は食費が関東・近畿・東海の各地方より安く抑えられる半面、冬に灯油代がかさむため光熱費が割高になる傾向がある。一般的な暖房は灯油ストーブで、屋外などに500リットル近い大容量タンクが立ち並ぶ」と紹介し、「多くの賃貸住宅にも灯油ストーブが備え付けられていて、エアコンはあまり使わないですね」と話した。

セミナーで道庁の移住担当者が紹介した、屋外の大容量灯油タンク道庁の移住担当者が紹介した、屋内の小型灯油タンク

厄介者? 暮らしのリズムを一変させる雪との付き合い方

「後志」管内の道職員が紹介した、市街地の冬の光景「後志」管内の道職員が紹介した、市街地の冬の光景

2020~21年の冬は、道内の記録的な積雪や寒さが全国ニュースになった。年による変動が大きく一概に言いにくいが、旭川市だと平地でも、交差点や雪捨て場の空き地には2mを超す高さまで雪が積み上がる。国道もしばしば車線が半分になり、生活道路は凸凹になる。

筆者が旭川市内で経営するゲストハウスでは、排雪されていない部分だと2021年2月末時点で、大人の胸くらいの高さまで雪が残っていた。一晩で40cmほど積もることもあり、朝から多くの人が除雪機を動かしている。ゲストハウスの敷地は460m2あるため、雪かきをして通路や駐車スペースを確保するだけで腰が痛くなる。「無料でジムに通えているんだな」と自分を納得させるしかない。

ただ、雪が比較的多い旭川などの「上川」管内が、北海道のすべてではない。

本州に近い「渡島」管内の道職員はセミナーで、「パウダースノーではなく、本州のように重くて湿った雪が降る。雪はふくらはぎまで届かない量で、出歩きやすい。ただ除雪した道は狭くなり、とにかく滑ります」と体験を話した。前出の新ひだか町の女性も、「例年は除雪はほとんどしないです。ほうきで玄関を掃く程度です」と涼し気に教えてくれた。

「後志」管内の道職員が紹介した、市街地の冬の光景セミナーで示された、「日高」管内の市街地の冬の様子

運転と悪天候には要注意。“冬時間”と心得て

旭川市内の雪道。1シーズンに何度か悪天候の日があり、地面から吹雪が舞ったり、ホワイトアウトに陥ったりする危険も旭川市内の雪道。1シーズンに何度か悪天候の日があり、地面から吹雪が舞ったり、ホワイトアウトに陥ったりする危険も

不安を抱く人が多いのは、雪道の運転だろう。「上川」管内の道職員は「『急』のつく操作はせず、車間距離を保ちます。慣れの部分が大きいので、練習するしかない」。「後志」管内の担当者は、「雪が積もっても(溶けないので)札幌より運転しやすいですよ」と助言した。

他のセミナー参加者からは、自動車教習所で冬道講習の受講を進める声も。筆者は、滑ることを前提に、接触しない車間距離を保つ車が多いと感じている。

いっそうの注意が必要なのは、悪天候時に視界がなくなるホワイトアウトや地吹雪だ。静岡県出身で、女満別空港に近い大空町で地域おこし協力隊を務める女性は「地吹雪になったら交通機関が止まることがある。孤立状態にもなる」と話した。地元の人でも仕事や外出を諦める日もあるので、そういうものとして心得た方が良さそうだ。雪に慣れている公共交通機関でも、遅れや運休は珍しくない。運転の仕方やスケジュール立ても、冬と夏では自ずと違ったものになる。

筆者が移住したてのころ、雪道でノロノロ運転になり、約束に遅れることを連絡すると「なんも(=なんでもないですよ)。冬の時間なんてアバウトなんだから」とバリバリ系仕事人に言われたことが印象に残っている。

旭川市内の雪道。1シーズンに何度か悪天候の日があり、地面から吹雪が舞ったり、ホワイトアウトに陥ったりする危険も旭川市内で深夜、国道脇の雪を処理する除雪車。車線をできるだけ確保するために、昼夜問わず除雪・排雪作業が繰り広げられる

