第5セクションは「連なる空間」。幻の丹下健三自邸を特大模型で疑似体験

東京・六本木の森美術館で2018年9月17日まで開催中の、六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」。前編では全9セクションのうち、第4セクションまで紹介した。

第5セクションは「連なる空間」。

日本の伝統的な住宅建築は柱と梁の「軸組」で成り立っている。部屋と部屋を仕切るのは壁よりも襖や障子で、開け放てばひとつながりの空間になる。その源流といわれるのが、平安貴族の住居形式「寝殿造」だ。本展では、紫式部が「源氏物語」に描いた「二条院」の再現模型を見ることができる。

第5セクションの中心に据えられているのは、モダニズムの巨匠・丹下健三だ。目玉は、現存しない「住居(丹下健三自邸)」(1953年)の3分の1スケールの模型。ピロティで持ち上げられた水平に細長い建物、と書けば広島平和記念資料館のようだが、意匠は和風。模型は宮大工の手で精巧につくられており、のぞき込めば内部の「連なる空間」も実感できる。

丹下の代表作のひとつ「香川県庁舎」(1958年)も、50分の1模型で展示されている。実際の建物は現在耐震改修工事中で、丹下デザインの間仕切り棚や椅子が会場にやってきている。剣持勇、長大作など著名デザイナーによる名作椅子と組み合わせ、ホンモノに触って座れるブックラウンジに設えてある。関連の書籍を読みながら一休みしよう。

もうひとつ、このセクションで見逃せないのが齋藤精一+ライゾマティクス・アーキテクチャーによるインスタレーション「パワー・オブ・スケール」だ。レーザーファイバーと映像によって、展示室内にさまざまな建築空間を実寸で浮かび上がらせる。黒川紀章「中銀カプセルタワー」のユニットや、東日本大震災避難所の段ボールハウス、今はなき表参道同潤会アパートの一室など、8つの建築と身の回りのさまざまなスケールを約5分間の高速動画で体験できる。

齋藤精一+ライゾマティクス・アーキテクチャー《パワー・オブ・スケール》2018年 インスタレーション 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)
齋藤精一+ライゾマティクス・アーキテクチャー《パワー・オブ・スケール》2018年 インスタレーション 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)

明治の擬洋風建築と坂茂の近作が並ぶ!第6セクションは「開かれた折衷」

稲作も漢字も仏教も、もとは大陸からもたらされた。日本は外来の文化を受け入れ、消化することで独自の文化を発展させてきた。建築にも同じことがいえる。それを分かりやすく示すのが、第6セクション「開かれた折衷」だ。

下の錦絵に描かれている建物は、大工棟梁・清水喜助が手掛けた「第一国立銀行」。文明開化の時代に流行した“擬洋風”建築だ。和風の屋根に洋風の塔が載る、独特の姿。それを、西洋画の影響を受けた明治の浮世絵師・小林清親が描き残している。

このセクションの主役は、日本建築史の元祖でもある伊東忠太だろう。インドやイスラムの様式を採り入れた「築地本願寺」の設計者として知られる。本展では、祇園祭りの山鉾を模した「祇園閣」が紹介されている。

比較的古い作品が並ぶ中にあって、“逆さ富士”をイメージした坂茂の近作「静岡県富士山世界遺産センター」(2017年)が存在感を放っていた。

小林清親《海運橋 第一銀行 平成の新版》1876年(オリジナル)錦絵 所蔵:清水建設小林清親《海運橋 第一銀行 平成の新版》1876年(オリジナル)錦絵 所蔵:清水建設

第7セクションはコミュニティの行方を考える「集まって生きる形」

第7セクション「集まって生きる形」は日本の建築における公共性や社会性を考察する、というもの。

江戸時代初期に岡山藩が開設した「旧閑谷学校」は、日本初の庶民のための学校で、いわば公立学校の走り。講堂は国宝に指定されている。

1960〜70年代に行われた神代雄一郎による伝統的集落の実測調査「デザイン・サーヴェイ」は、「祭り」や「生業(なりわい)」を通じて「コミュニティ」の空間構造を探るものだった。

アトリエ・ワンによる「恋する豚研究所」(2012年)・「栗源第一薪炭供給所(1K)」(2018年)は、社会福祉法人が運営する高齢者や障がい者の雇用を生み出すための施設。その用途が社会性を持っているだけでなく、建築自体も地域の木材を活用し、里山の荒廃や林業の衰退といった社会問題の解決策を提示している。

