海外先進国の「職住一体型のコリビング」を日本版に。三菱地所のスタートアップ企業 ハムレット ジャパン

▲三軒茶屋駅から徒歩7分の玉川通り沿いにある『Hmlet三軒茶屋』。間取りは1K～2LDKで賃料は月額13万円からの設定だ。館内には専有部分を共有ルーム化して入居者が24時間いつでも使えるコミュニティスペースが設けられており、ワークスペースやイベントスペースとしても活用できる

トイレや洗面などを入居者同士で共用するシェアハウス系の住宅は、シャイでコミュニケーション下手な日本人の間では定着しにくい住まい形態と言われてきた。

しかし、2000年に入ってシェアハウスをテーマにしたドラマやリアリティ番組などが人気を集め、若者世代を中心に「住空間のシェアリング」に対するハードルは一気に下がった。

とはいえ、憧れと現実は異なる。シェアハウスの入居者および入居経験者を対象に国土交通省が実施した『シェアハウスの市場動向調査（平成27年）』によると、半数以上の人が「立地・賃料水準・他の入居者とのコミュニケーションについては、大変満足している」と回答したのに対し、「プライバシーの確保に不満がある」または「どちらとも言えない」と答えた人が半数以上を占め、シェアハウスへの継続居住を希望する人は35％にとどまった。

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そんなシェアハウスの課題をクリアすべく、独立したプライベート空間を確保しながらCo-living＝共同スペースのある住まいを提案する賃貸マンションブランドが登場し、いま業界の注目を集めている。「住みながら新しい体験ができる賃貸住宅」をテーマに掲げた同ブランドはどのような経緯で誕生したのか？

東京都内8ヶ所（2020年12月時点）でコリビング賃貸を運営している三菱地所グループのHmlet Japan株式会社（ハムレットジャパン）担当者に話を聞いた。

▲Hmlet Japan（三菱地所グループ）の代表取締役である佐々木謙一さん（右）とセールス・マーケティング担当の岸田竜馬さん（左）。※Hmlet三軒茶屋のコミュニティスペースにて撮影

「ハムレットジャパンは三菱地所のスタートアップ企業です。私自身は三菱地所の社員としてシンガポールに赴任し、東南アジア諸国の住宅開発を担当しており、ローカルのデベロッパーと合弁会社をつくって開発を進めていました。

並行して、シンガポールにいる時には、テック系のスタートアップと情報交換を行いながら、日本で新しい事業が出来ないか?と探していたところ、ハムレットに出会ったのです」（Hmlet Japan代表取締役 佐々木さん）

佐々木さんがハムレットに出会った2018年当時は、シンガポールをはじめアメリカ・ヨーロッパの先進国で「職住一体型のコリビング」という新しいライフスタイルが流行の兆しを見せていた。

「三菱地所では年に一度新規事業の提案を従業員から募っています。私自身もシンガポールにいながら、いくつか企画を提出したのですが、その中で唯一残ったのがシンガポールのハムレットと提携する『コリビング賃貸事業』で、日本法人の代表取締役に就任することになりました。

ハムレットのコリビング賃貸を日本で展開することを考えた時に、最初に課題となったのは部屋のサイズ感の違いでした。シンガポールに限らず欧米諸国では150ｍ2を超えるような広い住宅が多く、そこを小分けにして“リビングや水回りを共有しながら3ＬＤＫに3人で暮らす”といったコリビングの形態が成り立ちます。しかし、日本では25m2ぐらいのコンパクトな賃貸住宅で暮らしている若者が多く、入居者同士のコミュニティの距離感も欧米とはまったく違います。

そこで“独立したプライベート空間を確保した上で、共有したスペースを持つ”という日本人にも馴染みやすいコリビング賃貸を提案することにしました。シンガポールのハムレット社のノウハウを、三菱地所として日本版にアレンジして展開を始めたというわけです」（佐々木さん談）

▲マンション内にあるコミュニティスペースは予約不要で、入居者が好きな時に無料で使うことができる。「ただし、夜10時以降は近隣に配慮して静かに使うようにしてくださいねとお伝えしています」（岸田さん談）

ハムレットジャパンの第1号物件は、2019年12月に神泉駅徒歩2分の渋谷松濤に誕生。その後1年間で原宿、高田馬場、千石、岩本町など利便性の高い都心エリアを中心として、駅徒歩10分以内の立地にこだわり展開を続けている。

「普通借家ではなく月単位の定期借家契約となっているのもハムレットの特徴です。家賃1ヶ月分をデポジットとし、“今月までは渋谷で、来月からは原宿で…”とハムレットコミュニティ内を転々とすることも可能です。

