高齢者もオンラインを活用し始めた
「コロナウイルス対策でオンライン対応を求められる不動産業界。内見・相談など部屋探しはどう変わるのか」でも紹介したが、コロナ禍を受けて、生活者の物件探しや不動産会社での営業方法が変わろうとしている。物件を探す際の相談・内見・重説(※)といった業務へのオンライン導入だ。
コロナ禍は、一般の生活者のIT利用をさらに底上げしたし、テレワークやオンライン飲み会など、場所の制約を問題としないオンライン化を一足飛びに加速した感がある。しかもその利用者層は、物心ついたときからスマホがあったデジタルネイティブやミドル世代だけではない。いまや高齢者まで広がりはじめているのだ。実際に70代後半の我が家の両親も地域のコミュニティ活動を一部、テレビ会議システムをつかったオンライン活動に切り替えるそうだ。
当然、生活者からも不動産業界へオンライン対応が望まれている。その一方で、事業者側は、関心は示しているものの、まだまだ踏み切れない現状もある。社内のITリテラシーの問題や事業所側のメリットが不透明という認識があるからだ。
そんな中、賃貸仲介にオンライン対応を導入し、企業競争力をあげている企業がある。ハウスコム 株式会社だ。時期によっては全体の約4割がオンラインでの取り扱いになるという。今回は、同社のサービス・イノベーション室長 安達 文昭氏に、オンライン活用の実績とそのメリットについて聞いた。
当初は噴出した現場の反発
ハウスコムのオンライン対応は、このコロナ禍にはじまったことではない。5年も前の2015年まで遡る。国がIT重説を推奨した2017年よりも2年も早く取り組んでいたことが驚きだ。
実際にハウスコムの安達室長も「その頃は、不動産業界でオンライン対応をする事業者など、ほとんどいなかった」と当時を振り返る。
「非常に早い導入でしたが、当社の代表である田村が業界に対し強い危機感を持っていたのです。既に当時の世の中ではビッグデータやペーパーレスという言葉も当たり前に飛び交っていましたが、不動産業界はExcelすら使わずにFAXやハンコが幅を利かせる旧態依然の状態でした。業界そのものを変えていかないと生き残れないのではないか、という危機感から、いち早く不動産テック事業社と提携し『オンライン内見』の試験運用を開始したのです」
2015年7月、田村代表取締役社長執行役員のトップダウンで始まった「オンライン内見」。当初は店舗から反発もあったという。ITリテラシーの高い店長がいる20店舗で試験運用をスタートした。オンライン内見では、顧客は現地に行かずに済むが、不動産事業者のスタッフは現地に足を運ばなければならない。「なぜ、業務の効率化にもならないオンライン化にわざわざ取り組まなければいけないのか?」など手間がかかるといった声が多くあがったという。
こうした現場の反発というのは、今、オンライン化を進めようとする多くの事業者でも起きているのではないだろうか?
来店顧客に「オンライン内見」がヒット
そんな同社で大きく風向きが変わったのは、想定外のメリットに気が付いてからだと言う。それは、「来店しているお客様にオンライン内見が使える」という発見だったと安達室長は説明する。
もともとハウスコムのペルソナ像は、25~35歳のITにアレルギーのない年代だ。地方から上京する大学生や新入社員、そして転勤者などが地方にいながらオンラインで物件を内見することに抵抗がないと想定していた。それが、来店顧客にもオンライン内見が活用できることを発見したのだ。
「どういうことかというと、例えば、春から大学に通う学生のお客様が来店・内見されたとします。そうしたケースでは、決裁権はご本人になく、地元の親御さんにあります。通常はご本人が気に入られても、一旦地元に帰られて親御さんと相談した上での契約となっていました。これが、内見の現場から親御さんのスマートフォンにつなぐことで、その日のうちに契約に進めることができました」
つまり、オンライン内見が、契約までのタイムラグをなくし、機会損失を防げることが分かったのだ。
「ご結婚予定の方がお一人でいらっしゃってパートナーに確認するケースや、退院後の住まいを代理の方が探しているケースなどでも、それぞれパートナーや入院されている方にオンラインでつなぎ、即決しているケースもあります」
こうした事例を積み重ねることで、ハウスコムでは、「オンライン内見は、契約を後押しする武器になる」という認識が徐々に広がり、活用店舗が増えていったという。当然、2017年にIT重説が認められた際も、同社では躊躇なくサービスをスタートさせた。昨年は全体の3割に迫る件数がオンラインでの対応となっていたそうだ。
画質と音質も魅力のLIFULL HOME’S LIVE
着々とオンライン対応を進めてきたハウスコムだが、このコロナ禍では、以前からデモを見て興味を持っていた「LIFULL HOME'S LIVE」の利用も始めている。
「やはり、オンラインの内見サービスでは、特に画質と音声は重要になります。LIFULL HOME'S LIVEでは、しっかりしたネットワークインフラを構築しているので、顧客の満足度も高く、使い勝手も良いと感じています」
ハウスコムでは、今回コロナ禍でのLIFULL HOME'S LIVE無料キャンペーンを活用してサービスを導入したというが、今後も自社システムと並行して利用を続けたいとしている。
「コロナ感染拡大以後では、オンラインサービスの利用者は全体の4割近くにのぼりました。もちろんオンラインだけがすべてではありませんが、今では、オンラインが企業成長に影響することは間違いないと確信しています」
オンライン内見は企業成長に不可欠になる
最近、「アフターデジタル」というキーワードが注目を集めている。実店舗であっても完全にデジタルが浸透した時代がこれから到来し、そうなった時には、デジタル技術を活用しながら顧客に寄り添ったサービスを提供し続けられなければ企業は生き残れなくなるといわれている。ITを活用することが目的ではない。顧客に寄り添うために、ITが不可欠なのだ。
「当然、顧客への価値提供を考えた場合、1社だけでは叶えることができなくなります。業界全体の底上げも必要ですし、異業種連携も必要になるでしょう。ハウスコムも“住まい”だけを見るつもりはありません。今後は異業種の企業と連携するなど、サービスをトータルに提供することも念頭に置いています」
オンライン対応は、単なるコロナに限った対策ではなく、あくまでもこれからの企業戦略として、必要不可欠なサービスであるとハウスコムは捉えている。
事業者側にもメリットがあるオンライン対応。何もいきなり「接客・内見・重説」すべてを始める必要もない。まずはできるところからスタートさせてみてはいかがだろうか。
※住まいの購入や賃貸の契約時には「重要事項説明」を行うことが義務付けられている。従来は宅地建物取引士が対面で説明を行わなければならなかったが、2017年10月よりパソコンやスマートフォンのIT機器を活用しオンラインでの対応が可能となった
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