空室に悩む物件を、コンセプトの異なる空間提案で集客に成功

「qube都立大学」外観。取材時当時、1階に男性用3部屋、2階に女性用3部屋の6部屋が公開されていた。東急東横線「都立大学」駅から徒歩8分ほど。閑静な住宅街に建つ「qube都立大学」外観。取材時当時、1階に男性用3部屋、2階に女性用3部屋の6部屋が公開されていた。東急東横線「都立大学」駅から徒歩8分ほど。閑静な住宅街に建つ

相続税対策などもあり、乱立気味の賃貸住宅。賃貸住宅経営の経験がない私が見ても「こんな場所に賃貸住宅を建てて需要があるのだろうか」と余計な心配をしてしまうような新築物件もある。
安定した賃貸住宅経営のカギとなるのは、言うまでもなく空室対策だ。空室のない物件は、駅近など立地の魅力か、築年数か、相場と比べて安めの賃料か、充実した設備なのか人気の理由は様々あれど、入居者視点で惹き付けられる特長があることは確かだろう。

賃貸住宅は、見映えのよい新築時は競争力があるものの、古くなってくると客付けがとたんに難しくなる。間取り変更を含めたリノベーションも人気だが、大きな出費は当然オーナーの頭を悩ませる。同時に、高額なリノベーション費用は家賃に反映される可能性が高いため、入居者にとってもデメリットとなる。
そんな中、空間のコンセプト提案とプレスリリース1枚だけで、高額なリノベーション代や広告費などをかけずに集客に成功しているという「qube都立大学」を取材した。

部屋ごとに異なるコンセプトに沿ったインテリアコーディネートが魅力

建物や部屋が正方形に近いことから、「qube」と名付けられた「qube都立大学」。「小さくても大切なものを詰め込む、とっておきの時間を過ごす部屋」という全体コンセプトを持たせた賃貸住宅だ。コンセプト設計を行ったのは、株式会社Pictors & Company。「平日の夜や休日に、この部屋で好きなことを目一杯楽しんで欲しい」と代表の水口史椰さんは話す。

2019年1月下旬の取材時に募集を行っていた6部屋(5部屋契約済)のうち、1階の3部屋は性別不問、2階の3部屋が女性専用となる。1階はそれぞれ「Music」「Books」「Sports」、2階が「Beauty」「Book Cafe」「Morning」がコンセプト。全部屋5畳ほどの広さだ。

「『Sports』の部屋は、スポーツ観戦ができるようにこの部屋だけテレビが備え付けられています。『Books』の部屋には、寝る間も惜しんで本を読む人を想定してソファベッドを配置し、ベッドから手が届く場所に本棚を取り付けています。『Music』の部屋にはレコードやCDを収納できる棚を設置したほか、備え付けのレコードプレーヤーから音を出して音楽を聴いてもほかの入居者に迷惑にならないように配置しています。

女性用の『Book Cafe』の部屋には、ほっこりと落ち着く照明やおしゃれなケトルを用意しました。『Beauty』の部屋の特徴は、メイクやヘアアレンジが楽しめるドレッサー。真鍮のアイテムを置くことで、ぬくもりのある雰囲気を醸し出しています。できるだけ自然光でメイクができるように、陽が入りやすい位置に配置したのもポイントです。『Morning』の部屋は、朝日を楽しんでいただきたいと考え、自然光で目覚められるように、窓際にベッドを配置しました。朝が好きな方はヨガなどにも興味がありそうと考えて、ヨガマットを置き、部屋でヨガやストレッチができるようにしています。また、『朝日』から女性の好みをイメージし、内装はエスニック風にしました。

全部屋冷蔵庫が用意されていますし、どの部屋もスーツケースひとつでご入居いただき、そのままそれぞれの部屋で生活が楽しめるようにしています」とコンセプト設計を手掛けた小松美貴さん。
各部屋のコンセプトに合わせたインテリアのトータルコーディネートに加え、必要な家具の見極めや部屋の配置にまで配慮されている。

家賃は全部屋6万4,000円/月。水道光熱費やWi-fi費用も含まれる。敷金や礼金、仲介手数料などの費用は一切かからず、お気に入りの部屋を1ヶ月単位で借りることができるのが特長だ。キッチンや洗濯機、乾燥機、シャワールーム、トイレなどは共用となる。家具が備え付けられているので、家具を購入することなく金額的に手軽に引越しできることも、入居希望者にとって喜ばしいことだろう。

左上から時計まわりに「Sports」「Books」「Music」2点。</br>コンセプト設計のほかには、クロスの張り替えや家具のコーディネートなどの軽微な出費で集客に結び付けた左上から時計まわりに「Sports」「Books」「Music」2点。
コンセプト設計のほかには、クロスの張り替えや家具のコーディネートなどの軽微な出費で集客に結び付けた