もともと日本人の方だけでなく、外国人駐在員の方や長期プロジェクトで日本に滞在する外国人ビジネスマンの利用を想定していたため、入居案内を行うコミュニティマネジャーも外国語に堪能なスタッフを揃えているのですが、コロナの影響を受け各国駐在先から一時帰国した日本人ファミリーからの問合せが増えたのは想定外の反響でした。“いつ駐在先へ戻ることになるかわからないから、月単位の定期借家なら助かる”という事情があるようです」（岸田さん）

普通借家契約では非対面の電子契約も可能だが、定期借家契約では対面での契約が必須となるため、コミュニティマネジャーは入居希望者に直接会って契約を結ぶことになる。契約時に入居者とマネジャーの距離を縮めることで、マンション内コミュニティを育むきっかけづくりにつなげているという。

「マンション内には独立した住居スペースのほかに、入居者が共同で使える24時間開放の『コミュニティスペース』を設けているのですが、初めて引越しをしてきた方にとってはやはり利用ハードルが高くなります。そこで、僕たちコミュニティマネジャーが仲介役となり、他の入居者の方を紹介したりして、関係性をつないでいくよう努めています。

コミュニティスペースの使い方は皆さん様々で、テレワークや気分転換の場として使っている方も。また、手料理をつくってパーティを開いたり、お仕事関係のイベントを開催したりと、僕たちが期待していた以上の活用法で楽しんでいらっしゃるようです。中には、職場の仲間数人で契約してくださり、会社の寮のように暮らしている方たちもいらっしゃいます」（岸田さん）

▲「契約時は敷金1ヶ月分のみで礼金や仲介手数料はなし。結果として月々の家賃は相場よりも少しだけ高くなりますが、初期費用が抑えられるほか、ハムレットコミュニティの中であれば月単位で住まいを変えることができるフレキシビリティをメリットと感じて下さる方も多いようです」（佐々木さん談）

ハムレットジャパンでは3つの契約プランが用意されている。

基本となる「ベースプラン」では、マンション内Wi－Fi・コミュニティスペース・専用アプリの利用が可能でコミュニティイベントにも参加できる。「家具家電付きプラン」はその名の通り家具と家電がセットになった一番人気のプランだ。「オールインクルーシブ」は家具家電に加えて水道光熱費や清掃サービスも含まれており、ホテルライクな暮らしを叶えることができる。

2019年のハムレットジャパン開業当初は入居者の8割が外国人だったが、現在はコロナの影響を受け日本人と外国人の割合がほぼ50％ずつ。日本で暮らしながら、外国人ビジネスマンとのコミュニケーションを育むことができ、国際的な視野で新しい情報を得られる点も好評だという。

「日本人入居者の方からの好意的な意見としては、“自分の気持ちがオンモードのときだけ他の入居者とのコミュニケーションに加わることができるので、シェアハウスのようなストレスがない”ということ。ハムレットの入居者の方はフリーでお仕事をされている方も多いのですが、ハムレットの専用アプリを使えば、企業側がアウトソースしたい仕事と入居者のスキルをマッチングするようなシステムも導入しています。

一般的な賃貸物件との差別化を図るためにも、こうした“ハムレットコミュニティ自体に価値をつけるための仕掛け”を今後も考えていきたいですね」（佐々木さん）

▲家具家電付き住戸の室内の様子（Hmlet三軒茶屋）。「ハムレットで暮らす外国人の方には日本のことをもっとよく知ってほしいと思いますし、日本人の方には外国人の方とのコミュニケーションを通じて視野を広げてほしいと思います。これは私自身が海外赴任中に感じたこともあるのですが、外国人駐在員の方やビジネスマンの方と交流すると、日本国内では耳に入らないような新しい情報を得ることができます。お互いが知らないことをコミュニケーションで刺激し合って、視野が広がったらいいですね」（佐々木さん談）

現時点では物件所在地は東京都内のみで約200室を運営しているが、2021年は大阪進出を考えており「最終的には数千室規模の事業に育てる目標がある」と佐々木さん。

「最近は新しい賃貸マンションサービスがどんどん登場していますが、ハムレットジャパンでは日本人の方だけでなく、日本を訪れる外国人の方にもストレスのないサービスを提供することを目指しています。

また、従来の賃貸業界では地元の不動産屋さんが窓口となり、物件の情報収集はポータルサイトを通じて…という流れが主流でしたが、ポータルサイトとも良い形で提携を続けながら、できれば自社でのデジタルトランスフォーメーションに取り組み、“直接お客様とつながる価値”を追求していきたいですね。それが賃貸住宅業界の新しいバリューになると考えています」

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従来の住まい選びの条件と言えば「駅徒歩・立地・広さ・間取り・価格」が重視されることが多かったが、今後は“このマンションのコミュニティに自分も加わってみたい”というカスタマーの関心を集めることが物件の付加価値となり、住まいを選ぶ意義につながっていくのかもしれない。

ハムレットコミュニティがどのような入居者ネットワークを広げていくのか？今後の全国展開に期待したい。

■取材協力／ハムレットジャパン
https://bit.ly/HmletJapan_Official