期間3ヶ月で、延べ1万285人が総額1億1578万6000円を寄附

リターンは活動報告と領収書だけ。純粋な寄附のみのクラウドファンディングが3ヶ月で1億円超を集めた。以前ここで取り上げた、NPO法人抱樸(ほうぼく)の「コロナ緊急|家や仕事を失う人をひとりにしない支援」だ。

寄附総額は1億1578万6000円。寄附者数は1万285人に上る。特徴は、少額の寄附者が大半を占めたことだ。寄附者の9割以上は寄附額1万円以下。それで目標額の1億円に到達し、さらに1500万円以上上積みした。クラウドファンディングに寄せられた応援メッセージには「自分も楽ではないが、わずかでも、今困っている人の役に立ててほしい」という趣旨のものが多かったという。

READYFORのクラウドファンディングページ。写真左上に写っているのが抱樸理事長の奥田知志さん。期間中は毎週火曜と土曜に動画で番組を配信。マッチングギフトを提供してくれた村上財団の村上世彰さんや、作家の平野啓一郎さん、脳科学者の茂木健一郎さんなど賛同する著名人との対談を行った。期間終了後も活動報告がアップされている。<br>https://readyfor.jp/projects/covid19-houbokuREADYFORのクラウドファンディングページ。写真左上に写っているのが抱樸理事長の奥田知志さん。期間中は毎週火曜と土曜に動画で番組を配信。マッチングギフトを提供してくれた村上財団の村上世彰さんや、作家の平野啓一郎さん、脳科学者の茂木健一郎さんなど賛同する著名人との対談を行った。期間終了後も活動報告がアップされている。
https://readyfor.jp/projects/covid19-houboku

村上財団のマッチングギフトで早期に活動を開始、全国の団体をバックアップ

目標達成の要因として、抱樸理事長の奥田知志さんは、3つの仮説を立てている。

「1つは、水害や地震などの地域災害と異なり、コロナ禍ではすべての人が当事者になってしまったこと。多くの人が、“明日は我が身”という危機感を抱いたようです。もう1つは、感染対策で人と交流する機会が激減したために、“つながりたい”という思いが強くなったのでは」。

そして3つ目は「寄附金の使い道が明確だったこと」という。

抱樸の取り組みは3段階で、村上財団の支援を得てクラウドファンディングの期間中から始動し、順次活動状況を報告していった。

第1弾は、全国の生活困窮者支援団体へのマスク提供。
コロナ禍で、“家や仕事を失う人をひとりにしない”ためには、感染対策が必要だ。通常のクラウドファンディングで寄附金が入るのは期間終了後だが、今回は寄附金と同額を村上財団が寄附する「マッチングギフト」が用意されていた。クラウドファンディング開始後10日で1500万円の寄付金が集まったため、村上財団が同額を先行して寄附。この資金でまず、全国105の団体にマスク5万2500枚を提供した。緊急事態宣言下の5月初旬、まだマスクが入手困難だった時期のことだ。

第2弾は、現在も進行中の、インターネットによる相談環境の整備だ。
支援の現場では、濃厚接触しなくても顔を合わせられるよう、タブレットを使ったオンライン相談など、新たな手法を模索している。とはいえNPO法人には小規模な団体が多く、機材もソフトも充実しているとは言い難い。そこで抱樸は、クラウドファンディングで得た資金から、1団体あたり30万円を支援している。合計で約1000万円を充てる計画だ。

5月初旬には各地の支援団体にいち早く感染防止のためのマスクを届けた(画像提供:抱樸)5月初旬には各地の支援団体にいち早く感染防止のためのマスクを届けた(画像提供:抱樸)

空き家をサブリースして支援付き住宅に。まず生活の基盤を確保する

第3弾は、このクラウドファンディングの本丸である「支援付き住宅」の全国展開だ。

抱樸は情報発信に「#家から支えよう」というハッシュタグを用いた。ここには「家にいてもできる支援をしよう」という意味に加え、「困っている人に、まず家を提供しよう」という意味が込められている。

「このコロナ禍で、われわれが注視しているのは、住み込み型の就労者です」と奥田さんは言う。寮や社宅で暮らす非正規従業員のことだ。仕事先から住宅を提供されているため、雇用が失われると同時に住まいまで失ってしまう。

「借地借家法に基づく賃貸借契約を結んだ住宅なら、家賃を滞納しただけで追い出されることはありません。賃貸住宅には居住権が発生するからです。しかし、寮や社宅は福利厚生に位置付けられており、居住権は認められない。正確には、住宅とは呼べないのです」。

住宅は、生活の基盤だ。「働いたら住んでいいよ、というのは間違っている。家があるからこそ働けるんです」と奥田さん。

抱樸はすでに地元・北九州で、NPO法人がまとめて家を借り、それを生活困窮者に貸すサブリースモデルを確立している。入居者は自分の名前で賃貸借契約を結ぶので、居住権が得られ、住民票もつくれて、そこを足がかりに生活を再建できる。ポイントは、入居したらそれっきりではなく、継続して生活や就労のバックアップを行うことだ(抱樸は“伴走型支援”と呼ぶ)。だから、“ひとりにしない”「支援付き住宅」なのだ。