寒さを楽しめるかどうか。冬だからこその遊びの宝庫

マイナス30度超えになると、その寒さは全国ネットで報道される。ただ地域差は大きく、内陸の旭川市でもマイナス30度はおろか常に20度クラスが続くわけでは決してない。市ホームページに掲載されている旭川地方気象台の統計では、最も寒い1月でも平年の平均気温はマイナス7.5度だ。個人的な感覚で恐縮ながら、無風ならマイナス5度で「寒くはない」、10度で「こんななもんか」、15度で「けっこう冷えるね」、20度で「しばれる!」、25度で「もう屋内にいよう」というイメージだ。

セミナーで道庁の移住担当者は冬の注意点として、「水道の凍結に注意。水が出なくなったり、水道管が破裂する恐れがあります」と強調した。外出や留守時にも暖房をつけて水道を守ることが推奨されていて、筆者のゲストハウスでもそのための余分な暖房代がかかり、財布まで凍る勢いだ。

半面、その寒さを生かした遊びが身近にあふれているのが、冬の魅力の一つ。セミナーでは新ひだか町の役場職員は「スキーできるほどの雪がないので、スケートがメーンになります」と紹介。気軽に子連れで遊ぶのにスケートはうってつけで、日高地方に限らず、帯広市など十勝地方でも学校の校庭を使ったスケートリンクがお目見えする。前出の大空町の女性も「無料のスケートや、ワカサギ釣り(有料)もできます。寒いからこそ、温泉も気持ちいい!」と身近な魅力をアピール。流氷は「見たいときに見ることができる!」という。

大空町の地域おこし協力隊が紹介したスライド大空町の地域おこし協力隊が紹介したスライド

「後志」管内の道職員は、道外出身の同僚からの「室内は暖房で暖かく、想像よりは寒くない」「札幌より自然の遊び場が近く、車で15分でスキー場などに行ける」という声を伝えた。

北海道のウィンタースポーツの魅力と言えばパウダースノーを楽しめることだが、「上川」の道職員は、管内の23市町村に大小26のスキー場があり、「寒い地域なので雪質は粉のようにサラサラしていて、下手な人が滑っても雪煙が巻き上がるので、うまくなった気になります。スキー場が市街地から近く、私の場合は30分車で走ればスキー場があるので、毎週行っています」と、“最高の環境”をPRした。

筆者の周囲ではスキー・スノーボードはもちろん、雪の上でテントを張るスノーキャンプに興じたり、スノーシューで夏は入れない森の奥を散策したり、「雪上のサーフィン」とも呼ばれる雪板で斜面を滑ったりと冬を堪能する人が多い。子どもの学校では、体育の授業でもスキーがある。

大空町の地域おこし協力隊が紹介したスライド市街地からほど近い山で楽しめるスノーシュー。行きたい時に自然に飛び込める

広さとは可能性。「なんもいいっしょ」の心で

「どさんこ交流テラス」の相談員がスライドで示した、移住のポイント「どさんこ交流テラス」の相談員がスライドで示した、移住のポイント

セミナーでは後悔しない移住のコツとして、北海道美唄市出身の「どさんこ交流テラス」の相談員が、「移住は目的ではありません。その先の理想の暮らしを自分でイメージするのが大切です」「なぜ移住したいのか、最初の動機を忘れないで」「現地に知り合いを」とアドバイスした。

「移住は一筋縄ではいかない。100%満足、希望通りは、実際は難しいです。北海道弁で『なんもいいっしょ』と言いますが、想定外のトラブルも『なんとかなるよ!』と楽しむくらいの気持ちで、おおらかに柔軟に、前に進みましょう」と呼びかけた。

一口に北海道といっても、雪の量と質、寒さ、天候、遊び、産業、住民の気質は、地域ごとにさまざま。「179もの市町村があるので、自分に合ったまちが見つかるはずです」。道庁の移住担当者の言葉に、筆者も深くうなずいた。冬の厳しい現実を知り、楽しみを見つけておおらかに付き合うことで、移住先としての北海道のポテンシャルが見えるはずだ。

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