第7セクション展示風景。手前に見えるのは山崎健太郎「52間の縁側」の模型。、高齢者とこども、障がい者の支援施設を94mもの縁側で結ぶ建物で、来年竣工予定。 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)第7セクション展示風景。手前に見えるのは山崎健太郎「52間の縁側」の模型。、高齢者とこども、障がい者の支援施設を94mもの縁側で結ぶ建物で、来年竣工予定。 撮影:来田 猛 画像提供:森美術館(東京)

海外と日本の関係を様々な角度で示す、第8セクション「発見された日本」

第8セクション「発見された日本」は、第6セクション「開かれた折衷」とは逆に、日本の建築が海外に与えた影響を探る。

かつての「帝国ホテル」(下の写真)を設計したフランク・ロイド・ライトは、1893年に開催されたシカゴ万国博覧会で日本文化を「発見」したとされる。ライトの建築には、日本建築の特質に通じる「連なる空間」が見て取れる。彼は浮世絵のコレクターでもあった。本展では、シカゴ万博の「日本館鳳凰殿」(久留正通、1893年)の鳥瞰絵図も見られる。

ライトに従って来日し、日本のモダニズムを牽引することになったアントニン・レーモンド、レーモンドの弟子・吉村順三の作品も、このセクションに置かれている。

今や、日本人建築家が海外で活躍する時代だ。「建築界のノーベル賞」といわれる「プリツカー賞」受賞者を7人も輩出している。本展では、SANAAによる「ルーヴル・ランス」(2012年)、伊東豊雄「台中国家歌劇院」(2016年)が取り上げられている。

外国人建築家による日本建築、日本人建築家による海外建築に加え、外国人建築家が日本建築の要素を採り入れて、国外で建てたプロジェクトも並ぶ。ライトに学んだルドルフ・シンドラーは一度も来日していないが、その自邸(1922年)には、引き戸の多用や縁側のような内外の中間的領域など、日本建築の影響が見られる。また、デイヴィッド・アジャイによるロンドンの「ダーティー・ハウス」(2002年)は、茶室に着想を得ているという。

フランク・ロイド・ライト《帝国ホテル(正面中央部入口)》1923年 東京 写真提供:帝国ホテル 正面玄関部分は愛知県犬山市の明治村に移築されている。フランク・ロイド・ライト《帝国ホテル(正面中央部入口)》1923年 東京 写真提供:帝国ホテル 正面玄関部分は愛知県犬山市の明治村に移築されている。

締めくくり第9セクションは、バラエティに富んだ「共生する自然」

四季の変化、豊かな自然に恵まれた日本では、建築は自然と対峙するものではなく、共生の方法を探るものだ。そのアプローチも実に多彩。第9セクション「共生する自然」は、クライマックスにふさわしく、竪穴住居から建設中の最新作まで、あらゆる時代の個性豊かなプロジェクトが渾然としてにぎやかだ。

本展の監修者でもある藤森照信の「ラ コリーナ近江八幡 草屋根」(2014年)は、お菓子屋の店舗。草や土などの自然素材を用い、建物自体が山の形をなぞる。絵本にでも出てきそうな、童心をくすぐる建築だ。

下の写真は「海景」シリーズで知られる現代美術家・杉本博司による「江之浦測候所」(2017年)。原初から変わらない海の営みと太陽の運行に、改めて思いを致すための施設だ。

「建築の日本展」は、建築にあまり詳しくなくても楽しめる、格好の入門になるだろうし、建築好きにはさまざまな議論のタネを提供してくれるだろう。会期も約半年と長いので、二度、三度と訪れてみれば、また新しい発見が得られそうだ。なお、来館時の半券を提示すれば、次回は入館料が一律100円割り引かれる「リピート割」が用意されている。うっかりチケットを捨てないように注意しよう。

森美術館「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」HP
http://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/japaninarchitecture/index.html

杉本博司《光学硝子舞台(小田原文化財団 江之浦測候所)》 2017年 神奈川 ©小田原文化財団
杉本博司《光学硝子舞台(小田原文化財団 江之浦測候所)》 2017年 神奈川 ©小田原文化財団

2018年 07月01日 11時00分