NPO法人が大家と入居者の間に立ってサブリースし、入居後も支援を続ければ、大家も安心して家を貸すことができる。抱樸モデルは空き家活用の方策でもある。現在、賃貸共同住宅の空き家は全国で377.6万戸に上る(平成30年「住宅・土地統計調査」)。このストックが活用できれば、社会的意義はさらに大きい。

サブリースのもう一つの狙いは「家賃の差額で支援の資金を稼ぐ」ことにある。空き家を活用する代わり、大家には家賃を生活保護の住宅扶助以下に抑えてもらい、サブリースで差益を得る。これを人件費などの経費に充てることで、寄附や補助金に頼らなくても継続できる支援体制の確立を目指す。

今回のクラウドファンディングで得た資金は、各地の支援団体が「支援付き住宅」を立ち上げるための助成金と、そのフォローアップに使われる。

クラウドファンディングで得た寄付金の使い道(資料提供:抱樸)クラウドファンディングで得た寄付金の使い道(資料提供:抱樸)

支援付き住宅1室を整備するだけで約50万円必要。追加の支援を募る団体も

抱樸が北九州市内に整備した支援付き住宅。すぐに生活できるよう調理道具や家電も揃えた抱樸が北九州市内に整備した支援付き住宅。すぐに生活できるよう調理道具や家電も揃えた

助成金の使い道は、東京など特別に家賃が高い地域を除き、以下の通りだ。

敷金などの初期費用に1室30万円、当面の家賃10万円、家財購入に10万円。調理器具やエアコン、ベッド、テレビなどを整え、着の身着のまま入居しても、すぐに生活を始められるようにする。

「実は、寄附していただいたお金で家財道具まで買うかどうかには議論がありました。しかし、支援付き住宅の目的は、できるだけ速やかに生活を再建できるようにすること。必需品はあらかじめ揃えておくことにしました」と奥田さん。

助成を受けた団体には、原則として10室以上の支援住宅確保が求められる。

各団体のフォローアップを担当する抱樸常務の山田耕司さんは「おのおのの地域事情によりますが、住宅の確保に苦労している団体も少なくありません」と語る。
「しかも、継続的に支援費用を確保するためには、本来は1団体あたり30室は欲しいところなんです」。仮に、サブリースで月に1室1万円の利益を出せたとしても、10室では10万円にしかならない。それではスタッフ1人の人件費にも足りない。参画団体の中には、抱樸の助成金に加え、独自のクラウドファンディングに取組むところもある。

クラウドファンディングは第一歩。継続可能な居住支援の仕組みを全国に

2020年9月10日現在、参画しているのは北海道から九州まで、全国10団体(団体名は下記)。合わせて100〜150室の「支援付き住宅」を用意することが目標だ。

クラウドファンディングの最終報告は2020年3月に設定されているが、それは一里塚にすぎない。「いただいた寄付を元手にまず実績をつくり、課題を検証して、もっと多くの団体が活用できるモデルを確立したい」と山田さん。

山田さんによれば「北九州ではまだ、直接的にコロナ禍で家を失ったという相談は聞かないが、東京や千葉ではすでに多くの相談が届いている」とのこと。「大都市圏と地方ではタイムラグがあるようだ」と言う。

前出の抱樸理事長・奥田さんは、問題が本格化するのはこれからではないかと危惧している。
「国の住宅確保給付金が支給されるのは最長で9ヶ月です。4月からもらい始めたら12月には終わってしまう。また、事業者に支給される雇用調整助成金から、かろうじて給料をもらってはいるが、仕事はないという人もいます。これも期間が過ぎれば切れてしまう。住まいを失う人の受け皿は、これからもっともっと必要になるでしょう」

コロナ禍の緊急支援は現金給付や貸し付けなど金銭面に偏りすぎていると奥田さんは言う。「本当に重要なのは、人が人を支援すること。決定的に家や仕事を失ってしまう手前で支えなければなりません」

抱樸と覚え書きを結んだ参画団体は以下の通り。クラウドファンディング出資者の一人として、筆者も引き続き、今後の活動を見守っていきたい。

抱樸 https://www.houboku.net/

北海道:コミュニティワーク研究実践センター http://www.cmtwork.net/
宮城:ワンファミリー仙台 https://www.onefamily-sendai.jp/
千葉:生活困窮・ホームレス自立支援ガンバの会 
https://npogamba.wixsite.com/ichikawa2
埼玉:サマリア https://www.samaria2009.net/
東京:自立生活サポートセンター・もやい https://www.npomoyai.or.jp/
愛知:わっぱの会 https://www.wappa-no-kai.jp/
大阪:釜ヶ崎支援機構 http://www.npokama.org/
兵庫:近畿パーソナルサポート協会
岡山:岡山・ホームレス支援きずな http://www.okayamakizuna.com/

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