コストをかけず入居者を確保する。そのキーワードとなるのが「共感」

「qube都立大学」の建築は2018年3月(当時は別名称)。個室の狭さか、または場所柄シェアハウスという形態が敬遠されたのか、せっかくの新築物件もほとんどが空室となっていた。知人から相談を受けた水口さんが客付けのために重視したのがコンセプト提案だった。

「コストがかさむ広告費や営業力勝負の人件費などをかけずに、どう見せてアピールするか、どれだけ『住みたい』と思っていただける物件にするかを考えました。部屋探しは本来、『どんなまちに住もうか』『どんな部屋にしようか』などとワクワクするイベントのはず。それが、不透明な料金体系やインフラ手続きの煩雑さ、家具の採寸など経済的にも心理的にも負担になることが多く、途中から疲れてしまう人をたくさん見ていて、もったいないと感じていました」

そこで、部屋を探して終わりではなく、部屋を通じてどのような楽しい暮らしができるかをイメージできるような提案をすればよいのではと考えて生み出したのが「qube都立大学」だった。スペースの提供だけでなく、部屋や暮らしのコンセプト、コンセプトに合った家具のトータルコーディネートまで行うことで、手ぶらで入居し、気軽に新生活が楽しめるような物件として集客。シンプルな料金体系や短期間から入居できる使い勝手の良さも好評という。

「プレスリリースで紹介しただけで、多大な広告は行っていません。SNSが普及したこの時代、共感を得られれば情報がどんどん拡散されます。そのおかげで『qube都立大学』も多数の問合せをいただきました。これからは『共感』がキーワードだと考えています」(水口さん)

左上から時計回りに「Beauty」2点、「Morning」「Book Cafe」。メイクを考慮した採光の確保、</br>ぬくもりのある空間提案、おしゃれなケトルなど人気のアイテムの用意も入居者を惹きつける工夫だ左上から時計回りに「Beauty」2点、「Morning」「Book Cafe」。メイクを考慮した採光の確保、
ぬくもりのある空間提案、おしゃれなケトルなど人気のアイテムの用意も入居者を惹きつける工夫だ

好きな服を選んで着るのと同様に、ライフスタイルに合った部屋で気軽に暮らせるようにしたい

お話をうかがった、株式会社Pictors & Company代表取締役社長兼CEOの水口史椰さん(右)と、プロジェクトマネージャーの小松美貴さん(左)。「コンセプト設計など、気軽にご相談ください。空間を使ってライフスタイルを提案したいと考えています」とお二人。20代の若い感性を活かした賃貸住宅提案に期待したいお話をうかがった、株式会社Pictors & Company代表取締役社長兼CEOの水口史椰さん(右)と、プロジェクトマネージャーの小松美貴さん(左)。「コンセプト設計など、気軽にご相談ください。空間を使ってライフスタイルを提案したいと考えています」とお二人。20代の若い感性を活かした賃貸住宅提案に期待したい

「今後も、価値観の多様化に対応した賃貸住宅を提案していきたいと思います。日々好きな服を選んで着るように、個人個人が自分に合ったライフスタイルの部屋で暮らせるように、またもっと気軽に住み替えられるようにしていきたいと考えています。今後二拠点生活者が増えれば、都会だけ、地方だけで入居者集めをするのは難しいのではないでしょうか。都会と地方の賃貸住宅を借りやすいようにセットにして提案する方法も、需要があるかもしれません」と水口さん。
「各拠点での暮らしや、より満足できる暮らしをご提案するために、今後手がける物件でも様々なニーズをくみ取った部屋を提案していきたいですね。共用部や生活動線も、より使いやすくできるように設計したいと考えています」と小松さん。

全部で14部屋用意している「qube都立大学」。もうひとつある15番目の部屋は、コンセプトルームとする予定。大規模なショールームを持たない小さなインテリアブランドなどとコラボし、各ブランドの「リアルな空間」を体験できる場所として、ライフスタイルの提案を行っていきたいという。

少子高齢化や地方の人口減少など、今後の賃貸住宅経営は一段と厳しさを増すに違いない。入居者獲得のために間取りの変更など時間と費用をかけた大胆なリノベーションを行うのもひとつの方法ではある。しかしその前に「qube都立大学」のように費用を抑えながら『この部屋で暮らしてみたい』と思える空間提案や、気軽に生活が始められ、また思い立ったら違う部屋に迷いなく引越しができるような明瞭な料金体系やシステムがあれば、オーナーは客付けがしやすくなるのではないだろうか。また、服を選ぶように部屋選びができれば、入居希望者も物件選びの幅が広がるだけでなく、入居後の暮らしがより個性豊かで満足度の高いものになるように思う。

2019年 03月22日 11時05分